要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 45/腎5
腎がん・膀胱がん 改訂第2版


第1章 腎がん
疫 学

津島 知靖   独立行政法人国立病院機構岡山医療センター泌尿器科 医長

要旨
 腎がんの患者数および死亡数は増加している.画像診断機器の普及により,無症状で小さな腎細胞がんが発見されるようになったことが,患者数増加の大きな要因である.進行がんも増加しているため,死亡数は増加している.限局がんの占める割合が増加しているため,5年生存率は改善している.
 危険因子としては,肥満,高血圧や喫煙が挙げられる.

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第1章 腎がん
病因・病理 1.病因:特に分子腫瘍学について

矢尾 正祐   横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器分子遺伝学 准教授
近藤 慶一   横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器科 准教授
中井川 昇   横浜市立大学大学医学部泌尿器病態学 准教授
長嶋 洋治   横浜市立大学大学院医学研究科分子病理学 准教授

要旨
 遺伝性腎腫瘍症候群の責任遺伝子である,VHL,MET,FH,BHD,TSC1/2 などが同定され,腎がんが異なる遺伝子背景を持つ腫瘍亜型の集合体であることが明らかとなった.これらの遺伝子の機能解析から,VHL/HIF 経路,さらに TSC1/2,mTOR などを含むシグナルネットワークが腫瘍化に深くかかわっており,これらのシグナル経路に作用する新規分子標的薬の開発,臨床導入が活発に進められている.
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第1章 腎がん
病因・病理 2.病 理

長嶋 洋治   横浜市立大学大学院医学研究科分子病理学 准教授
黒田 直人   高知赤十字病院病理診断科部 部長
松嵜  理   君津中央病院病理部

要旨
 腎細胞癌(RCC)は組織亜型ごとに,異なる分子生物学的異常と臨床像を呈する.2004 年に改訂された腎腫瘍 WHO 分類では,分子生物学的事項が加味されている.現在,『腎癌取扱い規約』が WHO 分類に準拠して改訂作業中である.本稿では,『腎癌取扱い規約(第4版)』における変更点を概説する.取扱い規約(第4版)では,病理組織分類のほか,腫瘍の成長増殖様式についての記載項目が追加された.核異型度は従来の3段階法に加えて,Furhman 分類による4段階法を併記することが推奨された.また,TNM 分類は 2009 年改訂版が採択された.
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第1章 腎がん
診断・管理・治療 1.画像診断

桑鶴 良平  順天堂大学医学部放射線医学講座 教授

要旨
 腎がんの画像診断法の現況についてコンピューター断層撮影(CT),磁気共鳴画像(MRI)を中心に述べた.特に,単純および造影ダイナミック CT・MRI により,代表的な腎がんである淡明細胞型腎細胞がん,乳頭状腎細胞がん,嫌色素性細胞がんの画像上の鑑別がある程度可能である.さらに,腎がんに対する分子標的薬など化学療法の進歩により,腎がんの質的診断,進達度診断およびリンパ節転移・遠隔転移の画像診断は,治療前のみならず治療効果判定に必須であり,効率的な画像診断法が望まれる.
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第1章 腎 がん
診断・管理・治療 2.基本診断・治療・予後因子

齋藤 一隆  東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器外科

要旨
 画像診断の普及と進歩により,現在約半数の腎がんが無症状のうちに発見されている.しかし,いまだに進行病期となって診断される症例も少なくない.腎がんの治療は腫瘍の外科的切除を基本とするが,これに分子標的治療薬とサイトカイン療法を加え,予後の改善が図られている.多数例の予後解析から TNM 病期,悪性度,腫瘍径,腫瘍内壊死の有無,全身状態(PS),およびC反応性タンパクC(CRP)などが予後規定因子であることが示されている.
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第1章 腎 がん
診断・管理・治療 3.手術(1)根治的腎摘除:腎機能を含めて

横山みなと   東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器外科
藤井 靖久   東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器外科 准教授
木原 和徳   東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器外科 教授

要旨
 腎がんの唯一の根治療法は手術である.近年,小径腎がんに対する腎部分切除は根治的腎摘除に匹敵するがん特異生存率が示され,腎機能温存の観点からは根治的腎摘除の適応には十分な検討が求められるようになってきた.しかし,部分切除の困難な例や透析腎がんなどに対しては,根治的腎摘除は現在においても標準手術である.最近では,低侵襲な根治的腎摘除として,腹腔鏡手術やミニマム創内視鏡下手術が普及してきている.
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第1章 腎 がん
診断・管理・治療 3.手術(2)腎温存:部分切除

