要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 15/循環器 2
心房細動 (改訂第2版)



第1章 概念・定義,疫学
心房細動の概念・定義

大江  透 心臓病センター榊原病院研究所 部長

要旨
 心房細動の診断は心電図により簡単にできるようになった.一方,心房細動の病態は複雑で,無症状な患者から日常生活が難しいほど自覚症状が強い患者もいる.心房細動の発生機序は,多重興奮旋回,単一回路リエントリー,異所性頻拍など多くの機序が提唱されている.個々の患者でどれが関与しているのかは患者の疾患や病態で異なっているが,複数の機序が複雑に関与している場合が最も多いと考えられる.

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第1章 概念・定義,疫学
疫学・予後

井上  博  富山大学医学部第二内科 教授

要旨
 心房細動は加齢とともに有病率が増加し,女性に比べて男性の有病率が高い.欧米の成績では 70 歳代では一般住民の約6%,80 歳代では約 10% に認められるが,我が国の成績では 80 歳代でも約3%に認められるに過ぎない.我が国の心房細動の基礎疾患は,孤立性のものが約 30% を占め,欧米に比べ高血圧と冠動脈疾患は少なく,弁膜症が多い.心房細動は予後にも影響し,疫学的調査では心房細動があると全死亡の危険が約1.5〜2倍となる.

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第2章 病理・病態生理
解剖・病理

足立 正光  鳥取大学医学部附属病院循環器内科 講師
井川  修 鳥取大学医学部附属病院循環器内科 科長

要旨
 心房細動症例にしばしば見られる病理学的変化として,次のものが挙げられる.@心房の拡大,A心房筋の菲薄化,B心房筋の線維化,C心房筋の層構造の変化,D心房筋細胞の脱落.しかしながら,いずれも心房細動症例に特異的な変化ではない.心房筋の分布は心房・大血管の境界と一致せず,ある部分では境界線を越えて伸展し,ある部分では境界線手前で途絶している.このような知識は,心房細動の研究・治療に必須なものと考えられる.

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第2章 病理・病態生理
発生機序

本荘 晴朗  名古屋大学環境医学研究所心・血管分野 准教授
児玉 逸雄  名古屋大学環境医学研究所心・血管分野 教授

要旨
 心房細動の本態は高頻度で不規則な心房電気興奮が持続する状態であり,その電気生理学的機序には,肺静脈−心房接合部を主な起源とする自発興奮の発生と,心房におけるリエントリーが重要な役割を果たしている.一方,高血圧,心不全,加齢や心房細動の持続などは,心房における組織レニン・アンジオテンシン系の亢進や炎症,酸化ストレスなどを介して心房細動が発生しやすい基盤(基質)を形成する(心房リモデリング).

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第2章 病理・病態生理
自律神経と心房細動

萩原 誠久  東京女子医科大学循環器内科 主任教授

要旨
 心房細動の発生・維持に自律神経が深く関与することは,古くから知られている.心房細動は基礎心疾患に伴って発生しやすいが,孤立性心房細動の発生や自然停止の背景には,自律神経変動の関与が大きい.心房細動発生の日内変動解析から,睡眠や安静などで生じる場合は迷走神経緊張型が多く,運動や緊張,ストレスなどで生じる場合は交感神経緊張型の心房細動と考えられている.したがって,心房細動の薬物治療に際しては,自律神経活動に対する作用も考慮した抗不整脈薬の選択が重要となる.

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第2章 病理・病態生理
心房リモデリング

堀江  稔  滋賀医科大学呼吸循環器内科 教授

要旨
 心房細動は,日常診療で最も多くみられる不整脈であり,その発症により,著しく患者の QOL は障害されるとともに,心不全や脳梗塞を始めとする塞栓症の危険を高める病態である.心房内に,空間的・時間的に変動する複数リエントリーが成立しており,心房は統率のない興奮に陥っている.このため,心房は局所的には 250〜350 回/分またはそれ以上の高頻度で興奮する.心房細動の発症・維持には,@トリガーとなる異常興奮と心房内でリエントリーが成立するための,A電気生理学的または構造的変化(不整脈基質)が存在すると考えられている.後者は広く心房リモデリングと呼ばれているが,本稿では,最近の知見を加えて概説する.

