要旨


最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 29/消化器4
炎症性腸疾患



第1章 炎症性腸疾患の概念・定義と疫学
概念・定義

浦牛原幸治  東京医科歯科大学大学院消化代謝内科
渡辺  守   東京医科歯科大学大学院消化代謝内科 教授

要旨
 潰瘍性大腸炎とクローン病は炎症性腸疾患の2大疾患として,古くから知られており,現在,その病因,治療について世界でさまざまなアプローチにより活発な研究がなされている.次第にその免疫機序解明や新治療確立など大きな成果が現れてきているが,依然,根本的には原因不明の疾患であり,近年,罹患数は増加傾向であるにもかかわらず,いまだ研究,臨床両分野で問題点が山積みである.本項ではこの疾患を把握する手始めに,炎症性腸疾患の定義,概念までを最近のトピックを織り交ぜつつ概説する.

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第1章 炎症性腸疾患の概念・定義と疫学
潰瘍性大腸炎,クローン病の疫学

武林  亨   慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 教授

要旨
 1991年の全国疫学調査により,我が国の罹患率/有病率(人口10万対)は,潰瘍性大腸炎1.95/18.12,クローン病0.51/5.85で,アメリカ,ヨーロッパ諸国と比較して依然低い.2003 年度の特定疾患医療受給者数は,潰瘍性大腸炎 77,571人,クローン病22,395人であった.病因については明らかではないが,発症にはポリジェニックな遺伝素因を背景に環境要因が複合的に関与していると考えられる.

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第2章 炎症性腸疾患の病理・病態生理
病 理 ―潰瘍性大腸炎とクローン病の肉眼および病理組織像

味岡 洋一  新潟大学大学院医歯学総合研究科分子・病態病理学分野 助教授
丹羽 恵子  新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器肝臓内科分野
西倉  健  新潟大学大学院医歯学総合研究科分子・病態病理学分野 講師
渡辺  玄  新潟大学大学院医歯学総合研究科分子・病態病理学分野

要旨
 潰瘍性大腸炎の肉眼・病理組織像の特徴を,炎症活動期と緩解期とに分けて概説し,活動期組織像については,初回発作と再燃の場合の違いについて述べた.クローン病の代表的肉眼像(縦走潰瘍と敷石像)を提示し,組織学的特徴としての非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫,全層性炎,裂溝・裂溝潰瘍について概説した.



第2章 炎症性腸疾患の病理・病態生理
病態生理:(1)腸管粘膜免疫

光山 慶一  久留米大学医学部第二内科 講師
豊永  純   久留米大学医学部第二内科 教授
佐田 通夫  久留米大学医学部第二内科 教授

要旨
 消化管粘膜は常に管腔抗原に曝されているが,通常状態では炎症反応は生じない.ところが炎症性腸疾患では,腸管粘膜免疫機構の破綻により管腔抗原に対する過剰な免疫反応がみられ,その結果持続性の炎症が惹起される.近年の免疫学,分子生物学の進歩により,潰瘍性大腸炎とクローン病の細胞レベル,分子レベルでの病態が明らかになりつつある.今後病態解明がさらに進み,より特異的な治療法の開発が期待される.

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第2章 炎症性腸疾患の病理・病態生理
病態生理:(2)遺伝的背景

野村 栄樹   東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野
高橋 成一   東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野
木内 喜孝   東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野 助教授
下瀬川 徹   東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野 教授

要旨
 炎症性腸疾患(IBD)は,その発症に遺伝因子と環境因子の双方がかかわる多因子疾患である.ゲノム医科学の進歩の結果,2001年クローン病の最初の感受性遺伝子であるNOD2/CARD15が,その後OCTN1/SLC22A4-OCTN2/SLC22A5が同定され,さらに複数の候補遺伝子も報告されている.今後,まだ同定に至っていない日本人IBDの感受性遺伝子の特定とその機能解析が重要になると考えられる.



第2章 炎症性腸疾患の病理・病態生理
病態生理:(3)腸内細菌

藤山 佳秀  滋賀医科大学消化器・血液内科 教授
安藤  朗   滋賀医科大学消化器内科 講師

要旨
 潰瘍性大腸炎およびクローン病は腸内細菌の豊富に存在する回腸,大腸に好発することから,腸内細菌叢に対する免疫応答の異常が,これらの病態形成において重要な役割を担っていると考えられている.また,炎症性腸疾患(IBD)の病態を考えるうえで重要な意味を持つ,腸内細菌叢と粘膜免疫機構に関する新たな知見が最近報告された.本稿では,IBDの病因,病態における腸内細菌に関する知見を概説する.



