要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 34/呼吸器5
肺がん 改訂第2版


第1章 概念・定義と疫学
概念・疫学

雑賀公美子   国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部
祖父江友孝   国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部 部長

要旨
 我が国の肺がん罹患数,罹患率は増加傾向にあるが,年齢調整罹患率は 1990 年以降増加が緩やかになってきている.死亡数も増加しており,死亡率は 50 年間で約 10 倍になっている.しかし,年齢調整死亡率は 2000 年あたりから減少傾向に転じている.1993〜2002 年の間に肺がんと診断された患者の5年相対生存率は,すべての進行度において改善しているが,喫煙対策や検診受診率の向上など,さらなる予防対策が必要である.

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第2章 病理・病態生理
危険要因

大田 恵一   九州大学大学院医学研究院臨床医学部門内科学講座呼吸器内科学分野
高山 浩一   九州大学大学院医学研究院臨床医学部門内科学講座呼吸器内科学分野 准教授
中西 洋一   九州大学大学院医学研究院臨床医学部門内科学講座呼吸器内科学分野 教授

要旨
 肺がんの一番の危険要因は喫煙である.喫煙率の低下に伴い肺がんの年齢調整死亡率は低下傾向であるが,死亡数は依然増加している.分子生物学的手法の進歩により発がんにおける喫煙の果たす役割も明らかになってきた.喫煙以外では大気汚染やアスベストなどの職業的な曝露,食事要因などが考えられてきたが,近年では分子細胞学的解明も進んでおり,主に肺腺がんにおける発がん遺伝子も明らかになりつつある.
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第2章 病理・病態生理
病 理

廣島 健三   東京女子医科大学八千代医療センター病理診断科 教授

要旨
 肺腺癌の新分類(IASLC/ATS/ERS 新分類)を中心に解説する.既存の肺胞壁に沿って腫瘍細胞が増殖するパターンを lepidic パターンと呼び,浸潤のない腺癌を上皮内腺癌と呼ぶ.浸潤性腺癌は,優位な組織パターンにより lepidic パターン,腺房型,乳頭型,微小乳頭型,粘液産生充実型に亜分類する.また,腫瘍径が3cm以下で浸潤所見が5mm以下の場合,微小浸潤腺癌とする.

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第2章 病理・病態生理
症 候

小谷 昌広    鳥取大学医学部分子制御内科学分野
清水 英治    鳥取大学医学部分子制御内科学分野 教授

要旨
 症候を有する肺がんの大部分は進行がんである.肺がんの胸腔内症状としては咳嗽,呼吸困難,胸痛,喀血が多く,局所進行がんでは上大静脈(SVC)症候群や Pancoast 症候群を認めることもある.胸腔外症状としては骨転移,脳転移などの遠隔転移症状が多いが,腫瘍随伴症候群として高 Ca 血症や抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)による低 Na 血症により嘔気,食欲不振など消化器症状を呈することもある.また,血栓症の頻度が高く,肺梗塞や脳梗塞発症後に肺がんが見つかることもある.胸腔内外症状を十分理解し,肺がんの症候を見逃さないことが重要である.

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第3章 診 断
肺がん検診−現状と今後−

江口 研二  帝京大学医学部内科学講座(腫瘍内科)教授
関  順彦   帝京大学医学部内科学講座(腫瘍内科)

要旨
 我が国のがん検診受診率は 20% 前後と極めて低く,「がん対策基本法」に基づく国の「がん対策推進基本計画」では受診率を 50% まで向上させることを目標とした.我が国のがん検診体制に関しては,縦割りの検診運営,精度管理体制のばらつき,検診方法の不十分な検証方法などが指摘されており,抜本的に見直す必要がある.肺がん検診について,海外では,2011年米国 PLCO 試験により,過去の報告と同様に胸部X線写真による肺がん検診の意義は否定された.さらに,米国 NLST 試験によって,低線量 CT による肺がん検診は胸部X線写真群に比べ,肺がんによる死亡率減少効果が証明された.今後,我が国が,どのような方法および体制で肺がん検診を展開していくかが,がんの2次予防策のみならず,肺がん診療の全般にかかわる重要な課題である.

