要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 5/血液1
血液疾患合併感染症



第1章 血液疾患合併感染症の概念・定義
概念・定義

正岡  徹 大阪府立成人病センター 顧問

要旨
 血液疾患合併感染症は,疾患自体による免疫低下,治療による免疫低下および病状の悪化による免疫低下などに応じて発生する.特に,白血病などの強力治療に伴って起る感染症は,血液培養の陽性率が低くしかも病勢の進行が速いため,原疾患治療の成否を決めるもので,empiric therapy が行われ,このガイドラインの実証的研究や,培養陰性者の白血球中の貪食細菌 DNA の検索による培養陰性菌血症の研究などが今後重要となってくる.

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第2章 血液疾患合併感染症の病理・病態
血液疾患の易感染性

笹田 昌孝 京都大学医療技術短期大学部 学部長

要旨
 急性白血病を中心とする血液疾患では,感染症が死因の第一位を占める.この背景には血液疾患が compromised host であり,疾患自体の要因によって,また原疾患に対する治療によって,好中球の減少や機能低下またリンパ球の減少や機能低下を来すために重篤な感染症を引き起すことになる.したがって,血液疾患の臨床においては感染症を予防し,また的確に対処するために血液疾患の易感染性を理解することが重要である.

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第2章 血液疾患合併感染症の病理・病態
Febrile neutropenia の病態

浦部 晶夫 NTT関東病院血液内科 部長

要旨
 febrile neutropenia は好中球減少に伴う発熱と訳され,各種の病態に伴って出現する.特に,血液疾患に併発する頻度が高い.血液疾患の入院患者における発熱の過半数は febrile neutropenia である.febrile neutropenia の臨床では,起炎菌不明の感染症対策という側面が重要である.

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第2章 血液疾患合併感染症の病理・病態
血液疾患合併菌血症の病理・病態

手島 博文  大阪市立総合医療センター中央臨床検査部 部長
正岡  徹  大阪府立成人病センター 顧問

要旨
 造血器腫瘍患者に合併する菌血症の原因菌は,グラム陰性菌主体からグラム陽性菌主体に変わった.グラム陰性菌を標的にした抗菌薬治療,キノロンを用いた感染予防,中心静脈カテーテルの普及が原因と考えられる.菌血症は患者の常在菌や,入院後菌叢に獲得された菌が血中に侵入することによって発病する.有効な治療が行われないとショック,多臓器機能障害へと進むが,その病態は TNF や IL-1 といった炎症性サイトカインの増加が原因である.

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第2章 血液疾患合併感染症の病理・病態
血液疾患合併真菌症の頻度と病態

森   健  順天堂大学医学部内科(血液学) 講師

要旨
 病理解剖例を集計した結果では,真菌感染症は全解剖例の 3.9% を占めるに過ぎないが,血液疾患に限って見ると 21.7% と高い比率を示し,血液疾患患者の予後を左右する重要な因子であることが示唆された.最近では原因真菌も多彩になり,アゾール系抗真菌薬耐性菌の出現や non-albicans Candida の増加に加え,Aspergillus や Mucor などの糸状菌による感染が漸増しており,十分な注意が必要である.

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第2章 血液疾患合併感染症の病理・病態
急変を来す感染症

栂野 富輝 北里大学病院内科IV
東原 正明 北里大学病院内科IV 教授

要旨
 免疫不全時の感染症は重篤な病状を呈することが多く,早期診断,早期治療が求められる.免疫不全を顆粒球減少症,細胞性免疫障害,液性免疫障害と分類することが原因微生物を理解するのに役立ち,empirical な治療を適切に行なえるようになる.  急変を来す感染症の実際として敗血症(DIC),急性呼吸促迫症候群(ARDS),深在性真菌症,骨髄移植時の感染症を示した.

