要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 10(改)/神経1
脳卒中診療Update


第1章 脳卒中の定義・分類・疫学
脳卒中の定義・分類

星野 晴彦   慶應義塾大学医学部神経内科脳血管障害予防医学講座 准教授

要旨
 脳卒中は出血性の脳出血とくも膜下出血,虚血性の脳梗塞に分けられる.脳梗塞は,アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞,心原性脳塞栓症,その他の脳梗塞に分けられる.その他の脳梗塞には,最近の画像診断により確診できるようになった branch atheromatous disease や動脈解離が含まる.各病型の診断のために,TOAST の診断基準が頻用されているが,新たな基準として A−S−C−O 分類が提唱されている.

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第1章 脳卒中の定義・分類・疫学
脳卒中の最新疫学

後藤 聖司   九州大学大学院医学研究院環境医学分野
清原  裕   九州大学大学院医学研究院環境医学分野 教授

要旨
 我が国では,過去 40 年間に高血圧治療の普及に伴って脳卒中の死亡率・発症率は大幅に減少したが,近年脳卒中発症率の低下が鈍化している.脳梗塞をタイプ別にみると,時代とともにラクナ梗塞の割合は減少し,代わってアテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症の割合が増加した.その要因として,近年,肥満・糖代謝異常・脂質異常など代謝性疾患が急増し,脳梗塞発症の重要な危険因子になっていることが挙げられる.
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第2章 虚血性脳卒中の主な病型とその概略
アテローム血栓性脳梗塞

泉本  一   東京都済生会中央病院脳血管内治療科
高木  誠   東京都済生会中央病院神経内科 院長

要旨
 アテローム血栓性脳梗塞は,頭蓋内外主幹動脈のアテローム硬化を原因とし,血栓性,塞栓性,血行力学性の発症機序で起る.急性薬物療法としてアルガトロバン,オザグレルナトリウム,エダラボン,アスピリンなどが用いられる.慢性期の再発予防策として,危険因子管理とともに抗血小板薬投与,また頸動脈内膜剥離術(CEA)や頸動脈ステント留置術(CAS),頭蓋外−頭蓋内(EC−IC)バイパス術が行われることがある.全身のアテローム硬化性疾患を伴いやすく,合わせて治療することが重要である.

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第2章 虚血性脳卒中の主な病型とその概略
心原性脳塞栓症

高嶋修太郎    富山大学附属病院神経内科 診療教授

要旨
 心原性脳塞栓症は心臓由来の栓子に因る脳塞栓症であり,脳梗塞の臨床病型の中で最も予後が不良である.突発完成型の経過で皮質症状を呈する.脳塞栓症の特徴を示し,心房細動など塞栓源となる心疾患が確認できれば,心原性脳塞栓症と診断できる.発症3時間以内に血栓溶解療法を施行して再開通が得られ,梗塞巣を最小限にできれば予後は良好となる.しかし,現状では梗塞に至った後で再開通が起き,出血性梗塞へ移行して重篤な後遺症が残存する場合が多い.

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第2章 虚血性脳卒中の主な病型とその概略
ラクナ梗塞

奥田  聡  国立病院機構名古屋医療センター 神経内科 教育研修部長

要旨
 ラクナ梗塞は単一の深部穿通枝動脈の閉塞による小梗塞で,現在,日本人の脳梗塞の約3分の1を占める.臨床的には純粋片麻痺などのラクナ症候群で発症し,画像的には大脳基底核,視床,内包,放線冠,橋に直径 1.5cm 未満の小梗塞を呈する.脳卒中としては軽症だが,多発すると血管性認知症,血管性パーキンソン症候群などを呈する.磁気共鳴画像(MRI)/T2* 強調画像で無症候性微小出血を認める頻度が高く,抗血小板薬の使用には注意を要する.

