要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 24/血液3
骨髄異形成症候群


第1章 慢性骨髄増殖性疾患の概念・定義と疫学
概念・定義

陣内 逸郎 埼玉医科大学血液内科 教授

要旨
 慢性骨髄増殖性疾患(CMPD)はクローン性造血疾患である.CMPD の新 WHO 分類では,慢性骨髄性白血病(CML),慢性好中球性白血病,慢性好酸球性白血病,真性赤血球増加症,慢性特発性骨髄線維症,本態性血小板血症,分類不能型の7病型に分類される.CML では BCR-ABL 融合遺伝子が必須で,逆に CML 以外の CMPD では BCR-ABL 融合遺伝子は陰性である.また,新しく MDS/MPD のカテゴリーが設けられた.

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第1章 慢性骨髄増殖性疾患の概念・定義と疫学
疫 学

岸  賢治 東海大学医学部内科系血液・腫瘍・リウマチ内科 助教授

要旨
 慢性骨髄増殖性疾患の発症率は,真性多血症が最も高く人口 100,000 に対し(以下同様)約 1.0,原発性血小板血症 で 0.8,骨髄線維症で 0.6 がこれまでに発表された論文の成績だが,集積方法により頻度が異なり,時間をかけた詳細な集計を行うと高い値になる傾向であった.慢性骨髄性白血病(CML)の発症率は英国の成績で男性 1.20 女性 0.76 で,日本ではこれよりやや低いと思われる.CML の発症率はほぼ一定だが,米国での死因統計では下降傾向にあり治療の進歩がうかがえる.

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第1章 慢性骨髄増殖性疾患の概念・定義と疫学
小児の慢性骨髄増殖性疾患の特徴

真部  淳 聖路加国際病院小児科

要旨
 小児における骨髄異形性症候群(MDS)と慢性骨髄増殖性疾患(CMPD)の頻度は極めて低いが,小児血液学会の MDS 委員会の中央診断を採用した前方視的登録により,各病型が小児においても存在することが分かってきた.近年,各疾患における分子病態の解明が進んできた.現在小児 MDS と CMPD のほとんどの症例で造血幹細胞移植が適応になっているが,将来はこれらの分子異常を標的にした治療法が開発されることが望まれる.

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第2章 慢性骨髄性白血病の病理・病態
発症機構と急性転化

三谷 絹子 獨協医科大学内科学(血液)教授

要旨
 慢性骨髄性白血病はフィラデルフィア転座の結果形成される BCR/ABL キメラ遺伝子によって発症する.BCR/ABL は ABL の保有するチロシンキナーゼ活性が著しく亢進しており,RAS シグナル,PI-3K/Akt シグナル,Stat シグナルを恒常的に刺激することにより,増殖刺激効果と抗アポトーシス効果を発揮する.急性転化時には p53 シグナルが遺伝的・機能的に失活していることが多い.

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第2章 慢性骨髄性白血病の病理・病態
遺伝子発現プロファイリング

間野 博行  自治医科大学ゲノム機能研究部 教授

要旨
 DNA チップを用いることで任意の細胞・組織における全遺伝子の発現量の検定が可能になった.膨大な遺伝子の発現様式を測定すること(発現プロファイリング)により,慢性骨髄性白血病(CML)の病態解明にも大きな進歩がもたらされると期待される.CML の臨床検体の発現プロファイルを比較することで,例えば CML の病期進展機構や薬剤耐性化機構に直接関与する遺伝子群の同定が可能になるであろう.

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第2章 慢性骨髄性白血病の病理・病態
薬剤耐性機序とその克服

田内 哲三  東京医科大学第一内科 講師
大屋敷一馬  東京医科大学第一内科 教授

要旨
 イマチニブ耐性の機序としては BCR-ABL の増幅,BCR-ABL キナーゼのアミノ酸変異,多剤耐性(MDR)の誘導,α1-acid glycoprotein の誘導などが報告されているが,生命予後との関係が明らかとなっているのが BCR-ABL キナーゼのアミノ酸変異である.イマチニブ耐性症例に対するアプローチは,イマチニブと化学療法薬剤との併用療法よりもむしろ,新規 ABL チロシンキナーゼ阻害薬によるものが注目されている.

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第3章 診 断
慢性骨髄性白血病の診断

東條 有伸 東京大学医科学研究所先端医療研究センター 助教授

要旨
 慢性骨髄性白血病は診断時には極めて均一な病像を呈する疾患単位であり,ほとんど臨床症状がない点と幼若顆粒球の出現や好塩基球,好酸球の増加を認める特徴的な末梢血液所見から容易に疑うことができる.確定診断にはフィラデルフィア染色体あるいは BCR-ABL 融合遺伝子の存在を証明する必要があるが,近年 FISH 法や PCR 法の導入により極めて迅速かつ的確な診断が可能になった.

