要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 1/呼吸器1
慢性閉塞性肺疾患 改訂第2版


第1章 概念・定義と疫学
概念・定義

巽 浩一郎  千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学 教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することで生じた肺の炎症性疾患である.呼吸機能検査で正常に復すことのない気流閉塞を示す.気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に作用することにより起り,進行性である.臨床的には徐々に生じる体動時の呼吸困難や慢性の咳,痰を特徴とする.

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第1章 概念・定義と疫学
疫 学

植木  純   順天堂大学医療看護学部専門基礎内科学 教授
佐野恵美香   埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科
熱田  了   順天堂大学医学部呼吸器内科 准教授
十合 晋作   順天堂大学医学部呼吸器内科

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の有病率はスパイロメトリー検査を用いた大規模な疫学調査である PLATINO study,BOLD study,日本の NICE study では 10% 前後である.一方,診断されていない COPD の割合は極めて高く,世界的には 72〜93%,日本でも 91% を占める.日本の COPD 死亡数は 2009 年で 15,359 人,前年よりも若干の減少を示した.2009 年は死因の第 10 位,男性では第7位であった.在宅酸素療法(HOT)が必要な重症 COPD 患者数は,2009 年は約6万7千人と推測される.2004 年以降その増加の割合は減少しており,治療介入法の進歩により COPD の重症化が抑制されている可能性がある.
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第2章 病理・病態生理
病 理

青柴 和徹   東京女子医科大学大学院呼吸病態制御学 教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者ではタバコ煙などの有害物質の長期吸入により,肺のさまざまな領域に病変が生じている.中枢気道の気管支粘膜下腺の増大は喀痰症状,末梢気道の狭窄(リモデリング)と肺気腫は気流閉塞,肺血管病変は肺高血圧に対応した病変である.COPD 患者にみられる気流閉塞は,末梢気道の狭窄と肺気腫が複合して生じた結果である.これらの肺病変の発生には,タバコ煙などの組織傷害に起因した慢性炎症が重要な役割を果たしている.さらに,COPD の炎症は肺にとどまらずに全身に拡がるため,やせ,筋力低下,動脈硬化性疾患などの全身併存症の原因になる.

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第2章 病理・病態生理
病態生理

長内 和弘    金沢医科大学呼吸器内科 准教授
山谷 淳代    金沢医科大学呼吸器内科

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)肺では,肺胞組織の破壊による肺弾性収縮力の低下と末梢気道炎症による気道抵抗の増加のため,呼出性気流制限が起きる.このため,特に労作時において,呼吸器系の力学的平衡点に達する前に次の吸気が始まってしまい,呼吸数の増加とともに動的肺過膨張が進み,強い呼吸困難がもたらされる.また,肺胞毛細血管床のリモデリングは,換気/血流比の不均等分布をもたらし,低酸素血症の原因となる.

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第2章 病理・病態生理
病 因

久保 裕司  東北大学大学院医学系研究科先進感染症予防学講座 准教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の大きな病因の1つは喫煙であるが,すべての喫煙者が COPD を発症するわけではなく,遺伝的素因・性差・加齢などさまざまな内的因子が発症に関与している.COPD は,気腫病変と慢性気管支炎がさまざまな割合で混在し,病態の進行速度・病変部位・急性増悪の起しやすさの違いなどがあって,均一な疾患群ではない.それらの層別解析が内的因子の解明に必要である.

