要旨


最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 33/循環器5
慢性心不全



第1章 慢性心不全の概念・定義と疫学
概念・定義

友池 仁暢  国立循環器病センター 病院長

要旨
 心不全は心ポンプ機能不全に由来するうっ血,呼吸困難,易疲労感,浮腫・ラ音を示す症候群であり,基礎疾患と併存症によって多彩な転帰をとる.心臓自体に着目すると代償機転としての肥大,拡張,不可逆性の構造変化があるが,これらの過程に神経体液性因子の賦活化が重要であることが知られている.このため,現在の治療法はレニン・アンジオテンシン系とβ受容体の抑制という情報伝達の初段の抑制にとどまっている.心筋リモデリングには原因疾患に依存しない共通の過程が認められることから,ゲノムや細胞内情報伝達の多岐にわたる変化の詳細な解明が進めば,新たな疾病分類や治療法開発の可能性も期待される.本項は概念と定義について記述する.

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第1章 慢性心不全の概念・定義と疫学
疫 学

眞茅みゆき  国立国際医療センター研究所遺伝子診断治療開発研究部
筒井 裕之  北海道大学大学院医学研究科循環器病態内科学 教授

要旨
 人口の高齢化などに伴い,慢性心不全患者は今後ますます増加することが予想される.我が国の慢性心不全患者の特徴として,基礎心疾患として高血圧性心臓病,弁膜症が多いことや,左室駆出率が保たれた患者が多い点などが挙げられる.また,心不全増悪による再入院率が高く,治療の重要なアウトカムの1つである.今後,全国規模の疫学研究により,我が国の慢性心不全の実態を明らかにし,効果的治療法を確立することが必要である.

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第2章 慢性心不全の病理・病態生理
病 理

山田 京志   順天堂大学医学部循環器内科
河合 祥雄   順天堂大学医学部循環器内科 助教授

要旨
 心臓は,種々の障害により機能低下が生じ,その障害の原因により病態生理,予後は異なる.一回心拍出量の低下は,拡張末期容量の減少,収縮末期容量の増大,心室収縮能の低下のいずれかまたは複合で生じる.機能の低下に対して,心臓はさまざまな構造変化(remodeling)を遂げて対応し,機能低下を一時的に代償するが,機能低下の持続や進行により心臓全体としての機能がさらに低下すると,心機能は破綻し,顕性の心不全状態となる.



第2章 慢性心不全の病理・病態生理
病 因

松森  昭  京都大学大学院医学研究科循環病態学 助教授

要旨
 欧米における心不全の病因は主として高血圧と虚血性心疾患である.Framingham研究では高血圧が重要な病因であり,高血圧の持続期間,収縮期血圧が心不全の発症と関連が深いとされている.また,最近の約50年間で弁膜症や左室肥大が減少し,心筋梗塞が増加した.我が国の臨床試験のデータからは拡張型心筋症が最も頻度が高く,虚血性は約30%である.一方,若年者の心不全では,欧米では虚血性,心筋症がほぼ同数であるのに対し,我が国では心筋症が約80%を占めている.

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第2章 慢性心不全の病理・病態生理
病態生理

中野  敦   国立循環器病センター心臓血管内科
北風 政史  国立循環器病センター心臓血管内科 部長

要旨
 慢性心不全の病態は基礎心疾患によって多少異なるが,共通して言えることは循環不全に対する代償機転が働くこととその過剰作用による悪循環であり,これにはさまざまな神経体液因子が関与している.近年その分子生物学的検討が進んだことで,多方面から詳細な病態が解明されてきており心不全治療の進歩につながっている.



第3章 慢性心不全の診断
診 断

品川 弥人  北里大学医学部循環器内科学
和泉  徹   北里大学医学部循環器内科学 教授

要旨
 慢性心不全患者の診断は,詳細な問診と身体所見による心不全徴候の検出が第一である.初診時はもちろん,再診患者の心不全増悪徴候をも的確にとらえる必要がある.心不全徴候はうっ血と低心拍出状態の2つの現象に起因するため,この病態を軸にして症状と所見を整理し,系統立てて診察する.特に,低心拍出状態に起因する諸症状は非特異的であるが,近年増加しつつある難治性心不全症例においては特異な所見もみられる.