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第2章 病理・病態生理
血行動態

庭野 慎一  北里大学医学部循環器内科学教室 診療教授

要旨
 拡張期の心室充満に関して,心房は受動的血液移送のための血液プール機能と能動的血液移送のための心房収縮機能を有している.心房細動では,能動的移送が消失するとともに,心拍数増加・不規則化による拡張期短縮のため,受動的移送も障害され,心拍出量が低下する.心房細動の持続により,心房は構造的変化(リモデリング)を来すため,除細動後にも心房の機械的異常が遷延する場合がある.

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第2章 病理・病態生理
血栓形成

佐藤  洋  大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学 講師

要旨
 心房細動においては,Virchow の3要素として知られる機能的心房収縮の欠如による心房内の血流うっ滞,血流変化による血管内皮の抗血栓性の低下,血液成分の性状変化により,易血栓性に傾く.最近では,これら3要素のほかに,心房筋,心房内皮での炎症,増殖因子,マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP),一酸化窒素(NO),レニン・アンジオテンシン(RA)系の関与も相互に関連しながら血栓形成に関与することが示唆され,治療介入にあたって考慮されつつある.

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第3章 診 断
診断・検査の進め方

加藤 貴雄  日本医科大学内科学講座(循環器・肝臓・老年・総合病態部門)教授

要旨
 心房細動の診断は,f波の出現,RR 間隔の絶対性不整など特有の心電図所見を確認することによってなされる.心房細動の持続時間や自覚症状の有無など個々の患者の特徴を考慮して,12 誘導心電図のほか,ホルター心電図,イベントレコーダーなどを駆使して心房細動の確認を行う.次に,心エコー図や血液検査などを総合して,基礎疾患,合併症,心・腎・肝機能,関連病態を把握し,きめ細かく治療方針を決定することが重要である.

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第3章 診 断
ホルター心電図とその意義

中川 幹子  大分大学医学部臨床検査診断学 診療教授
犀川 哲典  大分大学医学部臨床検査診断学 教授

要旨
 ホルター心電図は,発作性心房細動では不整脈の診断や治療効果判定に有用であり,永続性心房細動の場合は主に心拍数調節の評価に用いられる.また,ホルター心電図から得られる種々の指標は,心房細動の発生機序の推測や,治療法の選択の際に有用な情報を与えてくれる.一方,出現頻度の少ない発作性心房細動の検出には,イベントレコーダーのほうが有用である.

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第3章 診 断
心エコーとその意義

石橋 耕平  和歌山県立医科大学循環器内科
和田 希美  和歌山県立医科大学循環器内科
財田 滋穂  和歌山県立医科大学循環器内科
平田久美子 和歌山県立医科大学循環器内科 講師
赤阪 隆史  和歌山県立医科大学循環器内科 教授

要旨
 心房細動を治療するにあたり,考慮すべき点は2つある.1つ目は心房細動を引き起した基礎疾患の診断・治療であり,2つ目は心房細動自身に対する治療である.本症を治療するに際しては,詳細な基礎疾患の診断と心機能評価,左房内血栓の評価が必要となる.心エコーは,これらすべての項目をベットサイドで評価し得る唯一のモダリティであるため,その評価法に精通する必要がある.

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第3章 診 断
基礎疾患,心機能,解剖学的構造の関与

池田 隆徳  杏林大学医学部第二内科 准教授

要旨
 心房細動は基礎疾患の存在下で発現することが多い.具体的には,高血圧,心不全,糖尿病,冠動脈疾患,弁膜症などが関与する.その中でも高血圧の関与が高く,高血圧を治療すると心房細動の抑制につながることが示されている.心不全も心房細動の発現因子であり,心機能を評価することは重要である.評価には左室駆出率が最も活用されている.また,心房の解剖学的構造が心房細動の発現に関与することが知られている.

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第3章 診 断
血栓塞栓症とリスク評価

是恒 之宏  国立病院機構大阪医療センター臨床研究センター センター長

要旨
 心房細動における血栓形成には心房内の血流うっ滞以外にも,Virchow の3要素である心房内膜,血液性状などが重要であることが分かってきた.脳塞栓のリスク評価として臨床的に用いられる CHADS2 スコアは比較的簡単にスコア化が可能であり,日本循環器学会 2008 ガイドラインではこの評価法が用いられている.今後,さらに診療現状に合わせたリスク評価が必要になってくると考えられる.

