要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 36/血液4
急性白血病 改訂第2版


第1章 概念・分類と疫学
概念と分類

直江 知樹   名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学 教授

要旨
 白血病は造血細胞の腫瘍性・不可逆性の異常増殖を来す疾患で,正常造血の障害を伴い,究極的には患者を死に至らしめる.疾患の記載は 19 世紀から認められ,細胞形態と臨床像による分類が始まった.国際的にはまず細胞化学を取り入れた形態学分類(FAB 分類)が受け入れられ,その後免疫学的検査,さらに染色体・遺伝子異常を取り入れ,臨床も含めた総合的な分類が WHO 分類として使用されている.

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第1章 概念・分類と疫学
疫 学

松尾恵太郎    愛知県がんセンター研究所疫学予防部 室長

要旨
 本邦のデータを用いた白血病の記述疫学情報を示した.急性骨髄性白血病(AML)は 50 歳以上に好発するが,一方急性リンパ性白血病(ALL)は幼児期,高齢者の双方に好発する.年齢調整罹患率は,AML,ALL 共に 1993〜2005 年の間大きな変化を示していない.
 罹患危険因子に関する検討は,喫煙を除いて,確実な関連を示しているものは認めない.原発事故による被曝の影響は,今後の検討が必要である.

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第2章 病 因
染色体異常

滝  智彦    京都府立医科大学大学院医学研究科分子診断・治療医学 講師

要旨
 白血病の発症には,さまざまな染色体異常により形成される遺伝子異常が重要な役割を果たしている.染色体および遺伝子異常を検出することは,その診断だけでなく,予後因子の同定においても重要である.一方,染色体検査と遺伝子検査の間には大きな解像度の違いがある.染色体レベルでは区別できない,多くの遺伝子異常が存在する.それぞれの検査法の特徴を理解し,染色体および遺伝子異常を正確に診断することが重要である.
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第2章 病 因
遺伝子異常と病因(遺伝子異常やFLT3,NPM1など病勢に関係している遺伝子異常の違い)

永田 安伸    東京大学医学部附属病院がんゲノミクスプロジェクト

要旨
 急性骨髄性白血病は造血幹細胞に遺伝子異常が起り,細胞分化の停止と異常増殖を来す疾患である.遺伝子異常の中で染色体転座が高頻度であるが,近年の技術革新により全ゲノム解析が可能となり,興味深い新たな遺伝子変異が多数同定されている.これらは臨床学的に異なる疾患群を分類し,予後に影響を及ぼし,新たな分子標的薬の候補となることで治療成績の改善が期待される.WHO 分類にかかわる遺伝子変異を中心に解説する.

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第3章 診 断
診断,検査所見,鑑別診断

波多 智子  長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
           附属原爆後障害医療研究施設(原研内科)講師

要旨
 急性白血病の分類は,FAB 分類から WHO 分類へと移行しており,染色体や遺伝子による診断を中心とする WHO 分類の方向性は,今後も推進されると思われる.形態学的診断は,芽球や異形成の判断においてまだ重要であり,さらに分子学的診断を含めた総合的で確実な診断の確立が必要であり,そのことが治療成績の改善をもたらすであろう.

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第3章 診 断
一般内科医や開業医が初期の白血病を見逃さないためのポイント

澤  正史   安城更生病院血液・腫瘍内科 部長
要旨
 急性白血病を見逃さないためには,その初発症状の特徴を知って,疑うことから始めないといけない.初発症状は重篤な病状に比して軽微であることも少なくないため,緊急性を認識するには,血液検査を至急行う必要がある.どのような症候が緊急性のある病態を示唆するものかを知り,至急検査の対象を適切に選別することが大切である.
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第4章 管理・治療
急性白血病に使用される薬物

山内 高弘   福井大学医学部医学科病態制御医学講座血液・腫瘍内科学 講師
上田 孝典   福井大学医学部医学科病態制御医学講座血液・腫瘍内科学 教授

要旨
 急性白血病は骨髄性とリンパ性に2大別され,使用薬剤がやや異なる.急性骨髄性白血病(AML)治療における key drug は nucleoside analog であるシタラビン(Ara−C)とアントラサイクリン系抗腫瘍性抗生物質であるダウノルビシン(DNR),イダルビシン(IDR)である.急性リンパ性白血病(ALL)では抗腫瘍性抗生物質に加え,副腎皮質ステロイド,アルカロイド系抗がん薬ビンクリスチン,アルキル化薬シクロホスファミド(CPA),葉酸代謝拮抗薬メトトレキセート(MTX),酵素阻害薬アスパラギナーゼが用いられる.また,前白血病状態である骨髄異形成症候群には,古くて新しい nucleoside analog のアザシチジン(AZA)が使用可能となった.