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第2章 虚血性脳卒中の主な病型とその概略
その他の脳梗塞−branch atheromatous disease−

山本 康正   京都第二赤十字病院脳神経内科 部長
要旨
 脳梗塞は,臨床病型として,アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓症,ラクナ梗塞に大別されるが,そのほかに,頭蓋内外の動脈解離によるもの,卵円孔開存に伴う奇異性脳塞栓,抗リン脂質抗体症候群や悪性腫瘍など凝固異常に伴うもの,大動脈炎症候群や血管炎に伴うものや,もやもや病に伴うもの,線維筋性形成異常症など血管異状による脳梗塞など多様なものがある.本稿では,上記3大病型における分類が混乱している branch atheromatous disease(BAD)に関して述べる.
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第2章 虚血性脳卒中の主な病型とその概略
一過性脳虚血発作(TIA)

水野 昌宣    岩手医科大学内科学講座神経内科・老年科分野
大浦 一雅    岩手医科大学内科学講座神経内科・老年科分野
寺山 靖夫    岩手医科大学内科学講座神経内科・老年科分野 教授

要旨
 脳梗塞の前兆として従来から考えられてきた一過性脳虚血発作(TIA)の発作後早期では,脳梗塞発症のリスクが非常に高く,脳梗塞と同様に十分な治療を行うべき病態である.
 近年の磁気共鳴画像(MRI)画像の発達に伴い,TIA 発症 24 時間以内であっても画像上脳梗塞巣が確認される症例も多いことが明らかとなり,TIA は従来の 24 時間以内の症状消失という持続時間をもとにした臨床的な定義(time based definition)から画像診断による組織変化に基づく定義(tissue based definition)に変わりつつある.
 さらに,TIA の症例においては,ABCD2 スコアなどによって発症時の患者背景から脳梗塞への進展をおおよそ予測することも可能であり,TIA の早期診断と早期治療が脳梗塞そのものの発症を減らす重要な対策である.
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第3章 脳卒中臨床に必須な症候と診断
主な症候のとらえかた

須田  智    日本医科大学内科神経・腎臓・膠原病リウマチ部門
片山 泰朗   日本医科大学内科神経・腎臓・膠原病リウマチ部門 主任教授

要旨
 近年の画像診断の発展,特に磁気共鳴画像(MRI)拡散強調画像により,脳梗塞の診断は以前に比べると容易になっており,一過性脳虚血発作(TIA)と臨床的に診断される症例の中にも,MRI 拡散強調画像で脳梗塞を認めることもある.しかし,MRI がいつでも,施行できるとは限らず,患者によっては MRI を施行できないこともある.また,発症初期には,特に脳幹病変などでは,必ずしも,異常を指摘できないこともあり,やはり,神経徴候を正確に評価することが重要である.
 また,発症3時間以内の脳梗塞に対して,2005 年 10 月から本邦でも認可された,遺伝子組換え組織プラスミノーゲンアクチベーター(rt−PA)(アルテプラーゼ)静注療法を施行するためには,神経徴候を限られた時間の中で,速やかに評価することも必要である.本稿では,脳卒中の急性期の代表的な神経徴候について解説する.

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第3章 脳卒中臨床に必須な症候と診断
鑑別診断のポイント

立花 久大   兵庫医科大学内科学総合診療科 主任教授

要旨
 意識障害または何らかの局所的な神経症状が急性に出現した場合,脳血管障害を疑うが,臨床的には同様の症候を呈し,脳血管障害と鑑別を要する疾患がある.注意を要する疾患としては,一過性全健忘,可逆性後頭葉白質脳症,ヘルペス脳炎,慢性硬膜下血腫,てんかん,脳腫瘍,脳膿瘍,代謝性脳症,ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS),Cruetzfeldt−Jakob 病などである.また,神経 Behcet 病やサルコイドーシスなどの脳血管炎も通常の脳血管障害と鑑別が必要である.

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第3章 脳卒中臨床に必須な症候と診断
画像診断のポイント

野口  京     富山大学大学院医学薬学研究部放射線診断・治療学 准教授

要旨
 発症3時間以内の超急性期脳梗塞では,CT 上の early ischemic change に注意して読影する.磁気共鳴画像(MRI)による拡散強調画像は,超急性期脳梗塞巣の検出に優れており,拡散強調画像と灌流画像による拡散・灌流のミスマッチからペナンブラが診断できる.急性期脳出血や急性期くも膜下出血の診断には,CT が最も有用である.脳幹出血や非高血圧性脳出血が疑われる例では,MRI を積極的に施行すべきである.また,MRI の脳脊髄液抑制反転回復(FLAIR)は,亜急性期くも膜下出血の診断に優れている.
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第3章 脳卒中臨床に必須な症候と診断
脳循環測定の意義

