要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 25/内分泌2
甲状腺疾患(改訂第2版)


第1章 概念・定義と疫学
甲状腺中毒症の定義・分類・疫学

石井 角保   群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学
中島 康代   群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学
山田 正信   群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学 准教授

要旨
 甲状腺中毒症は,「血中甲状腺ホルモンが高値になることにより,甲状腺ホルモンの作用が過剰に出現した病態」と定義される.甲状腺種と並んで甲状腺外来を訪れる症例の多くを占める.動悸,振戦,発汗などの典型的な症状を示す症例から全く自覚症状のない症例までさまざまである.また,血中甲状腺ホルモン値は基準値内だが,血清 TSH 値のみが低下した病態を,潜在性甲状腺中毒症と言う.近年,潜在性甲状腺中毒症が,心房細動や骨粗鬆症のリスクファクターとなるとの報告もあり,注目されている.本稿では,甲状腺中毒症の鑑別診断への一歩として甲状腺中毒症の疫学,概念と分類について概説した.また,最近までに明らかになった甲状腺制御機構,甲状腺ホルモン作用の分子機構などをもとに新たな分類についても考慮した.
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第1章 概念・定義と疫学
甲状腺機能低下症の定義・分類・疫学

西川 光重  関西医科大学内科学第2講座 教授

要旨
 甲状腺機能低下症とは,体内の臓器・組織での甲状腺ホルモン作用が必要よりも低下した状態である.甲状腺自体(原発性)あるいは視床下部・下垂体障害(続発性)により,甲状腺ホルモンの合成分泌が低下したものと,甲状腺ホルモンの代謝・輸送や,ホルモン作用機構に異常があるものがある.先天性では異所性甲状腺,後天性では慢性甲状腺炎によるものが最も多い.日本ではおよそ 70 万人が治療を受けている一方,人間ドックなどの検診では,潜在性を含めて4〜7%程度の甲状腺機能低下症患者が発見される.
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第1章 概念・定義と疫学
甲状腺腫瘍の定義・分類・疫学

木原  実   医療法人神甲会隈病院外科 医長
宮内  昭   医療法人神甲会隈病院 院長

要旨
 甲状腺腫瘍は一般的には病理組織学的に定義分類される.組織型により大きく生物学的特徴が異なり,結果的に検査法や治療法も異なるため,正確な分類診断は重要である.また,甲状腺腫瘍の頻度は超音波検査や剖検により高いことが判明しているが,実際はその大部分は臨床上問題になることは少ない.甲状腺がんの危険因子は若年者の放射線被曝であり,一部のがんには遺伝が関係している.
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第2章 病態生理・病理
甲状腺機能異常症の病因と病態生理

永山 雄二   長崎大学大学院医歯薬学総合研究科附属原爆後障害医療研究施設
                               分子医学研究分野 教授
西原 永潤   医療法人神甲会隈病院内科 医長

要旨
 甲状腺疾患は,病因・病態から分類すると,自己免疫,先天性,炎症性,腫瘍,医原性・食餌性,などに分けられる.それぞれ,甲状腺中毒症(甲状腺機能亢進を伴う場合と伴わない場合がある)あるいは甲状腺機能低下を生じうる.臨床で遭遇する症例は,圧倒的に自己免疫性甲状腺疾患が多い.本稿では,病因・病態生理を腫瘍を除いて自己免疫を中心に解説する.
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第2章 病態生理・病理
甲状腺腫瘍の病因と病態生理

高野  徹   大阪大学大学院医学系研究科臨床検査診断学 講師

要旨
 甲状腺腫瘍は,分化がんは転移があっても予後が極めて良いのに対し,未分化がんの予後は極端に悪い,分化がんが未分化がんに変化する,などのユニークな性質を持つ.発生機序としては,正常甲状腺濾胞上皮細胞が悪性化してがん細胞となるとした多段階発がん説が信じられてきたが,近年,幹細胞・前駆細胞を始めとしたがん形質を持つ発生途上の胎児性細胞から甲状腺がん細胞が直接発生するとした芽細胞発がん説が提唱されるようになった.
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第2章 病態生理・病理
甲状腺疾患の病理と問題点

