要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 14改/消化器2
胃癌 (改訂第2版)


第1章 概論・疫学
概 論

飯田 三雄   九州大学大学院医学研究院病態機能内科学 教授
檜沢 一興   公立学校共済組合九州中央病院消化器内科 部長

要旨
 診断技術の向上と集団検診の普及による早期発見により,本邦での胃癌死亡率は減少している.しかし,罹患率は現在でも悪性腫瘍の中で最も多い.Helicobacter pylori 感染が胃癌の主要な病因と解明された現在,除菌治療による胃癌の予防が今後の国民的課題である.胃癌治療の進歩は目覚しく,新しい内視鏡治療や腹腔鏡手術および化学療法が報告されている.日本胃癌学会では最適治療の目安に『胃癌治療ガイドライン』を作成している.

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第1章 概論・疫学
疫 学

井上真奈美  国立がんセンターがん予防・検診研究センター予防研究部予防疫学研究室 室長

要旨
 我が国および世界における胃がん罹患および死亡は一貫した低下傾向にある.我が国の胃がんは欧米諸国と比較して遠位部に発生する割合が高いが,近年,近位部胃がん割合の増加が指摘されている.胃がんには Helicobacter pylori(H.pylori)感染および生活習慣要因が大きくかかわっているが,我が国では今後 H.pylori 感染率が,若年世代において着実に低下していくとみられ,それに伴い,胃がんはほかの先進諸国と同様,大きく低下していくと予想される.
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第2章 病理・病態生理
病 理

大倉 康男   杏林大学医学部病理学 准教授

要旨
 胃癌の病理は基本的な事項に変わりはないが,粘液形質の検索による解析で新たな特徴が明らかにされてきている.胃型・腸型の形質からみた胃癌について組織発生を含めて解説した.それとともに低異型度の管状腺癌の実態が明らかにされてきたことは重要な知見である.胃型の癌を中心にしてその組織学的特徴を示した.また,『胃癌治療ガイドライン』や改訂予定の『胃癌取扱い規約』において病理が関係する事項について概略した.

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第2章 病理・病態生理
Helicobacter pylori

山岡 吉生    大分大学医学部環境・予防医学 教授
藤岡 利生   大分大学医学部消化器内科 教授

要旨
 Helicobacter pylori(H.pylori)感染が胃癌の原因と考えられる証拠が次第に集積されるようになり,日本ヘリコバクター学会では,2009 年,新しい診断・治療ガイドラインを発表し,すべての H.pylori 感染者を除菌すべきであるという見解を示した.しかし,感染者のほとんどが胃癌にならずに一生を終え,さらに胃癌の発症率にはかなりの地域差がある.その一因として,菌側の病原因子が重要な役割を果たしている.

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第2章 病理・病態生理
EBウイルス

篠ア  綾   東京大学大学院医学系研究科人体病理学・病理診断学分野
深山 正久  東京大学大学院医学系研究科人体病理学・病理診断学分野 教授

要旨
 EB ウイルス関連胃癌とは,EB ウイルスに感染した上皮細胞がモノクローナルに増殖した腫瘍で,胃癌全体の約 10% を占める.臨床像,病理組織像,分子生物学的特徴のいずれも一般の胃癌とは異なる際立った特徴を有しており,その背景には LMP−2A を始めとする EB ウイルス潜伏感染遺伝子によるがん関連遺伝子の制御異常やエピジェネティクス異常など,EB ウイルスによる独自の胃癌発生メカニズムの存在が示唆される.

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第2章 病理・病態生理
遺伝子変異

仙谷 和弘   広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病理学研究室
安井  弥   広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病理学研究室 教授

要旨
 さまざまながんでみられる遺伝子異常には,遺伝子そのものに起る質的な異常である genetic な異常と,遺伝子そのものに変化はないが遺伝子の発現量に異常を来す量的な異常である epigenetic な異常が存在する.胃癌の発生・進展にかかわるこれらの遺伝子異常の解析は病態解明あるいは予後予測に有用であり,さらに治療の観点からも新規標的分子の探索に不可欠と言える.
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第2章 病理・病態生理
転移機構

岩槻 政晃    九州大学生体防御医学研究所分子腫瘍学
            熊本大学大学院消化器外科学
三森 功士    九州大学生体防御医学研究所分子腫瘍学
馬場 秀夫    熊本大学大学院消化器外科学 教授
森  正樹    大阪大学大学院消化器外科学 教授

