要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 43/内分泌3
機能性下垂体腫瘍



第1章 概念・定義と疫学
下垂体腫瘍の概念・定義

寺本  明  日本医科大学脳神経外科 教授

要旨
 下垂体腫瘍(腺腫)は,原発性脳腫瘍の約18%を占める代表的な良性脳腫瘍である.臨床的にホルモンの過剰を証明できるか否かによって大きく機能性と非機能性とに分けられるが,subclinicalには内分泌機能は多様である.主として成人にみられ,プロラクチン(PRL)および副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腺腫は女性に多いが,非機能性および成長ホルモン(GH)産生腺腫には性差はない.画像診断の発展・普及により偶然発見される無症候性腺腫に対する対応が注目されている.

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第1章 概念・定義と疫学
下垂体腫瘍の疫学


横山 徹爾  国立保健医療科学院技術評価部研究動向分析室 室長

要旨
 脳腫瘍統計によると下垂体腫瘍は全脳腫瘍の 18%を占め,20歳代の女性と40〜50歳代の男女に多い.機能性のものが 55% であり,プロラクチン産生性26%,成長ホルモン産生性22%,副腎皮質刺激ホルモン産生性6%,その他の機能性2%である.1993年の罹患率は人口10万対2〜3程度で女性がやや高い.2004年の人口動態統計では,下垂体腫瘍を原死因とする死亡数は年間71人であり,1995年以降大きな変化はない.

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第2章 病理・病態生理
機能性下垂体腺腫の病理組織分類

佐野 壽昭   徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部人体病理学 教授
銭  志栄    徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部人体病理学
ムスタフィズル・ラフマン   徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部人体病理学
山田 正三   虎の門病院間脳下垂体外科 部長

要旨
 機能性下垂体腺腫の病理組織分類について,新WHO分類と筆者らのグループ分類を中心に解説した.下垂体腺腫は,成長ホルモン(GH)ミプロラクチン(PRL)-甲状腺刺激ホルモン(TSH)細胞グループ,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)細胞グループ,ゴナドトロピン細胞グループの腺腫に区分される.下垂体腺腫は多彩な腫瘍を含んで一見複雑にみえるが,枠組みを理解すれば病理分類は単純である.個々の症例において,臨床的な診断と病理組織診断との対比を吟味することが病態の理解を深めるのに役立つ.



第2章 病理・病態生理
下垂体腺腫と転写因子

江頭  登   東海大学医学部基盤診療学系病理診断学
竹井 麻生  日本医科大学脳神経外科
長村 義之  東海大学医学部基盤診療学系病理診断学 教授

要旨
 下垂体腺腫の発症・機能分化には各ホルモン産生に特異的な転写因子の役割が分かりつつあり,腫瘍の発症と機能を知るうえで重要な要素となる.本稿ではヒト下垂体腺腫の特徴を述べ,種々の腺腫の発症および機能分化にどのような転写因子が関与しているのかについて述べる.

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第2章 病理・病態生理
下垂体腺腫の病因

野 順子  東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科
野 幸路  東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科 特任講師

要旨
 散発性の下垂体腺腫,およびMcCune-Albright症候群の病因としてgsp変異が,また多発性内分泌腫瘍症候群の病因として men1遺伝子やPRKAR1A遺伝子の変異が知られる.PTTG やptd-FGFR4は動物実験で下垂体腺腫を生じ,ヒトの腺腫にも何らかの関与をすると考えられる.再発腺腫の過半数はもとの腺腫とはクローンが異なるとの報告が出された.病因には未解明のことも多い.

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第3章 診断
先端巨大症の診断

置村 康彦  神戸大学医学部保健学科医療基礎学 助教授

要旨
 疫学調査結果や微量成長ホルモン(GH)測定法の発展を基盤に,先端巨大症の診断基準が変わってきた.我が国では,2003年に厚生労働省間脳下垂体機能障害調査研究班により,「先端巨大症および下垂体性巨人症の診断と治療の手引き」が新たに作成され,2005年にさらに改訂された.症状以外に,75g経口ブドウ糖負荷試験による血漿GH抑制,血漿インスリン様増殖因子(IGF)-I値を診断,治癒の評価項目とし,従来に比べ厳しい基準となっている.

