要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 23/腎2
IgA腎症



第1章 IgA腎症の概念・定義
概念・定義

堀越  哲  順天堂大学医学部腎臓内科学講座 助教授

要旨
 IgA腎症 は,IgAが他の免疫グロブリンに比較して優位に,糸球体メサンギウム領域にびまん性に沈着する原発性糸球体腎炎として認識されている.しかしながら,糸球体にIgAが優位に沈着する病態は多彩であり,腎生検組織に糸球体メサンギウム領域へのIgA沈着を認める多くの二次性疾患が報告されているため,その鑑別が必要である.また,1995年WHOによる糸球体疾患の病理形態学的分類では,全身性疾患における一糸球体腎炎であるという概念からびまん性糸球体腎炎とは別に分類されている.

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第1章 IgA腎症の概念・定義
疫 学

遠藤 正之  東海大学医学部腎内分泌代謝内科 助教授

要旨
 IgA腎症は10歳台での発症が最も多く,やや男性に多い.健診で尿所見異常で発見されることが多いが,肉眼的血尿で見つかることもある.発症20年で約40%が腎不全へ進行するが,60%は自然寛解または腎機能正常で推移する.全国調査の解析から腎機能悪化のリスク要因は,初診時の血清クレアチニン上昇,高血圧,高度タンパク尿,腎生検高度組織障害である.臨床所見をスコア化してその後の透析導入リスクの計算が可能である.

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第2章 IgA腎症の病理・病態生理
病 理

城  謙輔  独立行政法人国立病院機構千葉東病院研究センター・免疫病理研究部 部長

要旨
 IgA腎症は病理形態学的に,糸球体メサンギウム基質の拡大,ときに半球状沈着物が観察され,種々の程度のメサンギウム細胞増殖を伴い,蛍光抗体法でメサンギウム領域にIgA優勢の沈着を認める疾患を言う.IgA腎症の診断基準は,必発所見として持続的顕微鏡的血尿,頻発所見として血清IgA値の上昇が挙げられるが,腎生検により確定診断がなされる.治療方針を立てるにあたり,IgA腎症の活動性病変と慢性病変に関する定量的な把握が必要となる.現在は,厚労省・腎臓学会合同による『組織学的予後分類(2002)』を基準としている.

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第2章 IgA腎症の病理・病態生理
病態生理

宮崎 正信 長崎大学医学部歯学部附属病院第二内科 助教授
河野  茂  長崎大学医学部歯学部附属病院第二内科 教授

要旨
 IgA腎症は,IgAのメサンギウムへの沈着とメサンギウム細胞の増殖が特徴的である.これを病態の面から検討すると,IgA分子の異常,IgA産生亢進,糸球体への沈着,IgA沈着後のメサンギウム細胞の増殖および細胞外マトリックスの増生の各段階について検討する必要がある.これらの異常はリンパ球など全身性の異常であり,IgA腎症はIgAに関する全身的な異常が腎臓特異的に表れてきていると言える.

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第2章 IgA腎症の病理・病態生理
病 因

比企 能之  藤田保健衛生大学腎内科学 助教授

要旨
 本症の成因をIgAの糸球体沈着という現象を中心に論ずる.本症の責任抗原として糸球体沈着が観察された細菌菌体成分を紹介する.また,IgA側因子として最近注目されているヒンジ部糖鎖不全による糸球体沈着の機序を挙げた.さらに,IgA1の生理活性,メサンギウム細胞上のIgA1受容体を紹介し,組織障害惹起の機序を論じた.また,IgA1ヒンジ部糖鎖の生成,その糖鎖不全発現機序,その産生臓器を推論した.最後に本症の遺伝的背景に言及した.

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第3章 IgA腎症の診断
診 断

柏原 直樹  川崎医科大学腎臓内科 教授
佐々木 環  川崎医科大学腎臓内科 助教授
駒井 則夫  川崎医科大学腎臓内科 講師

要旨
 IgA 腎症の診断は腎生検によって確定される.無症候性の検尿異常で発見されることが大半である.持続的顕微鏡的血尿は必発で,間欠的または持続的タンパク尿,肉眼的血尿を呈することもある.肉眼的血尿は急性上気道感染に併発することが多い.半数の患者に血清 IgA 値 315mg/dl 以上の高値を認める.無症候性の軽微な検尿異常を軽視しないことが大切である.

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第3章 IgA腎症の診断
検査所見

杉浦  章   東北大学医学部附属病院腎・高血圧・内分泌科
佐藤  博   東北大学医学部附属病院腎・高血圧・内分泌科 講師

要旨
 IgA 腎症において検査所見は活動性および腎障害の進展の程度を評価する際に有用である.初期には血尿のみであるが,病期の進行とともにタンパク尿が出現,増加する.また,腎炎の活動性を反映して血尿,タンパク尿は増悪する.予後不良因子として高血圧,中等度以上のタンパク尿の持続,初診時の腎機能障害などが挙げられる1).種々の検査所見を総合的に判断し,腎炎の活動性および腎障害の進展の程度に応じた適切な治療が必要とされる.

