要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 32/精神2

第1章 統合失調症の概念・定義と疫学
概念と定義

森本 陽子  慈雲堂内科病院
濱田 秀伯  慶應義塾大学医学部精神神経科学教室 助教授

要旨
 統合失調症の概念の成立と展開について簡略に述べた.はじめに19世紀のドイツ語圏,フランス語圏の,統合失調症につながる精神病概念について紹介し,今日の基礎となるクレペリンの早発痴呆という疾患単位概念,ブロイラーの統合失調症群という症候群概念について述べた.さらに,その後のフランス,アメリカにおける展開について触れ,国際的に繁用されている今日の診断基準を呈示して,統合失調症概念を理解する一助とした.

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第1章 統合失調症の概念・定義と疫学
疫 学

中根 秀之  長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
              病態解析制御学講座精神病態制御学 助教授
太田 保之  長崎大学医学部保健学科臨床作業療法学講座 教授

要旨
 精神医学的疫学研究は,精神科診断学の発展とともに近代的手法が確立しつつある.精神医学的疫学研究の実施には,疾患の概念や診断基準,調査研究のための採用基準,対象症例収集法などさまざまな問題点が存在するが,統合失調症における疫学研究では,発生率,有病率といった頻度の提示のみならず,臨床経過・転帰から社会・文化的特徴まで明らかになってきており,統合失調症の病態解明や地域精神保健福祉に対して有用性は極めて高いと思われる.今後,我が国においても精神医学・医療の分野で大規模な疫学研究が充実することが望まれる.

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第2章 統合失調症の病理・病態生理・成因
遺 伝

赤羽 晃寿   帝京大学医学部精神神経科学講座
上野美華子  帝京大学医学部精神神経科学講座
南光進一郎  帝京大学医学部精神神経科学講座 主任教授

要旨
 統合失調症の遺伝負因は,発症のリスクを高める因子として広く知られている.統合失調症は,糖尿病や高血圧症などの生活習慣病と同様に,複数の遺伝子や環境要因が病気の発症に関与しているものと推定されている.したがって,統合失調症の病因は複雑であり,とりわけ発症に関与する遺伝子の探索は容易ではない.現在進められている分子遺伝研究の現状と今後の方向を概観した.



第2章 統合失調症の病理・病態生理・成因
神経化学

車地 暁生  東京医科歯科大学大学院精神行動医科学 助教授

要旨
 統合失調症の病態には,臨床薬理学的な事実ならびに死後脳およびin vivoにおける神経化学的な研究によって,ドーパミン,グルタミン酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)などの神経伝達の異常が関与していることが分かっている.また,統合失調症の精神症状や認知機能障害といった横断面的な病態に関する知見だけでなく,この疾患の病因と考えられる神経発達障害を示唆する生化学的および分子生物学的な研究結果も多数報告されて いる.

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第2章 統合失調症の病理・病態生理・成因
精神生理

東間 正人  金沢大学大学院医学系研究科脳医科学専攻脳情報病態学 講師

要旨
 統合失調症の中核症状である認知障害を解明する精神生理学的研究について概説した.基礎律動および事象関連電位のP50suppression,mismatch negativity,processing negativityおよびP300に関する知見を紹介し,統合失調症の病態生理にいかなる脳情報処理過程の障害が関与するかについて考察した.



第2章 統合失調症の病理・病態生理・成因
脳画像

平安 良雄  横浜市立大学大学院医学研究科精神医学部門 教授
浅見  剛   横浜市立大学大学院医学研究科精神医学部門
上原 久美  横浜市立大学大学院医学研究科精神医学部門
大塚 達以  横浜市立大学大学院医学研究科精神医学部門

要旨
 近年の科学技術の発展によって,脳の機能や形態を評価することが可能となった.これまで,解明できなかった,精神疾患の病態に関して,多くの新しい知見が紹介されている.統合失調症の多くは慢性に経過し,一部は進行性に精神症状が悪化し社会適応や認知機能の低下を示すことがある.病気の発症と脳の変化がどうかかわっているのか,さまざまな手法で解析が行われている.本稿では,統合失調症神経発達障害仮説に基づいた神経画像研究の中で,小児期発症研究,初発例研究および縦断的追跡研究について,磁気共鳴画像(MRI)形態解析による神経画像研究の結果を総括する.



