要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 3/呼吸器3
サルコイドーシス



第1章 サルコイドーシスの概念・定義
概念・定義

泉孝英
京都大学名誉教授・滋賀文化短期大学 教授

要旨
 サルコイドーシスは,1877 年の報告以来,120 年以上にわたる歴史を有する疾患である.しかし,サルコイドーシスという全身性疾患を表す病名が広く用いられ,疾患概念が論ぜられるようになったのは,1960 年(第2回ワシントン国際会議)前後以降のことである.本稿においては,サルコイドーシスの定義・概念に関する記述の変遷をたどりながら,サルコイドーシスという疾患がどのように理解され,どのような対応が試みられたかについて述べた.

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第1章 サルコイドーシスの概念・定義
疫 学

山口 哲生
JR東京総合病院呼吸器内科 部長

要旨
 サルコイドーシスは人種によって病態が大きく異なり,欧米の方が日本よりも重症例が多い.発病は,世界的に見ても寒冷地に多く,日本では北海道に多い.女性にやや多く,有病率では男女とも若年者と中高齢者に2峰性の山がある.最近本症が増加していることは間違いないが,自覚症状で発症して受診してくる例が増えている.日本は眼サルコイドーシスと心サルコイドーシスが多く,心サルコイドーシスによる死亡が多いという特徴がある.今後サルコイドーシスの疫学の正確な把握のために,電子登録システムの充実と有効利用が期待されている.

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第2章 サルコイドーシスの病理・病態生理
病 理

武村 民子
日本赤十字社医療センター病理部 部長

要旨
 サルコイドーシスの基本的病理像は非乾酪性類上皮細胞肉芽腫であるが,非肉芽腫病変として,リンパ球浸潤(肺においてはリンパ球性胞隔炎)とミクロアンギオパチーがある.肺における肉芽腫の分布はリンパ管周囲性(perilymphatics)であり,肉芽腫の局在,融合性,血管,リンパ管侵襲の程度がその後の線維化過程に密接にかかわっている.剖検肺の検討から,肺サルコイドーシスにおける上葉収縮には気管支・血管束の肉芽腫形成と,それに伴う線維化ならびに周囲肺胞の虚脱が関与している.

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第2章 サルコイドーシスの病理・病態生理
病 因

中田安成
岡山大学医学部保健学科検査技術科学 教授

要旨
 サルコイドーシスの病因追求についての歴史的経過を紹介するとともに,類上皮細胞肉芽腫形成の誘因物質としての Propionibacterium acnes(P. acnes)について,病巣からの菌および遺伝子の分離,免疫組織学的手技による肉芽腫への P. acnes 菌体成分の集積,さらには病巣のリンパ球の P. acnes による感作などの知見を紹介し,本症の病因物質としての可能性について紹介する.


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第2章 サルコイドーシスの病理・病態生理
病態生理

山口 悦郎
北海道大学医学部第一内科 助教授

要旨
 サルコイドーシスの病因が未解決のため,その病態の根本は不明である.しかし,近年肉芽腫形成に至る炎症病態を構成するさまざまな分子の動態が明らかにされつつある.特に,IFN- gamma産生を誘導する IL-18 や,炎症細胞の集積をもたらすケモカインの役割が多く報告されている.一方,遺伝素因の解析も盛んになりつつあり,ゲノムスキャン結果が初めて報告された.本邦でも難治例が増加している昨今,治療法の確立に寄与する病態解析のためには,病因の解明が待たれる.
 サルコイドーシスの肺病変は極めて多彩で,気管支肺胞洗浄(BAL)のみで確認される胞隔へのリンパ球浸潤から,広範な線維化による肺野の高度な縮小まで幅広い.そこには,炎症細胞の集積とそれらの集合としての肉芽腫形成,線維化など炎症の大部分の要素が含まれる.その機序を解析することは,他の炎症性肺疾患についても示唆に富む知見が得られることになる.本稿では,肺サルコイドーシスの病態に関するここ数年の進展を中心に解説する.