要旨
 がんの転移は腫瘍進展の最終段階であり,患者の予後を規定する因子である.これまでがん転移にかかわる多くの研究がなされ,がんの転移は多段階に形成され,臓器特異性を有することが明らかとなった.また近年,転移能力を有する特別ながん細胞の存在や,転移を幇助する宿主側因子の存在が必須であることが明らかにされた.胃癌では腹膜播種転移の頻度が高く特徴的で,そのメカニズムの解明が診断や治療へ応用されることが期待される.
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第2章 病理・病態生理
自然史

長浜  孝    福岡大学筑紫病院消化器科
松井 敏幸   福岡大学筑紫病院消化器科 教授

要旨
 胃癌の自然史はいまだ不明な点も多いが,本邦におけるさまざまな研究成果の蓄積により,その発育進展速度を推測することができる.近年,時代的変遷とともに,より早期の胃癌の長期的経過例が集積され,早期癌にとどまる時間は過去の研究成績より長くなりつつある.胃癌は長い粘膜内癌の時期を経た後,粘膜下層(SM)癌に浸潤すると,その進展速度は加速し進行癌へと進展していく.近年の報告では,粘膜内癌から SM 癌への遅速因子として,胃型あるいは胃型有意の粘液形質を有する癌は腸型の粘液形質の癌と比較して発育進展測度が早く,超高分化腺癌では発育進展が極端に遅い例が存在するなどと報告されている.スキルス胃癌においては,早期癌から進行癌(典型的 Linitis plastica 型胃癌)までの進展速度は通常の胃癌と大差ないと考えられているが,癌発生早期に発見しづらい未分化型癌のより長期の追研究が必要である.

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第3章 診 断
早期胃癌X線診断の最近の動向

杉野 吉則  慶應義塾大学病院予防医療センター開設準備室 医学部教授

要旨
 胃癌検診の目的は救命できる癌を発見することである.高濃度造影剤を用いて二重造影法で胃全域を撮影する“新・胃X線撮影法”や“基準撮影法”によって,1cm以下の病変も確実に発見できるようになってきた.X線装置ではデジタル化が進み,モニターによる読影が主流になってきた.しかし,小さな病変を発見するためには,読影医の診断能および撮影する技師の検査技術の向上は必須である.また,X線精密検査で深達度などのより詳細な診断するためには,意図をもって所見を表すことが肝要と考えられる.

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第3章 診 断
内視鏡所見

芳野 純治    藤田保健衛生大学坂文種報コ會病院内科 教授
小林  隆     藤田保健衛生大学坂文種報コ會病院内科 講師

要旨
 胃癌の内視鏡所見としてとらえられる肉眼形態,浸潤範囲の診断,深達度診断について,隆起型癌,陥凹型癌,複合型早期癌,特殊な形態の癌に分けて述べた.組織型により肉眼形態に特徴があり,浸潤範囲の診断では色素散布を併用が有用である.深達度診断は,隆起型癌では大きさ・茎の有無・表面の性状を,陥凹型癌では陥凹面の性状・皺襞先端の所見・台状挙上などの所見をとらえ,総合的に判定することが重要である.
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第3章 診 断
胃癌に対する超音波内視鏡

木田 光広   北里大学東病院消化器内科 講師
宮澤 志朗   北里大学東病院消化器内科
菊地 秀彦   北里大学東病院消化器内科
渡辺 摩也   北里大学東病院消化器内科
今泉  弘    北里大学東病院消化器内科 講師

要旨
 胃癌に対する超音波内視鏡は,@局所進展度診断,A化学療法の効果判定,Bリンパ節転移,腹水などに対する超音波内視鏡下穿刺術による診断などが考えられる.第1の深達度診断は,胃壁の5層構造の破壊を認める最深層を診断することにより可能となる.しかし,合併潰瘍の線維化が胃癌と同様の低エコーとして同定されるため,導入当初誤診の原因となった.これに対しては,パターンによる深達度診断によりある程度可能であるが,線維化内への小浸潤の診断は困難である.内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が隆盛する昨今では,その適応の決定には,SM1 500 ミクロンが診断できる精度が必要となるが,3次元超音波内視鏡を用いると臨床的要求にある程度応えられる.さらに,ESD の適応拡大により,術後の再発,リンパ節転移などが問題となるが,超音波内視鏡下穿刺術を用いて穿刺細胞診・組織診を行うことにより,その診断が可能となってきている.