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第3章 診 断
ストレスとQOLの評価

山下 武志  (財)心臓血管研究所 常務理事・研究本部長

要旨
 心房細動は生命予後の悪化や合併症をもたらすだけでなく,生活の質(QOL)を障害させることによっても患者に不利益をもたらす.近年の大規模臨床試験により生命予後や合併症に関する情報は集積されたが,後者の QOL に関する情報は限られている.これには,QOL を評価する場合の問題点のみならず,その背景にある各個別の患者が抱えるストレスの多様性がある.

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第4章 管理・治療
管理・治療の進め方

河村 光晴  昭和大学医学部内科学講座循環器内科学部門
小林 洋一  昭和大学医学部内科学講座循環器内科学部門 教授

要旨
 心房細動は高齢者に多いことが知られているが,我が国の人口高齢化は進行しており,心房細動の患者数が増加している.そのため,心房細動の管理・治療は適正かつ包括的に行うことが極めて重要となる.薬物療法,カテーテルアブレーションの進歩に伴い,2008 年には新しいガイドラインが示された.心房細動の管理・治療は心房細動の種類や患者背景により異なるため,トータルマネージメントが求められる.

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第4章 管理・治療
電気的除細動の適応と実際

森田 典成  東海大学医学部付属八王子病院循環器内科 講師
小林 義典  東海大学医学部付属八王子病院循環器内科 教授

要旨
 心房細動の電気的除細動を行う状況は各症例によって異なる.各症例の除細動前の心房細動持続時間は重要な因子である.心房細動によって血行動態の破綻を来す,または心不全に陥る例では心内血栓の有無は問われず,速やかな除細動の適応である.持続時間が 48 時間以上の心房細動に対しては,除細動前3週間,除細動後4週間のワルファリンによる抗凝固療法を行い,除細動直前には経食道エコーで心内血栓の有無を必ず評価する必要がある.

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第4章 管理・治療
薬物療法 1.薬理学的除細動の適応と実際

新  博次  日本医科大学多摩永山病院内科・循環器内科 教授

要旨
 心房細動治療における抗不整脈薬の役割で,除細動は最も重要なものとなっている.発症から間もない発作性ないし持続性心房細動で自覚症状の強いもので,血行動態が安定している症例が良い適応となる.抗不整脈薬の選択,使用に際しては,電気生理学的作用機序のみならず,安全性を確保し最大の効果を上げることがポイントである.

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第4章 管理・治療
薬物療法 2.リズムコントロール(抗不整脈薬)の適応と実際

杉   薫  東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 教授

要旨
 心房細動に対して抗不整脈薬によるリズムコントロールを行う場合に,発作性心房細動には Na チャネル遮断薬が適しており,持続性心房細動にはKチャネル遮断薬が適している.また,左室肥大,心機能低下,虚血性心疾患などの器質的心疾患がある場合にはKチャネル遮断薬を使用することが薦められる.しかし,おのおのの抗不整脈薬の特徴を把握して,Na チャネル遮断薬については伝導抑制に注意し,Kチャネル遮断薬については心室細動に注意する.

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第4章 管理・治療
薬物療法 3.レートコントロールの適応と実際

平尾 見三  東京医科歯科大学循環器内科 准教授

要旨
 本邦の心房細動患者(推定 70〜100 万人)の大多数は一般内科医で診療されることになる.大規模臨床試験ではレートコントロールがリズムコントロールに劣らない優れた治療法であることが示されている.レートコントロールでは,β遮断薬,カルシウム拮抗薬,ジギタリスを用いて平均心拍数 70/分を目標に治療する.抗凝固療法と共に,レートコントロールが日常臨床で心房細動患者に適切に実地応用されることが重要である.

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第4章 管理・治療
薬物療法 4.リズムコントロールとレートコントロール

西村 敬史  東京大学大学院医学系研究科薬剤疫学講座

要旨
 多彩な臨床的特徴を持つ心房細動患者に対してはリズムコントロール,レートコントロールの両方を使い分けることが必要である.また,予後の良い疾患である心房細動に対して抗不整脈薬を用いてリズムコントロールを行う際には副作用予防に細心の注意を払うことが求められる.

