要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 82/神経3
アルツハイマー型認知症 改訂第2版


第1章 概念・定義・疫学
認知症・アルツハイマー病の概念と定義

朝田 隆   筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学 教授

要旨
 認知症とは,「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が,慢性的に減退・消失することで日常生活・社会生活を営めない状態」であり,後天的原因により生じる知能障害である点で,知的障害とは異なる.本稿ではまず認知症の概念と定義を,次に認知症診断の手順を述べた.さらにその歴史的な疾患概念の経緯も踏まえて,アルツハイマー病(AD)の概念を紹介した.

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第1章 概念・定義・疫学
疫 学

赤沼 恭子   東北大学CYRIC高齢者高次脳医学研究部門 非常勤講師
目黒 謙一   東北大学CYRIC高齢者高次脳医学研究部門 教授

要旨
 2000年以降の認知症の有病率に関する報告では,海外では,Indiaの2.4%からKoreaの8.2%,我が国では,3.8%から16.4%の有病率であった(65歳以上).継続的に同地域の有病率を調査した報告では,年齢分布を調整してもなお,有病率は近年増加傾向にあった.日本における認知症の原因疾患は,1980年代には血管性認知症(VaD)がアルツハイマー型認知症(AD 型認知症)よりも多い割合を示していたが,1990年代には逆転し現在 AD 型認知症が最も多くなっている.

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第2章 病因・病態生理
病 理

秋山 治彦   東京都医学総合研究所認知症プロジェクト 参事研究員

要旨
 アルツハイマー病脳における基本的な病理変化は,神経細胞の変性消失とそれに伴う大脳萎縮,老人斑の多発,神経原線維変化の多発,の3つである.老人斑はアミロイドβタンパクの蓄積に,神経突起変性やグリア細胞活性化に伴う慢性炎症反応が加わった病変である.神経原線維変化はタウタンパクの異常凝集・リン酸化,線維形成により形成される封入体である.これらの病変は疾患の進行とともに,神経解剖学に従って脳内を拡がる.

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第2章 病因・病態生理
病態発症機構

佐藤  亘     理化学研究所脳科学総合研究センター神経蛋白制御研究チーム
橋本 翔子     理化学研究所脳科学総合研究センター神経蛋白制御研究チーム
一色 隼人     理化学研究所脳科学総合研究センター神経蛋白制御研究チーム
西道 隆臣     理化学研究所脳科学総合研究センター神経蛋白制御研究チーム

要旨
 アルツハイマー病(AD)の病態発症機構としては,アミロイドβタンパク(Aβ)の産生上昇,あるいは分解不全によるAβ蓄積を開始点とするアミロイドカスケードが支持されている.Aβ蓄積の下流では,タウ凝集が神経細胞死に影響すると考えられるが,いまだ不明な点が多い.本稿では,Aβ蓄積のメカニズムとタウ凝集から神経細胞死に至る過程について解説する.

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第2章 病因・病態生理
危険因子-遺伝

池内 健   新潟大学脳研究所遺伝子機能解析学分野 教授

要旨
 アルツハイマー病(AD)の大半を占める孤発性ADの最大の遺伝的リスクはAPOE多型であり,本邦AD患者の約半数はAPOEε4陽性である.次世代シーケンサー(NGS)を用いた解析により,頻度は低いがリスク効果が高いミスセンス多型が,TREM2,PDL3に同定された.一方,AD発症に防御的に作用するAPPp.A673T多型が同定された.常染色体優性遺伝性ADの原因遺伝子として,APP,PSEN1/2が知られており,変異保因者を対象とした発症前・予防介入治験が米国を中心に始まっている.

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第2章 病因・病態生理
危険因子-環境

大八木保政  九州大学大学院医学研究院神経治療学寄附講座 教授

要旨
 アルツハイマー病(AD)における環境因子には,促進因子と抑制因子が知られている.最大の発症促進因子は老化だが,一般的に,脳虚血,高血圧,糖尿病,喫煙,頭部外傷などもあり,発症抑制因子として,認知予備力,魚・野菜主体の食事,運動習慣,認知増進などが知られている.特に最近,糖尿病によるADの発症促進が注目されている.したがって,糖尿病予防と共通する食生活や運動習慣がADの発症抑制につながると考えられる.