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第3章 診 断
画像診断−胸部単純X線像とCT像−

小場 弘之   手稲渓仁会病院呼吸器内科 副院長
要旨
 肺がんの診療において画像診断の果たす役割は大きく,胸部単純像,胸部 CT 像共に頻用される.肺がんは主に腺がん,扁平上皮がん,小細胞がんに分けられるが,それぞれの特徴的な画像所見を把握しておくことが重要である.腺がんでは淡い結節陰影が特徴で進展に伴い周囲構造の収束像を伴う.扁平上皮がんでは気管支内腔の閉塞による二次変化と腫瘤陰影が,小細胞がんでは肺門縦隔リンパ節腫大と気管支血管への浸潤所見が特徴で,それぞれ診断の目安となっている.
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第3章 診 断
画像診断−FDG−PET−

石橋 哲哉    札幌南三条病院放射線科

要旨
 FDG−PET は組織の代謝を画像化する機能的画像診断法であり,ほかの検査とは全く異なった情報を得ることが可能である.その独自性が肺がんの診療にもたらす恩恵は大きいが,特に肺がんの診療で用いる場合には注意すべき点が幾つも存在する.本稿では,呼吸器診療を行う医師が知っていることが望ましい FDG−PET の情報を,極力簡潔に紹介する.
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第3章 診 断
細胞診・生検

楠  洋子   阪和第二泉北病院阪和インテリジェント医療センター健診センター センター長

要旨
 1999年にWHOが肺がんの組織分類を改訂し,さらに遺伝子の研究を盛り込んだ分類が2004年に再編され,新WHO分類として新たなカテゴリーが生まれた.これにより細胞診も所見分類の改訂が行われた.呼吸器分野では検体採取法により多種類の材料が細胞診に併用される.組織診の検体が採取不能のときでも細胞検体の採取は容易なことがあり,細胞診が最終診断を担う場合がある.有効な検体の採取方法について述べ,陽性率の向上,診断支援への汎用,研究への応用など,広い範囲で期待されている液状検体細胞診(LBC)についても言及する.また,分子標的治療の進歩に伴い,それに適合した細胞診の標本作成についても述べる.低侵襲性の診断方法として開発されつつある,近未来的な optical biopsy についての話題も紹介する.

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第3章 診 断
気管支鏡

品川 尚文   北海道大学大学院医学研究科内科学講座呼吸器内科学分野

要旨
 気管支鏡検査は肺がん診断において大変重要な役割を果たしているが,従来の技術のみでは診断率は十分とは言い難かった.診断率の改善のために,肺末梢病変,肺門・縦隔リンパ節などに対しても新たな技術が導入されている.特に,肺末梢病変に対するナビゲーションシステムは,日本国内において 2008 年に Bf−NAVIR市販されて以降,海外で開発された新製品も発売が開始され,注目を集めている.

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第3章 診 断
腫瘍マーカー

副島 研造     慶應義塾大学医学部呼吸器内科 講師
別役 智子     慶應義塾大学医学部呼吸器内科 教授

要旨
 いずれの腫瘍マーカーも特異度や感度に少なからず問題があり,その利用はあくまでも補助的なものと考えるべきであるが,診断,治療効果判定,再発の検出には一定の価値がある.理想的な腫瘍マーカーは,早期診断,組織診断,治療効果・予後の予測が可能なマーカーであるが,近年の網羅的な遺伝子あるいはタンパク分析の統合的な解析により,これらを満たし,かつ個別化治療にもつながるバイオマーカーが発見されることが期待されている.
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第3章 診 断
病期分類−TNM分類と治療の選択−

高橋 弘毅   札幌医科大学医学部内科学第三講座 教授
  
要旨
 肺がんは他臓器がんと同様に TNM 分類に基づき病期分類が行われ,その結果を踏まえ治療方針が決定される.我が国で日常臨床上使用されている病期分類は,2010 年 11 月に改訂されたものである.この新分類は国際対がん連合(UICC)が 10 万例を超える肺がん症例を解析し提唱した TNM 分類(UICC−7)に基づいている.この改訂により,今後,病期診断と治療法選択の整合性がより効果的となることが期待されている.