第3章 炎症性腸疾患の診断
診断手順,診断基準

樋渡 信夫  いわき市立総合磐城共立病院消化器科 院長
小島 康弘  いわき市立総合磐城共立病院消化器科 科長

要旨
 大腸の炎症性疾患は下痢,血便を主症状として多くの疾患がある.これらを鑑別診断する際には,まず十分な病歴聴取が重要である.必要に応じて感染性腸炎を除外するために便培養を施行する.潰瘍性大腸炎が疑われるときの内視鏡検査は,前処置なしで速やかに観察する.肛門輪を越えてから連続性/びまん性炎症であることを確認し,生検する.クローン病が疑われるときには,全消化管の精査を行い,主要病変の存在部位により病型を決定する.



第3章 炎症性腸疾患の診断
病型・重症度分類

都築 義和   防衛医科大学校内科学第二教室 講師
穂苅 量太   防衛医科大学校内科学第二教室
三浦総一郎  防衛医科大学校内科学第二教室 教授

要旨
 潰瘍性大腸炎の病型は,全大腸炎型・左側大腸炎型・直腸炎型,右側あるいは区域性大腸炎型に分類され,重症度は軽症・中等症・重症・激症に分類される.臨床経過には再燃緩解型・慢性持続型・急性激症型・初回発作型がある.クローン病の病型分類は小腸型・大腸型・小腸大腸型・直腸型・胃十二指腸型・直腸型・特殊型である.Indeterminate colitisは両疾患の臨床的,病理学的特徴を合わせ持つ.



第3章 炎症性腸疾患の診断
炎症性腸疾患のX線診断

松井 敏幸  福岡大学筑紫病院消化器科 助教授

要旨
 炎症性腸疾患(IBD)に対してX線診断は,現在も極めて重要な診断手技である.潰瘍性大腸炎(UC)では検査によって病勢増悪を来さないため検査時の工夫が必要である.クローン病(CD)では,大腸検査は内視鏡が主役となりつつあるが,診断に際し全大腸を俯瞰的に観察する必要から,あるいは頻発する狭窄により内視鏡検査が施行し難いため,X線検査は必要な検査である.また,CDの小腸病変ではX線検査が主役であろう.それは,検査しやすさとオリエンテーションの良さが内視鏡検査より優れるからである.以上,IBDにおけるX線検査は診断確定および経過観察に必須の検査である.



第3章 炎症性腸疾患の診断
内視鏡所見

岡  志郎  広島大学病院光学医療診療部
田中 信治  広島大学病院光学医療診療部 部長
茶山 一彰  広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病態制御内科学 教授

要旨
 炎症性腸疾患における内視鏡観察のポイントは,炎症の程度(色調,浮腫の強さ,潰瘍・出血の有無),罹患部位と範囲,連続性の有無,病変周囲の粘膜性状,対称性の有無などである.具体的には,潰瘍性大腸炎では直腸から連続性,びまん性に口側に伸展する潰瘍・びらん・発赤,クローン病では非連続的または区域性の不整形潰瘍,縦走潰瘍,敷石像(cobble stone appearance)が特徴的である.両者の鑑別点としては,潰瘍周囲粘膜にびまん性炎症が存在するか否かが重要である.



第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
一般療法・食事指導

北洞 哲治  國際医療福祉大学附属熱海病院消化器内科 教授
  
要旨
 潰瘍性大腸炎,クローン病の治療は長期にわたり,多くの患者で生活の質(QOL)の障害が認められている.治療の基本は長期の緩解維持を確保することにある.一方,緩解維持を防げる再燃因子にストレス,食事成分が認知されたことより厳格な生活指導,食事制限がなされQOLの低下の要因となった.しかしながら,生活環境,食事内容が病勢に与える影響は一様でなく,医師は原則をよく理解し,治療経過を踏まえ,患者の生活様式を把握し,個々に応じた指導をすることにより,社会への積極的な姿勢を築くことが,QOL のみならず治療効果をも高めることを忘れてはならない.