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第3章 診 断
慢性骨髄増殖性疾患の病型移行

檀  和夫 日本医科大学第三内科 教授

要旨
 真性多血症および本態性血小板血症には骨髄線維症および急性白血病への病型移行が,原発性骨髄線維症には急性白血病への病型移行が見られる.疾患の診断の正確性の問題および疾患相互の病態の重なりにより移行の頻度は厳密性に欠ける.また病型移行がこれら疾患本来の自然経過かあるいは治療に関連したものかも問題であるが,一般に治療により移行率は高くなると報告されている.

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第3章 診 断
慢性骨髄増殖性疾患の細胞遺伝学

谷脇 雅史 京都府立医科大学大学院分子病態検査医学・血液内科 教授

要旨
 慢性骨髄増殖性疾患(CMPD)における染色体異常の頻度は,真性多血症で8〜15%(進行期では 40%),骨髄線維症で 20〜70%(平均 40%),本態性血小板血症で5%とされる.20q−,+1q,+8,+9,13q−などが代表的な異常であるが,これらは急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群(MDS)でも認められる.特異な病態の 8p11 MPD syndrome では,FGFR1 と FOP(6q27)などの転座相手がキメラ遺伝子を形成している.

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第4章 慢性骨髄性白血病の管理・治療
慢性期の薬物療法

大西 一功 浜松医科大学第三内科 助教授

要旨
 慢性期 CML の薬物療法としては,現在ではイマチニブが第一に選択されるようになった.イマチニブの成績はまだ短期的なものであるが,これまでに判明した点は,30 ヵ月時点でもまだ治療効果が維持改善されていること,初期耐性の判定の目安が提案され獲得耐性の機序や,分子モニタリングの重要性も明らかにされた.一方,至適投与量,微小残存病変,CML 前駆細胞に対する低感受性,治癒の可能性などの未解決の問題点が残されている.

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第4章 慢性骨髄性白血病の管理・治療
分子生物学的モニタリング

徳永 正浩 名古屋第一赤十字病院血液内科
宮村 耕一 名古屋第一赤十字病院血液内科 部長

要旨
 慢性骨髄性白血病(CML)の治療法は,イマチニブが導入されて以来大きく変化した.その有用性は IRIS Study にて証明され,18ヵ月時点における major CGR の割合は 87.1% と,従来の IFNa に比して驚異的な数字であった.現在,治療方針の決定および予後予測のために,より厳密な微小残存病変(MRD)モニタリングが望まれつつある.本稿では BCR-ABL 融合 mRNA を定量するリアルタイム定量 PCR(RQ-PCR)法を用いたモニタリングの意義・現状・展望に関して概説する.

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第4章 慢性骨髄性白血病の管理・治療
急性期の治療

谷本 光音  岡山大学大学院医歯学総合研究科病態制御科学専攻 教授

要旨
 慢性期慢性骨髄性白血病(CML)の治療は,イマチニブの出現により新たな時代に入った.しかし,移行期(AP)もしくは急性期(BP)といった進行期の CML に対する有効な治療法はいまだに見いだされていない.イマチニブに不応性の CML に対して,若年者でドナーがあれば造血幹細胞移植(HSCT)が適応とされるが,高齢者もしくはドナーの見出せない CML 患者に対する治療は困難を極める.本稿では,進行期 CML に対する治療選択について,インターフェロン(IFN)α,Ara-C,VP 療法などの治療成績と,イマチニブの治療効果,さらに新規薬剤に関する治療研究の結果について概説した.

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第4章 慢性骨髄性白血病の管理・治療
造血幹細胞移植の位置付け

岡本真一郎 慶應義塾大学医学部内科学(血液内科)助教授

要旨
 同種造血幹細胞移植(SCT)は,慢性骨髄性白血病(CML)の根治療法として確立した唯一の治療と言える.しかし,その比較的短期の生存率と安全性は,分子標的薬剤イマチニブに比較して明らかに劣っており,現時点ではイマチニブ不応例あるいは再発例が SCT の対象となっている.CML は同種免疫反応に伴う抗腫瘍効果(GVL 効果)に極めて感受性が高い.そこで,早期にイマチニブ不応例を診断し,腫瘍量の少ない時期に GVL 効果に期待した骨髄非破壊的移植を施行すれば,より安全に根治が得られる可能性がある.このように,今後はイマチニブ治療後の CML の状態に合わせた造血幹細胞ソースと移植方法を選択していくことが課題である.

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第4章 慢性骨髄性白血病の管理・治療
インフォームドコンセントと看護サイドからの管理

畠  清彦  (財)癌研究会附属病院化学療法科 部長
三嶋 裕子  (財)癌研究会附属病院化学療法科
照井 康仁  (財)癌研究会附属病院化学療法科

要旨
 慢性骨髄性白血病は,イマチニブ(グリベックメ)が承認され,インターフェロンやインターフェロン+キロサイドとの比較によって,早く血液学的寛解が得られ,QOL も高く,年齢によって治療法を変えなくともよく,第1選択の治療法である.まだ少なくとも分子生物学的寛解後も継続することが必要である.有害事象についても十分な説明が必要であり,長期投与での有害事象はまだ不十分である.