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第3章 サルコイドーシスの診断
診断の基本

高橋 卓夫* 臼杵 二郎* 吾妻安良太** 工藤 翔二*** 
*日本医科大学第四内科 **同講師 ***同教授

要旨
 サルコイドーシスの診断は,臨床所見に加えて,非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫の存在が認められれば確実となる.日本においては,1989 年に当時の厚生省により特定疾患に指定され,診断基準が発表されている.この基準には,サルコイドーシスが,すべての症例に確定診断を行うことが困難なために,臨床診断が規定されている.しかし,本症は多彩な臨床症状,臨床所見を呈する疾患であり,現行の基準においても診断に難渋する場合があり,診断は総合的臨床的な判断が必要となる.

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第3章 サルコイドーシスの診断
画像診断

伊藤 春海
福井医科大学放射線医学 教授

要旨
 サルコイドーシスはびまん性汎細気管支炎,特発性肺線維症(IPF/UIP)とともに HRCT を呼吸器臨床の場に定着させた最も重要なびまん性肺疾患である.これらの3疾患において,胸部X線写真だけでは診断困難な肺既存構造と病変との関係が,HRCT を用いて明瞭に描出され,びまん性疾患一般の画像診断を進歩させるうえでモデルとなった.サルコイドーシスで見られる微細病変は,リンパ管を有する肺構造に沿って形成され,しかもコントラストが良く,HRCT による診断に適している.

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第3章 サルコイドーシスの診断
肺機能検査所見

新美  岳*  佐藤 滋樹**上田 龍三***
*名古屋市立大学医学部第二内科 **同 助教授 ***同 教授

要旨
 サルコイドーシスは多臓器にわたる原因不明の肉芽腫性疾患である.胸郭内病変の経過は肺門.縦隔リンパ節腫脹のみで自然消退する例が多いが,肺の間質性病変が進行し線維化に進展する例もある.こうした進行性病変を反映し,肺機能検査所見としては,スパイロメトリーでの % 肺活量の減少,肺拡散能の減少などが見られることがある.本邦において頻度の高い,胸部X線写真上肺野病変のないサルコイドーシスでは肺機能検査の異常は少なく,呼吸器症状を持つ症例,および進行遷延症例での経過観察において,X線撮影に併用して肺病変のモニターに使用されることが多いと考えられる.
 一方,サルコイドーシスにおいて気道過敏性の亢進が示唆されている.臨床的には咳症状に気道過敏性が関与していると考えられ,さらに ACE 遺伝子多型の関与も示唆された.詳細は今後の検討課題である.

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第3章 サルコイドーシスの診断
血液検査所見

岳中 耐夫
市立熊本市民病院 首席診療部長

要旨
 サルコイドーシスの血液検査として,その診断基準のための検査項目になっているものは, gammaグロブリン量,血清アンジオテンシン変換酵素活性,血清リゾチーム活性の3項目である.特に,血清アンジオテンシン変換酵素は重要である.この3検査について詳細に解説する.次いで,最近話題となった ACE 遺伝子多型について述べ,また本症の特徴の一つとして高カルシウム血症が指摘されていること,および各種のサイトカインの話題を解説する.自験例の検討も加えて解説していることをご了承願いたい.

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第3章 サルコイドーシスの診断
気管支肺胞洗浄液所見


四十坊典晴** 市村 志保* 阿部 庄作***
*札幌医科大学第三内科 **同 講師  ***同 教授

要旨
 びまん性肺疾患の診断,予後,治療適応と評価のため,気管支肺胞洗浄法は有力な検査手法である.その手技の実際およびサルコイドーシスでの診断的意義を解説する.活動性の高いサルコイドーシス症例では CD4 陽性T細胞が優位であり,IFN gammaおよび IL-2 の産生亢進を認める.自然寛解例や進行例において,細胞や液性成分および遺伝子レベルで種々の検討がなされおり,その最近の成績を解説する.