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第3章 診断
プロラクチノーマの診断


三木 伸泰  東京女子医科大学内分泌疾患総合医療センター 内科 助教授
小野 昌美  東京女子医科大学内分泌疾患総合医療センター 内科 講師

要旨
 高プロラクチン(PRL)血症と下垂体占拠性病変があればプロラクチノーマ(prolactinoma)と診断できるか.答は「否」である.高PRL血症を来す他の病態・疾患を除外し,持続的な高PRL血症を確認し,そして下垂体病変が腫瘍であると証明しなければならない.鑑別すべきは,下垂体茎の圧迫で高PRL血症を起す他の腫瘍性,非腫瘍性病変である.これらの病変では,プロラクチノーマのように容積とPRL値が正相関しないのがポイントである.最終診断には腫瘍の性状,サイズ,伸展・浸潤度を判定できるMRI画像の的確な読影力が要求される.

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第3章 診断
クッシング病の診断


須田 俊宏   弘前大学医学部内分泌・代謝・感染症内科 教授

要旨
 クッシング病の診断のポイントは,下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の自律的な分泌と,それによるコルチゾール分泌異常の結果,特異的臨床症候を来すようになった状態を証明することにある.まず臨床症候から本疾患を疑い,次いでスクリーニング検査でACTH依存性クッシング症候群であることを証明し,確定診断で異所性ACTH症候群との鑑別をすることにより最終診断が得られる.

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第3章 診断
その他の機能性下垂体腫瘍の診断

山田 正信  群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学 講師
堀口 和彦  群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学
森  昌朋   群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学 教授

要旨
 甲状腺刺激ホルモン(TSH)産生腫瘍の診断は,血清甲状腺ホルモン値のわずかな増加に血清TSH値が測定可能である病態をみたときに,この疾患を疑えるかどうかにかかっている.多くのTSH産生腫瘍はマクロアデノーマで発見されることが多いが,腫瘍が認められない場合は甲状腺ホルモン不応症との鑑別が問題となる.また,臨床的に非機能下垂体腺腫の多くはゴナドトロピン産生腫瘍であり,まれにホルモン過剰による臨床症状を示す.

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第3章 診断
下垂体腺腫の画像診断(MRI)

藤澤 一朗   市立岸和田市民病院放射線科 部長

要旨
 現在,下垂体腺腫の診断には,MRIが第1選択の画像診断として広く用いられている.MRIは,骨からのアーチファクトがなく,かつ断層面が自由にとれるため,トルコ鞍部分の描出に優れている.本稿では,成長ホルモン(GH)産生腺腫の特徴,およびクッシング病を来す副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腺腫に代表される微小腺腫の描出のための戦略を中心に,下垂体腺腫のMRIについて述べた.

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第3章 診断
下垂体腫瘍の眼症状・眼所見

中尾 雄三  近畿大学医学部堺病院眼科 教授

要旨
 下垂体腫瘍は多彩で特徴的な眼症状や眼所見を呈すので,診断,治療,経過観察に神経眼科検査は重要である.早期の視野異常は視野内部の小さな両耳側半盲性変化で始まる.中心フリッカー値低下や瞳孔対光反応障害は頭蓋内視神経や視交叉障害の特異的な異常所見で特に注意したい.腫瘍の側方進展例では眼球運動障害がみられる.眼底検査で視神経乳頭の蒼白所見は視神経萎縮のサインで,MRI・STIR法でも萎縮所見をとらえられる.

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第4章 治療
先端巨大症の治療ガイドライン

肥塚 直美  東京女子医科大学内分泌センター 内科 教授

要旨
 先端巨大症の治療の目標は腫瘍自体の摘出または退縮により,成長ホルモン(GH)の分泌動態を正常化し,GH過剰の症候の是正と合併症の改善および生命予後を正常化することである.現時点では本症の治療の第1選択は経蝶形骨洞的下垂体腫瘍摘出術とされるが,残存腫瘍または手術が困難な症例では薬物療法,放射線療法が適応となる.本稿では欧米,我が国で出されている先端巨大症治療のガイドラインを紹介し,我が国での治療の現状について概説する.

