要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 31/腎3
ANCA関連腎炎



第1章 ANCA関連腎炎の概念と定義
歴史と概念・定義

長澤 俊彦  杏林大学 学長

要旨
  ANCA関連腎炎は,1980年代後半から1990年前半にかけて確立した概念である.血清中の抗好中球細胞質抗体(ANCA)が陽性であることを絶対条件とし,臨床的に急速進行性糸球体腎炎(RPGN)症候群を呈し,病理組織学的に蛍光染色陰性の半月体形成腎炎を呈することを特徴とする.検出される ANCAのサブセットからMPO-ANCA関連腎炎とPR3-ANCA関連腎炎に分けられるが,我が国では前者が圧倒的に多く,しかも高齢者に発症しやすい.MPO-ANCA関連腎炎は腎炎のみの型,腎炎に肺出血・間質性肺炎を伴う型,さらに他の臓器障害を伴う型に分けられる.PR3-ANCA関連腎炎は上気道・肺の肉芽腫性病変に続いて起ることが多い.血管炎の立場からはMPO-ANCA関連腎炎は顕微鏡的多発血管炎の腎障害,PR3-ANCA関連腎炎はWegener肉芽腫症の腎障害とみなすことができる.

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第1章 ANCA関連腎炎の概念と定義
疫 学

山縣 邦弘  筑波大学大学院人間総合科学研究科腎臓病態医学分野 助教授
小山 哲夫  茨城県立医療大学 学長

要旨
 我が国の急速進行性糸球体腎炎(RPGN)症例 1,342 例中 67.6% がANCA関連腎炎によるものである.ANCA陽性例の中では,重複例も含め 94.6% でMPO-ANCAが陽性であった.最も症例数の多いMPO-ANCA単独陽性のpauci-immune型RPGNおよび顕微鏡的多発血管炎においては,近年,治療開始時血清クレアチニンの有意な低下,初期治療における経口ステロイド剤の投与量が有意に減少しており,その結果,死亡原因における感染症はいまだ多いものの,生命予後,腎機能予後とも有意な改善を認めていた.

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第2章 ANCA関連腎炎の病理・病態生理
病 理

城   謙輔  独立行政法人国立病院機構千葉東病院臨床研究センター免疫病理研究部 部長
北村 博司  独立行政法人国立病院機構千葉東病院臨床研究センター免疫病理研究部 室長
今澤 俊之  独立行政法人国立病院機構千葉東病院臨床研究センター免疫病理研究部 室長

要旨
 ANCA関連腎症は,弓状動脈,小葉間動脈,輸入・輸出細動脈,糸球体毛細管係蹄,尿細管周囲毛細血管,静脈を覆う小血管炎として現れる.また,血管炎は腎に限局せず,肺,気道・鼻腔,消化管,皮膚,神経,筋肉など全身性諸臓器の小動脈や毛細血管への広がりを持つ.この疾患群は,免疫複合体沈着が少量かあるいは沈着のない pauci-immune 型で,Wegener肉芽腫症,顕微鏡的多発血管炎,Churg-Strauss症候群が含まれ,病理学的には,フィブリノイド壊死性動脈炎,びまん性壊死性半月体形成性糸球体腎炎,尿細管周囲毛細血管炎を特徴とする.



第2章 ANCA関連腎炎の病理・病態生理
病態生理

吉田 雅治  東京医科大学八王子医療センター腎臓内科 教授

要旨
 ANCA関連腎炎の壊死性半月体形成腎炎の成立は,好中球のα顆粒内のPR3,MPOがTNFαなどの働きで細胞表面上へ移動する.次いでANCAと好中球より放出されたPR3,MPOが他の活性酸素などのメディエータの作用を含め血管内皮細胞と接着し,血管内皮細胞障害を来し壊死性半月体形成腎炎を来すと考えられる(ANCA-cytokine sequence theory).近年 ANCA-IgGを導入したのみのラットでヒトANCA関連腎炎に極めて類似した壊死性半月体形成病変が見いだされた.

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第2章 ANCA関連腎炎の病理・病態生理
病因:(1)遺伝

土屋 尚之  東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻人類遺伝学教室 助教授

要旨
 ANCA関連血管炎・腎炎の確立した疾患感受性遺伝子は少なく,また,ヨーロッパ系集団と日本人の間には遺伝的背景の違いが存在する.日本人ではHLA-DRB1*0901-DQB1*0303ハプロタイプの関連が検出される.最近,プロテイナーゼ3を表面発現する好中球の比率が遺伝的に決定され,この比率が高い表現型とWegener肉芽腫症とが関連することや,KIR と顕微鏡的多発血管炎との関連の可能性が見いだされ,今後の展開が注目される.