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第3章 診 断
拡大内視鏡所見(画像強調観察を含む)

山ア 琢士  東京慈恵会医科大学内視鏡科
田尻 久雄  東京慈恵会医科大学消化器肝臓内科 教授

要旨
 従来より内視鏡実地臨床での胃癌診断においては,通常白色光内視鏡(WLI)観察における色調変化(発赤・褪色など)や形態変化(隆起や陥凹などの凹凸)に基づいた診断が行われてきた.また,インジゴカルミン散布などによる色素内視鏡を腫瘍診断の補助として用いてきた.しかしながら胃は,食道・大腸など他臓器と比較すると,慢性炎症や腺構造の複雑性により背景粘膜の多様性を有するため,これら手法による内視鏡診断は容易とは言えなかった.これら WLI の診断能を向上させるために,さまざまな内視鏡 modality の開発が行われ,現在では自家蛍光内視鏡(AFI)や狭帯域フィルター内視鏡システム(NBI)などの画像強調内視鏡が臨床応用されている.NBI は,100 倍前後に消化管粘膜を拡大観可能な拡大内視鏡と組み合わせる(NBI 併用拡大内視鏡)ことにより,微小血管や微細粘模様を直接反映した高精度の内視鏡画像を得ることができるため,腫瘍・非腫瘍の診断や胃癌などの腫瘍性病変の範囲診断に極めて有用である.


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第3章 診 断
転移・進展度診断

水口 昌伸  佐賀大学医学部放射線科 診療准教授
鈴木 宗村  佐賀大学医学部放射線科
入江 裕之  佐賀大学医学部放射線科 准教授
藤本 一眞  佐賀大学医学部消化器内科 教授
工藤  祥   佐賀大学医学部放射線科 教授

要旨
 近年の画像診断装置の発達に伴い,胃癌の転移,進展度の評価方法にも変化が見られる.従来,多種多様の検査が目的別に行われてきたが,大腸癌ではすでに内視鏡と多列検出器型 CT(MDCT)のみで評価を行う施設も現れている.内視鏡後に MDCT を行うことにより,局所進展と所属リンパ節の評価,他臓器転移を一挙に診断するとともに3次元画像を作成して手術前のシミュレーションを行うという方法である.ここでは,胃癌における MDCT の撮像法と評価法を中心に MRI の動向についても言及する.
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第3章 診 断
鑑別診断

浜田  勉   東京都保健医療公社東部地域病院内科 副院長

要旨
 胃癌の鑑別診断について整理した.隆起性病変では上皮性か非上皮性かを判断し,2cm大の非上皮性では中心陥凹のあるものは癌を含めた鑑別が必要となる.陥凹性病変のうち潰瘍性変化の明らかなものでは潰瘍の形だけでは癌との鑑別は困難で急性期の生検でも良悪性が決められず,治癒への経過中に必ず潰瘍辺縁から生検することが重要である.また,潰瘍瘢痕様の変化のものでは,ひだ集中を伴う中心陥凹の色調や境界の鮮明さに注目する.びまん性病変とスキルス型胃癌との鑑別は,巨大雛壁と胃壁の硬化の有無で行う.全体像を見るには,X線所見が極めて有用である.
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第3章 診 断
胃癌検診

向林 知津    和歌山県立医科大学第二内科
柳岡 公彦    和歌山県立医科大学第二内科 講師
一瀬 雅夫   和歌山県立医科大学第二内科 教授

要旨
 胃X線検査を主なスクリーニング手段とした従来の胃癌検診は,現時点で受診者数の減少,受診者の固定化,精検受診率の低迷など多くの問題に直面している.一方,Helicobacter pylori(Hp)感染に起因する慢性萎縮性胃炎より発生する胃癌が大半を占める我が国では,血清ペプシノーゲンなどの検体検査を用い高危険群を同定し,検査精度の高い内視鏡検査の対象とすることで胃癌検診効率化を図ろうとする多くの試みが行われた結果,単独で胃癌スクリーニングに用いるには限界のある血清ペプシノーゲンや Hp 抗体などが,個人の胃癌発生リスクに関する有力な情報を提供することが明らかになった.これらを指標として胃癌ハイリスク群の同定・集約を行うことにより,効率化が強く求められる我が国の胃癌検診が,新たな展開を迎える可能性が強く示唆される.