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第4章 慢性骨髄性白血病の管理・治療
医療経済学

大竹 茂樹 金沢大学医学部保健学科生体情報学 教授

要旨
 メシル酸イマチニブは臨床試験開始後わずか 32ヵ月で承認申請され,3ヵ月後に承認・発売された.その売り上げはすでに 1,200 億円を超え,驚異的な伸びを示している.高価な薬剤であるが DPC による包括支払い制度下で用いることができる.インターフェロンα(IFNα)に比べて効果が高く,副作用も比較的少ないことから,質調整生存年は高い.IFNa との比較による増分費用効果比は,数百万円と予想され,妥当な費用効果を示している.

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第5章 類縁疾患の診断・治療と最近の話題
慢性好中球性白血病

三浦偉久男 秋田大学医学部第三内科 助教授

要旨
 慢性好中球性白血病はまれな病態で,いまだ病型特異的染色体・遺伝子変化は見つかっていない.診断基準に従い他の慢性骨髄増殖性疾患を十分に除外した後に診断する必要がある.反応性病態の一つではなく,独立した病型であることを確立するためには,さらに増殖細胞のクローン性を確認することが重要で,そのような症例での詳細な検討が必要である.

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第5章 類縁疾患の診断・治療と最近の話題
慢性好酸球性白血病/好酸球増加症候群

塩崎 宏子  東京女子医科大学血液内科
泉二登志子 東京女子医科大学血液内科 教授

要旨
 好酸球増加症候群(HES)は,慢性骨髄増殖性疾患の一つであり,原因不明の好酸球増加が持続的に認められ,心臓や肺などの臓器障害をもたらすまれな疾患である.好酸球増加がクローナルな場合は,慢性好酸球性白血病(CEL)と診断される.近年,分子標的療法の薬剤であるメシル酸イマチニブ Imatinib が,HES 患者に有効であった事実から,4q12 の interstitial deletion により形成される FIP1L1-PDGFRA 融合遺伝子が,HES の原因遺伝子であることが明らかにされた.慢性骨髄性白血病(CML)に用いる治療量より少量のメシル酸イマチニブが,HES を細胞遺伝学的寛解へと導くことが,治療面でも大きな進歩をもたらしつつある.今,HES はその原因の一部が解明され,新たな展開を見せている.

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第5章 類縁疾患の診断・治療と最近の話題
真性赤血球増多症の診断と治療

木省治郎自治医科大学大宮医療センター血液科 講師

要旨
 真性赤血球増多症は赤血球量の増加を特徴とする慢性骨髄増殖性疾患であり,幹細胞レベルの異常によると考えられているが,その機序については不明な点が多い.循環赤血球量の測定を始めとして,血清エリスロポエチン値の測定などの検査により診断がなされる.治療は年齢,血栓症の既往などの危険因子の有無により瀉血,低用量アスピリン投与やヒドロキシウレアなどの投与が行われる.治療により 10 年以上の生存が期待される.

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第5章 類縁疾患の診断・治療と最近の話題
慢性骨髄線維症

岡村  孝 久留米大学内科学講座(2)助教授

要旨
 原発性慢性骨髄線維症は,幹細胞のクローン性増殖が本態であり,骨髄の広範な線維化,骨硬化ならびに血管新生などの間質反応を伴うのが特徴である.診断には骨髄生検での線維化の証明,および髄外造血があり,2次性線維化を来す疾患を除外することが重要である.治療は,少量メルファラン,少量サリドマイドなどの効果が期待される.しかし,唯一治癒を望める治療として,適格症例には同種移植(ミニ移植を含む)を考慮する必要がある.

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第5章 類縁疾患の診断・治療と最近の話題
本態性血小板血症

薄井 紀子  東京慈恵会医科大学血液・腫瘍内科 助教授
要旨
 本態性血小板血症(ET)は,血小板増加を特徴とする腫瘍性疾患である.人口 10 万に対して約 2.5 人の発症頻度で,発症年齢の中央値は 60 歳代である.末梢血の血小板数≧ 60 万/μl で血小板増加を来たす疾患を除外することで診断する.ET の長期生命予後は良好であるが,致死的合併症の血栓症や出血のコントロールと白血病への形質転換の回避が重要である.血栓予防には低用量のアスピリンが,血小板を減じるために主としてヒドロキシウレアが用いられる.

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第6章 ガイドライン
慢性骨髄性白血病の治療ガイドライン

大野 竜三 愛知県がんセンター 総長

要旨
 慢性骨髄性白血病(CML)はメシル酸イマチニブの出現により治療方針が一変した.本薬で未治療慢性期 CML の 75% 以上で Ph 染色体が消失する.したがって,今後イマチニブが第1選択薬となることは間違いないものの,市販されてたった3年しか経過していない.長期予後を含めた治療成績が出るまで 10 年近くを要する CML において,科学的ガイドラインを出せるエビデンスは全くない.本稿では,やむをえず,最も低いレベルWのエキスパート・オピニオンを記述した.

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