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第4章 治療
先端巨大症の薬物療法

清水  力   北海道大学病院検査部 講師
千葉 仁志  北海道大学医学部保健学科 教授
小池 隆夫  北海道大学大学院医学研究科病態内科学講座・第二内科 教授

要旨
 1999年のコルチナコンセンサスでの決定を受け,我が国においても厚生労働省間脳下垂体機能障害調査研究班が『先端巨大症および下垂体性巨人症の診断と治療の手引き』を改訂した.現在,先端巨大症治療に用いられる薬剤にはドパミン受容体作動薬とソマトスタチン誘導体があるが,認可申請中の成長ホルモン(GH)受容体拮抗薬も加わり,近い将来,よりきめ細やかな,そして,厳密な薬物治療が可能となる.

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第4章 治療
先端巨大症の最近の薬物療法

橋  裕  神戸大学大学院医学系研究科内分泌代謝・神経・血液腫瘍内科学 講師

要旨
 先端巨大症の治療における第1選択は手術療法であるが,近年の薬物療法の進展に伴い,薬物療法の意義は大きくなってきている.薬物療法にはドパミン作動薬,ソフトスタチン誘導体,GH拮抗薬などがあり,すでに臨床応用が行われている.

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第4章 治療
プロラクチノーマの治療ガイドライン

島津  章  国立病院機構京都医療センター臨床研究センター センター長

要旨
 プロラクチノーマの治療は,高プロラクチン血症を是正し生殖機能の回復と性腺機能低下の合併症を防止すること,および下垂体腺腫を縮小させ圧迫症状をとることにある.ドパミンD2受容体作動薬は強力なプロラクチン分泌抑制作用と腫瘍縮小作用を併せ持つことから,薬物療法が第1選択であり,カベルゴリン,ブロモクリプチンが用いられる.十分な治療用量により永続的寛解も期待される.

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第4章 治療
プロラクチノーマの薬物療法

小野 昌美  東京女子医科大学内分泌疾患総合医療センター 内科 講師
三木 伸泰  東京女子医科大学内分泌疾患総合医療センター 内科 助教授

要旨
 プロラクチノーマの治療は,マイクロ,マクロ腺腫にかかわらずドパミン作動薬を用いる内科的薬物療法を第1選択とするのが世界的に一致した見解である.ドパミン作動薬の中ではカベルゴリンが第1選択である.本剤は超長時間作動型のドパミンD2受容体刺激薬であり,受容体に対する親和性が強く半減期が長いため,他のドパミン作動薬よりプロラクチン(PRL)正常化率,腫瘍縮小率が高い.副作用は低頻度で,起っても軽微,かつ一過性である.服薬は通常週2回で済むため患者の経済的な負担も少ない.

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第4章 治療
クッシング病の治療ガイドライン

田口 崇文  高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科学
橋本 浩三  高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科学 教授

要旨
 クッシング病の治療第1選択は,経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術である.切除術で効果不十分な場合,もしくは外科的切除術が困難な場合は,放射線治療を行う.速やかな高コルチゾール血症の是正が必要な場合や,術後再発に際し再手術が困難な場合は,薬物療法として副腎皮質ステロイド合成阻害薬や副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌抑制薬を併用する.上記いずれの治療も効果不十分で,かつ血中コルチゾールを減少させる必要がある場合は,副腎摘出術を行う.

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第4章 治療
クッシング病の薬物療法

土井  賢    東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
                       分子内分泌内科学(内分泌代謝内科)
平田結喜緒   東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
                       分子内分泌内科学(内分泌代謝内科) 教授

要旨
 クッシング病の治療目標は高コルチゾール血症の是正にあり,手術療法により完治不能な場合,薬物療法の適応となる.クッシング病の薬物療法は@副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌抑制薬,A副腎皮質ステロイド合成阻害薬,Bグルココルチコイド受容体拮抗薬に大別される.副腎皮質ステロイド合成阻害薬は有効性が確立しているが本邦での使用および適応に制限がある.腫瘍細胞に作用するACTH分泌抑制薬の有効性はいずれも限定的で,エビデンスの確立した薬剤は存在しない現状である.