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第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
薬物療法のストラテジー:(1)潰瘍性大腸炎

山形 和史  弘前大学医学部第一内科
石黒  陽  弘前大学医学部第一内科 講師
棟方 昭博  弘前大学医学部第一内科 教授

要旨
 潰瘍性大腸炎は,極めて多彩な病態を示し,内科治療は個々の症例に応じたきめ細かい療法が求められる.また,根治が期待できない本症の薬物療法の目標は,急性期の炎症を速やかに緩解へ導き,再燃を防止し,患者の生活の質(QOL)を高めるということが基本となる.平成 15 年度の厚生労働省の本疾患研究班で作成された治療指針の改訂点は,@難治例の治療指針の追加,A経口ペンタサメ 錠の用量の変更,Bプレドネマメ 注腸,ペンタサメ 注腸剤の治療指針への組み込みである.本症の治療法は病態に応じた治療法の組み合わせにより成績が向上しており,治験開発中の治療の有効性と安全性が確認され,日常診療への利用が可能になることで本症の予後はさらに改善するものと思われる.

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第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
薬物療法のストラテジー:(2)クローン病

城 由起彦  九州大学大学院医学研究院病態機能内科学
松本 主之  九州大学大学院医学研究院病態機能内科学 講師
飯田 三雄  九州大学大学院医学研究院病態機能内科学 教授

要旨
 クローン病の治療目的は病勢をコントロールし患者の生活の質(QOL)を高めることである.内科的治療は,栄養療法と薬物療法を併用し緩解導入と再燃・再発予防を行う.  アミノサリチル酸製剤と副腎皮質ステロイドはクローン病に対する薬物療法の基本薬であるが,免疫抑制剤の使用や近年では抗腫瘍壊死因子(TNF)α抗体も導入されている.最新の本邦クローン病治療指針改訂案にもその使用が盛り込まれ,クローン病に対する薬物療法に新展開がみられている.

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第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
治療薬剤:(1)アミノサリチル酸製剤

金城 福則  琉球大学医学部附属病院光学医療診療部 部長
岸本 一人  琉球大学医学部附属病院光学医療診療部

要旨
 アミノサリチル酸製剤は,炎症性腸疾患の基準的治療薬として重要な位置を占めている.アミノサリチル酸製剤の有用性に関しては種々の臨床成績が報告されており,本邦においてもサラゾピリンメ錠,座剤およびペンタサメ 錠に加え,2003年からペンタサメ 注腸製剤が使用可能となった.すなわち,種々の製剤の長所を生かした治療がより可能となった.一方,まれではあるが重篤な副作用も報告されており,日常診療において留意すべきである.

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第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
治療薬剤:(2)副腎皮質ステロイド

蘆田 知史  旭川医科大学第三内科 講師
高後  裕  旭川医科大学第三内科 教授

要旨
 炎症性腸疾患においては,これまで副腎皮質ステロイド剤は緩解導入治療においてアミノサリチル酸製剤とともにその主役であった.潰瘍性大腸炎では白血球除去療法,クローン病では抗 tnfα抗体など,ステロイド剤に比肩しうる新たな治療手段が出現した現在,本剤の使用に際しては従来よりもより厳密な適応と効果判定が求められるようになった.本稿では主に欧米での臨床試験の成績を基にしたステロイド剤の使用法について概説する.

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第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
治療薬剤:(3)免疫抑制剤

矢島 知治  慶應義塾大学医学部消化器内科

要旨
 炎症性腸疾患の治療においては,潰瘍性大腸炎とクローン病とで共通な部分とそうでない部分があることを意識し,また緩解導入療法と緩解維持療法を分けて考えることが適切な加療法を選択していくうえで重要となる.クローン病においては 6MP/AZAがますます重要視されるようになってきており,治療抵抗例では本剤の使用をためらわないこと,適正な使用量については個々の症例で検討していくべきであることを認識すべきである.

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第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
治療薬剤:(4)抗体製剤その他

伊藤 裕章 大阪大学大学院医学系研究科分子病態内科学講座 講師

要旨
 クローン病の病態にはインターロイキン(IL)-1,IL-6,腫瘍壊死因子(TNF)α,インターフェロン(IFN)gといった炎症性サイトカインが重要な役割を果たしている.これは実験腸炎モデルの検討から予測されたものであったが,モノクローナル抗体が実際にクローン病患者に投与され,教科書が書き換えられつつある.舞台はまさに研究室からベッドサイドに移ったのだ.これらの新薬は今や手を伸ばせばすぐ届くところにある.使用には多少の注意が必要であるが,ステロイドより安全で効果は絶大である.