佐澤  陽   北海道大学大学院医学研究科腎泌尿器外科 講師
篠原 信雄  北海道大学大学院医学研究科腎泌尿器外科 准教授

要旨
 近年の画像診断技術の進歩や検診の普及により,偶然発見される小径腎がん症例が増加し,腎温存手術が広く行われるようになってきた.さらに,鏡視下手術の発展に伴い,鏡視下腎部分切除術も行われるようになってきた.腎部分切除術の要点は,出血のコントロール,確実な腫瘍切除,開放した尿路の閉鎖,正常腎実質の障害回避の4点である.開放および鏡視下腎部分切除術の北海道大学腎泌尿器外科での方法,成績を述べるとともに,他施設での動向を述べる.
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第1章 腎 がん
診断・管理・治療 3.手術(3)腎温存:ラジオ波熱凝固

有馬 公伸    三重大学大学院医学系研究科腎泌尿器外科 准教授
山門亮一郎   三重大学大学院医学系研究科 IVR科 講師
竹田  寛    三重大学大学院医学系研究科放射線治療科 教授
杉村 芳樹    三重大学大学院医学系研究科腎泌尿器外科 教授

要旨
 小径腎がんに対する経皮的ラジオ波熱凝固(RFA)は,高リスクの患者にも安全に施行でき,局所制御にも優れた治療法である.特に,腎辺縁部の T1a 小径腎がんに対しては,手術に匹敵する成績が得られ,長期にわたる治療効果が期待されている.また,合併症も少なく,何度でも繰り返し治療が可能であることも本法の利点であり,高齢化社会への移行とともに,経皮的 RFA が選択される症例が,今後さらに増加していくものと考えられる.
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第1章 腎がん
診断・管理・治療 4.免疫療法

冨田 善彦  山形大学医学部附属病院泌尿器科 教授

要旨
 分子標的薬の登場により,進行性腎細胞がん(RCC)の治療は大きく変わりつつある.これまで,サイトカイン投与による免疫療法が主体であったものが,分子標的薬が全身治療の中心となってきたが,これら分子標的薬は患者によっては長期の投与が困難であるなど,問題もある.今後の免疫療法は,効果が期待できる症例をこれまで以上に選別し,行うことが必要である.
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第1章 腎がん
診断・管理・治療 5.分子標的治療(1)血管新生阻害薬(ソラフェニブ,スニチニブなど)

木村  剛    日本医科大学泌尿器科学 准教授
要旨
 転移性腎がんの 90% は淡明細胞がんであり,非常に血管豊富な腫瘍である.進行腎がんの治療は,この 20 年間サイトカイン療法が行われてきたが,2008 年に血管新生を標的とした分子標的薬であるソラフェニブ,次いでスニチニブが我が国で使用可能となった後,治療のアルゴリズムは大きく変化した.本稿では,ソラフェニブ,スニチニブを中心とした血管新生阻害薬の作用機序,有効性,有害事象,医療経済的側面から概説する.
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第1章 腎がん
診断・管理・治療 5.分子標的治療(2)mTORキナーゼ阻害薬(エベロリムス,テムシロリムス)

大家 基嗣   慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室 教授
  
要旨
 mTOR キナーゼ阻害薬には経口薬のエベロリムスと注射剤のテムシロリムスがある.テムシロリムスは予後不良と考えられる腎がんあるいは非淡明細胞型腎がんのファーストラインに,エベロリムスはソラフェニブあるいはスニチニブに抵抗性となった患者に対する適応が推奨されている.抗がん作用は cytostatic であり,免疫抑制作用があることを理解し,間質性肺炎,口内炎,感染,高血糖などの副作用に注意することが重要である.
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第1章 腎がん
診療ガイドライン

藤岡 知昭  岩手医科大学泌尿器科学 教授
小原  航   岩手医科大学泌尿器科学 講師

要旨
 日本泌尿器科学会(JUA)編『腎癌診療ガイドライン 2007 年版』は,効果的・効率的な診療の体系化を目的に作成された.当初の予定どおり,作成後の新な知見を加え改訂作業が進行中である.改訂の要点は,@予後予測因子による治療法の選択,A進行例では分子標的薬による術前補助療法が選択肢となる,B病期Tで従来の手術に加え小さな腫瘍に対して経皮的ラジオ波焼灼術や凍結療法が選択肢に加えたところである.2011 年の出版・ウェブ上での公開を目指している.