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第4章 管理・治療
薬物療法 5.アップストリーム治療とその適応

熊谷浩一郎  福岡山王病院ハートリズムセンター センター長
          国際医療福祉大学大学院 教授

要旨
 アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)/アンジオテンシンUタイプ1受容体拮抗薬(ARB)は心房のリモデリングに対し予防効果を持つため,心房細動慢性化予防のアップストリーム治療として注目されるようになってきた.特に,慢性心不全例や高度の左室肥大を伴う高血圧例に対する心房細動予防を目的とした ACEI/ARB の投与はクラスIに記載された.しかし,心不全や高血圧がない例での ACEI/ARB の有用性は賛否両論あり,どのような症例にアップストリーム治療を行うべきかは明らかになっていない.

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第4章 管理・治療
抗血栓療法

内山真一郎  東京女子医科大学医学部神経内科 主任教授

要旨
 心房細動患者における血栓塞栓リスクの層別化と抗血栓薬の適応決定にはCHADS2 スコアが用いられるが,心内血栓に由来する塞栓症の予防には抗血小板療法の効果は期待できず,中〜高リスク患者には抗凝固療法の適応がある.最近,トロンビン阻害薬 dabigatran のワルファリンと同等以上の有効性と安全性が示された.

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第4章 管理・治療
カテーテルアブレーション 1.発作性心房細動の方法と適応

高橋  淳  横須賀共済病院循環器センター センター長

要旨
 孤立性あるいは反復性の心房期外収縮が発作性心房細動発生のトリガーとなることが報告され,本心房期外収縮が心房細動の発生機序として重要であることが認識されている.本起源の多くは肺静脈内心筋に存在することから,肺静脈開口部周囲への焼灼により,肺静脈心筋と心房筋を電気的に離断し,心房細動の根治効果を発揮する肺静脈隔離アブレーションが考案され,発作性心房細動の非薬物治療として広く施行されるようになった.本法は当初,個々の肺静脈開口部を標的とした個別肺静脈隔離法が施行されていたが,近年,肺静脈開口部を広範に焼灼する拡大肺静脈隔離法のより高い有効性が報告されている.一方,本アブレーションによる合併症およびその対策も報告されており,発作性心房細動におけるカテーテルアブレーション治療の適応は広がりつつある.

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第4章 管理・治療
カテーテルアブレーション 2.慢性心房細動の方法と適応

松尾征一郎  東京慈恵会医科大学循環器内科
山根 禎一  東京慈恵会医科大学循環器内科 准教授

要旨
 心房細動薬物治療は,脳梗塞を始めとした塞栓症予防に加えて,心拍数調節を目的としたレートコントロール,洞調律復帰を目的としたリズムコントロールの2種類が基本となるが,両群間に治療成績の優劣は認められなかった.一方,発作性心房細動にその治療効果が確立されているカテーテルアブレーションの発展は目覚しいものがあり,究極のリズムコントロールの治療の1つとして期待されている.ここでは慢性心房細動症例に対するカテーテルアブレーションについて解説する.

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第4章 管理・治療
カテーテルアブレーション 3.カテーテルアブレーションの限界と展望

江島浩一郎  東京女子医科大学循環器内科
庄田 守男  東京女子医科大学循環器内科 准教授

要旨
 心房細動に対するカテーテルアブレーション(CA)治療は目覚ましい進歩を遂げており,発作性から持続性・慢性の心房細動まで幅広い対象に対して行われている.発作性心房細動に対する高い有効性は確立されているが,持続性・慢性の心房細動に対する CA の方法および成績は施設により異なる.心房細動に対する CA の限界も明らかになりつつあり,ここに詳述する.また,今後の展望として新しいアブレーションデバイスを紹介する.

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第4章 管理・治療
カテーテルアブレーション 4.レートコントロール (カテーテルアブレーション+ペーシング)

里見 和浩  国立循環器病センター内科心臓部門 医長

要旨
 薬物治療により心拍数コントロールが困難な,有症候性心房細動例,もしくは頻拍依存性に心機能の低下した心房細動例はしばしば存在する.また,速い心室応答を伴う心房細動を合併した患者では,心臓再同期療法による十分な両室ペーシング治療が困難である.このような患者において,房室ブロックを作成し,心室ペーシングにより安定した心室レートを維持できる房室接合部アブレーションは,依然として有用な治療法である.