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第3章 診 断
臨床症状と新たな診断基準

羽生 春夫    東京医科大学高齢診療科 教授

要旨
 アルツハイマー病(AD)の診断基準としては,従来NINCDS-ADRDAやDSM-Wが広く使われてきたが,これらの基本となっているのは除外診断である.最近の研究成果をもとに,AD に特有な脳画像や脳脊髄液検査所見を組み入れた新たな診断基準が提唱されている.本稿では,始めに AD の臨床症状について述べ,次いで最近発表された NIA-AA の診断基準や改訂された DSM-5 の概要について解説する.

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第3章 診 断
認知症評価スケールとスクリーニング

山口 修平    島根大学医学部内科学講座内科学第三 教授

要旨
 認知症の早期発見のメリットは大きいが,まだ十分とは言えない状況である.現在普及している認知機能評価スケールには多くの種類があるが,認知症の種類,時期,重症度などにより検査の感度,特異度に差があり,また,実施に要する時間も重要な要素である.目的に応じた検査を選んで使用することが重要である.我々は iPad版認知機能検査ソフト(CADi2)を開発したので紹介した.これは特に,健診などの多数の対象者をスクリーニングする際に有用である.

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第3章 診 断
軽度認知障害(MCI),発症前アルツハイマー病(PCAD)

石井 賢二   東京都健康長寿医療センター研究所神経画像研究チーム 研究部長

要旨
 アルツハイマー病(AD)による認知症発症前段階として,軽度認知障害(MCI),発症前AD(PCAD)の概念が提唱されている.MCIはエピソード記憶障害を特徴とするが,例外的な症例もあり,正確な背景病理の推定にはバイオマーカーによる裏付けが望ましい.PCADは認知機能正常だが,ADに関連するバイオマーカーのみが陽性の状態である.新しい診断基準 NIA-AA 2011 による診断とその問題点を概説する.

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第3章 診 断
認知症の画像診断

松田 博史      国立精神・神経医療研究センター脳病態統合イメージングセンター センター長

要旨
 認知症における画像診断は早期診断および鑑別診断における補助的検査としてその重要性が増している.特にMRIは,放射線被曝もなく安価で容易に施行可能なため,有用性が高い.しかし,MRIから得られる所見は疾患特異性が乏しく,脳血流SPECTとの併用が薦められる.アルツハイマー病とレビー小体型認知症の鑑別に,最近,ドパミントランスポーターイメージングが保険適応となり,より正確な鑑別診断が可能となっている.

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第3章 診 断
バイオマーカー

東海林幹夫   弘前大学大学院医学研究科脳神経内科学講座 教授

要旨
 アルツハイマー病(AD)のバイオマーカーとして,脳脊髄液(CSF)アミロイドβタンパク(Aβ)とタウ(tau)の測定は多くの大規模多施設研究,ADNI や DIAN などの最近の共同体研究によって世界的なエビデンスを蓄積している.中でも42個のアミノ酸から成るAβ42の低下は,ADの早期診断に最も有用なマーカーであり,CSFの総タウ(t-tau)増加と組み合わせることにより,軽度認知障害(MCI)からAD発症予測も可能である.

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第3章 診 断
新しい画像診断-アミロイド・タウイメージング-

丹羽 文俊   放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター 分子神経イメージング研究プログラム
島田  斉   放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター 分子神経イメージング研究プログラム
樋口 真人   放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター 分子神経イメージング研究プログラム チームリーダー
須原 哲也   放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター 分子神経イメージング研究プログラム プログラムリーダー

要旨
 アルツハイマー型認知症(AD 型認知症)を始めとする変性性認知症の診断や重症度指標には,脳内に蓄積するアミロイドやタウなどの異常タンパクを生体脳で評価する検査法が求められている.ポジトロン断層撮影(PET)によるアミロイドイメージングは,AD 型認知症の早期診断に有用とされ普及しつつあるが,タウイメージングも認知症の重症度評価,病態解析において有用な可能性があり,おおいに期待されている.