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第2章 病理・病態生理
発症機序

佐藤  匡   順天堂大学医学部呼吸器内科学講座
瀬山 邦明   順天堂大学医学部呼吸器内科学講座 専任准教授
要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)発症の中心的な機序は,喫煙などによる気道や肺の慢性的な炎症反応である.喫煙により肺において酸化ストレスが亢進し,遺伝的素因や老化因子で増幅された“異常な炎症反応”が惹起される.酸化ストレスは間接的に肺胞細胞のアポトーシス,肺でのプロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡の状態を誘導する.これらの相互作用により,肺胞構造のメンテナンス機構が破綻し,肺気腫に至ると考えられる.
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第3章 診 断
診 断

山谷 睦雄    東北大学大学院医学系研究科先進感染症予防学寄附講座 教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,500 万人を超える患者数が我が国で推定されている.しかし,呼吸機能検査の普及が遅れ,COPD として診療される患者数はいまだ少ない.喫煙高齢者における呼吸困難や咳・痰の特徴的症状をもとに,プライマリケア医による,質問表とフローチャートを用いた診断法や気管支拡張薬を用いた診断的治療も推奨されている.呼吸器専門医との連携により,COPD の確定診断がつけられることが望ましい.
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第3章 診 断
肺機能検査所見

藤本 圭作   信州大学医学部保健学科検査技術科学専攻生体情報検査学講座 教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断および病期の判定にスパイロメトリーは必須であり,気管支拡張薬吸入後の1秒率(FEV1/FVC)で判定される.また,肺過膨張の評価には機能的残気量(FRC)の測定が,ガス交換障害の評価には肺拡散能力(DLco)の測定が有用である.1秒量(FEV1)の可逆性およびピークフロー値の変動性も喘息との鑑別に有用であり,COPD の生理学的病態の把握や治療効果の判定には,強制オッシレーション法や動的肺過膨張の評価も有用と考えられる.

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第3章 診 断
画像所見

平井 豊博   京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学 講師

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診療において,診断だけでなく病変の程度の評価など画像検査の果たす役割は大きい.特に胸部 CT 検査は,機器や画像処理技術の進歩により,気腫性病変と気道病変による形態変化を同時にかつ定量的に評価することができ,両者の混在した COPD の病型分類や病態解析など臨床研究にも広く利用されている.今後,形態と機能とが融合した画像評価など,さらなる発展と臨床への応用が期待される分野である.

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第3章 診 断
鑑別診断

川山 智隆     久留米大学医学部内科学講座呼吸器・神経・膠原病内科部門 講師
中村 雅之    久留米大学医学部内科学講座呼吸器・神経・膠原病内科部門
平原 奈奈    久留米大学医学部内科学講座呼吸器・神経・膠原病内科部門
福島 徳子    久留米大学医学部内科学講座呼吸器・神経・膠原病内科部門
相澤 久道    久留米大学医学部内科学講座呼吸器・神経・膠原病内科部門 主任教授

要旨
 治療方針の決定や患者予後の推察を判断するうえで,慢性閉塞性肺疾患(COPD)とその他の慢性呼吸器疾患との鑑別は必須である.しかし,COPD は特徴的な臨床症状や画像所見が乏しく,多くの併存症を有し,しばしば複雑な病態を呈するために,確定診断に苦慮することがある.今回,COPD の鑑別において,臨床症状,生活歴,画像検査および肺機能検査所見からアプローチしている.特に,COPD との鑑別が困難とされる喘息との鑑別に,質問票の使用法について解説した.
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第4章 管理・治療
管理・治療

寺本 信嗣   国立病院機構東京病院呼吸器科 医長
  
要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は慢性,進行性であるため,その管理目標は,症状の改善,生活の質(QOL)の改善,増悪の予防と治療,疾患の進行抑制,全身併存症の予防と治療であり,その結果,生命予後の改善を図る.これを達成するため,COPD の病態の評価,危険因子の回避,安定期の管理,増悪期の管理について計画を立てる必要がある.その方策として,禁煙指導,薬物療法,呼吸リハビリテーション,酸素療法などがある.