第3章 慢性心不全の診断
検査所見

蔦本 尚慶  滋賀医科大学呼吸循環器内科 講師
堀江  稔   滋賀医科大学呼吸循環器内科 教授

要旨
 心不全では,心拍出量や血圧低下に伴う生体の代償機序によりさまざまな神経体液因子が上昇し病態の増悪進展と関係する.今後人口の高齢化に伴い心不全患者が増加するのは間違いなく,ますます確実な診断と重症度評価が重要になると考えられる.心不全診断−重症度−予後−治療効果や病態を理解し,評価するうえで,従来の検査に加えて脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)などの液性因子測定は心不全の生化学指標として有用と考えられる.



第3章 慢性心不全の診断
画像所見

合田 亜希子   兵庫医科大学循環器内科
増山  理     兵庫医科大学循環器内科 教授

要旨
 心不全の画像診断においては胸部X線写真,心電図,心エコー図検査は不可欠である.これらの検査は心不全の診断とともに治療効果判定においても繰り返し検査される.特に心エコー図検査は血行動態の評価・原因疾患の評価においても重要である.核医学検査により得られる心機能指標や心筋代謝・交感神経機能指標も心不全の重症度評価や予後推定に有用であることが明らかになってきた.また,MRI・CTは原因疾患の評価や心機能評価に有用である.



第3章 慢性心不全の診断
鑑別診断

高田 佳史  東京医科大学第二内科 講師
山科  章   東京医科大学第二内科 教授

要旨
 慢性心不全の原因疾患として頻度の高いものに,虚血性心臓病,弁膜症,高血圧,心筋症がある.基礎となる疾患を的確に診断することが,患者に最適な治療を行ううえで重要である.特に虚血性か非虚血性か,収縮不全か拡張不全かの把握が必要である.鑑別診断では,心エコーが必要不可欠であるが,詳細な病歴聴取と全身の診察,そして心電図の的確な判断がその基本である.



第4章 慢性心不全の管理・治療
管理・治療の基本方針

新家 俊郎   神戸大学大学院医学系研究科循環呼吸器病態学
横山 光宏    神戸大学大学院医学系研究科循環呼吸器病態学 教授
要旨
 慢性心不全とは,あらゆる心疾患の終末像であり,心ポンプ機能の低下と運動耐容能の低下を特徴とする.心不全の患者を診察する際は,患者の病態を十分に把握し,原疾患の検索,重症度の評価を行ったうえで,治療方針を決定する必要がある.心不全患者を治療する際は,生活の質(QOL)と生命予後の改善に主眼を置き,病期の進行や再発の予防に努める.本邦では,人口の高齢化に伴い,今後さらに心不全患者の増加が予想されるため,社会的,経済的負担を考慮した包括的な慢性心不全診療体制の構築が望まれている.



第4章 慢性心不全の管理・治療
内科医からみた非薬物療法

甲斐 久史  久留米大学医学部第三内科 助教授
今泉  勉   久留米大学医学部第三内科 教授
  
要旨
 慢性心不全でレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬,β遮断薬,利尿薬,アルドステロン阻害薬を用いた標準的な薬物療法が無効な症例に対しては,心臓移植が最も有効かつ確実な治療手段である.しかし,我が国のみならず世界的に慢性的なドナー不足の状態が続いており,施行数には限界がある.また,施行時期は不定であり,特に我が国では心臓移植施行例の平均待機期間は500〜600日の長期に及ぶ1).したがって,心移植のブリッジとして,あるいは代替手段を目指して,さまざまな非薬物的治療が試みられてきた.現時点では,非薬物的治療としては大きく分けて補助循環療法,手術療法,さらには近年普及の著しいペーシング療法がある.

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第4章 慢性心不全の管理・治療
基礎療法

百村 伸一  虎の門病院 循環器センター内科 部長

要旨
 慢性心不全における一般療法は,薬物療法や心室同期ペーシング療法(CRT),植込み型除細動器(ICD)などの非薬物療法ほどには注意を払われず,おざなりにされることが多い.しかし,一般療法を軸とした患者管理を行うことによって,心不全の悪化による入院が予防でき,QOLも改善できることが明らかになっている.きめ細かな患者管理を行うには医師のみならず,看護師,薬剤師,栄養士,心理療法士などの協力が不可欠となる.

