最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 1/呼吸器1
慢性閉塞性肺疾患−慢性気管支炎・肺気腫−

要旨



第1章 慢性閉塞性肺疾患の概念・定義
概念・定義


泉 孝英
京都大学名誉教授・滋賀文化短期大学人間福祉科 教授

要旨
 慢性の咳・痰・呼吸困難を主訴とし,中高年以降に発症する予後不良の疾患である慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,従来,慢性気管支炎と肺気腫を併せた病態・病名であると説明されてきた.しかし,2001年4月に公表された GOLD ガイドラインでは慢性気管支炎,肺気腫の病名の記載はなく,一つの独立疾患として位置付けされるようになった.
 本稿においては,COPD という疾患概念の成立,特にタバコ病としての認識,の歴史について記述した.

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第1章 慢性閉塞性肺疾患の概念・定義
疫 学


木田厚瑞
東京都老人医療センター呼吸器科 部長

要旨
これまでに発表されてきた慢性閉塞性肺疾患(COPD)の疫学統計には実態を正確に反映していると言えるものは乏しい.疫学統計の不正確さは,COPD が common disease であるにもかかわらず,プライマリケアでの理解が依然として乏しいことと無関係ではない.しかし,このような統計の不正確さが原因の究明を遅らせ,将来的な対策を遅らせている要因となっていることを見落としてはならない.わが国では喫煙率が欧米に比べて高い状態が続いているが,日本人が喫煙習慣にかかわらず COPD の発症が少ないのか否かは病因論のうえからも重要であり,疫学統計の質の向上が強く望まれる.これにはまずデータソースとしてのプライマリケアにおける診療レベルの向上が不可欠である.

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第2章 慢性閉塞性肺疾患の病理・病態生理
病 理


永井厚志
東京女子医科大学 教授・呼吸器センター 所長

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)では中枢気道,末梢気道,肺胞領域にそれぞれ特徴的な病理学的変化が見られる.中枢気道では,炎症細胞が壁内に浸潤し,杯細胞や気管支腺などの粘液分泌組織の増生が観察される.末梢気道では,気道内腔の狭窄をもたらす慢性炎症に由来した多彩な病変が見られる.肺胞領域では,肺胞の破壊消失と気腔の拡大を特徴とする気腫病変が肺の広範囲に分布し,病態の進展につれ肺血管壁の肥厚化が認められる.

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第2章 慢性閉塞性肺疾患の病理・病態生理
病態生理


高橋敬治*** 栂博久** 長内和弘* 南部静洋*
*金沢医科大学呼吸器内科 講師 **同助教授 ***同教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)に共通する1.閉塞性障害のメカニズムとして気流制限と動的気道圧縮の発生機構,2.これらの病態の原因となる慢性気道炎症のメカニズム,3.肺弾性収縮圧減少の原因となる肺胞壁破壊のメカニズム,4.肺弾性収縮圧の減弱に起因する動的肺過膨張のメカニズム,5.COPD 呼吸困難の主体を占める吸気困難の 発生機序について概述した.

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第2章 慢性閉塞性肺疾患の病理・病態生理
病 因


大芦研輔* 田中裕士** 阿部庄作***
*札幌医科大学第三内科 **同講師 ***同教授

要旨
 
慢性閉塞性肺疾患は、肺気腫と慢性気管支炎がさまざまな程度に混在した病態であり、その発症や病態進展については多種多様な因子の関与が指摘されている。外的因子としてもっとも重要かつ唯一確立されたものは喫煙であり、多くの疫学的研究にて予後に大きな影響を与えることが明らかになっている。また、一部の大気汚染物質については細胞レベルでの炎症因子の誘導が認められている.一方,喫煙者すべてに COPD が発症するというわけではなく,このことから喫煙感受性の決定に遺伝的要因が関与する可能性も推測される.COPD 発症機序の説明として,プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡説が従来から知られているが,最近ではその中心と考えられていた好中球エラスターゼ以外にもさまざまなプロテアーゼの関与が考えられている.

