要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 2/呼吸器2
喘息 改訂第2版


第1章 概念・定義と疫学
概念・定義

福田  健  獨協医科大学呼吸器・アレルギー内科 主任教授

要旨
 喘息の定義を要約すると以下のようになる.気管支喘息は,臨床的には発作性の咳,喘鳴,呼吸困難,生理的には可逆性の気道狭窄と気道過敏性の亢進を特徴とし,病理組織学的には,喘息特有の気道炎症とその結果として起る気道リモデリングを特徴とする.気道炎症の発症には個体因子と環境因子が関与し,気道炎症と気道リモデリングは気道狭窄と気道過敏性亢進の主因である.概念と定義の歴史的変遷について述べた.

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第1章 概念・定義と疫学
疫 学

廣瀬  敬   昭和大学医学部呼吸器・アレルギー内科 准教授
足立  満   昭和大学医学部呼吸器・アレルギー内科 教授

要旨
 我が国の喘息の有症率は,3.0〜9.1% で年々増加傾向にある.一方,吸入ステロイド(ICS)や診療ガイドラインの普及により,喘息死は減少している.特に5〜34歳の喘息死亡率は,人口 10 万人対 0.1 まで減少した.しかし,2009 年にはいまだ年間 2,138 例の喘息死が存在し,その 80% 以上が高齢者である.現在,厚生労働省による「喘息死ゼロ作戦」が進行中であるが,高齢者の喘息管理を向上することが重要である.
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第2章 病理・病態生理
病 理

新実 彰男   京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学 准教授

要旨
 喘息の病理所見は,喘息死患者の剖検肺,肺癌などの合併による切除肺,気管支鏡下の粘膜生検により検討されてきた.炎症細胞浸潤や浮腫といった気道炎症に加えて,近年では慢性炎症の持続に伴って生じ,気道の不可逆的狭窄などの原因となる気道リモデリング(気道平滑筋の増加,線維化,血管新生,分泌組織の増生など)の概念が注目を集めている.単に病理像を知るだけではなく,その成因や病態生理学的意義まで正しく理解することが新たな治療戦略の発想,展開をもたらすものと考えられる.

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第2章 病理・病態生理
病態生理

松本 久子    京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学

要旨
 喘息は,好酸球やリンパ球などの種々の炎症細胞や2型ヘルパーT細胞(Th2)系サイトカインを中心とした気道炎症,気道リモデリング,気道過敏性亢進と,多くは可逆性の気流閉塞で特徴づけられる.喘息の病態の本態が気道炎症と認識されるようになって久しいが,炎症と連動して生じる生理学的変化についての理解も欠かすことはできない.本稿では,炎症と生理学的変化との関係を軸に喘息の病態生理を概説し,吸入ステロイド治療下で残存する所見についても言及する.

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第2章 病理・病態生理
病 因

伊藤 功朗  京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学

要旨
 喘息は多因子遺伝性疾患に位置づけられており,複合的な遺伝的素因のある個体に環境因子の影響が加わって発症すると考えられている.これまでにさまざまな分子生物学的研究で多数の遺伝子が喘息関連遺伝子候補とされた一方で,疫学的研究で多数の環境因子が病態に関与することが示唆されてきた.喘息の病態にかかわる遺伝子や環境因子を明らかにすることは,個人の発病リスクを評価して予防につなげることや発病した患者のテーラーメイド治療に役立つことが予想される.

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第3章 診断・鑑別診断
診 断

松本 久子   京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学
要旨
 成人喘息の診断は,咳嗽や喘鳴を伴う発作性の呼吸困難などの症状と,気道過敏性亢進や,多くは可逆性の気流閉塞などの客観的指標に基づく.典型的な病歴がそろい,発作で受診した症例では,喘息を診断することはそれほど困難ではない.しかし,喘息の症状,身体所見,呼吸機能は発作性・間欠的であるため,非発作時に受診したときは,喘息の診断を見落とすこともある.丁寧な問診により有症状時の状態や誘発因子を聞きとり,症状の可逆性を確認することが診断の鍵となる.
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第3章 診断・鑑別診断
検査所見

山口 将史    滋賀医科大学呼吸循環器内科

要旨
 気管支喘息は,気道の慢性炎症とそれに伴う気道過敏性亢進,可逆性の気道狭窄が特徴である.従来は気道狭窄の程度や気道過敏性を測定する方法が主であったが,近年気道炎症を直接評価する方法も開発されてきている.しかし,気道炎症と気道狭窄の程度は常に一致するわけではなく,単独の検査では診断や重症度の正確な把握はできない.したがって,複数の検査法を組み合わせて行い,おのおのの長所と短所を考慮したうえで,総合的に評価する必要がある.
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第3章 診断・鑑別診断
鑑別診断

伊藤 功朗   京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学

要旨
 気管支喘息はさまざまな年齢層の患者においてさまざまな呼吸器症状で発症するため,鑑別を要する疾患の幅が広い.うっ血性心不全などの急性疾患との鑑別は生命にかかわる点で重要であるし,慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性疾患との鑑別は疾患の長期管理方針にかかわる点で重要である.それぞれの疾患の典型的な徴候や検査所見を押さえつつ,鑑別を行っていくことが重要である.