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第4章 慢性心不全の管理・治療
治療薬剤:(1)基礎治療

矢尾板裕幸  福島県立医科大学第一内科 講師
丸山 幸夫   福島県立医科大学第一内科 教授

要旨
 慢性心不全の主な基礎治療薬剤としてアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB),β遮断薬,利尿薬(抗アルドステロン薬を含む),ジギタリス,血管拡張薬,Ca感受性増強薬,その他を挙げ,最近のトピックスを含めて解説した.これらの薬剤は,心不全の米国心臓学会/米国心臓協会(ACC/AHA)のステージ分類に示されるような病態に沿って使用されるが,予後と医療経済を考えると,今後は特にステージAからの予防医学を考慮しての治療戦略も重要になると思われる.

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第4章 慢性心不全の管理・治療
治療薬剤:(2)不整脈治療

萩原 陽子  慶應義塾大学医学部循環器内科 助手
小川  聡   慶應義塾大学医学部循環器内科 教授

要旨
 心不全ではあらゆる不整脈を合併し,不整脈の発生は心不全を増悪させ,心不全の増悪は不整脈の誘発を引き起し悪循環を形成する.また,心不全患者の死因の半数は突然死である.したがって,心不全患者の不整脈管理において重要なことは,@発生した不整脈を停止あるいはコントロールすること,A不整脈の再発を防ぐこと,B突然死を予防することである.この点において,我が国および欧米のガイドラインに従い概説する.

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第4章 慢性心不全の管理・治療
心臓再同期療法 (Cardiac Resynchronization Therapy:CRT)

松田 直樹  東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所循環器内科

要旨
 心室内伝導障害に基づく心室同期不全は,左室ポンプ機能に悪影響を及ぼす.両室ペーシングによる心臓再同期療法は,これを是正し,重症心不全患者の血行動態を改善させる.その継続により,左室容量は縮小,左室駆出率は増加,僧帽弁逆流は減少する.心不全症状,運動耐容能,QOL,心不全入院頻度の改善とともに,予後の改善が期待できる.心室内伝導障害を有するすべての症例に有効ではないことから,患者選択が重要となる.

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第4章 慢性心不全の管理・治療
温熱療法

池田 義之  鹿児島大学大学院医歯学総合研究科循環器・呼吸器・代謝内科学
鄭  忠和   鹿児島大学大学院医歯学総合研究科循環器・呼吸器・代謝内科学 教授

要旨
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科循環器・呼吸器・代謝内科学 教授 心不全とは,「心筋障害により心ポンプ機能が低下し,末梢主要臓器や組織の需要に見合うだけの十分な酸素供給ができなくなった状態」であり,それゆえ,以前は慢性心不全に対する治療として,心ポンプ機能低下の改善に主眼が置かれていた.  近年,慢性心不全の病態解明が進み,血管内皮機能低下による心負荷増大や,血管内皮機能低下をもたらす分子異常(一酸化窒素NOなどの血管拡張物質の産生低下),さらには交感神経系・神経内分泌系因子(カテコラミン,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系,エンドセリン,ANP,BNP,TNF-αなど)の異常亢進が慢性心不全の病態上重大な要因であることが判明し,慢性心不全に対する治療として,これら血管内皮機能・自律神経系・神経内分泌系因子の異常を改善させることが重要となった.  我々が提唱する60℃の低温乾式遠赤外線サウナ浴による温熱療法は,慢性心不全患者の臨床症状・心機能・血管機能の改善や自律神経系・神経体液性因子異常の是正をもたらす,「慢性心不全に対する包括的非薬物治療法」である.

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第4章 慢性心不全の管理・治療
リハビリテーション・運動療法

後藤 葉一  国立循環器病センター心臓血管内科 医長

要旨
 慢性心不全における運動耐容能低下は生活の質(QOL)にかかわる重要な問題であるが,その機序として左室収縮機能低下ではなく,骨格筋,末梢血管,左室拡張機能が想定されている.近年,運動療法が慢性心不全患者の運動耐容能を増加させQOLを改善させるのみならず,長期予後を改善させることが明らかにされ,運動療法は慢性心不全に対する有効な治療法の1つとして日米欧のガイドラインにも記載されるようになった.