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第4章 管理・治療
手術の適応と実際

新田  隆   日本医科大学外科学心臓血管外科 教授
石井 庸介  日本医科大学外科学心臓血管外科 講師
坂本俊一郎  日本医科大学外科学心臓血管外科

要旨
 広範囲の心房切開と再縫合を必要としていたメイズ手術は,アブレーションデバイスにより低侵襲化された.血栓塞栓症予防の観点から手術の有効性が検討され,手術適応のガイドラインが作成された.アブレーションデバイスによる不完全焼灼に伴う遺残伝導は心房頻拍を発生させる可能性があり,その対策が検討されている.心臓神経叢のアブレーションが心房細動手術の有効性を高める可能性が示唆されているが,長期成績など検討課題は多い.

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第4章 管理・治療
ペースメーカー,植込み型除細動器の植込み適応

松本 万夫     埼玉医科大学国際医療センター心臓病センター心臓内科 教授
Golcuk Ebru   埼玉医科大学国際医療センター心臓病センター心臓内科

要旨
 心房細動へのペースメーカー適応は症状を有する徐脈に対する場合,問題は少ない.症状がない徐脈にはまだ一定の見解はない.RRmax が3秒または5秒以上が適応基準となる.心房細動の予防に関しては,徐脈に対する適応の付加的な適応のみである.心房細動除細動目的の植込み型除細動器(ICD)の適応は,心房細動発作が多くなく,心房細動による症状が顕著で,除細動の効率が良いなどの条件がそろう必要がある.ショックによる痛みなど,患者の耐応性が問題となり,適応は限られる.

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第4章 管理・治療
心理療法の適応と実際

鈴木 伸一  早稲田大学人間科学学術院 准教授
松岡 志帆  早稲田大学大学院人間科学研究科

要旨
 心房細動患者の治療および生活の質(QOL)の向上には,患者の心理社会的問題が大きくかかわることがこれまでの研究で明らかになっている.特に,発作性心房細動の患者は,日常生活の中で予期せぬ発作を繰り返し経験することから,QOL の低下が顕著であり,患者が抱えた心理社会的問題を考慮した治療戦略が重要となる.本稿では,心房細動患者が抱える心理社会的問題の特徴を解説するとともに,その改善に向けたメンタルケアの実践について紹介する.

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第4章 管理・治療
心房細動と医療経済

上塚 芳郎  東京女子医科大学医学部医療・病院管理学 教授

要旨
 心原性脳卒中は重症化しやすく,死亡率も高く,回復しても重い後遺症を残し,社会に対する負担が大きい.心房細動に抗凝固療法による治療介入をすることにより,医療費が削減されるのかどうかを考えてみよう.まず,費用対効果分析の手法について解説し,効用値や Markov モデルについても触れてみたい.治療介入によりアドオンされる薬剤費,国際標準化比率(INR)検査費用や合併症としての脳出血などの治療に要する費用や効用値と,治療しなかった場合に脳卒中が生じたためかかる費用や効用値とを比較することにより,判断分析ができることを一緒に学ぶ.

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第5章 ガイドライン
日本循環器学会 心房細動治療(薬物)ガイドライン

小川  聡  国際医療福祉大学三田病院 病院長

要旨
 2008 年 11 月に日本循環器学会 2001 年版『心房細動治療(薬物)ガイドライン』が改訂された.J−RHYTHM 試験を含む最近の我が国のエビデンスを取り入れ,従来の Sicilian Gambit の概念に基づく薬剤選択指針を発展させたものである.血栓塞栓症の予防を最大の目標と位置づけ,抗血栓療法に重点を置いてある.また,日本循環器学会学術委員会指針によるクラス分類とエビデンスレベルが導入された.必ずしも我が国でのエビデンスが十分集積されていない段階ではあるが,Sicilian Gambit の概念とエビデンスとの融合を目指しての初めての試みである.