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第4章 管理・治療
管理・治療の原則

富井 啓介   神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科 部長

要旨
 喘息の管理・治療においてガイドライン上求められる目標を達成するためには,患者医師間パートナーシップに基づく個別化した患者教育によって,自己管理能力を高めなければならない.その内容は,@喫煙,抗原曝露,気道感染などの悪化増悪因子を避ける方法,A症状,ピークフロー値などによる個々に応じた管理治療マーカーの設定,B患者自身で決定できるきめ細かい行動計画書の作成,などである.

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第4章 管理・治療
基礎療法(アレルゲン回避,アレルゲン免疫療法)

中込 一之    埼玉医科大学呼吸器内科・アレルギーセンター 講師

要旨
 ダニ曝露量はダニ感作率と相関し,ダニ感作は喘息発症の可能性を有意に高める.さらに,喘息発症患者では,アレルゲン曝露は喘息を確実に悪化させる.したがって,アレルゲン回避などのアレルゲン対策は喘息発症予防および管理に重要である.アレルゲン免疫療法は,より能動的なアレルゲン対策であり,アレルギー疾患の自然経過を修飾しうる治療法である.軽〜中等症のアトピー型喘息,特に鼻炎合併例で良い適応であり,さらに新規のアレルゲン感作を抑制する可能性も示唆されている.
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第4章 管理・治療
薬物療法・選択基準

浅井 一久   大阪市立大学大学院医学研究科呼吸器病態制御内科学 病院講師
平田 一人   大阪市立大学大学院医学研究科呼吸器病態制御内科学 教授
  
要旨
 喘息治療には,抗原回避などの基礎療法,吸入薬,経口薬,貼付薬などの薬物療法がある.喘息の薬物療法の目標は,症状・増悪がなく,呼吸機能も正常なレベルに速やかに持ち込むことであり,加えて,副作用のないことも望まれる.本稿では,『喘息予防・管理ガイドライン』の段階的薬剤投与プランを概説し,薬物療法の選択基準を示す.また,患者の年齢・身体状況などによる薬剤選択のポイントにも言及したい.

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第4章 管理・治療
治療薬剤1.発作治療

武田 直也  刈谷豊田総合病院呼吸器・アレルギー内科 医長

要旨
 喘息発作に対しては,速やかな重症度の評価と治療の開始が重要である.初期治療としては短時間作用性β2 刺激薬の吸入を行い,効果が不十分な場合には全身性ステロイド薬の点滴静注と必要に応じて酸素投与を開始する.重度以上の発作に対しては呼吸管理が必要となる場合があり,慎重な評価と迅速な対応が必要である.


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第4章 管理・治療
治療薬剤2.長期管理

城  大祐   東京大学医学部附属病院呼吸器内科

要旨
 気管支喘息の長期管理で中心的な役割を担う治療薬は,吸入ステロイド薬(ICS),吸入長時間作用性 β2 刺激薬(LABA),およびこれら2剤の配合剤(ICS/LABA)となる.これらに加えてロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を始めとした抗アレルギー薬やテオフィリン徐放製剤などの治療薬を症状のコントロール状況に応じて追加していく.さらに,最近では抗免疫グロブリンE(IgE)抗体の皮下注射も難治症例の一部に保険適応となった.難治症例においては,病態に応じた治療を可能とする新規治療薬の開発が望まれる.
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第5章 経過・予後,医療費
経過・予後

山内 康宏    東京大学医学部附属病院呼吸器内科

要旨
 気管支喘息は小児・成人・高齢者のあらゆる年代において発症し,その症状は寛解状態になることもあれば,間欠型の発作のみの場合や重症で症状が持続することなどさまざまである.喘息に対する吸入ステロイド(ICS)治療の導入により症状コントロールが良好となり,呼吸機能が改善し喘息の増悪や喘息死は減少してきている.本稿では,小児・成人・高齢者における喘息の特徴や経過・予後に関して,最近の知見や論文をもとにまとめてみた.
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第5章 経過・予後,医療費
医療費

泉  孝英   京都大学 名誉教授

要旨
 1990 年代からの喘息への吸入ステロイド薬の導入により,患者数の減少,死亡者数の激減など我が国においても喘息医療の様相は一変した.しかし,2008 年度の医療費の面からみると,欧米にみられたような医療費の激減は起らず,増加している.「適切な医療・妥当な医療費」という立場からみれば,受診回数の多さ,薬剤の多用,高価な合剤の使用勧奨など,問題点は多い.