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第4章 治療
クッシング病に対する新規薬剤

岩崎 泰正 高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科学 講師
橋本 浩三 高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科学 教授

要旨
 クッシング病に対する内科的治療法は,他の下垂体腺腫と比較して有効な薬剤が少なく,決定打に乏しい.しかしながら,近年の“分子標的療法”的発想の流れを受けて副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腺腫の細胞学的特徴に照準を当てた薬物の使用が試みられ,一部においてその有効性が明らかにされつつある.具体的には,PPARγアゴニスト,ドパミンD2受容体作動薬,新規ソマトスタチンアナログなどがすでに臨床的に試用され,一部においてその有効性が確認されている.

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第4章 治療
外科治療

山田 正三 虎の門病院間脳下垂体外科 部長
大山 健一 虎の門病院間脳下垂体外科

要旨
 機能性下垂体腫瘍の治療は過剰に産生されるホルモンの正常化が主目的で,腫瘍が大きく占拠性症候を呈している場合にはこれらの改善という目的が加わる.成長ホルモン(GH),甲状腺刺激ホルモン(TSH),副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腺腫では原則手術が第1選択の治療法であるのに対し,プロラクチン(PRL)産生腺腫では特殊な場合を除き手術が適応となることはない.手術は通常,経蝶形骨洞的に施行されるが,近年内視鏡など種々の手術器具の導入により,さらに低侵襲で根治性の高い手術が可能となってきた.

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第4章 治療
機能性下垂体腺腫に対するガンマナイフの長期治療成績

小林 達也  名古屋共立病院名古屋放射線外科センター センター長
森  美雅   名古屋共立病院名古屋放射線外科センター 副院長
橋爪 知紗  名古屋共立病院名古屋放射線外科センター

要旨
 
 機能性下垂体腺腫の治療目的は過剰ホルモン分泌の制御と腫瘍の増殖抑制である.最近では分割照射の代わりに定位放射線治療が行われるようになった.画像診断の進歩でガンマナイフによる腺腫の選択的照射が可能で,特に微小または小腺腫では治癒も可能である.また,大腺腫では手術または薬物療法による容積減少,視神経減圧後ガンマナイフ治療を行い良好な成績が得られる.ガンマナイフの再治療がホルモン分泌制御に有効なことがある.

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第5章 合併症・予後
先端巨大症の合併症と予後

福田いずみ 東京女子医科大学第二内科 講師

要旨
 機能性下垂体腫瘍のうちプロラクチノーマの頻度は最も高く,合併症には下垂体腫瘍による症状と高プロラクチン血症による症状がある.具体的には脳神経障害,下垂体機能低下症,性腺機能低下症,乳汁漏出,骨粗鬆症などである.マイクロプロラクチノーマは治療により予後は良好であるが,巨大,浸潤性,転移性プロラクチノーマは治療抵抗性で予後不良のことがある.高プロラクチン血症と生活習慣病との関係が示唆されている.

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第5章 合併症・予後
プロラクチノーマの合併症と予後

杉原  仁    日本医科大学内科学講座内分泌代謝内科 助教授

要旨
 パニック障害における治療の第1選択は,認知行動療法(CBT)あるいは薬物療法としてのパロキセチンを始めとした選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬であるが,それぞれの単独療法よりも,CBTとSSRIの併用療法が有効であるという証拠が固められつつある.また,暴露療法と併用する恐怖消去促進薬という概念が現れてきた.

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第5章 合併症・予後
クッシング病の合併症と予後

沖   隆   浜松医科大学第2内科 講師

要旨
 クッシング病では慢性的な高コルチゾール血症によって,免疫力低下による感染症,糖尿病,高血圧,高脂血症,うつを始めとする精神障害,骨粗鬆症などの合併症を伴う.致死的となるものからクッシング病治癒後にも残存しQOLを著しく低下させるものまである.血中コルチゾール濃度が30mg/dl以上になると真菌感染症など重症な合併症となるため,メチラポンを用いて緊急にコルチゾールをコントロールする必要がある.

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