覚道 健一   神戸常盤大学保健科学部医療検査学科 教授
布引  治   神戸常盤大学保健科学部医療検査学科 准教授
岩井 重寿   神戸常盤大学保健科学部医療検査学科 教授
今西麻樹子  神戸常盤大学保健科学部医療検査学科
坊垣美也子  神戸常盤大学保健科学部医療検査学科 准教授
松元英理子  神戸常盤大学保健科学部医療検査学科 准教授
要旨
 甲状腺の診療に細胞診は手術対象例の抽出に有用であり,特に乳頭癌で診断精度が高い.しかし,濾胞癌/濾胞腺腫の鑑別における細胞診には制約がある.疑陽性や,パパニコロウクラスVをカバーする診断カテゴリーとして,“鑑別困難”の診断カテゴリーが設定された.この群には腺腫様甲状腺腫,濾胞腺腫,濾胞癌,濾胞型乳頭癌,橋本病,悪性リンパ腫,髄様癌など,多様な病変が含まれる.『甲状腺結節取り扱い診療ガイドライン』では,鑑別困難を,濾胞性腫瘍(濾胞癌/濾胞腺腫)の可能性が高い群(悪性の危険率:15〜30%)と濾胞性腫瘍以外(乳頭癌,髄様癌,リンパ腫などを疑う群)の可能性のある群(悪性の危険率:40〜60%)に区別することが計画されている.
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第3章 鑑別診断
甲状腺機能異常症の臨床検査所見と鑑別診断

菱沼  昭   獨協医科大学感染制御・臨床検査医学 教授

要旨
 甲状腺機能検査は遊離サイロキシン(FT4),遊離トリヨードサイロニン(FT3),甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定が基本である.それぞれ,年齢,性差などの生理的変動もあるが,遺伝的バックグランドも検討されつつある.また,免疫反応を使用した測定法である以上,試薬による変動も考慮しなければならない.甲状腺機能の鑑別診断は,FT4 とTSH,時にFT4 とFT3 のバランスを考慮する必要があり,甲状腺機能異常の鑑別法とその考え方を概説する.
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第3章 鑑別診断
甲状腺ホルモン不応症の臨床検査所見と鑑別診断

村田 善晴   名古屋大学環境医学研究所生体適応・防御研究部門発生・遺伝分野 教授

要旨
 甲状腺ホルモン不応症(RTH)は,甲状腺ホルモンに対する標的臓器の反応性が減弱している症候群として報告された疾患であるが,現在ではβ型甲状腺ホルモン受容体(TRB)異常症と同義とされる.RTH 共通の臨床検査所見は不適切 TSH 分泌症候群(SITSH)である.このため,多くの場合,同じく SITSH を呈する TSH 産生腫瘍(TSHoma)との鑑別を要求される.本稿では,SITSH を示す患者に遭遇した場合,どのような手順で RTH の診断を進めていくべきかを中心に述べる.

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第3章 鑑別診断
新生児・小児の甲状腺疾患の検査と鑑別診断

鬼形 和道   島根大学医学部附属病院卒後臨床研修センター・小児科 准教授

要旨
 新生児・小児の甲状腺疾患は,新生児マススクリーニングで発見される先天性甲状腺機能低下症(CH;クレチン症)が多い.甲状腺ホルモンレベルを過不足のない状態に保つことが良好な小児期の成長発達に必要であり,確定診断より治療を優先する.最も感度の高い甲状腺機能検査は血清 TSH 測定であり,TSH 値と FT4(FT3)値の関連から鑑別診断を進める.新生児・小児の甲状腺は放射線感受性が高く,画像診断は超音波検査が第1選択である.
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第3章 鑑別診断
甲状腺の画像診断と鑑別診断

山本 浩之      公立昭和病院内分泌・代謝内科
貴田岡正史     公立昭和病院内分泌・代謝内科 部長

要旨
 甲状腺は視診・触診の可能な体表臓器の1つであり理学所見が診断に重要であることはもちろんである.しかし,近年の画像診断の進歩は目覚ましく,客観的評価という点で,その重要性は一層高まっている.さらに,近年は画像診断の選択肢も増加しており,病態から有用な検査を想定し,適切に画像診断を選択することが重要である.本稿では,日常よく遭遇する疾患をもとに,最新の技術まで含め甲状腺疾患における画像診断の役割について概説する.
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第3章 鑑別診断
甲状腺腫瘍の穿刺吸引細胞診断

北川  亘   伊藤病院外科診療技術部 部長
吉村  弘   伊藤病院内科 部長

要旨
 穿刺吸引細胞診は,甲状腺腫瘍の良性悪性の鑑別だけでなく,多くの甲状腺腫瘍の病理組織型診断が可能であり,甲状腺腫瘍の診断に重要な役割を担っている.近年,超音波機器の進歩により画像分解能の向上は目覚ましく,腫瘍内部の精密な構造や微小病変の検出が可能となった.触診下で施行していた細胞診に代わり,超音波検査のさまざまな画像情報をもとに診断に適した部位からピンポイントに細胞を採取する超音波ガイド下穿刺吸引細胞診が普及している.