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第2章 慢性閉塞性肺疾患の病理・病態生理
発症機序


中山勝敏
東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座呼吸器病態学

要旨
 本稿では主に喫煙による肺気腫の発生機序について解説する.喫煙は肺気腫の最大の原因と言えるものであり,肺気腫の発病メカニズムとは喫煙から肺胞破壊へ至る道筋といえる.しかし喫煙者の中でも,肺気腫を発症しない人も存在しており,喫煙感受性の解明が大きな関心事となっている.こうした宿主危険因子を検討していく中で,プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡およびオキシダント・アンチオキシダント不均衡の重要性が示されてきている.

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第3章 慢性閉塞性肺疾患の診断
診 断


吉田稔***石橋正義**井上順*
*福岡大学医学部呼吸器科 **同講師 ***同教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は肺気腫症,慢性気管支炎および両者の合併型からなる疾患群で,閉塞性換気障害を特徴とする.臨床診断に際し,その臨床症状,理学的所見をまとめた.さらに,COPD 診断のために特徴的な胸部画像所見,呼吸機能障害を把握するためのスクリーニング検査,ならびに精密検査について総括的に解説した.次いで COPD の重症度,予後と関連づけて %1秒量,動脈血ガス所見から見た病期分類を述べた.

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第3章 慢性閉塞性肺疾患の診断
肺機能検査所見


小川浩正* 飛田渉**
*東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座**同 助教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患の診断において,肺機能検査は必須である.スパイロメトリーで一秒率を測定し,閉塞性障害の有無を見ることが必要である.閉塞性障害の程度は,一秒量/予測一秒量で評価する.フローボリューム曲線パターン,肺気量分画,肺拡散能,静肺コンプライアンスを測定することにより,肺気腫や慢性気管支炎などを診断することもある程度可能であり,行われるべき検査である.また,治療の評価を検討するためにも必要な検査である.

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第3章 慢性閉塞性肺疾患の診断
画像所見−CT を中心に−


村田喜代史**** 高橋雅士*** 新田哲久* 
高櫻竜太郎* 清水健太郎* 古川顕**

*滋賀医科大学放射線科 **同講師 ***同助教授 ****同教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患の画像診断では,最近の CT 技術の進歩を反映して,高分解能 CT を用いた肺小葉レベルの気腫性病変や気道病変の検出が可能になっている.このような微細形態診断に加え,さらに呼吸運動を利用した動態解析や CT 値を利用した肺気腫の定量解析が容易になり,air trapping といった機能異常の評価も可能になりつつある.これらの情報をどのように臨床の現場に還元していくかが今後の課題である.

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第3章 慢性閉塞性肺疾患の診断
慢性閉塞性肺疾患と鑑別されるべき疾患

村田朗* 工藤翔二**
*日本医科大学第四内科 講師 **同 教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)と鑑別すべき疾患としては,咳・喀痰を伴う気道の過分泌をもたらす気道病変や,呼吸困難を訴える気流の閉塞性換気障害を示す疾患など,病態・症状の類似している疾患群が挙げられる.すなわち,気管支喘息,うっ血性心不全,気管支拡張症,結核,閉塞性細気管支炎,びまん性汎細気管支炎などであり,特に,慢性に経過する気管支喘息患者の中には,現行の診断法を用いても COPD との明確な区別が不可能な場合があるので注意を要する.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
管理・治療

植木純* 福地義之助**
*順天堂大学医学部呼吸器内科 講師 **同 教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,multi-organ-system disease として,包括的な対応が必要となる病態である.一方,呼吸困難感の軽減,QOL,ADL,運動耐容能の改善,急性増悪の予防など管理,治療に際しても,多次元のアプローチ法を組み合わせた包括的な治療プログラムの展開が必要となる.COPD の診療に関する新しい展開として,GOLD のコンセンサスワークショップレポートが発表された.COPD の有病率,死亡率の上昇を逆転させるためには,新たな研究の展開に加え予防および管理の向上が必須である.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
薬物療法−その選択に関する基準について−