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第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
白血球除去療法

福永  健   兵庫医科大学内科学下部消化管科
福田 能啓  兵庫医科大学内科学下部消化管科 助教授
松本 譽之  兵庫医科大学内科学下部消化管科 教授

要旨
 潰瘍性大腸炎(UC)患者に対する体外循環白血球系細胞除去療法(ELRT)である フィルター式白血球除去療法(LCAP),ビーズ式顆粒球吸着療法(GCAP),遠心式リンパ球除去療法(CFLA)につき具体的施行方法・計画と現在の問題点を解説する.ELRTの施行決定や使い分け,再燃性の予測に大腸内視鏡検査が重要である.今後,クローン病を含めた炎症性腸疾患の新しい治療法として ELRT の確立が期待される.

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第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
外科療法

佐々木 巌 東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座生体調節外科学分野 教授

要旨
 潰瘍性大腸炎とクローン病の外科治療では内科との連携が重要である.前者では,炎症の場である大腸を全摘して自然肛門を温存する術式選択により生活の質(QOL)の高い根治的治療が可能である.後者では,手術を受けても高率に再発を来すため再度の小腸切除では短腸症候群となるリスクがある.外科治療の目的はQOLを障害する合併症の除去にある.基本術式は病変部の小範囲腸切除であり,不必要な腸切除は避ける.手術適応として最も多い狭窄病変に対しては狭窄形成術が考慮される.

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第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
経過・予後

渡辺  修  名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座病態修復内科学分野
安藤 貴文  名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座病態修復内科学分野
後藤 秀実  名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座病態修復内科学分野 教授

要旨
 潰瘍性大腸炎は血便,下痢,腹痛などを症状とする慢性の炎症性疾患である.発症当初には炎症の激しい症例もあり手術を施行されることもあるが,その後は再燃と緩解を繰り返すことが多い.一方,クローン病は腹痛,下痢,発熱などの症状で発症するが,全消化管を侵しうる疾患のため,病変の範囲や罹患期間などその後の症状は多彩である.腸管合併症のために手術が必要となる症例も多いが,可能な限り保存的治療を行うのが原則である.両疾患とも長期経過例では大腸癌などの発生の危険性があり,特に潰瘍性大腸炎では早期発見のためのサーベーランスが必要である.

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第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
癌化サーベイランス

渡邉 聡明 東京大学大学院医学系研究科臓器病態外科学講座腫瘍外科学 助教授
名川 弘一 東京大学大学院医学系研究科臓器病態外科学講座腫瘍外科学 教授

要旨
 長期罹患潰瘍性大腸炎には癌合併のリスクが高いため,癌の早期発見のためサーベイランスの重要性が指摘されてきた.最近はサーベイランスをいかに効率的に行うかが問題となっている.また,癌が認められた場合は,大腸全摘術の適応となる.大腸全摘術は,これまで二期的あるいは三期的に行われてきたが,最近は一期的にも行われている.潰瘍性大腸炎合併癌の診断および治療について概説した.

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第4章 炎症性腸疾患の管理・治療
炎症性腸疾患における医療経済

北野 厚生 医療法人橘会東住吉森本病院消化器病センター 所長
飯重 正樹 医療法人橘会東住吉森本病院消化器病センター
小林  慎  クレコンリサーチアンドコンサルティング(株)医療アセスメント研究部

要旨
  炎症性腸疾患は,慢性炎症性病変を病態の主体とする難治性疾患であるが,これまで医療経済的な検討は十分に行われていない.大阪府の公費負担額のデータから全国規模の医療費の推計を試みたところ,炎症性腸疾患のために年間約130億円の医療費が発生しているものと推計された.また,医療施設における医療費調査により,炎症性腸疾患における薬剤費の割合が非常に高いことが明らかとなった.今後,薬剤を中心とする治療法の医療経済性の検討のためには,質調整生存年を効果指標とし,増分費用対効果によって費用対効果を評価することが必要であると考えられた.

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第5章 炎症性腸疾患のガイドライン
炎症性腸疾患のガイドライン

上野 文昭 大船中央病院 特別顧問

要旨
 診療ガイドラインは適切な臨床判断を支援するために作成される.近年ではEBMの手法を用いた科学的な開発手法が提唱され,それに必要な要素も制定されている.しかしながら,専門性の高い炎症性腸疾患の診療においては,既存のエビデンスのみに基づいた診療ガイドラインの利用コンプライアンス不良が懸念される.エビデンスを重視しながら専門家の意見を汲みいれて統合した診療ガイドラインの開発が望まれる.

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