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第4章 管理・治療
急性骨髄性白血病の治療

清井  仁   名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学 准教授

要旨
 初発急性骨髄性白血病(AML)に対する基本的な治療戦略は,治癒を目指した強力化学療法であり,多剤併用療法が基本となる.しかし,その適応は化学療法による臓器毒性や合併症に耐えられるか否かを年齢,臓器機能,全身状態などによって,慎重かつ厳密に判断する必要がある.AML に対する化学療法は,寛解導入療法と寛解が得られた後に行う寛解後療法から成るが,治療レジメン,造血幹細胞移植療法の適応については,診断時の適格な病型診断と予後層別化因子の判定が求められる.

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第4章 管理・治療
急性前骨髄球性白血病の治療

竹下 明裕   浜松医科大学医学部附属病院輸血細胞治療部 病院教授

要旨
 急性前骨髄球性白血病(APL)の治療は全 trans−レチノイン酸(ATRA),亜ヒ酸(ATO)により大きく進歩した.初発例に対する寛解導入療法は予後因子に応じて,ATRA と化学療法の層別化治療が行われる.続いて,地固め療法が数コース行われ,微少残存病変を認めない例では,ATRA や化学療法を使用した維持療法が行われる.臨床試験では,ATO など新しい分子標的薬が取り入れられてきた.

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第4章 管理・治療
成人急性リンパ性白血病の治療

八田 善弘     日本大学医学部血液膠原病内科 准教授

要旨
 成人急性リンパ性白血病(ALL)の化学療法の長期予後はおおむね 30% 前後であり必ずしも良好とは言えない.高リスク症例には同種造血幹細胞移植を行うことで予後の改善が期待されているが,むしろ標準リスク症例を対象にするべきという報告もあり,適応については議論が分かれる.自家移植の有用性は示されていない.微小残存病変(MRD)のモニタリングは,予後の指標になる可能性がある.
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第4章 管理・治療
思春期・若年成人急性リンパ性白血病の治療

早川 文彦   名古屋大学医学部附属病院血液内科

要旨
 思春期・若年成人急性リンパ性白血病(ALL)は,小児科,内科のはざまで両者により治療が行われ,統一された治療コンセプトがなかった.2000 年にこの世代の ALL 患者では,小児科で治療されたもののほうが,内科で治療されたものより良好な治療成績であることが示された.以降,小児プロトコールを用いて治療を行う内科グループの臨床研究が行われるようになり,従来の治療に比べて,大幅な治療成績の改善が報告され始めている.

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第4章 管理・治療
小児急性リンパ性白血病の治療

康  勝好  埼玉県立小児医療センター血液・腫瘍科 科長

要旨
 小児急性リンパ性白血病(ALL)の治療成績は飛躍的に向上し,約 90% の長期生存率が達成されつつある.短期,長期の毒性を軽減しつつ,治療成績を向上させるためには,予後因子に基づく層別化治療が重要である.より適切な層別化は,白血病細胞の biology 研究の成果を取り入れるとともに,治療反応性の精密な指標である微小残存病変(MRD)を組み込むことで達成される.今後,予後不良な高危険群の治療成績の向上のためには,分子標的薬剤などの新薬の導入も必要である.

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第4章 管理・治療
フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病の治療

水田 秀一  藤田保健衛生大学医学部血液内科 准教授

要旨
 フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)は従来予後不良とされていたが,イマチニブメシル酸塩(イマチニブ)の導入により,寛解率,造血幹細胞移植(HSCT)への移行率,移植成績が画期的に向上した.第2世代の BCR−ABL チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるダサチニブはイマチニブを凌駕する抗腫瘍効果を有し,さらなる治療成績の改善が期待されている.