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第5章 ガイドライン
ACC/AHA/ESC2006合同ガイドライン

河田  宏  国立循環器病センター心臓血管内科
清水  渉  国立循環器病センター心臓血管内科 医長

要旨
 前回の ACC/AHA/ESC の心房細動患者のマネージメントに関する合同ガイドラインが出された 2001 年以降,AFFIRM を始めとする多くの大規模試験が発表された.また,過去数年の心房細動に対するカテーテルアブレーション治療の進歩は目覚ましく,数多くの臨床試験が発表されている.これらの点からも,2006 年の合同ガイドラインは重要である.本稿では,前回のガイドラインからの変更点に焦点を当てながら,2006 年版の ACC/AHA/ESC 合同ガイドラインを要約した.

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第6章 総合医と研修医のためのエビデンスの読み方
レートコントロールかリズムコントロールか AFFIRM,RACE,AF−CHF,J−RHYTHM

志賀  剛  東京女子医科大学循環器内科 准教授

要旨
 臨床試験は臨床研究であり,日常診療とは異なる.ここでは心房細動患者を対象とし,レートコントロールとリズムコントロールという治療戦略を比較した4つの臨床試験を取り上げる.結論はいずれの治療戦略も成り立ち,抗凝固療法を含めて個々の患者に適切な治療を行うことの重要性が再認識された.各試験とも対象の病態は異なり,その評価項目も異なる.その違いを知ることが,日常診療の臨床判断に貴重なヒントを与えてくれる.

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第6章 総合医と研修医のためのエビデンスの読み方
ワルファリンか抗血小板薬か

後藤 信哉  東海大学医学部内科学系循環器内科 教授

要旨
 非弁膜症性心房細動症例では血栓イベント発症リスクが増加する.抗凝固,抗血小板療法による予防,治療介入の適応となる.過去のランダム化比較試験はいずれも抗血小板療法に対する抗凝固療法の優位性を示しているが,実臨床では抗血小板療法が選択される場合も多い.有病率が高く,個々の症例の血栓リスク,出血リスクが均一でなく,かつ血栓イベントが起れば重篤,不可逆的な quality of life の障害を残すが,薬剤介入による出血イベントも重篤となる心房細動症例の抗血栓療法の介入方針決定は極めて難しい.

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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
初診で診たら,健診で見つかったら

祖父江俊和  名古屋掖済会病院循環器科 部長
淡路 喜史   名古屋掖済会病院循環器科
加藤 林也   名古屋掖済会病院 院長

要旨
 心房細動は高齢人口の増加とともに増加する common disease であり,心不全,脳梗塞(心原性脳塞栓),QOL の低下(動悸・息切れ)を生じる.心房細動の生命予後や脳梗塞のリスクは心不全,高血圧,糖尿病などの合併,加齢,脳梗塞の既往などの背景因子に依存するため,治療に際してはこれらの背景因子の評価と治療が重要である.脳梗塞のリスクを有する症例にはワルファリンによる抗凝固療法を行うべきであり,心房細動の薬物治療においては洞調律維持に固執せず,適正な心拍数維持が推奨されるようになった.

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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
循環器専門医/不整脈専門家にコンサルトするときは

深谷 眞彦  近森病院循環器科 部長

要旨
 循環器の非専門医が心房細動の診療をするときに,まずは初期診療での問診による情報収集が大切である.非専門医が行うべきルーチンの検査もある.これらによって,循環器専門医への紹介の必要性が判断できる.紹介したほうが良い場合を本文中に列挙した.循環器非専門医と専門医との役割分担や連携は今後ますます必要になってくるので,基本的知識の取得や経験は重要だが,要は専門医との連携のもとに共診の姿勢が基本と思われる.

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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
孤立性心房細動の診療ポイント

村川 裕二  帝京大学医学部附属溝口病院第四内科 教授

要旨
 明らかな基礎疾患を認めない 60 歳以下の心房細動を,孤立性心房細動と呼ぶ.基礎疾患を有する心房細動より,発作性の割合が大きい.孤立性心房細動の頻度は評価の仕方でまちまちだが,10% を下回る報告が多い.血栓塞栓症のリスクは低いが,潜在的な心筋変性の存在も示唆されている.薬物治療のみでなく,カテーテルアブレーションも有効である.

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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
高血圧,糖尿病を合併する心房細動の治療ポイント

深水 誠二  都立広尾病院循環器科 医長
櫻田 春水  都立広尾病院循環器科 副院長

要旨
 高血圧,糖尿病は心房細動発症の独立したリスク因子であり,初期においても電気的・構造的リモデリングを来し,左室肥大,左房拡大,インスリン抵抗性や肥満などの要因がメカニズムとして重要と考えられている.レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に拮抗する薬剤がアップストリーム療法として注目されているが,心房細動を慢性的かつ進行性の疾患としてとらえ,早期に治療を開始することが重要である.