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第4章 診断・管理・治療
甲状腺クリーゼの診断と治療

赤水 尚史   和歌山県立医科大学内科学第一講座 教授
佐藤 哲郎   群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学 講師
磯崎  収    東京女子医科大学内科学2 准教授
鈴木 敦詞   藤田保健衛生大学医学部内分泌・代謝内科学 准教授
脇野  修    慶應義塾大学医学部内科学教室腎臓内分泌代謝内科 講師
飯降 直男   天理よろづ相談所病院内分泌内科
坪井久美子   東邦大学大森病院 糖尿病代謝内分泌科 特任教授
古川 安志   和歌山県立医科大学内科学第一講座
金本 巨哲   京都大学大学院医学研究科内科学講座内分泌代謝内科
大谷  肇    関西医科大学第二内科 准教授
手良向 聡   京都大学医学部附属病院探索医療センター 准教授

要旨
 甲状腺クリーゼは,甲状腺中毒症に種々のストレスが加わって多臓器不全や生体恒常性破綻を来した致死的状態と定義される.その発症機序は不明で,診断は臨床的症状・徴候に基づいて行われる.緊急治療開始を要し,致死率は 10% 以上に達する.早期の診断と治療が重要であるが,エビデンスに基づいた診断基準が我が国で初めて作成された.さらに,予後改善のために,診療ガイドラインや治療アルゴリズムの作成が検討されている.


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第4章 診断・管理・治療
バセドウ病眼症の診断と治療

廣松 雄治  久留米大学医学部内科学講座内分泌代謝内科部門 教授

要旨
 バセドウ病眼症は,バセドウ病や橋本病に伴う眼窩組織の自己免疫性炎症性疾患であり,上眼瞼後退,眼瞼浮腫,眼球突出,涙液分泌低下,結膜,角膜障害,複視,視力低下,など多彩な症状を呈する.MRI の導入により,眼症の活動性(CAS と MRI),重症度を適切に評価し,病態に応じた治療法が選択できるようになった.点眼薬,ステロイド薬の局所注射,パルス療法,放射線療法,眼科的視機能回復術,眼窩減圧術などが選択される.
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第4章 診断・管理・治療
バセドウ病の薬物治療

中村 浩淑   医療法人 神甲会 隈病院学術顧問

要旨
 抗甲状腺薬はチアマゾール(MMI)を第1選択薬として用いる.プロピルチオウラシル(PTU)は MMI が使用できないときに使用する.ただし妊娠時,特に妊娠4週から8週は MMI 使用を避ける工夫をする.MMI は 15mg/日から開始するが,重度の患者には副作用に注意して 30mg/日を使用する.開始後,特に2〜3ヵ月は副作用に注意する.無顆粒球症について,患者に十分説明しておくことが大切である.血中FT4,FT3 が正常化したら用量を漸減し,5mg/日になったらこれを維持量として継続服用させる.どれだけの期間投薬を続けるべきかに関しては明確なエビデンスがない.TSH 受容体抗体(TRAb)が陰性ないし低値で,甲状腺が小さく,MMI5mg隔日服用で6〜12ヵ月コントロールできた患者は,休薬できる確率が高い.患者とよく話し合ったうえで休薬を試みる.TRAb が陰性でも再発する危険性があり,定期的な診察が必要なことを患者に説明し,しばらくは2〜3ヵ月ごとに甲状腺機能を調べる.再発した患者や,薬物治療開始後2年しても休薬できる目処が全く立たない患者には,抗甲状腺薬治療,外科的治療,131I−内用療法をあらためて説明し,どの治療法が患者にとって最良か,相談する.
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第4章 診断・管理・治療
抗甲状腺薬の副作用と対策

上條 桂一    上條甲状腺クリニック 院長
            上條甲状腺研究所 所長

要旨
 チアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)の軽度と重度の副作用そしてその対策を概説する.全副作用および副作用のため中止した頻度は,PTU300mg/日投与群が最も多く,次いでMMI30mg/日投与群で,最も少ないのはMMI15mg/日投与群である.無顆粒球症(AG)の大部分は投与後3ヵ月以内に出現し,頻度はMMI0.35%およびPTU0.37%で,MMIのAGによる本邦の死亡数は 23 例である.さらに,重症肝障害・肝不全,MPO−ANCA 関連血管炎,間質性肺炎および抗甲状腺薬(ATD)関節炎症候群の副作用を解説する.