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第1章 腎がん
透析腎がん

中澤 速和  東京女子医科大学東医療センター泌尿器科 臨床教授

要旨
 透析患者において高頻度に腎がんの発症がみられる.透析腎がんは比較的若年で発症し,男性が約 80% を占める.透析腎がんの病態は透析期間と密接な関係があり,長期透析例では後天性嚢胞性腎疾患(ACDK)に随伴して発症する例が多い.診断には超音波検査など定期的な画像検査が有用で,無症候で早期に発見される症例が多い.根治的腎摘除術が標準的治療であり,最近では腹腔鏡手術が積極的に行われている.早期診断,治療例の予後は良好である.

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第2章 膀胱がん
疫 学

乾  政志  香川大学医学部附属病院泌尿器副腎腎移植外科 講師

要旨
 膀胱がんは女性に比して男性に多く,高齢になるほど罹患率が高い.職業や環境因子との関連が高いと考えられているがんであり,特に喫煙との関連は明らかであるが,詳細なメカニズムは解明されていない.水分摂取や食事などで発がんのリスクを低下させる可能性は報告されているが,一定の見解はない.年齢や性差による罹患率の違いについては,従来の職業・環境因子への曝露以外の可能性も示されており,今後の研究の成果が期待される.

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第2章 膀胱がん
病因・病理 1.病 因

湯浅  健   癌研有明病院泌尿器科化学療法科 医長
羽渕 友則  秋田大学医学部腎泌尿器科 教授

要旨
 明確な遺伝性がんのカテゴリーを持つ腎がんと比較すると,膀胱がんでは喫煙や職業性化学発がんなどの環境要因のがん化への関与が特徴に挙げられ,がん化の解明は後塵を拝した感は拭えない.しかし,1980 年代にがん遺伝子が世界で最初に単離されたのは膀胱がん細胞株であり,最近になりそのシグナルが再注目されてきている.本稿では 膀胱がんの病因について,@がん化危険因子としての環境要因とAがん化や進展に関与する遺伝子との2項目に分けて記す.
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第2章 膀胱がん
病因・病理 2.病 理

熊谷 二朗  東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科分子病態検査学分野 准教授
清水 辰一郎 船橋市立医療センター臨床検査科

要旨
 診断の第1歩は,十分な問診である.血尿のみならず,浸潤がんや上皮内がんの場合は刺激症状を伴う場合がある.初診時に膀胱超音波,膀胱鏡を施行することで,膀胱腫瘍の存在および性状の把握が可能である.続いて尿細胞診,必要に応じてCT,MRI,排泄性腎盂尿管造影を施行する.膀胱がんの診断は病理組織診によるため生検は不可欠であり,原発巣に対する手術をかねて実施されることが多い.上記の一般的な診断の流れについて概説する.

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第2章 膀胱がん
診 断 1.膀胱がんの診断:総論

増田  均   東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器外科 講師

要旨
 診断の第1歩は,十分な問診である.血尿のみならず,浸潤がんや上皮内がん(CIS)の場合は刺激症状を伴う場合がある.初診時に,膀胱超音波,膀胱鏡を施行することで,膀胱腫瘍の存在および性状の把握が可能である.続いて,尿細胞診,必要に応じてコンピューター断層撮影(CT),磁気共鳴画像(MRI)を施行する.膀胱がんの診断は病理組織診によるため,生検は不可欠であり,原発巣に対する手術を兼ねて実施されることが多い.上記の一般的な診断の流れについて概説する.

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第2章 膀胱がん
診 断 2.尿細胞診

関根 英明  帝京大学医学部附属溝口病院泌尿器科 教授

要旨
 尿細胞診は尿路全体の病変を反映し,low grade 腫瘍に比べて high grade 腫瘍では感度が高いので,膀胱上皮内がん(CIS)を始めとする high grade で平坦ながん病変の診断に有用である.尿路に反応性変化があると誤陽性になりやすい欠点もあるが,可視病変に先行して尿細胞診が陽性となることが多いので,膀胱鏡との併用を適切に行えば,膀胱がん診断における臨床的有用性が高い.また,表在性膀胱がんの予後規定因子として再評価され,重要性が増している.