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第6章 特殊な病態・トピックス
慢性咳嗽・咳喘息

新実 彰男  京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学 准教授

要旨
 長引く咳で受診したら,まず胸部X線(X−p)で異常を示すときに重篤にも成りうる疾患と,喘息とを見落とさないようにする.後は主要な原因疾患を念頭に置いて,病歴と可能な範囲の検査で疑い診断をつける.最終的には各疾患に特異的な治療の有効性により診断を確定させる.3〜8週の遷延性咳嗽では自然軽快する感染後咳嗽の頻度が高いが,8週以上持続する慢性咳嗽では,咳喘息が最多の原因である.中枢性鎮咳薬による非特異的治療は避けるように努める.
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第6章 特殊な病態・トピックス
難治性喘息

金子 正博      神戸市立医療センター西市民病院呼吸器内科 医長

要旨
 難治性喘息とは,通常の治療ではコントロールが得られない喘息である.診療にあたっては,喘息以外の疾患の可能性を否定したうえで,真の“重症(難治性)喘息”と,アドヒアランスを始めとする喘息以外の要因により難治化している“治療困難喘息”を区別する必要がある.また,“重症(難治性)喘息”においては種々の病態が背景にあると考えられ,表現型(フェノタイプ)に対応した治療が検討されている.

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第6章 特殊な病態・トピックス
職業性喘息

角  勇樹   東京医科歯科大学呼吸器内科 講師

要旨
 職業性喘息(OA)には,免疫惹起による喘息(潜伏期間のある喘息)と刺激物質による OA がある.診断には問診(症状の出現パターン,職業歴,類似症状者の有無,曝露物質など),ピークフロー測定が特に有用である.治療は通常の喘息と同様であるが,そのほかに抗原回避が特に重要で,曝露防止の安全衛生管理や職場転換が必要である.抗原曝露期間が短いほど OA の経過は良好であるが,一度発症してしまうと完治は困難である.
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第6章 特殊な病態・トピックス
ABPA・CSS

釣木澤尚実    独立行政法人国立病院機構相模原病院アレルギー呼吸器科

要旨
 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)とChurg−Strauss 症候群(CSS)は難治性喘息の一型として挙げられる代表的疾患であるが,初期の診断が難しいことも多い.喘息症例で難治性である,好酸球増多を認める,好酸球性肺炎(CEP)の既往がある,副鼻腔炎の既往がある(CSS),真菌に対する感作がある(ABPA)症例は,これらの疾患を疑い鑑別診断に挙げることが重要である.ABPA の進行例では不可逆的な肺の線維化を来し,CSS の急速進行例では致命的となることもあるため,いずれの疾患も早期診断,早期治療が重要である.

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第6章 特殊な病態・トピックス
吸入ステロイド/長時間作用性β2 刺激薬配合剤の有用性

石原 享介    神戸市立医療センター西市民病院 院長

要旨
 吸入ステロイド/長時間作用性β2 刺激薬(ICS/LABA)配合剤は有症状喘息患者にとっては第1選択薬である.小量の吸入ステロイド(ICS)でより優れたコントロールが得られ,何よりも治療がシンプルになる.ウイルス感染による喘息増悪においても,ICS 単独より配合剤が有効であることが示されている.配合剤でいったんコントロールされた後,どのようにステップダウンするかについては,個々の患者の発作歴や重症度を考慮し,決定されるべきであろう.

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第6章 特殊な病態・トピックス
新しい薬剤

玉岡 明洋   東京医科歯科大学呼吸器内科

要旨
 気管支喘息の治療は吸入ステロイドの登場により大幅に向上し,さらに長時間作用性β2 刺激薬との配合剤の登場やロイコトリエン受容体拮抗薬の併用,抗免疫グロブリンE(IgE)抗体の実用化により,治療成績はさらに改善した.それでもなお,治療に抵抗性の患者が少なからず存在し,高用量ステロイド投与による全身副作用の問題も依然として存在する.本稿では,吸入ステロイドを中心とした現行の治療を補完しうる,新規喘息治療薬の可能性について述べたい.

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第6章 特殊な病態・トピックス
画像所見

小熊  毅   京都大学医学部附属病院呼吸器内科

要旨
 喘息の臨床において画像検査はあまり重要視されていないが,異常所見がみられないわけではない.また,研究目的には積極的に利用されている.評価には主に CT 画像が用いられ,中枢気道における気道壁肥厚,末梢気道閉塞を反映した平均肺野濃度(MLD)の低下,低吸収領域(LAA)の増加,モザイクパターンなどが代表的な所見である.近年のスキャナの性能向上に伴い3次元的解析が可能になったことで,研究におけるその重要性は増しつつある.

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