野川  茂   東京歯科大学市川総合病院内科・脳卒中センター 准教授
  
要旨
 遺伝子組換え組織プラスミノーゲンアクチベーター(rt−PA)静注療法(IV rt−PA)のターゲットであるペナンブラの同定には,脳循環測定が必須である.発症3時間以内の脳循環測定の意義として,閉塞部位・病型の推定,ハイリスク症例の除外が,それ以降では脳血流(CBF)絶対値測定や灌流強調画像/拡散強調画像(PWI/DWI)ミスマッチ(PDM)の検討による IV rt−PA への組み入れや出血リスクの判定が重要となる.さらに,亜急性期以降には,貧困灌流,贅沢灌流,遠隔効果などの病態の把握に有用である.

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第3章 脳卒中臨床に必須な症候と診断
超音波診断の臨床的意義

平野 照之  熊本大学大学院生命科学研究部脳神経科学講座神経内科学分野 講師

要旨
 超音波検査は,低侵襲で脳血管病変を評価できる優れた方法である.機動性とリアルタイム性に優れ,ベッドサイドでの病型診断や病態解析,治療効果判定に頻用されている.頸部血管ではプラークの性状・狭窄度の評価や血流速度の測定を行い,脳の血行動態を把握する.頭蓋内脳主幹動脈は経頭蓋ドプラー法(TCD)を用い,血管病変の有無や塞栓源の検索を行う.近年は,超音波を用いた血栓溶解療法など治療への応用が期待されている.


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第4章 脳卒中の管理・治療・予防
『脳卒中治療ガイドライン 2009』の策定とその改訂ポイント

篠原 幸人   国家公務員共済組合連合会立川病院神経内科 院長

要旨
 本邦初の『脳卒中治療ガイドライン 2004』が発刊されてから5年が経過した.今回,その間に生まれた新しいエビデンスを網羅した『脳卒中治療ガイドライン 2009』が完成した.2004 年版に対して行った発刊後外部評価の結果を踏まえた 2009 年版の策定過程を述べ,さらに内容的に大幅に変更となった脳卒中の発症・再発予防と生活習慣の関係,t−PA 使用に関する新しい記載,血管内治療の進歩などを紹介した.
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第4章 脳卒中の管理・治療・予防
知っておくべき救急処置・プライマリケア

田口 芳治    富山大学附属病院神経内科 診療講師

要旨
 脳卒中の救急診療は救急隊との連携と病院内の救急体制を構築したうえで,迅速かつシステマティックに行われる必要がある.脳卒中の救急診療としては,呼吸・循環管理などの生命的危機の対応と脳卒中の鑑別診断,脳卒中の病型分類(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血),遺伝子組換え組織プラスミノーゲンアクチベーター(rt−PA)療法の適応症例の選別を行う必要がある.プライマリケアとしては,抗血栓療法と共に呼吸・血圧・体液管理,合併症の対応に熟知しておく必要がある.
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第4章 脳卒中の管理・治療・予防
脳梗塞急性期治療の実際

棚橋 紀夫   埼玉医科大学国際医療センター神経内科・脳卒中内科 教授

要旨
 脳梗塞急性期治療は,血圧,呼吸などの全身管理以外に血栓溶解療法,抗凝固療法,抗血小板療法,脳保護療法,脳浮腫治療などが行われる.発症3時間以内の症例に対する遺伝子組換え組織プラスミノーゲンアクチベーター(rt−PA)(アルテプラーゼ)静注療法が広く普及したが,主幹動脈閉塞では再開通率が高くないため,機械的血栓除去術などの併用が今後の課題となる.抗凝固療法(ヘパリン,アルガトロバン),抗血小板療法(オザグレルナトリウム,アスピリン),脳保護薬(エダラボン),脳浮腫治療薬(グリセロール)は,発症後時間,臨床病型などを参考に複数選択される.エダラボンは,rt−PA との併用により脳出血を抑制する効果が期待されている.