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第4章 診断・管理・治療
バセドウ病の 131I 内用療法・選択基準

御前  隆    天理よろづ相談所病院RTセンター 部長

要旨
 放射性ヨウ素 131(131I)による内用療法の禁忌は,妊娠中ないし授乳中の女性である.将来妊娠を希望する若い女性にも実施可能であるが,男女とも治療後6ヵ月は避妊する必要がある.良い適応として,抗甲状腺薬の副作用,術後再発,長期間の内服治療よりも確実な治癒を望む場合,などが挙げられる.ほかの治療が選択できないときは,小児にも慎重投与されることがある.活動性の甲状腺眼症がある患者では,その治療を優先する.
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第4章 診断・管理・治療
バセドウ病の外科治療

内野 眞也   医療法人野口記念会野口病院外科 部長

要旨
 一般に,バセドウ病は抗甲状腺薬による薬物治療が第1選択となるが,最近は放射性ヨード内用療法も増えている.手術の対象となるのは,薬物療法で寛解が得られない場合,副作用で薬物が使えない場合,悪性甲状腺腫合併がある場合,コンプライアンス不良の場合,甲状腺腫が大きい場合,などである.術前コントロールとしては,抗甲状腺薬と無機ヨード剤を用いて行い,甲状腺機能の正常化を目指す.しかし,術直前の甲状腺機能が低下になると,凝固機能異常や血管透過性亢進を来し,術後出血による再手術が増え,頸部浮腫を来し,創傷治癒が遅延する.バセドウ病に対する代表的な手術法は,甲状腺両側亜全摘術,Hartley−Dunhill 手術法,甲状腺全摘術である.全摘術は理論的に再発が0になるが,すべての症例は永久性甲状腺機能低下症を来し,どんなに優れた外科医をもってしても,永久性副甲状腺機能低下症や反回神経麻痺の割合は高くなる.両側亜全摘術や Hartley−Dunhill 法はある一定の確率で術後再発が起るが,術後甲状腺機能低下症や術後合併症の率を極力抑えた手術法である.バセドウ病術後再発は,一般に放射性ヨード内用療法の適応になるが,抗甲状腺薬や無機ヨード剤によるコントロールが比較的容易に行え,薬で寛解する例も多い.

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第4章 診断・管理・治療
粘液水腫性昏睡の診断と治療

大野 洋介   防衛医科大学校総合臨床部
白石美絵乃   防衛医科大学校総合臨床部
田中 祐司   防衛医科大学校総合臨床部 教授

要旨
 粘液水腫性昏睡は,甲状腺機能低下症(原発性または中枢性)が基礎にあり,直接あるいは何らかの誘因が重なることにより,循環・呼吸不全,低体温などを介した中枢神経機能障害に至る致死的救急疾患である.頻度はまれだが,1990 年以後でも死亡率が 20〜50% と高い.疑った際には,集学的治療に加え,躊躇せず甲状腺ホルモン補充を開始することが重要である.現在,日本甲状腺学会として策定・公表している診断・治療基準案に,多少の私見を加えて概説する.
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第4章 診断・管理・治療
甲状腺機能低下症の薬物療法

伊藤 光泰    藤田保健衛生大学医学部内分泌・代謝内科学 教授

要旨
 甲状腺機能低下症は,心血管系,精神神経心理系,脂質系などに影響し,疾病リスクと関連する.多くの疫学や介入試験の成績が,潜在性を含め甲状腺機能を正常範囲内に維持することの重要性を示している.しかし,レボサイロキシンナトリウム(L−T4)治療による介入試験では,脂質への有効性を除くとTSH10mU/L未満の潜在性機能低下症に対しては有効な成績が得られていない.加齢に伴う変化や細胞内T3 濃度の供給に影響する脱ヨウ素酵素の遺伝的要因など,今後検討されるべき課題も多い.