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第4章 管理・治療
高齢者急性白血病の治療(急性骨髄性白血病を中心に)

伊藤 良和   東京医科大学血液内科 准教授
大屋敷一馬   東京医科大学血液内科 教授
要旨
 65 歳以上の高齢者では,寛解率がやや低く,生存率が極めて低い.複数の要因による化学療法継続不能,高い治療関連死亡率,高い再発率が問題である.高用量化学療法,減量化学療法,造血因子併用,ゲムツズマブオゾガマイシン(GO)単剤などでは,有意な有効性の増加を見ることはできない.アザシチジン(AZA)や GO 併用化学療法の効果は,未知の部分が多い.75 歳以上の患者でも,限られた条件下で化学療法の効果が見られる.

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第4章 管理・治療
進行期骨髄異形成症候群の治療

宮ア 泰司    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
             附属原爆後障害医療研究施設(原研内科)教授

要旨
 最近,骨髄異形成症候群(MDS)にレナリドミド,アザシチジン(AZA)が臨床応用され,それぞれ第5染色体長腕欠失を持つ MDS における赤血球造血回復,高リスク MDS に対する生存期間延長が示され,治療の有望な選択肢となった.MDS は高齢者に多く,同種造血幹細胞移植が適応できない例も多い.こうした薬剤の有害事象と効果を十分に把握して,適切に使用することで,少しずつ QOL の改善,予後の改善が望めるようになってきている.

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第4章 管理・治療
急性白血病の造血幹細胞移植療法

豊嶋 崇徳   北海道大学大学院医学研究科血液内科学 教授

要旨
 同種造血幹細胞移植は移植前処置と移植片対白血病(GVL)効果が期待できる最も強力な抗白血病効果を有する一方,治療関連毒性も最も高い白血病治療である.寛解導入不応期や再発期,第1寛解期においては,急性骨髄性白血病(AML)の予後中間群と不良群,急性リンパ性白血病(ALL)の全例が移植適応と成りうる.ドナー,患者の状況を見ながら,その適応を慎重に判断する必要がある.

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第4章 管理・治療
成人T細胞白血病リンパ腫の治療

石田 高司   名古屋市立大学大学院医学研究科腫瘍・免疫内科学 准教授

要旨
 成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)は,レトロウイルス,ヒトT細胞性白血病ウイルス−1(HTLV−1)によって引き起されるリンパ系腫瘍である.ATL の予後は不良であり,化学療法の成績は惨澹たるものである.同種造血幹細胞移植療法で長期生存を得るケースもあるが,全 ATL の中のごく一部に過ぎない.そのような現状の中,ATL に対する新規抗体薬(モガムリズマブ)が,世界に先駈け日本で薬品製造販売承認を取得した.本稿では,ATL 治療の現状,および新時代(モガムリズマブ時代)における ATL 治療の展望を概説する.

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第4章 管理・治療
中枢神経白血病・髄外白血病の予防と治療

藤巻 克通    藤沢市民病院血液膠原病科 部長

要旨
 中枢神経白血病は,急性骨髄性白血病(AML)と比較して急性リンパ性白血病(ALL)で認めることが多い.メトトレキセートやシタラビンの高用量化学療法と髄腔内注射の併用が予防や治療に有用である.髄腔内注射後に脊髄神経障害や白質脳症を来すことがあり,注意を要する.髄外白血病は,軟部組織,骨,骨膜,リンパ節などに腫瘤を形成する場合と,皮膚浸潤する場合がある.化学療法を施行し,効果不良のときは放射線治療追加を検討する.

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第4章 管理・治療
急性白血病治療時の感染症対策

秋山  暢     帝京大学医学部内科学講座 准教授

要旨
 急性白血病の治療において,感染症の管理は予後を左右する重大な問題である.新規の抗菌薬、抗真菌薬の登場により,JALSG 研究が始まった 1987 年からの約 20 年間で感染症の治療成績は格段に向上した.その反面,多剤耐性緑膿菌に代表される耐性菌の出現や接合菌症のような難治性真菌感染症が増加傾向にある.このような観点から,最新の知見を踏まえ,発熱性好中球減少症のマネージメントについて概説する.