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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
心機能低下・心不全を合併する心房細動の治療ポイント

草野 研吾  岡山大学大学院医歯薬学総合研究科循環器内科 准教授

要旨
 以前は,心不全・心機能障害を合併した心房細動に対する治療は,ジギタリスを使った心拍数の調節(レートコントロール)が主流であった.最近ではさまざまな薬物・非薬物治療の進歩によって,難治性の心房細動の洞調律化(リズムコントロール)が可能になっており,専門医の中でも治療方針が異なってきている.現時点では抗凝固療法を行ったうえで,積極的な洞調律化を目指すかどうかは,患者の自覚症状や基礎心疾患の背景に合わせて選択されるべきであると考えられる.

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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
高齢者の心房細動の診療ポイント

高柳  寛  獨協医科大学越谷病院循環器内科 教授
酒井 良彦  獨協医科大学越谷病院循環器内科 准教授

要旨
 加齢とともに心房細動例は,合併症が急激に増加する.高齢者での治療の最終目標は,致命的な合併症を減らし,かつ個々の症例に応じた最良の治療を目指すことである(individualized therapy).発作性から持続性,永続性心房細動において塞栓症を予防し出血や心不全を起さないためには,細心の注意が必要である.非薬物治療の代表であるカテーテルアブレーションも,成功率と合併症の問題は残るが,確実な成績を上げており,治療の選択肢は拡大している.

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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
小児の心房細動

福原 淳示  日本大学医学部小児科学系小児科学分野
住友 直方  日本大学医学部小児科学系小児科学分野 准教授

要旨
 小児の心房細動(AF)はまれであり,ほとんどが先天性心疾患術後などの器質的心疾患に伴うものである.心疾患を合併しない特発性心房細動は小児では極めてまれな不整脈である.小児は房室伝導が良好なため,AF 時の心拍が比較的速くなりやすい傾向があり注意が必要である.治療は薬物治療が中心であるが,成人と同様にカテーテルアブレーションが有効な症例もある.

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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
心房粗動を合併したら

吉田健太郎  茨城県立中央病院循環器内科 医長
青沼 和隆  筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学循環器内科学 教授

要旨
 心房粗動は心房細動に合併することが多い(〜15%).薬物治療に抵抗性であり,カテーテルアブレーション治療が第1選択治療として位置づけられている.アブレーション治療と薬物治療を組み合わせた“ハイブリッド治療”の有効性が報告されている一方で,近年心房細動に対するカテーテルアブレーション治療(電気的肺静脈隔離術)が目覚ましい進歩を遂げ,治療選択の幅が広がった.洞調律維持を目指す場合には,心房粗動の合併が心房の進行したリモデリングを反映し,治療抵抗性であることを示す“bad sign”であることにも留意すべきである.

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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
徐脈を合併したら

西村 名美  順天堂大学医学部循環器内科
中里 祐二  順天堂大学医学部附属浦安病院循環器内科 教授

要旨
 心房細動治療に伴う徐脈は日常臨床でしばしば経験する.中高年以降の発作性心房細動では,しばしば潜在性,顕在性の洞不全を合併するため,発作予防・停止目的の抗不整脈薬や,発作時心拍コントロール目的の房室伝導抑制薬の使用は困難である.慢性心房細動では,房室ブロックの合併やジギタリス中毒などの薬物過剰投与が徐脈の原因となる.いずれの場合も,ペースメーカー植込みの適応を考慮して対処する必要がある.

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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
心房細動患者の全人的医療とは

笠貫  宏  早稲田大学理工学術院 教授

要旨
 心房細動はこの 10 年間,著しい進歩を遂げ,さらに日進月歩の過程にあり,その治療法選択においては患者との信頼関係に基づくインフォームドコンセントが不可欠である.さらに加齢とともに増加し,QOL 低下と血栓塞栓を惹起し,治療法が確立されていない心房細動においては,全人的治療が極めて重要である.全人的治療とは心房細動を有する患者として全人格をとらえ,包括的に診断・治療を行うことである.

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