第2章 ANCA関連腎炎の病理・病態生理
病因:(2)環境

有村 義宏  杏林大学医学部第一内科 助教授

要旨
 抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連腎炎の発症には,さまざまな環境因子がかかわっている.主な環境因子としては,季節(秋〜冬季に多い),細菌感染症(staphylococcus aureusなど),珪素への暴露にかかわる職業(ビル解体業など),薬剤(抗甲状腺薬,抗生物質など)がある.ANCA関連腎炎は,遺伝的素因に環境因子が加わりANCA産生を生ずるような免疫異常を来し発症すると考えられる.環境因子の研究はANCA関連腎炎の病態解明に重要である.



第2章 ANCA関連腎炎の病理・病態生理
病因:(3)動物モデル

柴田 孝則  昭和大学医学部腎臓内科 助教授
向井 正法  昭和大学医学部腎臓内科

要旨
 抗好中球細胞質抗体(ANCA)の発見は急速進行性糸球体腎炎の診断と治療に対し多くの貢献をし,ANCA 関連腎炎という新たな疾患概念を確立したばかりでなく,腎炎発症機序の研究にも大きなインパクトを与えた.当初,ANCAは疾患の血清学的マーカーとしての重要性が注目されたが,その後,ANCAがin vitroで好中球を活性化するという事実の発見,および動物モデルを用いた発症機序解明への実験的アプローチとその成果は,ANCA関連腎炎におけるANCAの病態生理学的重要性を強く示唆している.



第3章 ANCA関連腎炎の診断
診断:(1)ANCA 関連腎炎

中野 正明   新潟大学医学部保健学科臨床生体情報学講座 教授

要旨
 抗好中球細胞質抗体(ANCA)は 1980 年代に発見された自己抗体である.臨床的には急速進行性腎炎症候群を呈する,特に高齢者の腎障害と密接に関連し,組織学的には半月体形成性糸球体腎炎であることが多い.また,顕微鏡的多発血管炎においてもANCAが高頻度に認められる.近年ANCA陽性で重篤な臨床所見を呈するこれらの疾患が増加している.本稿では,最近重要性が高まっているANCA関連の腎障害について,診断面の留意点を中心に概説する.



第3章 ANCA関連腎炎の診断
診断:(2)ANCA関連肺腎症候群

中林 公正  杏林大学医学部第一内科 教授
大塚 貴子  杏林大学医学部第一内科

要旨
 抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連肺腎症候群は,正確には急速進行性腎炎に肺出血を伴った症例を呼称している.しかし,最近では肺胞隔壁の毛細血管に血管炎を生じ,間質性肺臓炎を呈することから,肺出血を確認できない症例でも,ある程度の広がりを持った症例では,広義の肺腎症候群に含めている.ANCA陽性で肺腎症候群を呈する疾患は,本邦ではMPO-ANCA陽性例が 90% を占めている.生命予後の悪い病態であることから,治療に注意を要する.特に発病6ヵ月以内で死亡する頻度が高い.鑑別すべき疾患として,Goodpasture症候群,IC型血管炎などがある.



第3章 ANCA関連腎炎の診断
診断:(3)ANCA 関連腎炎と他疾患との合併

諏訪部達也  虎の門病院腎センター内科
乳原 善文   虎の門病院腎センター内科 医長
星野 純一   虎の門病院腎センター内科
大橋 健一   虎の門病院病理部 部長
高市 憲明   虎の門病院腎センター内科 部長

要旨
 免疫蛍光(IF)所見や電顕(EM)所見で免疫沈着物質を認めないpauci-immune型腎炎と言われるANCA関連腎炎が,IFやEMで陽性所見を呈する場合には,他の腎疾患の合併が示唆される.厚生労働省急速進行性腎炎研究班や当院の調査では,他疾患の合併と考えられる症例が報告されている.詳細にEM,IFを見直すと,ANCA関連腎炎と他の腎疾患の合併頻度がもう少し増加する可能性がある.