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第3章 IgA腎症の診断
鑑別診断

小林 隆彦  東京医科歯科大学腎臓内科
寺田 典生  東京医科歯科大学腎臓内科 助教授

要旨
 IgA 腎症は,Chance proteinuria/hematuria にて発見されることが多いため血尿の鑑別診断がまず必要となる.そのうえで,確定診断として腎生検が実施されるが,紫斑病性腎炎,肝性糸球体硬化症,ループス腎炎はメサンギウム細胞に IgA の沈着を来たすため組織学的に区別することが困難であり,他の臨床症状や検査所見により鑑別診断する必要がある.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
生活指導・運動

内田 啓子  東京女子医科大学第四内科
鈴木 啓子  東京女子医科大学第四内科

要旨
 IgA 腎症は慢性疾患であり,治療,観察経過も長くなる.生活指導は薬物治療や食事療法とともに重要な治療の柱である.すでに『IgA 腎症診療指針』,『腎疾患の生活指導・食事療法のガイドライン』が示されており,それらを有効に利用することで,日々の診療に役立て,患者にとって有用な生活指導ができるようにしたい.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
食事療法

吉村吾志夫  昭和大学藤が丘病院腎臓内科 助教授
原  恭子   昭和大学藤が丘病院腎臓内科

要旨
 IgA 腎症の食事療法は特に進行が予測される予後比較的不良群および予後不良群に対して行う必要があり,食塩7〜8g/日(場合によっては7g/日以下),タンパク 0.6〜0.9g/標準体重 kg/日,エネルギー 30〜35kcal/標準体重 kg/日の適用が推奨される.さらに,0.5g/標準体重 kg/日以下の厳しいタンパク制限食の実施は末期腎不全に陥った症例においても極めて良好な透析導入遅延効果を示す.治療用特殊食品の使用や自宅での蓄尿からの栄養評価の患者へのフィードバックや医師・栄養士の継続的な食事指導が食事療法の実践に必要である.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
薬物療法・選択基準(総論)

川村 哲也  東京慈恵会医科大学附属第三病院内科学(腎臓・高血圧)助教授

要旨
 IgA 腎症に対する薬物療法の基本は,個々の患者の病態に適合した薬物を選択することである.Ccr 70ml/分以上かつ尿タンパク1〜2g/日で,腎生検にて急性炎症所見が主体の症例が副腎皮質ステロイド療法の良い適応となる.一方,慢性病変を主体とし緩徐に進行する症例にはレニン・アンジオテンシン系阻害薬やフィシュオイルによる薬物療法が選択される.すでに腎機能が中等度以上に低下し慢性硬化病変が主体をなす予後不良群ではステロイド療法のみでは長期的な腎機能保持は期待できず,その腎機能予後を改善しうる有効な治療法の開発が望まれる.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
副腎皮質ステロイド

成田 一衛  新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻 助教授
下条 文武  新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻 教授

要旨
 副腎皮質ステロイドは,抗炎症・免疫抑制作用に加えて,主に急性期あるいは発症初期のメサンギウム細胞増殖および形質転換を抑制する.IgA 腎症の治療薬として,副腎皮質ステロイド剤は単独での有効性はほぼ確立されている.免疫抑制薬,抗凝固薬,抗血小板薬,レニン・アンジオテンシン系阻害薬など他の薬剤,および扁桃摘出術との併用も有効である.ステロイド治療の有効性は,中等度以上のタンパク尿を呈し,発症早期の症例においてより確実である.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
ACE 阻害薬・ARB

白井小百合 聖マリアンナ医科大学内科学腎臓・高血圧内科
木村健二郎 聖マリアンナ医科大学内科学腎臓・高血圧内科 教授 

要旨
 IgA 腎症の治療として,糸球体硬化への進展を抑制するために,糸球体毛細血管に対する後負荷を軽減し糸球体内圧を低下させるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)が有効である.これらの薬剤の腎保護効果は,メサンギウム細胞や上皮細胞への直接作用によるところも示されている.ACE 遺伝子多型のうち,DD 型を有する患者では血清の ACE 活性が高く,ACE 阻害薬や ARB が有効な治療手段となる可能性がある.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
抗血小板薬

武曾 恵理  (財)田附興風会医学研究所北野病院腎臓内科 部長

要旨
 IgA 腎症は免疫機序とともに,局所で凝集,活性化した血小板による増殖促進,凝固・線溶異常,血管透過性亢進が組織障害に重要な役割を果たす.我が国では,抗血小板薬が安全性,有効性の検証がなされ,本症に使用されてきた.小規模な検討ながら本薬単剤でも分節性活動性病変の少ない軽症例には一定の組織進展抑制効果が示されている.しかし,大規模臨床試験が十分なされたとは言えず,現在進行中の検証の結果が期待される.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
抗凝固療法