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第4章 管理・治療
予 防

上村 直実  国立国際医療センター消化器内科 部長

要旨
 我が国の国民病とされている胃癌の概念が大きく変化している.H.pylori の持続的感染が慢性活動性胃炎を惹起し胃癌の発症しやすい胃粘膜を形成し,除菌により組織学的胃炎が改善されるとともに「除菌による胃癌の予防」が現実味を帯びてきている.胃癌の予防を目的とした除菌治療の対象はすべての感染者と考えるべきであり,血清ペプシノーゲン法(PG 法)と血清抗体法を組み合わせた検診により設定されるリスク者に対する除菌治療が,最適の予防戦略と思われる.
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第4章 管理・治療
早期胃癌の治療(1)内視鏡的切除

桑山 泰治   佐久総合病院胃腸科
小山 恒男   佐久総合病院胃腸科 部長
佐々木 裕   佐久総合病院胃腸科 医長
北村 陽子   佐久総合病院胃腸科
友利 彰寿   佐久総合病院胃腸科 医長

要旨
 早期胃癌に対する内視鏡治療は内視鏡的ポリペクトミーに始まり,内視鏡的粘膜切除術(EMR)時代を経て,1990 年代後半に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が開発された.ESD は病変周囲の粘膜を切開し,粘膜下を直視下に剥離する手技であり,病変の形,大きさ,占拠部位,瘢痕合併の有無にかかわらず一括切除が可能である.『胃癌治療ガイドライン』では,内視鏡的粘膜切除法の適応は「2cm以下の肉眼的粘膜癌として診断される病変で,組織型が分化型,肉眼型は問わないが,陥凹型では UL(−)に限る」(適応病変)とされている.一方,適応拡大病変[@分化型 UL(−),M癌,A分化型 UL(+),3cm以下,M癌,B未分化型 UL(−),2cm以下,M癌,および C分化型 UL(−),3cm以下,SM1 癌]はリンパ節転移の危険が極めて少ないことから臨床研究として ESD が施行されている.これらの胃 ESD 適応拡大の予後に関しては前向き検討(JCOG 0607)が進行中であり,この結果を待たねばならないが,近年のさまざまな検討からは適応拡大基準の妥当性が示唆されている.

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第4章 管理・治療
早期胃癌の治療(2)腹腔鏡下手術

河村祐一郎  藤田保健衛生大学上部消化管外科
宇山 一朗  藤田保健衛生大学上部消化管外科 教授

要旨
 近年では,腹腔鏡下手術が早期胃癌に対する標準手術に置き換わりつつある.腹腔鏡手術の専門施設においては,根治性と安全性を損なわず,開腹手術と同等以上の成績を示している.一方で,術式がやや複雑なため,腹腔鏡下胆嚢摘出術ほど劇的には普及していない.本稿では,腹腔鏡下胃切除術の特色,適応と実際の手術手技について解説する.
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第4章 管理・治療
早期胃癌の治療(3)特殊な内視鏡治療
早期胃癌に対する光線力学的療法(PDT)

東野 晃治    大阪府立成人病センター消化管内科 副部長
石原  立    大阪府立成人病センター消化管内科 部長
飯石 浩康    大阪府立成人病センター消化管内科 診療局長

要旨
 光線力学的療法(PDT)とは,レーザー光により励起された腫瘍親和性光感受性物質が一重項酸素を発生し,がん細胞を破壊する光化学反応を利用した治療法である.内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)困難例や外科手術の高リスク例が良い適応である.大阪府立成人病センターにおける PDT 単独療法の治癒率は,胃粘膜癌で 95%,胃粘膜下層癌では 70% にとどまった.この結果は,合併症や高齢のために手術できない患者が対象とは言え,満足のいく成績ではなかった.そこで我々は,胃粘膜下層癌の治療効果を上げるため,事前に癌部の内視鏡的粘膜切除術(EMR)を行い,腫瘍を減少させた後に PDT を行う“EMR+PDT 療法”を考案し治癒率の向上に成功した.

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第4章 管理・治療
外科療法

高橋 常浩   慶應義塾大学病院腫瘍センター
才川 義朗    慶應義塾大学医学部一般・消化器外科 講師
竹内 裕也    慶應義塾大学医学部一般・消化器外科 講師
高石 官均    慶應義塾大学病院腫瘍センター 講師
北川 雄光    慶應義塾大学医学部一般・消化器外科 教授

要旨
“胃癌”と一言で言っても,進行度は個々の症例によりさまざまであり,その程度により治療方針は大きく異なってくる.早期がんにおいては,近年の内視鏡治療の進歩により,“お腹を切らずに”根治が得られる低侵襲な治療として重要な役割を担っている.内視鏡治療の適応にならない早期がんに対しては,腹腔鏡手術が広く行われるようになってきている.一方,進行がんに対しては,S−1 を中心に治療成績は著しく向上してきている.胃癌治療は,早期がんはより低侵襲,進行がんはより根治性を求め,多様化してきているが,その軸となるのはやはり外科手術である.本稿では,最近の臨床試験と知見を交え,外科手術の要点を述べたい.