第3章 ANCA関連腎炎の診断
検査:(1)ANCA 測定の意義

有村 義宏  杏林大学医学部第一内科 助教授
  
要旨
 ANCA測定は,ANCA関連腎炎・血管炎の診断および疾患活動性の指標,再燃予知の指標として有用である.ANCA関連腎炎は,腎組織学的には巣状分節性壊死性糸球体腎炎,臨床症候的には急速進行性腎炎症候群を呈し,診断・治療が遅れれば透析導入率,死亡率の高い疾患である.特に,高齢者に初発したタンパク尿,顕微鏡的血尿や血管炎症候を伴う腎炎では,MPO-ANCA関連腎炎の可能性を常に念頭に置き診療することが大切である.

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第3章 ANCA関連腎炎の診断
検査:(2)腎生検の適応と意義

山田  明  杏林大学医学部第一内科 教授

要旨
抗好中球細胞質抗体(ANCA)という血清学的検査方法が開発されたことにより,ANCA 関連腎炎と呼ばれる一群の腎病変は腎生検を行わずとも,半月体形成性腎炎であろうという予測がかなりの程度につくようになった.しかし,半月体が細胞性か線維性かによって治療方針が異なってくるし,また,その他の所見を合せて,ある程度予後を推定することも可能であるので,今なお腎生検には重要な意義がある.

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第3章 ANCA関連腎炎の診断
鑑別診断−急速に経過する腎疾患−

川村 哲也  東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科 助教授

要旨
 急速進行性糸球体腎炎(RPGN)を呈する抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連腎炎の鑑別診断に際しては,まず腎前性および腎後性急性腎不全を除外し,次に急速に進行する可能性のある種々の腎疾患を鑑別する必要がある.その中にはRPGNに代表される糸球体疾患のみならず,腎血管系疾患,急性尿細管壊死,急性間質性腎炎も含まれる.ANCA関連腎炎の正しい診断と治療のために,他疾患との鑑別は非常に重要と考えられる.

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第4章 ANCA関連腎炎の管理・治療
総 論

清水 芳男  筑波大学大学院人間総合科学研究科腎臓病態医学分野 講師
小山 哲夫  茨城県立医療大学 学長

要旨
 致死性疾患であった全身性血管炎および急速進行性糸球体腎炎(RPGN)は強力な免疫抑制療法の普及で生命予後に大きな改善が認められるようになってきた.厚生労働省特定疾患対策事業の成果として,本邦でも『難治性血管炎の診療マニュアル』,『急速進行性腎炎症候群の診療指針』が刊行され,一定のエビデンスを持った診療が可能となってきている.本稿では,全身性血管炎,RPGNの管理・治療についてガイドラインの根拠となった研究成果を軸に概説する.

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第4章 ANCA関連腎炎の管理・治療
薬物療法・選択基準

横山  仁   金沢大学医学部附属病院血液浄化療法部 助教授
和田 隆志  金沢大学医学部附属病院腎臓内科 講師

要旨
 抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎は高齢者を中心に発症し,急速進行性糸球体腎炎(RPGN)を高頻度に併発する.治療法の選択基準として腎外症状の有無,ANCAの種類(MPO-ANCA,PR3-ANCA)と臨床所見のスコア化による重症度をもとにした指針が提言されている.さらに,RPGNは発症様式により急性型と潜行型に大別されるが,潜行型では早期診断とステロイドパルス療法を含む積極的治療により予後の改善が期待される.

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第4章 ANCA関連腎炎の管理・治療
治療薬剤:(1)ステロイド剤

平山 浩一  筑波大学大学院人間総合科学研究科腎臓病態医学分野 講師
小山 哲夫  茨城県立医療大学 学長

要旨
 ANCA関連腎炎におけるステロイド剤は過去の治療成績の報告においても基本薬剤として使用されており,同剤のエビデンスは十分には確認できないものの,標準的初期治療はメチルプレドニゾロンパルス療法,経口ステロイド剤,免疫抑制薬の併用療法とされている.ステロイド剤の投与量・期間は,疾患の活動性を抑制しうるものが必要であるが,本疾患の死因は感染症によるものが多いため,最小限度にとどめることも重要である.

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第4章 ANCA関連腎炎の管理・治療
治療薬剤:(2)免疫抑制薬

山崎 康司  広島市立広島市民病院内科 部長

要旨
 ANCA関連腎炎治療における免疫抑制薬の適応は,炎症反応高度かつ臓器不全に至る危険性のある臓器障害を認める場合で,薬剤としてはシクロホスファミド(CY)が用いられる.CYの投与方法としては腎機能障害や年齢により投与量や投与法の工夫が必要で,高度腎不全や高齢者では感染症のリスクの少ない間欠静注療法が望ましい.また,寛解導入後の維持療法にはアザチオプリン他の免疫抑制薬を組み合わせることが有用である.