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第4章 慢性心不全の管理・治療
外科療法:(1)補助循環

許  俊鋭   埼玉医科大学心臓血管外科 主任教授

要旨
 機械的補助循環の目的は,@全身の循環動態の維持およびA心機能の回復である.機械的補助循環には@圧補助法とA流量補助法があり,圧補助法にはIABP,流量補助法にはVAB,PCPS,VASやTAHがある.IABPやPCPSは短期間の補助に用いられ,VASやTAHは心臓移植へのブリッジや延命治療に用いられる.最近急速な普及をみている心臓再同期療法や再生医療は,VASとのコンビネーションにより末期的心不全に対する有効性が期待される.

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第4章 慢性心不全の管理・治療
外科療法:(2)心臓移植

福嶌 教偉   大阪大学医学研究科臓器制御外科学講座 講師

要旨
 心臓移植は1967年に世界で初めて施行され,シクロスポリンの登場により,末期的心不全患者の外科治療として定着した.我が国では1968年の第1例以降長年の臓器移植に対する不信感のために国民の合意が得られるのに時間を要したが,1997年10月に臓器移植法が施行され,1999年2月に心臓移植が本邦でも実施され,7年弱で27例施行された.心臓移植の術前後の管理と我が国での心臓移植の成績について概説する.

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第4章 慢性心不全の管理・治療
再生医療

高橋知三郎   京都府立医科大学大学院循環器病態制御学
松原 弘明    京都府立医科大学大学院循環器病態制御学 教授

要旨
 慢性心不全の患者に対して,薬物療法に加え脳死心臓移植などの治療法が行われるが,予後不良な患者が依然存在する.新しい治療法として細胞移植・再生療法が注目されているが,現時点では移植細胞として確立したものはなく,今後の研究の発展により,最適な細胞種や移植経路,さらにその分子機序が明らかになることにより,この治療法が,心不全患者の予後と生活の質の改善に寄与することが期待される.

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第4章 慢性心不全の管理・治療
医療経済

興梠 貴英   東京大学大学院医学系研究科健康医科学創造講座
林   同文   東京大学大学院医学系研究科健康医科学創造講座
山崎  力    東京大学大学院クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニット

要旨
 中等度以上(NYHAU度以上,EF<40%)の慢性心不全は,多くの強心薬が長期的には予後を悪化させること,臨床症状から心不全状態を把握することが難しいことから外来管理が難しいことが多い.慢性心不全の状態を適切に把握して内服薬の調節を行わないと入退院を繰り返すこととなり,その結果医療費もかかることとなる.このため,慢性心不全を適切に把握できるマーカーおよび安価で有効な慢性心不全治療法は医療費を抑制するうえで有効であり,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびカルベジロールの費用対効果分析に関する報告を紹介する.

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第5章 慢性心不全のガイドライン
ガイドライン

大草 知子   山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学 講師
松ア 益コ   山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学 教授

要旨
 この20年間における慢性心不全の病態解析の進歩は著しく,慢性心不全を単に心疾患とする概念から神経体液因子を含む広範な異常により生じる症候群であるとする考えが確立してきた.また,近年報告されてきた膨大な大規模臨床試験の結果は,単に経験からの知識に頼り行われた治療法を大きく変えてきたが,このEvidence Based Medicine(EBM)に基づき治療法を選択する傾向は今後さらに強くなると思われる.その意味からの我が国で作成されたガイドラインは,現時点でのEBMに基づき作成したものであり,当然将来は再び改変される可能性もある.慢性心不全治療では,神経内分泌系を阻害することにより左室リモデリングを抑制し心不全の予後を改善することが最近の治療の中心となっている.個々の治療法(薬)の詳細については他項を参照していただき,本稿では慢性心不全治療につき,日本循環器学会学術委員会指定研究班により作成された『慢性心不全治療ガイドライン』基づき概説する.

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