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第4章 管理・治療
化学療法−非小細胞肺がん−

金田 裕靖   近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門
中川 和彦   近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 教授

要旨
 近年の非小細胞肺がんの化学療法の特徴は,組織型や遺伝子変異の情報から治療方針が立てられ治療が細分化されていること,完全切除後にも術後化学療法が行われていること,である.現在,非小細胞肺がんの化学療法は早期から進行期までほぼすべての臨床病期にわたって行われており,その役割は非常に重要性を増している.本稿では,日本肺癌学会編集の『肺癌診療ガイドライン 2010 年版』(術後化学療法は 2005 年度版)に沿って,化学療法の有用性を概説する.


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第4章 管理・治療
化学療法−小細胞肺がん−

和久田一茂   静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科
釼持 広知   静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科
山本 信之   静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科 部長・副院長

要旨
 小細胞肺がんは肺がんと診断される患者のうち約 12% を占め,その広がりより,限局型(LD),進展型(ED)に分類される.標準治療は LD ではエトポシド(ETP)とシスプラチン(CDDP)の併用(PE 療法)に加速多分割照射(AHF)を併用する化学放射線療法,ED では PE 療法,もしくは塩酸イリノテカン(CPT−11)に CDDP を併用する IP 療法である.初回治療に対する反応は良好であるが,その多くが再発を認め,2次治療の成績も芳しくない.今後,分子標的薬などの新薬やバイオマーカーなどの新たな研究が期待される.
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第4章 管理・治療
分子標的治療

神田慎太郎   国立がん研究センター中央病院呼吸器内科
田村 友秀   国立がん研究センター中央病院呼吸器内科 科長

要旨
 進行非小細胞肺がん領域の分子標的治療としては,EGFR 遺伝子変異陽性肺がんに上皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR−TKI)が著効し,初回治療における位置付けも明確となった.また,血管内皮増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体ベバシズマブは,初回治療としてカルボプラチン・パクリタキセルなどとの併用での有用性が示された.今後,EML4−ALK 融合遺伝子陽性肺がんに対して ALK チロシンキナーゼ阻害薬(ALK−TKI)が登場する見込みである.
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第4章 管理・治療
外科療法

伊達 洋至   京都大学大学院医学研究科器官外科学講座呼吸器外科学 教授

要旨
 T期,U期の非小細胞肺がんに対しては,外科療法が第1選択である.従来の開胸術に比べ,より低侵襲な胸腔鏡手術が増加している.標準術式は,肺葉切除+肺門縦隔リンパ節郭清である.肺機能を温存して根治性も落とさない区域切除術も,2cm 以下の小型肺がんで行われている.VA期(N2 や T4)に対する術前療法後の外科治療や拡大手術も行われているが,その有効性は証明されていない.肺がんを早期発見し,手術することが良い成績につながる.

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第4章 管理・治療
放射線療法

早川 和重  北里大学医学部放射線科学(放射線腫瘍学)教授

要旨
 根治的な胸部放射線療法の適応となるのは,非小細胞肺がんでは,対側肺門リンパ節転移,多発肺結節を除く局所進行がんと,T,U期でも高齢,心・肺機能の低下,合併症などの理由で切除不能と判断される症例である.線量は 60Gy/30 回以上が推奨される.小細胞肺がんでは,限局型に化学療法との併用で胸部照射を行うのが標準的治療である.また,3次元・4次元放射線治療技術の進歩により局所制御率・治療成績は向上しつつある.
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第4章 管理・治療
内視鏡的治療・ステント治療