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第4章 管理・治療
薬物治療(選択基準)

平田 一人  大阪市立大学大学院医学研究科呼吸器病態制御内科学 教授

要旨
 安定期慢性閉塞性肺疾患(COPD)の薬物療法の目的は,労作時呼吸困難などの自覚症状や運動能力を改善し,QOL を向上させ,増悪の頻度や重症化を予防することであり,さらに病状の進行を予防し,合併症を予防し死亡率を減少させることである.
 安定期 COPD の薬物療法は,病期(重症度)や症状に応じた段階的薬物療法が一般的であり,禁煙などと共に作用と副作用に注意しながら,長時間作用性気管支拡張薬を中心とする積極的な薬物療法の有用性が示されている.


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第4章 管理・治療
治療薬剤 1.気管支拡張薬

花岡 正幸   信州大学医学部内科学第一講座 准教授

要旨
 安定期慢性閉塞性肺疾患(COPD)の薬物療法の中心は気管支拡張薬であり,抗コリン薬,β2 刺激薬およびメチルキサンチンの3系統がある.近年相次いで行われた大規模臨床試験は,特に長時間作用性気管支拡張薬の有効性と忍容性を明らかにしてきた.早期から長時間作用性気管支拡張薬による介入を行い,単剤で効果不十分の場合は複数の薬剤を組み合わせることで,COPD の予後改善が期待できる.
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第4章 管理・治療
治療薬剤 2.ステロイド剤

室  繁郎    京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学 講師

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)における慢性炎症はステロイド反応性に乏しい.したがって,安定期における全身ステロイド剤の長期投与は,利益効果比から,推奨されない.吸入ステロイド剤の定期吸入は,重症以上で増悪回数が多い症例において,増悪の回数を減らし QOL 悪化速度を抑制するとされている.一方,増悪期の全身ステロイド投与は入院・外来治療いずれにおいても,回復時間を短縮し,肺機能をより早く回復することが分かっている.
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第4章 管理・治療
酸素療法・在宅酸素療法

宮本 顕二   北海道大学大学院保健科学研究院機能回復学分野 教授

要旨
 酸素療法は低酸素血症の是正を通して組織への酸素供給を改善させるだけでなく,低酸素血症により引き起された換気亢進や心拍数増加を抑制し,増加した呼吸仕事量や心仕事量を軽減させる.さらに,低酸素性肺血管攣縮を改善し,肺動脈圧を低下させ,右心負荷を軽減させる.長期酸素療法は患者の生命予後を改善するだけでなく,運動耐容能の向上,睡眠や精神障害の改善,肺高血圧の進行の予防,入院の回数や期間の短縮などをもたらす.

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第4章 管理・治療
呼吸リハビリテーション

塩谷 隆信  秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻理学療法学講座 教授
佐竹 將宏  秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻理学療法学講座 准教授
玉木  彰  京都大学医学部大学院医学研究科人間科学専攻理学療法学講座 准教授
菅原 慶勇  市立秋田総合病院リハビリテーション科 副技師長
高橋 仁美  市立秋田総合病院リハビリテーション科 技師長
本間 光信  市立秋田総合病院呼吸器内科 中央診療部長

要旨
 呼吸リハビリテーション(呼吸リハビリ)は,呼吸器疾患患者の日常生活を支援する新しい医療システムである.この中で,包括的呼吸リハビリは,多専門職の学際的医療チームにより,呼吸理学療法,運動療法,栄養療法,患者教育などの種目を中心にして展開される.呼吸リハビリは,慢性閉塞性肺疾患(COPD)において,呼吸困難の軽減,運動耐容の改善,健康関連 QOL および日常生活活動(ADL)の向上に関して,その臨床的な有用性が科学的エビデンスとして確立されている.
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第4章 管理・治療
栄養療法

吉川 雅則    奈良県立医科大学内科学第二講座 准教授
友田 恒一      奈良県立医科大学内科学第二講座 講師
木村  弘      奈良県立医科大学内科学第二講座 教授

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)において栄養障害は高率に合併し,病態や予後と密接に関連する.栄養障害の原因として代謝亢進に基づくエネルギーインバランス,全身性炎症,内分泌ホルモンの分泌動態の変化などが複合的に関与しており,これらのメカニズムに対する栄養管理が必要とされる.栄養治療においては除脂肪体重(LBM)の保持や増大に主眼をおいたストラテジーを確立すべきであり,タンパク同化作用とともに全身性炎症の制御も重要となる.