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第3章 サルコイドーシスの診断
サルコイドーシスと鑑別されるべき疾患:(1)過敏性肺臓炎

菅  守隆
熊本大学医学部第一内科 助教授

要旨
 過敏性肺臓炎はIII型およびIV型アレルギー反応が細気管支から肺胞にかけて起こる結果発症するびまん性肉芽腫性間質性肺炎の総称である.診断は,症候と病歴,特徴ある HRCT 所見,抗原回避による症状の軽快,環境誘発による再燃が重要であり,これに特異抗体の証明があれば確診となる.治療と予防の三原則は,原因抗原からの患者隔離,生活環境から原因抗原を除去するための環境改善対策,薬物療法としてのステロイド薬の投与である.

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第3章 サルコイドーシスの診断
サルコイドーシスと鑑別されるべき疾患:(2)慢性ベリリウム症


濱田 泰伸
愛媛大学医学部第二内科

要旨
 慢性ベリリウム症はベリリウムおよびその化合物の吸入暴露の後に,遅延型過敏反応により,肺に非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫を形成する慢性の炎症性疾患である.その臨床所見,画像所見および病理組織所見は,サルコイドーシスのものと極めて類似しているため,サルコイドーシスと鑑別されるべき重要な疾患である.慢性ベリリウム症の診断には,ベリリウム特異的細胞性免疫反応(リンパ球増殖試験やパッチテスト)が重要である.

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第3章 サルコイドーシスの診断
サルコイドーシスと鑑別されるべき疾患:(3)特発性肺線維症

井上 義一
国立療養所近畿中央病院臨床研究センター呼吸不全研究部 部長

要旨
 特発性肺線維症は原因不明の間質性肺疾患の中でも頻度が多く予後不良の慢性型肺病変である.病理所見で通常型間質性肺炎(UIP)を呈する.診断に高分解能 CT(HRCT)が有用である.治療は有効な治療法がないとされるが,対症療法,ステロイド薬と免疫抑制薬投与が行われる.最近,国際コンセンサスステートメントが発表され,本邦でも診断基準の第4次改訂が進行中である.サルコイドーシスとの鑑別は典型的な例ではさほど困難ではない.

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第4章 サルコイドーシスの管理・治療
管理・治療の基本

長井 苑子
京都大学大学院医学研究科呼吸器病態学 助教授

要旨
 サルコイドーシスは,類上皮細胞肉芽腫病変形成を主徴とする原因不明の全身性疾患である.主なる病変部位は,肺(縦隔/肺門リンパ節,肺野),眼,皮膚であるが,病変は多臓器に及んでいる.急性経過例もあるが,多くの症例は慢性経過をとる.自然寛解例も多いが,長期の経過をたどる症例の一部は,肉芽腫病変から線維化病変に進展し,難病化する.ここでは,肺病変を中心に,しかし,サルコイドーシスは全身性疾患であることを意識した管理・治療の基本について記載した.

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第4章 サルコイドーシスの管理・治療
治療薬剤:(1)ステロイド薬

杉崎 勝教
大分医科大学第三内科 講師

要旨
 サルコイドーシスにおけるステロイド治療については,自然寛解が多いことを考慮してその適応を慎重に判断することが重要である.放置した場合後遺症を残し QOL の著しい障害が予想される症例や,急性進行性の症例では,直ちに治療を開始する場合があるが,多くはまず3-6カ月の経過観察を行い,この間に自他覚所見が持続・増悪する症例について治療が考慮される.ステロイド治療に対しては一般に良好な反応を示すが,減量・中止に伴い再発することが多く,治療の長期的な継続が必要となる.

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第4章 サルコイドーシスの管理・治療
治療薬剤:(2)代替治療薬剤

濱田 邦夫
京都大学医学部附属病院呼吸器内科

要旨
 サルコイドーシスの治療の第1選択薬剤はステロイド薬であるが,治療には反応せずに慢性化,重症化する症例,あるいは無視できない副作用が出現する症例も数多い.そのような場合,免疫抑制薬,ビタミンD代謝阻害薬,TNF 抑制薬などが代替治療薬剤として投与され,ステロイド薬と併用されることが多い.治療報告は十分多いとは言えず,その効果判定については,今後の臨床検討が待たれる.