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第4章 脳卒中の管理・治療・予防
脳梗塞慢性期の治療・再発予防戦略

守屋 里織  東京女子医科大学医学部神経内科

要旨
 2009 年,本邦発の新たなガイドラインである『脳卒中治療ガイドライン 2009』が刊行された.再発予防のための抗血栓療法としては,非心原性脳梗塞にはアスピリン・クロピドグレル・シロスタゾール・チクロピジンが,心原性脳塞栓症にはワルファリンの投与が推奨されている.高血圧に対する降圧療法の有効性は確立されており,糖尿病・脂質異常症に対する治療薬の pleiotropic effect を含めた有効性も明らかとなってきている.
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第4章 脳卒中の管理・治療・予防
脳出血治療の実際

三上  毅    札幌医科大学脳神経外科学講座 講師

要旨
 本邦において脳出血は,脳卒中の約 30% を占める.死亡率は減少傾向にあるものの,重篤な後遺症につながる場合も多く,なお社会的な問題である.幾つかのランダム化比較試験により着実に進歩しているものの,決定的な治療手段が少ない現状は否定できない.治療の主眼は血腫の拡大や浮腫による機能予後の悪化を最小限にすることである.近年,内視鏡などの新たなモダリティーを使用した低侵襲な手技による治療は,今後の発展が期待されるものであり,大規模試験を踏まえた検討が必要であろう.

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第4章 脳卒中の管理・治療・予防
くも膜下出血の治療

藤中 俊之   大阪大学大学院医学系研究科脳神経外科学講座
吉峰 俊樹   大阪大学大学院医学系研究科脳神経外科学講座 教授

要旨
 くも膜下出血は,本邦では人口 10 万人に対して年間 10〜23 人に発症し,全体の 10〜67% が死亡し生存者の約 30% は重度の障害を残すとされる重篤な疾患である.脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の治療は,開頭クリッピング術を中心とした外科治療が主に行われてきたが,近年の医療技術の進歩により,脳動脈瘤塞栓術,脳血管攣縮に対する選択的動注化学療法,経皮的血管形成術などの血管内治療も選択肢に加えうるようになってきた.本稿では,くも膜下出血の治療について,最近の標準と思われる指針を『科学的根拠に基づくくも膜下出血診療ガイドライン第2版』,『脳卒中治療ガイドライン 2009』に準拠して概説する.
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第4章 脳卒中の管理・治療・予防
頸部頸動脈狭窄病変の治療の実際

林  央周    富山大学附属病院脳神経外科 講師
遠藤 俊郎    富山大学大学院医学薬学研究部脳神経外科学 教授

要旨
 高齢化や食生活の欧米化によって,本邦における頸部頸動脈狭窄病変の頻度は急速な増加傾向にある.この病変に対する頸動脈内膜剥離術(CEA)はエビデンスの確立された治療法であるが,近年では血管内治療による頸動脈ステント留置術(CAS)も急速に普及してきている.また,さまざまな抗血小板薬による脳梗塞再発予防効果やスタチンによるプラークの安定化作用などが示されてきている.本稿では,頸部頸動脈狭窄病変に対する治療選択の実際を概説する.

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第4章 脳卒中の管理・治療・予防
脳卒中患者のリハビリテーション

數田 俊成    東京湾岸リハビリテーション病院リハビリテーション科
里宇 明元    慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室 教授

要旨
 脳卒中発症直後より神経組織の可塑性(plasticity)が発揮され,機能回復につながることが知られている.脳卒中によりもたらされる片麻痺などの機能障害に対するリハビリテーション(リハビリ)のポイントは,多くの場合,脳の可塑性を利用した運動学習を行うことにある.リハビリプログラムの質により機能回復が左右されるため,急性期からエビデンスに基づいた適切なリハビリを行うことが重要である.

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第4章 脳卒中の管理・治療・予防
脳ドックと無症候性病変への対応

高木 繁治   東海大学医学部神経内科 教授

要旨
 脳ドックでは無症候性の脳梗塞,白質病変,脳微小出血,未破裂脳動脈瘤を始めとして多くの疾患が発見される.脳ドックガイドラインは一般医家の日常診療の指針としても有用である.対象者には不安やノーローゼに陥ることなく,十分な理解のもとで,危険因子の治療を行えるよう,個人個人に応じた十分かつ適切な説明が必要である.抗血小板薬は risk−benefit をよく考え,安易な投与は慎まなければならない.