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第4章 管理・治療
外科療法

千原 幸司   静岡市立静岡病院呼吸器外科 科長

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する外科治療として,@ 巨大気腫性肺■胞症に対する■胞切除,A 肺移植,B 肺気腫に対する肺気量減量術(LVRS)が有効であることが確立している.LVRS 後の効果は経年的に減少するものの,生存率向上と QOL の改善をもたらすので,わずかな動作で息苦しいストレスにさらされている重症肺気腫例の治療選択肢の1つとして検討すべきである.
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第4章 管理・治療
増悪期の管理と予防

石原 英樹    大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター呼吸器内科 主任部長

要旨
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪時には,重症度の評価と増悪因子の診断を行い治療を始める必要がある.種々の薬物療法で改善がなく,呼吸不全状態が続く場合は,酸素療法・人工呼吸療法を考慮する.特に,呼吸性アシドーシスを伴う高二酸化炭素血症を認める場合は,非侵襲的陽圧呼吸(NPPV)などの換気補助療法の適応を検討する必要がある.また,増悪の予防法や増悪時の症状と対処法についての患者教育も重要である.

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第4章 管理・治療
生命予後と臨床経過

西村 浩一    朝日大学歯学部附属村上記念病院呼吸器内科 教授

要旨
 我々が実施した軽症から重症まで幅広い重症度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)を対象とした3つの研究では,5年生存率は平均して 80% 弱であった.従来1秒量(FEV1)が最も優れた死亡予測因子(mortality predictor)であると考えられていたが,現在では BODE index などの複合指標(composite marker)などがより優れた mortality predictor であると理解されている.

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第4章 管理・治療
禁煙の意義と禁煙治療

高橋 裕子   奈良女子大学保健管理センター 教授

要旨
 COPD での喫煙有害性は,言うまでもなく呼吸器科診療においても,禁煙治療は欠かすことのできない重要な戦略である.2000 年には米国において禁煙指導ガイドラインが制定された.日本国内では 1999 年からニコチンパッチの使用が認可され,2008 年からはニコチンパッチの一部市販化がなされ,内服薬バレニクリンも使用が認可された.禁煙保険診療やメール支援など,禁煙治療体制も急速に整いつつある.

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第4章 管理・治療
医療費

泉  孝英   京都大学名誉教授

要旨
 我が国における慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者数は 173,000(男:114,000,女:60,000)人(2008 年)と推計されている.死亡者数は 13,134(男:10,724,女 2,410)人(2008 年)である.年間医療費は 1,371(外来:716,入院:655)億円(2007 年)である.我が国では,1980 年代以降の禁煙運動の成果として新発症例は減少し,人口の高齢化とともに,COPD は,75 歳以上が患者数の 52.6%,死亡者数の 84.3%,医療費の 62.4% を占める長寿(後期高齢)者の疾患となっている.
 今後も禁煙運動の徹底化によって,患者数の減少が期待される状況である.

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第5章 ガイドライン
ガイドライン

永井 厚志   東京女子医科大学第一内科学講座 主任教授

要旨
 日本呼吸器学会から第3版として上梓された『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン』では,定義:病因としてタバコ煙の文言を定義の冒頭に明記し,気腫型と非気腫型の亜型分類を提示,病期と重症度:病期(気流閉塞の程度)と重症度(病状の程度)は異なることを記載,維持管理:呼吸機能障害と全身状態を加味し判定した重症度に基づく治療法の選択,喘息病態を合併した COPD:喘息治療を優先,医療連携:病診の役割と連携のあり方を明示,などが主たる改訂点である.

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