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第4章 ANCA関連腎炎の管理・治療
新しい治療薬

武曾 恵理   (財)田附興風会医学研究所北野病院腎臓内科 副所長・部長
猪原登志子  (財)田附興風会医学研究所第一研究部

要旨
 ANCA関連血管炎による腎炎には,標準的免疫抑制療法に加えて,その活動性の機序に応じて経静脈的免疫グロブリン大量療法(IVIg)や各種モノクロナル抗体療法などの免疫補助療法が試みられている.これらは主に急性期に免疫抑制療法に先駆けてあるいは同時に施行されているが,時には患者の免疫力のさらなる低下を招くこともある.IVIgはそれらの危険がなく安全な免疫補助療法であり,今後の我が国独自の検討体制の確立が望まれる.

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第4章 ANCA関連腎炎の管理・治療
血液浄化療法

内田 啓子  東京女子医科大学第四内科 講師

要旨
  ANCA関連腎炎に対して,アフェレーシスは臨床的に効果のある治療法であるが,統計学的には,施行の有無は患者予後に影響しないとの報告が多い.しかし,臨床の現場ではその有用性は認知されており,治療経過中施行の契機をはかっているのが実情である.現在用いられているアフェレーシスの種類と使用法,診療指針におけるアフェレーシスの占める位置について概説する.

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第4章 ANCA関連腎炎の管理・治療
感染症対策

吉田 雅治  東京医科大学八王子医療センター腎臓内科 教授

要旨
 ANCA関連血管炎・腎炎は,高齢者に多く肺腎症候群を呈し,免疫抑制療法の施行により寛解へ導入される症例が多いが,感染症死が死因として最も多い.白血球(好中球)数,リンパ数,IgG量により感染症の重症度を判定し,併発日和見感染症として頻度の高いカリニ肺炎,深在性真菌(アスペルギルス)感染の予防措置としてST合剤(バクタ)の投与,ファンギゾン液の含嗽,イトラコナゾール(ITCZ)の内服の投与により感染症死の減少が期待される.

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第4章 ANCA関連腎炎の管理・治療
経過・予後

湯村 和子   東京女子医科大学第四内科 助教授
板橋美津世  東京女子医科大学第四内科

要旨
 ANCA関連腎炎の診断を行い,治療の選択は,厚生労働省の「進行性腎障害」と「難治性血管炎」の治療指針は基本的に同じであるが,多少異なる(薬物療法・選択基準参照).ANCA 関連腎炎も腎限局かあるいは腎に障害がとどまらず,全身に血管炎が出現する場合とでは,治療の強さも異なる.治療により,尿異常の改善や腎機能の回復が得られる.全身臓器障害を合併する場合は,腎障害も重篤のことも多く,腎機能の回復しないこともあり,維持透析に至る.基礎疾患の治療と感染症の治療が主要な治療となる.腎生検など病理組織所見がない場合は,的確な治療方針ができない場合もある.初期治療後,維持期の治療は,ステロイド薬などの減量により再燃する場合がある.再燃に注意して治療管理をしなければならない.維持透析に至っても腎移植の可能性がある.

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第4章 ANCA関連腎炎の管理・治療
医療経済

小林 茂人  順天堂越谷病院膠原病内科 助教授

要旨
 国民総所得に対して医療費支出が増加傾向にあり,医療費削減の試みがさまざまな国にて考案・実施されている.医療費には実際に必要とした直接医療費のほかに,患者の生産性(休職やパートタイムなど給与・賃金)の損失を意味する間接医療費がある.臓器合併症・後遺症を起す「ANCA関連腎炎・血管炎」では直接医療費だけではなく,間接医療費にも注目し,医療経済のさまざまな側面から検討する必要がある.

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第5章 ANCA関連腎炎のガイドライン
ANCA関連腎炎治療ガイドライン

清水 芳男   筑波大学大学院人間総合科学研究科腎臓病態医学分野 講師
小山 哲夫   茨城県立医療大学 学長

要旨
 これまで,各診療施設で多様であった急速進行性糸球体腎炎に対し,エビデンスに基づいた本邦独自の診療指針が示された.本診療指針中の治療指針はアンケート調査に基づくものであり,エビデンスレベルは高いとは言えないため,あくまでも原則的治療法である.実際の診療にあたっては個々の症例の臨床経過・症状をよく考慮するべきである.

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