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第4章 診断・管理・治療
妊娠出産時甲状腺機能異常の治療

原田 正平    国立成育医療研究センター研究所 成育医療政策科学研究室 室長

要旨
 甲状腺機能低下症母体と甲状腺機能亢進症(バセドウ病)母体それぞれの,妊娠前から出産後に至るまでの治療の原則と,胎児・新生児甲状腺機能異常を踏まえた治療について概説した.甲状腺機能低下症母体では,TSH が 2.5μU/ml を超える(妊娠中期以降は3.0μU/ml)場合には潜在性甲状腺機能低下症として治療する.バセドウ病母体では,妊娠初期のチアマゾール(MMI)奇形症候群の発生を最小限に回避するような薬物治療が求められる.

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第4章 診断・管理・治療
甲状腺腫瘍の外科療法・選択基準

高見  博    伊藤病院 学術顧問

要旨
 甲状腺腫瘍は良性結節と悪性腫瘍に分かれる.良性結節は可能な限り手術を避ける.悪性腫瘍は病理組織型により病態が異なるため,穿刺吸引細胞診(FNAB)で診断をつける.がんでは乳頭がんが最も多く,腫瘍が片葉にあり大きくないときには,甲状腺葉切除か甲状腺亜全摘を行うことが多いが,甲状腺全摘も考慮する.同時に,患側の保存的頸部郭清術を施行する.濾胞がんの場合,微小浸潤型では葉切除か亜全摘を行うが,広汎浸潤型では全摘を行う.未分化がん,髄様がん,悪性リンパ腫はそれぞれ特有の治療方針がある.手術合併症は反回神経麻痺による嗄声と副甲状腺機能低下症によるテタニー発作がある.

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第4章 診断・管理・治療
甲状腺腫瘍の 131I内用療法・薬物療法選択基準

鈴木 眞一    福島県立医科大学医学部器官制御外科学講座 教授
芦澤  舞     福島県立医科大学医学部器官制御外科学講座
大河内千代    福島県立医科大学医学部器官制御外科学講座
権田 憲士    福島県立医科大学医学部器官制御外科学講座

要旨
 甲状腺分化がんは,今までは化学療法の適応もなく,外照射の効果もほとんどないと言われてきた.その中で,甲状腺腫瘍の特に分化がんの治療は,手術以外では TSH 抑制療法,放射性ヨウ素 131(131I)内用療法がある.内用療法に関しては,外来アブレーションやタイロゲン?との併用など QOL 向上に役立つ方法がとられてきている.また,分化がん以外には化学療法や外照射を行うが,分化がんも含め,最近では分子標的治療薬が使われるようになってきている.

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第5章 放射線障害と甲状腺疾患
放射線と甲状腺疾患−原爆被爆者の知見から−

今泉 美彩    財団法人放射線影響研究所臨床研究部
          長崎大学病院内分泌代謝内科

要旨
 原爆被爆者では被爆十数年後より甲状腺がんの増加が報告されるようになった.甲状腺がんの発生リスクは,甲状腺被曝線量約 100mSv 以上では線量の増加に伴って増加し,1Sv の被曝で甲状腺がん発生が 57% 増加したと推定される.放射線による甲状腺がんのリスクは,若い年齢で被曝するほど高く,女性は男性より 30% 高い.がん以外の甲状腺疾患に対する原爆放射線の影響に関しては,結論が得られていない.

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第5章 放射線障害と甲状腺疾患
原発事故と甲状腺がん

山下 俊一    福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター センター長
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科原研放射線災害医療学研究分野 教授

要旨
 原発事故の甲状腺影響は,外部被ばくのみならず,放射性ヨウ素の内部被ばくにより線量依存性に発がんリスクが増加する.チェルノブイリ原発事故から福島原発事故を考えると,放射線発がんリスクの理解には,第一に被ばく線量の評価が重要であり,長期にわたる疫学調査が不可欠となる.その結果,甲状腺乳頭がんにおける発がんリスクが明らかにされ,自然発症と比較した放射線誘発がんの分子機構の解明から,早期診断,早期治療が期待される.

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第5章 放射線障害と甲状腺疾患
放射線障害と甲状腺疾患:原子力事故と甲状腺ブロック

明石 真言    放射線医学総合研究所 理事
蜂谷みさを    放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター


要旨
 ウランを核分裂させている原子炉では,核分裂生成物として放射性ヨウ素がつくられ,事故が起きれば放出される.ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に不可欠であり,体内に摂取されると安定型か放射性かにかかわらず,速やかに甲状腺に集積される.この放射性ヨウ素の甲状腺への集積を阻害するのが,安定ヨウ素剤である.適切な量と時期を考慮して服用することで,最大の効果と安全が確保できる.放射線被ばく,特に内部被ばくに関しては,誤った知識が多く,正しい理解が重要である.

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