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第4章 脳卒中の管理・治療・予防
脳卒中の1次予防のエビデンス

細見 直永   広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態探究医科学講座脳神経内科学 講師
松本 昌泰   広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態探究医科学講座脳神経内科学 教授

要旨
 脳卒中は虚血性と出血性に大きく分けられ,それぞれの病態生理を理解し,患者ごとに有する危険因子に対してリスクを層別化し,治療を行うことが肝要である.新たに『脳卒中治療ガイドライン 2009』が公表された.脳卒中1次予防のためには,このような治療ガイドラインや近年の臨床研究の報告を踏まえ,各症例の有する危険因子を把握し,その治療優先順位を考慮しつつ治療すべき時代となっている.

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第5章 脳卒中の基礎知識
脳卒中の血管病理

緒方  絢    枚方総合発達医療センター
池田 善彦   国立循環器病研究センター臨床検査部病理部門
松山 高明   国立循環器病研究センター臨床検査部病理部門
山西 博道   枚方総合発達医療センター 理事長
植田 初江   国立循環器病研究センター臨床検査部病理部門 医長

要旨
 米国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)の臨床病型分類における主な脳血管障害について,その責任病変としてみられる心血管の病理組織学的所見を解説した.脳および心血管系の臨床的検査法に大きな進歩がみられるが,そこで得られた所見が病理組織学的に何であるかを理解したうえで病態を把握することが,脳血管障害医療の原点となる.

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第5章 脳卒中の基礎知識
脳組織虚血性傷害メカニズムに基づく治療戦略

田中耕太郎   富山大学附属病院 神経内科 教授

要旨
 1.脳は虚血に対し大変脆弱であり,脳血流量低下のレベルに応じて種々の細胞機能障害が出現する.
 2.虚血開始後,虚血中心部から周辺部にかけて,虚血性脱分極,グルタミン酸やCa2+ による興奮性細胞傷害,酸化的傷害,二次的微小循環障害,炎症反応,アポトーシスという一連の反応が,カスケード的に進行する.また,虚血巣周辺部の外縁では,内在的保護機転も賦活化される.
 3.脳梗塞急性期には,虚血巣中心部の周囲にペナンブラと称される領域が存在し,この領域の救済が脳梗塞急性期治療の重要なターゲットの1つとなっている.

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第6章 脳卒中の社会医学
脳卒中診療ネットワーク

橋本洋一郎   熊本市民病院神経内科 部長
渡辺  進    熊本機能病院神経内科・リハビリテーション科 部長
平田 好文    熊本託麻台病院脳神経外科 院長
山鹿眞紀夫   熊本リハビリテーション病院リハビリテーション科 副院長

要旨
 脳卒中はリハビリテーションの観点から急性期,回復期,維持期に分けられ,機能分化と医療連携による脳卒中診療ネットワークの構築が積極的に進められている.医療連携には困難を伴うが,多くの脳卒中診療の問題点を解決できる.連携推進の1手段として地域連携パスが登場してきた.急性期は“疾病”,回復期は“障害”,維持期は“生活”が対象となり,「治療の継続性」と「リハビリテーションの継続性」の2つの柱が必要である.

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第6章 脳卒中の社会医学
医療経済・医療保険・包括医療制度(DPC)

長谷川泰弘   聖マリアンナ医科大学神経内科 教授

要旨
 我が国の総医療費は年々増大し,人口の高齢化を反映してその約3割が生活習慣病で占められ,脳卒中医療費は1.8兆円となっている.平成 12 年から介護保険制度が導入され,介護は医療から切り離されて福祉の範疇に移された.平成 18 年から先進医療制度が新たに始まり,患者の自己負担で一部の保険未収載医療を受けることが可能となった.日本独自の診断群分類別包括評価(DPC)による支払い制度に参加する施設は 1,000 を超え,蓄積されたデータの公表も始まっており,包括医療制度は着実に定着しつつある.

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