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第4章 管理・治療
化学療法

坂田  優     三沢市立三沢病院腫瘍内科 院長
棟方 正樹    三沢市立三沢病院腫瘍内科

要旨
 日本における胃癌化学療法の特徴は,経口フッ化ピリミジン製剤の開発が独自の進歩を遂げている点である.これと並行してシスプラチン,塩酸イリノテカン(CPT−11),タキサンなどの key drugs が開発され,我が国の臨床試験は,経口フッ化ピリミジン製剤のベストパートナー探しと key drug の併用の試みに尽きる.現段階での,我が国の胃癌の標準的化学療法は S−1+シスプラチンであるが,分子標的薬という新たな“武器”を手にした次代の胃癌化学療法の方向は,@より長い延命期間の追求,A外来治療推進と2次治療の検討,そして B個別治療の実現により,生存の質(QOL)をどこまで高めていけるのかがテーマだと言えよう.

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第4章 管理・治療
QOL

佐藤  温    昭和大学病院腫瘍内科 科長
中町 正俊   昭和大学病院腫瘍内科
今高 博美   昭和大学病院腫瘍内科

要旨
 QOL 評価では一般的に自己記入による調査票が尺度として用いられる.がん特異的尺度としては,欧米で開発された EORTC−QLQ,FACT−G は基本調査票であり,現在国際的に使用されている.これらの基本調査票に加え,胃癌特有の要因を評価するために STO22,FACT−Ga が開発され,日本語版も開発されている.一方,日本独自の文化や習慣に合致したがん特異尺度を目的として QOL−ACD が開発されている.

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第4章 管理・治療
術後合併症と対策

上西 紀夫   公立昭和病院 院長
山口 浩和   公立昭和病院外科・消化器外科
照屋 正則   公立昭和病院外科・消化器外科

要旨
 胃癌標準手術後の主な合併症について,時系列的に概説した.最近では,早期胃癌症例が増えているものの進行胃癌症例もまだまだ多く,また高齢者の胃癌も増加しており,それら症例の多くでは術前からすでに栄養状態や免疫機能が低下している.したがって,術後合併症の予防と対策のためには,術前・術後における栄養状態の改善と,術中の丁寧な手術操作が重要である.

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第4章 管理・治療
経過・予後

藏重 淳二   熊本大学大学院医学薬学研究部消化器外科学
渡邊 雅之   熊本大学大学院医学薬学研究部消化器外科学 講師
池田  貯   熊本大学大学院医学薬学研究部消化器外科学
林  尚子   熊本大学大学院医学薬学研究部消化器外科学 講師
馬場 秀夫   熊本大学大学院消化器外科学 教授

要旨
 早期胃癌の治療成績は良好であり,一部の早期胃癌に対しては内視鏡的切除術が標準的治療法となり,切除例においても生活の質(QOL)の向上を目的として縮小手術や鏡視下手術が導入されている.一方,進行胃癌に対する補助化学療法の有用性が明らかとなり,予後の向上に寄与している.また,切除不能進行胃癌に対しては新規抗がん剤を含む多剤併用化学療法の有用性が検討されており,治療成績の向上が期待される.

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第4章 管理・治療
がんの医療経済

濃沼 信夫   東北大学大学院医学系研究科医療管理学 教授

要旨
 患者中心医療の要請、技術革新の進展、医療資源の制約などから、臨床的根拠とともに経済的根拠に基づくがん医療を実践することがますます重要となっている。経済的理由で治療の中止や変更を余儀なくされる患者(1% 以下)が生じてきており、質の高いがん医療をあまねく提供するには、臨床現場での配慮、現行制度の弾力的運用、がんにかかる医療制度の抜本改革が強く求められる。がんによる経済的な損失は約 10 兆円と疾病の中で群を抜いて多く、がん対策に優先的に多くの資源配分を行うことは合理性がある。

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第5章 ガイドライン
胃癌治療ガイドライン

田倉 智之   財団法人癌研究会有明病院 副院長

要旨
『胃癌治療ガイドライン』は 2001 年に初版が公開され,現在第3版の作成が進められている.ガイドラインと『胃癌取扱い規約』との役割分担が今回の改訂を機に進んでいる.取扱い規約は次の第 14 版では,大幅に TNM 分類を取り入れた形で改訂作業が進められている.ガイドラインの改訂作業では,化学療法の進歩が取り入れられることになるが,内視鏡治療や腹腔鏡下胃切除などの取扱いに大きな変化はない.

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