西村浩一*1 月野光博*2
*1京都大学大学院医学研究科呼吸器病態学 講師
*2京都大学医学部附属病院呼吸器内科

要旨
 安定期の慢性閉塞性肺疾患に対する薬物治療の目的は,可能な限り可逆性の気流制限を治療し QOL を良好に保つこと,および病気の進行を予防し予後を改善させることであるが,現存の薬物治療の後者に対する効果は否定的である.抗コリン薬および beta2 刺激薬を中心とした段階的薬物治療が実施されるが,そのステップの決定に関する基準は示されておらず,実地臨床では労作時息切れなどの自覚的な症状が,ステップを進めるべきか,すなわち次の併用薬を追加するべきかを判断する指標とならざるをえないのが現状である.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
治療薬剤:(1)気管支拡張薬


大田健
帝京大学医学部内科呼吸器アレルギー学 教授

要旨
 気管支拡張薬は,禁煙や在宅酸素療法のように慢性閉塞性肺疾患(COPD)の長期間にわたる肺機能低下を改善させることはできない.しかし,COPD の可逆性に乏しい気道の閉塞を改善し,症状の持続や悪化を緩和し,患者の QOL を向上させるうえで中心的な役割を担っている.気管支拡張薬には,抗コリン薬, beta2 刺激薬,テオフィリン薬があり,患者の重症度に合わせて,それぞれの特徴が生かせるよう複数の薬剤を組み合せて治療することが推奨される.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
治療薬剤:(2)ステロイド薬

関沢清久
筑波大学臨床医学系呼吸器内科 教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対するステロイド療法は急性増悪を軽減するが,長期にわたる閉塞性換気障害の進行を抑制できない.医療経済,副作用を考慮すると COPD はステロイド療法の積極的対象疾患とは言いがたい.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
酸素療法・在宅酸素療法

宮本顕二
北海道大学医療技術短期大学部理学療法学科 教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患患者に対する酸素療法は,単に低酸素血症の是正だけでなく,運動耐容能の向上,睡眠や精神障害の改善,肺高血圧症の進行の予防,入院の期間や回数の短縮など,患者の QOL 向上に役立っている.また,患者の予後を著明に改善する.さらに,在宅酸素療法の普及により,酸素を吸入したままで外出や長期旅行が可能になっている.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
呼吸リハビリテーション


平田一人
大阪市立大学大学院呼吸器病態制御内科学(第一内科)助教授

要旨
 患者および家族の教育は,リハビリテーションを成功させるうえで重要である.心身のリラクセーション,柔軟体操,運動療法を呼吸(腹式呼吸,口すぼめ呼吸)と合わせながら行う必要がある.気道分泌物の多い患者には気道クリーニングを指導する.医師,看護婦,理学療法士などの共同作業により患者の QOL を高めてゆく必要がある.薬物療法ばかりではなく,呼吸リハビリテーションは患者の ADL や QOL 向上の有用な手段である.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
外科療法

白日高歩** 岩崎昭憲*
*福岡大学医学部第二外科 講師 **同教授

要旨
 肺容量減少手術(LVRS)は気腫病変が heterogenous な肺気腫に適用される手術である.胸腔鏡による手術と胸骨正中開胸下に行う2種の方法がある.この手術による1秒量の増加効果は術後3〜6か月の時点で最も高い.しかし,その後は漸減傾向を示す.LVRS は重症肺気腫に対してはその QOL を改善させる意義があると考えられる.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
栄養療法