第2章 統合失調症の病理・病態生理・成因
神経心理学

根本 隆洋  慶應義塾大学医学部精神神経科学教室

要旨
 神経心理学において脳と心理機能の関係は,従来限局性の脳損傷と,その際生じた言語,行為,認知などの障害との関係として検討されてきたが,現在では統合失調症などの機能性精神障害における精神症状や行動異常なども,神経心理学的検討の対象となってきている.脳基盤に立脚した認知機能障害に関する研究は,病態解明のみならずevidence-basedな治療にも寄与すると考えられ,今後の発展が期待されている.



第2章 統合失調症の病理・病態生理・成因
発達障害仮説

秋山 一文   獨協医科大学精神神経医学教室 教授
室井 秀太   獨協医科大学精神神経医学教室

要旨
 発達障害仮説は統合失調症の有力な仮説として議論されている.初発間もない統合失調症患者でも磁気共鳴画像(MRI)上で形態上の異常が存在することがあり,発症前駆状態の段階で引きこもりなどの特徴や児童期での運動・認知面での拙劣さなどの異常が認められることがその推論の根拠である.これまで患者対照研究,コホート研究,一卵性双生児研究などの疫学的手法によって対象(患者および対照)について妊娠合併症と出産合併症の頻度が検討されてきたが,脆弱性遺伝子との関係などは今後の研究課題である.



第3章 統合失調症の診断
診 断

立山 萬里  飯田橋ガーデンクリニック 院長

要旨
 統合失調症の診断は,まず@幻聴(声),させられ体験,妄想などが明らかな幻覚妄想状態や,急性の興奮,錯乱,昏迷状態の場合には,身体的な原因(覚醒剤も含まれる)を除外診断する.次に,Aこのような“陽性症状”の状態像,ないしは,滅裂思考や思路弛緩などの思路障害が,1ヵ月近く続いているのであれば,統合失調症を疑う.また,B引きこもり(自閉)や自発性の低下が,半年近く進行性に続き,面接で感情面の「打てば響く」ような反応がなく,平板化している場合は,“陰性症状”による発病を考える.



第3章 統合失調症の診断
症状評価尺度および臨床心理検査

橋本  聡   熊本大学医学部附属病院こころの診療科
北村 俊則   熊本大学医学部附属病院こころの診療科 教授
要旨
 統合失調症には多彩な症状群が認められ,把握すべき症状は陽性症状・陰性症状に限定されず,気分症状なども含まれる.簡易精神症状評価尺度(BPRS)などの包括的な精神症状評価尺度を用いながら,急性期の産出性症状に目をとらわれず,思考形式の障害,社会支援の程度,患者の生活の質など,多角的な視点から患者の状態把握に努める必要が ある.



第3章 統合失調症の診断
鑑別診断

樋山 光教  横浜市立市民病院神経精神科 部長
  
要旨
 ここでは DSM-W-TR1)に基づき,その統合失調症の診断基準(表1)と精神病性障害の鑑別診断(判定系統樹,図1)を参照しながら,実際の臨床上なにがしかでも役立つように以下の5項目に分けて説明を試みる.@一般身体疾患によるあるいは物質誘発性のせん妄,痴呆,精神病性障害との鑑別,A気分障害との鑑別,B人格障害との鑑別と関連,C精神病性障害の中での鑑別,Dその他であり,中でも重大な岐路となる@に重点を置く構成とした.

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第4章 統合失調症の管理・治療
マネージメント

佐藤 忠彦  桜ヶ丘記念病院 院長
岩下  覚   桜ヶ丘記念病院

要旨
 1960年代から今日まで,統合失調症の管理・治療は転換期の過程にある.この特徴は,ノーマライゼーションに代表される新たな原理により精神障害の理解と治療戦略が変わり,地域ケアへの転回,患者の権利の主張,デュープロセスの遵守による行動制限の規制とチーム医療の重視などが図られてきた.その結果,統合失調症の管理と治療では,自己決定権とパートナーシップが理念とされるようになり,他方,医療安全も重視されてきた.