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第2章 膀胱がん
管理・治療 1.筋層非浸潤性がん(表在がん)

藤井 靖久   東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器外科 准教授

要旨
 筋層非浸潤性膀胱がん(表在性膀胱がん)は,病期 Ta(浸潤なし),T1(粘膜下結合組織までの浸潤),Tis(上皮内がん:CIS)が含まれ,基本的に,経尿道的膀胱腫瘍切除(TURBT)および抗がん剤や BCG の膀胱内注入療法を中心とした膀胱温存治療の対象となる.一般に生命予後は良好であるが,高い頻度で膀胱内再発を繰り返すこと,また時に再発腫瘍が筋層浸潤がんに進展し,この場合は生命予後に大きく影響することが問題である.筋層非浸潤性膀胱がんは,再発率,進展率,あるいは生命予後が大きく異なる多様な膀胱がんの集合体であり,泌尿器科医は,その自然史を理解し,個々の症例で,再発および進展のリスクを考慮して治療方針を決める必要がある.治療は,原則として全例に TURBT および抗がん剤即時単回膀胱内注入を施行し,病理検査で T1 あるいは high grade 腫瘍であれば 2nd TURBT を考慮する.その後,低リスク群は経過観察,中リスク群は抗がん剤あるいは BCG の膀胱内注入,高リスク群は BCG 注入あるいは膀胱全摘術などが推奨される.
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第2章 膀胱がん
管理・治療 2.筋層浸潤がん(1)膀胱温存療法

古賀 文隆   東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器外科
木原 和徳   東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器外科 教授

要旨
 経尿道的膀胱腫瘍切除(TURBT),化学放射線療法(CRT)による膀胱温存療法は,国内外のガイドライン上,膀胱全摘除+尿路変向の代替治療の位置付けにあり,膀胱全摘除と同等の生命予後を維持しつつ患者の QOL を落とさない治療法として,本邦でも広く行われている.膀胱温存療法では,がんの根治が大前提であるため,対象症例の選択が極めて重要である.課題として,温存膀胱における筋層浸潤がんの再発やそれに対する救済膀胱全摘除のリスクなどが挙げられる.これらの解決と同時に,今後,膀胱温存療法の恩恵を受ける症例の拡大に向けた臨床研究が期待される.
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第2章 膀胱がん
管理・治療 2.筋層浸潤がん(2)膀胱全摘除

米瀬 淳二  癌研有明病院泌尿器科 副部長

要旨
 転移のない浸潤性膀胱がん治療のゴールドスタンダードが膀胱全摘である.この術式の基本は,広範な骨盤内リンパ節郭清と膀胱周囲の脂肪を十分に切除することである.補助療法としては,放射線治療のメリットはなく,シスプラチンを含んだ多剤併用の術前補助療法が有用である.以前危惧されていた尿道再発は,自然排尿型の新膀胱ではかなり頻度が低いことが判明し,神経温存術式と合わせて安全で高質な根治治療となった.
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第2章 膀胱がん
管理・治療 3.転移がん

浦上 慎司   癌研有明病院泌尿器科 医長

要旨
 転移性膀胱がん患者の生存期間は M−VAC 療法により改善された.一方 M−VAC 療法は副作用が強いこと,奏効期間が短いことが問題であった.近年ゲムシタビン(GEM)を用いた GC 療法は,効果では M−VAC 療法と同等で,副作用は軽微であることが証明され,ガイドラインにおいてファーストラインの標準的化学療法として推奨されている.また,化学療法に手術を組み合わせた集学的治療も予後改善目的で行われている.本稿では,転移性膀胱がんに対する全身化学療法を中心に概説する.
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第2章 膀胱がん
管理・治療 4.尿路変向:QOLを含めて

古家 琢也  弘前大学大学院医学研究科泌尿器科学講座 講師

要旨
 尿路変向術にはさまざまな方法があり,それぞれ利点欠点がある.合併症などの医学的背景は考慮しなければならないものの,どの術式においても QOL に大きな差は認めない.そのため,尿路変向術の選択にあたっては十分なインフォームド・コンセントが必要であり,患者の社会的背景も考慮して慎重に選択する必要がある.

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第2章 膀胱がん
管理・治療 5.再発予防

雑賀 隆史  岡山大学大学院医歯薬学総合研究科泌尿器病態学 准教授

要旨
 本稿では膀胱がんの再発予防としての薬剤投与に関して解説した.筋層非浸潤性膀胱がんの経尿道的膀胱腫瘍切除(TURBT)術後再発予防としては,再発様式,リスク分類に応じて術直後の抗がん剤膀胱内注入療法と BCG 注入療法が適切に選択される必要がある.また,浸潤がんに対する術後補助療法としての多剤併用療法は M−VAC 療法が主体であるが,副作用の少ない GC 療法,GCP 療法などの新規抗がん剤併用療法にも期待がかかる.

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