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第4章 サルコイドーシスの管理・治療
酸素療法その他

重松三知夫
京都大学医学部附属病院呼吸器内科

要旨
 肺サルコイドーシス症例の一部では,数年から 20 年の経過で徐々に肺病変が進行し,不可逆的な線維化を来し,呼吸困難を自覚するようになる.さらに,一部の症例では呼吸不全が顕在化し,酸素療法の適応となる.合併症として種々の感染症,気胸,肺高血圧症などが見られ,管理上の問題となる.

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第4章 サルコイドーシスの管理・治療
経過・予後

千田 金吾
浜松医科大学第二内科 助教授

要旨
 サルコイドーシスの原因として Propionibacterium acnes が推定されているが,一方で多彩な臨床症状・合併症を呈することから,サルコイドーシスの起因物質は一つではない症候群様の様相を保持している.このことは確実な予後関連因子を特定できていないことと関連する可能性がある.サルコイドーシスの予後においては,1)症例ごとにさまざまであること,2)一見,治癒したと思われる症例に,心病変の進行のためペースメーカーの対象となる症例や,腎障害を来す症例があること,3)遷延化例,難治例,予後不良例の意味の違い,などを念頭に置く必要がある.

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第5章 肺外サルコイドーシス
眼サルコイドーシス

大原 國俊
日本医科大学眼科学 教授

要旨
 サルコイドーシスが眼病変(眼サルコイドーシス)から発見されることが多いこと,性差,年齢の特徴を述べた.臨床像の特徴を示し,眼サルコイドーシスは自覚症状が少なく,本症を疑うときは眼科精査が必要であることを強調した.確定診断が困難な疑診例が多いことから,眼病変の特異性を推論した.眼サルコイドーシスの組織診断として,眼科医が行う blind bipsy としての結膜生検の有用性を示した.治療として,ステロイド薬内服適応が 34% あった.視力予後は比較的良好であるが,5年以上経過した症例で視力 0.5 以下の予後不良例が約 21% ある.

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第5章 肺外サルコイドーシス
皮膚サルコイドーシス

岡本 祐之
関西医科大学皮膚科 助教授

要旨
 皮膚サルコイドーシスは非特異的病変である結節性紅斑と,異物に伴う瘢痕浸潤,特異的病変の皮膚サルコイドに分類される.本邦では顔面の結節型皮膚サルコイドや膝蓋部の瘢痕浸潤の頻度が多い.しばしば発見時症状となり,確実な生検が行いやすいこと,また,他臓器病変との関連性が示唆されている皮膚病変があることや,病勢の悪化に伴い皮疹が増悪しやすいことから,皮膚病変はサルコイドーシスの診断と経過を診るうえで重要な病変と考えられる.

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第5章 肺外サルコイドーシス
心サルコイドーシス

植村 晃久*  森本紳一郎 **
**藤田保健衛生大学医学部循環器内科 講師  **同 助教授

要旨
 心サルコイドーシスは,心不全死や突然死を引き起こし予後が不良な例が多く,本邦ではサルコイドーシス症例の 47-78% が心病変で死亡している.早期診断が重要で,「心臓サルコイドーシス診断の手引き」に基づき,心内膜心筋生検,心エコー検査や核医学検査を行い総合的に判断する.診断がつき次第,早急にステロイド治療の導入を考慮する.投与法は「心臓サルコイドーシスの治療ガイドライン」を参考に行う.

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第5章 肺外サルコイドーシス
神経サルコイドーシス


石川 光紀*1 秋口 一郎*2
*1石川医院 院長 *2医療法人財団武田病院神経脳血管センター 所長

要旨
 神経サルコイドーシスは,すでに他の臓器病変により診断が確定している場合のほか,神経症候に初発することもあり,その診断・治療には注意を要する.最近の非侵襲性画像検査,特に MRI は本来特異的診断が困難な本症において,徐々にその役割を増してきている.また治療については,従来のステロイド療法に抵抗性の症例で,免疫抑制薬,放射線療法などとの併用が試みられている.
 本稿では,中枢・末梢神経系と筋までを含めた神経サルコイドーシスについて,その病態,診断から治療までを概説する.


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