柴田 孝則  昭和大学医学部腎臓内科 助教授
向井 一光  昭和大学医学部腎臓内科

要旨
 IgA 腎症の発症には免疫学的機序が重要であるが,その進展・増悪には糸球体内血液凝固機転が関与していると考えられる.IgA 腎症において抗凝固療法の適応となるのは,腎生検の病理組織所見で半月体形成,ボウマンDとの癒着,糸球体の硬化病変の目立つものである.薬剤としては,ヘパリンあるいはワルファリンが用いられる.抗凝固薬は現状では他の薬剤との併用療法として用いられることがほとんどで,単独治療の報告がなく,その治療効果に関しては十分なエビデンスは得られていない.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
魚 油(fish oil)

三浦 直人  愛知医科大学医学部腎臓・膠原病内科
今井 裕一  愛知医科大学医学部腎臓・膠原病内科 教授

要旨
 @IgA 腎症患者におけるメタアナリシスの結果,魚油(EPA+DHA)は腎機能保護作用を有していないことが分かった.A高容量 EPA+DHA 群と低容量 EPA+DHA(従来量)群のコントロール試験でも両群に有意差は得られていない.BEPA は,保険診療での適応疾患に IgA 腎症は含まれていない.しかし,動脈硬化性病変,血栓防止については明らかに薬効があり,健康補助食品としての意義はある.C最終的には,EPA の多く含まれている魚を食事で多く摂取するか,EPA+DHA をサプリメントとして摂取するかは,患者自身の嗜好の問題になる.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
クレメジン療法の目指すところ

佐中  孜  東京女子医科大学附属第二病院内科 教授
西村 英樹 東京女子医科大学附属第二病院内科
米田 雅美 東京女子医科大学附属第二病院内科
田中 俊久 東京女子医科大学附属第二病院内科
内藤  隆  東京女子医科大学附属第二病院内科
樋口千恵子 東京女子医科大学附属第二病院内科 講師

要旨
 腎不全の進行因子にはさまざまなものが挙げられ,中でも腎機能低下によって体内に蓄積する尿毒症毒素(ウレミックトキシン)の重要性が指摘されている.これら腎毒性物質の代表としてインドキシル硫酸が注目されており,クレメジンはこれを効率よく排除することで知られている. このような尿毒症毒素は,慢性腎不全の原疾患を問わず腎機能が悪化すれば体内に増加してくるわけで,IgA 腎症などの慢性糸球体腎炎も例外ではないと考えられる.本稿では,慢性糸球体腎炎による慢性腎不全にについての筆者らの大規模臨床研究が参考となると考えるので,その成績について紹介する.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
扁桃摘出

堀田  修  仙台社会保険病院腎センター 主任部長

要旨
 IgA 腎症に対する扁桃摘出(扁摘)による腎機能保持効果は期待できないと考えられてきたが,早期の段階における IgA 腎症においては扁摘により長期予後の改善が期待できる可能性が最近になり示された.また,扁摘とステロイドパルス療法の併用により比較的早期の段階の IgA 腎症では高率に寛解が得られることが次第に明らかになり,我が国の IgA 腎症治療は腎症の進行を遅らせるという旧来の治療コンセプトから比較的早期の段階で積極的に治療介入し腎炎の治癒を目指すという治療コンセプトに変わりつつある.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
経過・予後

孫  大輔  東京大学大学院医学系研究科腎臓内分泌内科
南学 正臣 東京大学大学院医学系研究科腎臓内分泌内科

要旨
 IgA 腎症は 10 年で 15〜20% の患者が末期腎不全に至る原発性糸球体腎炎である.その予後を予測する臨床的な因子は,初診時の血清クレアチニン高値,タンパク尿,高血圧である.また,腎生検組織における予後予測因子は,広範な糸球体硬化と尿細管間質障害である.肉眼的血尿を繰り返すのみの患者の予後は良好である.IgA 腎症患者において進行性腎障害を予防するためには,高血圧のコントロールとともにタンパク尿の寛解が重要である.

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第4章 IgA腎症の管理と治療
IgA腎症と医療経済

柘植 俊直  順天堂大学医学部腎臓内科学講座
富野康日己 順天堂大学医学部腎臓内科学講座 教授

要旨
 我が国の医療はその制度も含めて,世界でもトップクラスの水準にある.しかしながらその一方で,年々増加する国民医療費は大きな社会問題となっている.IgA 腎症は若年で発症し,30〜40% の患者が末期腎不全に陥る疾患である.若くして透析治療を行わざるをえなくなった場合の経済的・社会的負担は大きい.この項では IgA 腎症における医療経済上の問題について,透析医療を中心に解説する.

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第5章 IgA腎症治療ガイドライン
IgA腎症治療ガイドライン

鈴木  仁  順天堂大学医学部腎臓内科学講座
川村 哲也 東京慈恵会医科大学附属第三病院内科学(腎臓・高血圧)助教授
富野康日己 順天堂大学医学部腎臓内科学講座 教授


要旨
 1995 年に『IgA 腎症診療指針』初版が提唱されて以来,厚生労働省の進行性腎障害に関する調査研究班を中心に,全国予後調査や多施設共同研究がなされ,集積されたエビデンスをもとに『IgA 腎症診療指針[第2版]』が刊行され,日常の診療に広く活用されている.ここに,我が国における IgA 腎症の治療ガイドラインを紹介する.

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