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第3章 診 断
鑑別疾患

山ア 貴史    秋田県立脳血管研究センター神経内科研究部
長田  乾   秋田県立脳血管研究センター神経内科研究部 部長

要旨
 アルツハイマー病(AD)では,神経原線維変化(NFT)の蓄積分布は大脳皮質の萎縮性変化の分布とおおむね一致するが,臨床像は,typical type(AD-memory),logopenic 進行性失語(LPA;AD-language),視空間認知障害を中核とした後部皮質萎縮症(PCA;AD-visuospatial)に分類され,萎縮性変化の分布により typical AD type と limbic-predominant AD type,hippocampal-sparing AD type に分類される.臨床診断されるAD患者では単一の病態病理であることは少なく,ほかの変性疾患や脳血管障害の病態病理の併存が多い.併存する病態病理に対応する臨床像のすべてが明解なわけではなく,ADの多様な臨床像を柔軟にとらえて,臨床診断して治療にあたることが重要である.

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第4章 治療とケア
包括医療・連携

遠藤 英俊    国立長寿医療研究センター 長寿医療研修センター長

要旨
 認知症の治療は薬物療法だけではない.当然ながら,運動や食事など総合的な生活指導や非薬物療法も含まれている.すなわち,認知症治療のポイントは包括医療にあると言っても過言ではない.認知症医療の主な目標は,生活機能の維持,周辺症状の緩和,介護負担の軽減,の3点である.また,包括医療の実践には地域の資源と連携することが重要であり,認知症の人が安心して暮らせる街には,地域ケアパスや地域ケア会議などを中心に,地域連携が進展することが必要である.

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第4章 治療とケア
薬物療法-中核症状

田平  武   順天堂大学大学院医学研究科認知症診断・予防・治療学 客員教授

要旨
 アルツハイマー型認知症の中核症状に対する治療は,コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)のドネペジル,ガランタミン,リバスチグミンパッチのいずれかをまず選択する.重度になるとドネペジルのみが適応となる.中等症以上でグルタミン酸受容体拮抗薬のメマンチンを単独,またはChEIと併用する.ChEIはそれぞれ長所短所があり,症状・ステージ・症例により使い分ける.効果が見られない場合,副作用が現れた場合,他剤に切り替える.

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第4章 治療とケア
薬物療法-BPSD

新井 平伊     順天堂大学大学院医学研究科精神行動科学 教授 順天堂越谷病院 院長代行

要旨
 認知症症状は,中核症状と認知症の行動・心理症状(BPSD)に大別される.QOL の確保という観点からは,BPSD治療のほうが中核症状治療よりも重要である.それぞれの症例において,まずは治療対象となる症状を整理すること,そのうえで非薬物的アプローチも組み込んだ包括的医療を実践すること,そして薬物選択の実際,さらには入院を含めた治療アルゴリズムについて概説した.

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第4章 治療とケア
薬物療法-漢方・サプリメント

金谷 潔史     東京医科大学八王子医療センター高齢診療科 准教授

要旨
 現在,我が国において認知症は460万人,軽度認知障害(MCI)は400万人いると言われているが,現状使用できる薬剤は,アルツハイマー型認知症(AD 型認知症)を保険適応病名とした4種のみである.いずれも発病後の症状進行を遅くするのみで,疾患そのものを治すことはできず,予防投与も認められていない.近年認知症に対して漢方薬やサプリメントが注目され,エビデンスも蓄積されてきている.本稿では,認知症に有効な漢方薬とサプリメントについて,医学的根拠がある程度認められているものを紹介する.