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第4章 管理・治療
急性白血病治療時の顆粒球コロニー刺激因子の使い方

臼杵 憲祐    NTT東日本関東病院血液内科 部長

要旨
 顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の投与は in vitro で急性骨髄性白血病(AML)細胞の増殖を促進するので AML の増悪が危惧されるが,化学療法後の AML の腫瘍量が少ない例では安全である.発熱性好中球減少症のリスクの高い例では,G−CSF を予防投与する.特に高齢者の AML 治療では,感染症に罹患しやすく感染症死亡率が高いことから,G−CSF の使用が勧められる.急性リンパ性白血病(ALL)の寛解導入療法中のG−CSFの予防投与は予後を改善するので,特に若年者とT細胞性急性リンパ性白血病(T−ALL)では勧められる.

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第4章 管理・治療
急性白血病治療時の出血対策

岸本磨由子    名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学
松下  正     名古屋大学医学部附属病院輸血部 教授

要旨
 血小板減少症に伴う出血傾向に対しては,しばしば血小板輸血が行われるが,その前に,血栓微小血管障害症(TMA),ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)など播種性血管内凝固症候群(DIC)と同様に血小板減少が顕著でありながら,場合によっては症状を悪化させるため禁忌とされている疾患を除外する必要があり,これらの疾患の見極めが必要である.「輸血療法の実施に関する指針」では輸血前後の感染症マーカー検査の必要性がうたわれており,医療機関は患者に対して輸血前後の感染症検査を行うことができるよう検体保存を行うことが望ましく,白血病治療中など頻回受血者においては,注意深いフォローアップが望まれる.一方,出血対策では DIC の存在を念頭に置き,診断基準を有効に使ったマネジメントが必要である.JALSG APL 症例における重篤な出血症例の解析により,死亡のリスクファクターとして,厚生労働省診断基準による DIC スコアの有意性が明らかとなった.なお,厚生労働省の診断基準においては,いわゆる注1の規定:「白血病(中略)などの場合は,血小板数および出血症状の項は0点とし,4点を満たしたものを DIC と判定する」が忘れられがちであり,注意して正確な診断にあたりたい.

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第4章 管理・治療
急性白血病治癒患者における晩期後遺症

石田也寸志    聖路加国際病院小児科 医長

要旨
 近年治療成績の向上に伴い,急性白血病例の長期生存・治療例が増加しているが,急性白血病では,造血細胞移植など強力な治療を受けていることが多い.そのため,白血病経験者の晩期後遺症を含めた長期フォローアップの重要性はますます高まっており,コホート研究の成果を踏まえてエビデンスに基づいた成人期の生活習慣病予防や二次がん検診の奨励など,白血病経験者の健康管理・生活指導など,他職種チームによる総合的な対応が望まれる.

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第4章 管理・治療
急性白血病の治療効果判定方法と微小残存病変(MRD)

山崎 悦子    横浜市立大学大学院医学研究科病態免疫制御内科学 講師
藤田 浩之    済生会横浜市南部病院血液内科 部長

要旨
 急性白血病の形態学的完全寛解(CR)とは,骨髄中の白血病細胞が5%以下で血球の回復が見られる状態を言うが,この時点では109 個程度の白血病細胞が残存していると考えられている.リアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(RQ−PCR)法やフローサイトメトリー(FCM)法により,これらの微小残存病変(MRD)を検出することが可能となってきているが,MRD の意義や測定時期など,まだ不明確なことも多い.本稿では,急性白血病の治療効果判定と MRD 測定の有用性,方法,今後の課題などについて解説する.

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第5章 ガイドライン
第1寛解期急性白血病に対する寛解後療法としての化学療法と移植の治療選択

神田 善伸    自治医科大学附属さいたま医療センター血液科 教授

要旨
 造血幹細胞移植の適応を検討する際には,自家移植と化学療法の無作為化比較試験や,HLA 適合同胞ドナーがいる患者といない患者に割り付ける genetic randomization の臨床試験が役に立つが,これらの臨床試験の欠点を補う目的で,臨床決断分析も行われている.しかし,絶対的な移植適応という状況は少なく,QOL などの要素も含めて,患者や患者家族と情報を共有しながら,移植の適応を考えていくことが重要である.

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