米田尚弘**1*2 吉川雅則*1
*1 奈良県立医科大学第二内科 **1同助教授
*2 米田医院 院長

要旨
 慢性閉塞性肺疾患では,高頻度にタンパク質・エネルギー・アミノ酸栄養障害が認められる.体成分分析では,体脂肪,除脂肪体重の減少を認める.栄養障害は,予後,呼吸筋力,運動能,健康関連 QOL,急性増悪と密接に関連する.その原因は,換気効率低下に基づくエネルギー消費量の亢進によるエネルギーインバランスである.高カロリー経腸栄養剤および高濃度分枝鎖アミノ酸による長期経口補給栄養療法が有効である.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
急性悪化への対応


谷口博之*1 近藤康博*2
*1 公立陶生病院呼吸器・アレルギー内科 部長 *2同 第2部長

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者では,主に気道系の呼吸器感染症により肺機能障害の悪化を伴う症状の急性悪化を来すが,このような病態は COPD の急性悪化として知られる.COPD の急性悪化は COPD 患者の死亡率,入院率,全体医療費を増加させ,世界的にも大きな問題となっている.早期の適切な診断と重症度評価が重要であり,入院管理においては悪化原因に対する治療(抗菌薬など),酸素療法,薬物療法(気管支拡張薬やステロイド薬など),気道クリーニングなどが必要となる.また,人工呼吸管理においては非侵襲的陽圧換気法(NPPV)の有効性が注目される.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
経過・予後


月野光博*1 西村浩一*2
*1 京都大学医学部附属病院呼吸器内科
*2 京都大学大学院医学研究科呼吸器病態学 講師

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の5年生存率は,年齢や重症度にもよるが 40% から 70% である.予後に影響する因子として1秒量(予測値に対するパーセント),年齢,呼吸不全,喫煙歴などがあるが,予後を延長させる因子は,現在のところ禁煙と長期酸素療法のみである.COPD の3大死因は心疾患,COPD,肺がんであり,予後には,COPD 以外に呼吸不全や心疾患,肺がんを含む悪性腫瘍などの合併症が大きく関与する.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
禁煙の意義と禁煙教育

川根博司
日本赤十字広島看護大学 教授

要旨
 喫煙は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主要な危険因子である.喫煙は経年的な肺機能の低下を促進させるが,禁煙により肺機能低下の経年変化が減弱され,延命がもたらされることが明らかにされている.COPD を予防し,COPD の進展を遅らせる治療法でエビデンスがあるのは,現時点では禁煙しかない.喫煙者への禁煙教育が重要であり,COPD 患者に禁煙指導する際には,初めからニコチン置換療法を行うほうが良い.患者の禁煙サポートだけでなく,総合的な喫煙対策の推進が求められる.

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第4章 慢性閉塞性肺疾患の管理・治療
慢性閉塞性肺疾患の医療費

泉孝英
京都大学名誉教授・滋賀文化短期大学人間福祉科 教授

要旨
 我が国の慢性閉塞性肺疾患の患者数は 220,000 人(1996 年)と欧米諸国に比較するとはるかに少ないだけに,医療費も 1,207 億円(1998 年)にとどまっている.国民一人あたり負担額は 957 円と米国の 1/6 である.しかし,今後,人口の高齢化,過去の喫煙量の増加を反映しての患者数,医療費の増加が予想されないわけではない.現在の慢性閉塞性肺疾患医療費から見ての問題点としては,欧米と同様,入院費の比重の重さに加え,激増している在宅酸素療法費の問題が挙げられる.

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第5章 慢性閉塞性肺疾患のガイドライン
日本呼吸器学会慢性閉塞性肺疾患(COPD)ガイドラインを中心に


北村諭
自治医科大学名誉教授・埼玉県立大学保健医療福祉学部 教授

要旨
 日本呼吸器学会では,平成11年3月に,「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン」が作成され,約1万名の会員全員に配布された.ここでは,COPD の定義 NLHEP との関連について述べた.ついで,患者の現況,診断方法,治療と管理についても解説する.


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