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第4章 統合失調症の管理・治療
薬物療法

渡辺 雅幸  昭和大学保健医療学部精神医学 教授

要旨
 統合失調症の治療には錐体外路性副作用が少ない第2世代薬を優先して使用することが多いが,場合によっては第1世代薬を使用することもある.大量投与を避け単剤使用を行うことが原則である.薬剤の効果については十分な観察期間をとって評価し,有効性に乏しいときは別の薬剤にcross-titrationで変更する.不安,不眠にはベンゾジアゼピン,抑うつには抗うつ薬,攻撃性には気分安定薬を併用する.

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第4章 統合失調症の管理・治療
心理社会的療法

下寺 信次  高知大学医学神経統御学講座神経精神病態医学教室 講師

要旨
 統合失調症の心理社会的療法は,治療法としては最も古いものでありながらも,近年の画像診断や神経心理学的検査の発展により,エビデンスを蓄積している分野である.また,その開始時期は退院促進のプログラムの中で,なるべく早期であることが重要である.役割として,薬物療法で十分に改善しない陰性症状を主体とした精神症状を改善させることが期待される.また,非定型抗精神病薬との相乗効果での認知機能の改善が重要である.

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第4章 統合失調症の管理・治療
地域リハビリテーション

伊藤 哲寛  北海道立緑ヶ丘病院

要旨
 欧米諸国に比較して精神保健福祉施策の改革が大幅に遅れた我が国においても,ノーマライゼーションの考え方が少しずつ浸透し,障害者が症状や障害を持ちながらも地域で生活できる環境が徐々に整いつつある.  2004年に政府が示した精神保健福祉を改革するための「グランドデザイン案」によると,今後10年以内に精神病院の社会的入院患者7万2千人を退院させることになっている.社会的入院の大部分を占める多くの統合失調症患者を地域に迎え入れることになる.  さらに,現在国会で審議されている障害者自立支援法が制定されると,これまで国と都道府県が担ってきた精神障害者福祉を市町村が担当することになり,精神障害者も身体障害者,知的障害者と同じ制度の下で自立支援サービスを受けることになる.このような障害者施策の転換点にあって,いかに統合失調症の地域リハビリテーションを発展させ地域に根づかせるかが今後の重要な課題である.

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第4章 統合失調症の管理・治療
経過・予後

岩舘 敏晴  財団法人宮城県精神障害者救護会国見台病院 院長

要旨
 統合失調症の成立にとって経過と予後は重要な要因であった.Kraepelinは予後不良という観点から統合失調症を1つの疾患単位と考えたが,その後の精神医学は多彩な症状,経過,予後を持つ症状群であると考えるに至った.経過型はおおむね急性発症−波状経過型,緩徐発症−慢性単純経過型,混合型の3型に分類される.長期転帰は調査者により多彩な結果が報告されているが,患者個人の人間学的な意味も考慮した治療的アプローチが重要である.

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第4章 統合失調症の管理・治療
統合失調症の経済的側面

山内 慶太  慶應義塾大学看護医療学部・大学院健康マネージメント研究科 教授

要旨
 統合失調症は,医療・福祉・司法など多岐にわたって直接的なサービスの費用が発生するとともに,就労能力の低下に伴う生産性の損失が大きい疾患である.治療技術についての経済評価は,特に非定型抗精神病薬について多くなされているが,確たる結論を出すにはいまだ尚早である.統合失調症では,薬物療法へのコンプライアンスの低下とそれによる再発の経済的な影響が大きく,包括的なアプローチを併せて開発・検証する必要がある.

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第5章 統合失調症のガイドライン
治療ガイドライン

佐藤 光源   東北福祉大学大学院精神医学 教授

要旨
 統合失調症を脆弱性・ストレス・コーピング(VSC)モデルでとらえ,急性期・回復期・安定期に応じて薬物療法と心理社会的介入を組み合わせるEBM治療ガイドラインの概要を述べた.アメリカ精神医学会は多軸診断(第T〜V軸)に心理社会的介入に役立つ第W軸と重症度の評価に役立つ第X軸(GAFS)を加えたが,それは包括的な治療ガイドラインを可能にし,精神医療を疾患モデルから生活モデルへ展開させた.その限界と問題点も取り上げた.

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