栗本 典昭      聖マリアンナ医科大学呼吸器外科 病院教授
中村 治彦      聖マリアンナ医科大学呼吸器外科 教授
宮澤 輝臣      聖マリアンナ医科大学呼吸器感染症内科 教授

要旨
 肺門部早期肺がんに対する光線力学的治療(PDT),気道内腔を占拠する隆起性病変に対する高周波を用いたポリペクトミー,気道狭窄に対するステント治療などについて述べる.気管閉塞に対するステント留置は,気流制限による呼吸困難を改善し,QOL を向上させる治療手段である.壁外圧排性閉塞はステント留置の適応だが,内腔腫瘍進展性閉塞は気管支腔内治療で内腔の開存が不十分の場合,または再閉塞が予想されるときにステントを考える.

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第4章 管理・治療
外来化学療法

田村 慶朗  公立学校共済組合近畿中央病院呼吸器内科 部長

要旨
 近年の化学療法の進歩,外来化学療法加算や包括医療制度の導入を背景として,肺がん領域でも外来化学療法が広く普及している.さらに,高度専門施設では欧米並みに外来での化学療法の導入やシスプラチン(CDDP)の外来投与を行う施設も少なくない.外来化学療法それ自体は定着しているが,効率的に多数患者の治療が行えるゆえに派生する問題も見受けられる.地域の中核施設として一般的な位置付けにある当院での肺がん外来化学療法について紹介し,問題点にもふれる.
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第4章 管理・治療
がん性胸膜炎・がん性心膜炎

藤田 昭久    札幌南三条病院呼吸器内科 副院長

要旨
 がん性胸膜炎,がん性心膜炎の合併は,予後不良の因子であり,UICC 第7版 TNM 分類では臨床病期VB期からW期に分類が変更になった.特に,貯留する量やスピードにより,oncologic emergency に含まれ,救急処置としての穿刺排液が行われ,その後,再貯留予防を目的とした薬剤の注入,さらには全身化学療法が検討される.肺がんの場合は,いずれの貯留も腺がんの頻度が高く,上皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR−TKI)の役割が期待される.

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第4章 管理・治療
緩和医療

鈴木  梢    がん・感染症センター都立駒込病院 緩和ケア科
田中 桂子    がん・感染症センター都立駒込病院 緩和ケア科 医長

要旨
 緩和医療は病期にかかわらず提供される医療であり,すべての臨床医が緩和医療の基本的な知識を身につける必要がある.肺がん患者では疼痛,呼吸困難,精神症状の発症頻度が高く,適切な原因の評価や原因に対する治療,適切な薬剤投与による症状緩和が求められる.また,身体面の苦痛以外にも,がん患者が抱えるさまざまな苦痛に対し,多職種でかかわっていく姿勢が重要である.

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第4章 管理・治療
医療経済

池田 俊也   国際医療福祉大学薬学部薬学科 教授

要旨
 肺がんは患者数・死亡数が増加しているがんであり,肺がんの社会的コストは増加しつつある.また,医療技術の進歩は,医療財源を圧迫する原因ともなっており,肺がん診療を対象とした医療経済学的な検討の重要性が高まっている.その具体的方法として,医療費比較,費用最小化分析,費用効果分析などがある.また,最近では効果指標として,質調整生存年(QALY)を用いた費用効用分析が試みられている.

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第5章 ガイドライン
肺癌診療ガイドライン

遠藤 千顕   東北大学病院呼吸器外科 講師
近藤  丘    東北大学病院呼吸器外科 教授

要旨
 本邦の『肺癌診療ガイドライン』が 2003 年に初めて出版された.2005 年には主として術後化学療法の大規模臨床試験の結果を反映させるべく改訂版が出版された.その後,肺がん治療領域では分子標的薬の登場など大きな変遷がなされており,より up−to−date な診療ガイドラインを目指し,2010 年版として web 公表という形式を用いた改訂が現在行われている.

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