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第4章 治療とケア
非薬物療法

谷向  知    愛媛大学大学院医学系研究科地域・高齢看護学講座 教授
柴  珠実    愛媛大学大学院医学系研究科臨床看護学講座 講師
梶田  賢    愛媛大学大学院医学系研究科臨床看護学講座

要旨
 近年の認知症の各診断基準や施策においては,生活障害に目を向けたかかわりが重要視されている.その中で,『認知症疾患治療ガイドライン2010』では,医学的アプローチである薬物療法を行う前に適切なケアアプローチ,リハビリテーション,つまり非薬物療法を行う必要がうたわれている.非薬物療法は科学的根拠に乏しいと言われるが,実臨床で効果を実感することは少なくない.ただ,闇雲に,画一的に介入を行うのではなく,本人が参加して楽しいと実感できることが,最も重要である.
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第4章 治療とケア
佐賀大学医学部内科学講座神経内科部門 教授(免疫療法を中心に)

原  英夫     神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野 講師

要旨
 アルツハイマー型認知症(AD 型認知症)の病態修飾治療法として,アミロイドβタンパク(Aβ)凝集阻害薬,セクレターゼ阻害薬,Aβ免疫療法などが開発されたが,いずれも臨床試験は中止となった.Aβの沈着は,preclinical AD〜軽度認知障害(MCI)の時期に進行しており,ADの発症した段階で治療を行っても,病理学的進行を阻止できない可能性がある.将来的には,バイオマーカーを用いた早期診断と,正確な発症予測因子を規定した診断基準に基づく早期治療が有効であると考えられる.

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第4章 治療とケア
経過・予後

松原 悦朗      大分大学医学部神経内科学講座 教授

要旨
 アルツハイマー型認知症は,海馬・側頭葉内側面障害による物忘れと記銘力障害の出現,次いで側頭・頭頂葉障害による語健忘や視空間性障害,失行と側頭葉外側面障害による意味記憶障害が現れ,最終的に前頭葉障害による自発性低下と病変の進行に伴う主要症候が観察され,自立した社会・日常生活能力を喪失する.根本的疾患修飾薬はいまだ開発途上のため,アルツハイマー型認知症自体が死亡の確実な危険因子となり,予後を不良としている.

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第4章 治療とケア
社会資源

三宅 貴夫    認知症の人と家族の会 顧問

要旨
 進行性疾患であるアルツハイマー型認知症の人と介護家族への社会的支援は欠かせない.我が国のこうした社会資源は,医療,介護,生活保障,生命の安全,人権擁護など多種多様な制度や支援がある.こうした社会資源が,アルツハイマー型認知症の進行段階に応じて本人と介護家族が生活する場で提供され,必要に応じて適切に利用される必要がある.

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第4章 治療とケア
医療経済,施策

難波 吉雄     社会保険診療報酬支払基金 審議役

要旨
 人口の高齢化に伴い,認知症に対する施策の重要性は増している.このような状況の中,我が国では,2013年度より,認知症標準ケアパスの作成普及,早期診断・早期対応など7つの視点に沿って,「認知症施策推進5か年計画」の取り組みが進められている.一方,認知症の社会的費用,薬剤経済学など,さまざま医療経済学的な研究も実施されているが,その研究成果について考える場合,認知症の特性をよく理解しておくことが必須である.

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第5章 ガイドライン
治療ガイドライン

中島 健二     鳥取大学医学部医学科神経医科学講座脳神経内科学分野 教授

要旨
 2002年に発行された『痴呆疾患治療ガイドライン2002』を改訂し,2010年に『認知症疾患治療ガイドライン2010』が発行された.その後に示された新知見も若干追加して,『認知症疾患治療ガイドライン2010コンパクト版2012』が作成された.さらに,『認知症疾患治療ガイドライン2010追補版』も公開されている.今後,再改訂も予定され,認知症疾患治療ガシドラインのいっそうの充実が期待される.

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座談会
アルツハイマー型認知症
  -治験結果から今後を展望する-
大阪市立大学        森   啓
東京大学           岩坪  威
順天堂大学          田平  武(司会)

 座談会の内容
 ・治験結果
  ・免疫療法
  ・早期診断 など

 岩坪先生          田平先生      森先生



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