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第2章 血液疾患合併感染症の病理・病態
血液疾患合併ウイルス感染症の頻度と病態

宮崎  仁  藤田保健衛生大学医学部内科学 講師
平野 正美 藤田保健衛生大学医学部内科学 教授

要旨
 免疫不全状態にある血液疾患患者では,ヘルペスウイルス科に属するウイルスによる感染症が好発する.これらの感染症は,細胞性免疫能の低下に伴い,体内に潜伏していたウイルスが,再活性化されて回帰感染することで発症する.造血幹細胞移植後には,単純ヘルペスウイルス,水痘・帯状疱疹ウイルス,サイトメガロウイルスによる感染症の頻度が高いが,近年ではこれらのウイルスに対する診断,予防,治療の戦略に進歩が見られる.

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第3章 血液疾患合併感染症の診断
全身性炎症反応症候群(SIRS)の診断

岩崎 博道  福井医科大学輸血部 講師
池ヶ谷諭史  福井医科大学病理学第二講座
上田 孝典  福井医科大学内科学第一講座 教授

要旨
 血液疾患,特に造血器腫瘍に対する抗腫瘍化学療法施行後には,好中球数が著明に減少する.このような時期に認められる発熱は febrile neutropenia と言われ,多くは感染症を原因とする全身性炎症反応症候群(SIRS)を呈する.SIRS の診断には全身性炎症を反映する体温,心拍数,呼吸数および末梢血白血球数など,臨床的に迅速に確認できる指標が用いられる.SIRS の診断がなされた場合,直ちに empirc therapy を施行すべきと考えられる.


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第3章 血液疾患合併感染症の診断
培養陰性菌血症の診断

烏野 隆博  大阪府立成人病センター第五内科 医長

要旨
 血液疾患に合併する感染症は,進行が急速なため迅速な対応が必要であることから,菌の検出がなくても感染症と見なす febrile neutropenia という概念が重要視されてきている.しかし,感染症に対する対応が適正でかつ効果的であるためには,感染微生物の決定が重要であり,その診断方法にも進歩が見られている.生菌を検出する血液培養が陰性であっても,好中球に貪食された細菌をその DNA プローベを使って染色するという,好中球中細菌核酸同定検査(ISH 法)が開発された.そして,これにより培養陰性菌血症(calture negative bacteremia)という概念も出現している.これらについて概説する.

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第3章 血液疾患合併感染症の診断
真菌症の診断

久米  光 北里大学医学部病理学教室 講師・天津医科大学 客員教授

要旨
 白血病(骨髄異形成症候群を含む)など造血器疾患に特に高い頻度で見られる内臓真菌症は,予後不良な感染症の一つである.そして,今や本症は各科領域に共通した難治性感染症の一つでもあり,いずれも明らかに増加の傾向にある. 本稿では,我が国で経験される代表的な内臓真菌症について,血液疾患における現状のあらましと,その診断法(診断手順)について血清診断を主軸に概要を記述する.

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第3章 血液疾患合併感染症の診断
造血幹細胞移植後の感染症診断: (1)造血細胞移植と感染症総論

小寺 良尚  名古屋第一赤十字病院第四内科 部長・骨髄移植センター センター長

要旨
 造血細胞移植における感染症は外来性の細菌,真菌感染と内因性のウイルス再活性化に大別される.前者が問題となるのはハイリスク症例,臍帯血移植,精製 CD34+ 移植など,生着に時間のかかる症例の場合であり,スタンダードリスク例で無菌管理は簡略化の傾向にある.後者は強い前処置や免疫抑制の結果発症するので,これらが過度にならないような工夫が必要である.


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第3章 血液疾患合併感染症の診断
造血幹細胞移植後の感染症診断: (2)移植後のサイトメガロウイルス感染(症) の診断

峰松 俊夫 宮崎医科大学微生物学講座
南嶋 洋一 宮崎医科大学 前副学長

要旨
 移植患者には,しばしばサイトメガロウイルス(CMV)感染症が合併し,重症化する.移植手術に際しては,免疫抑制を強化すれば感染症が起きやすく,免疫抑制を緩和すれば拒絶反応が起る.このジレンマを克服するには,術前にドナーとレシピエントの感染の有無を検査して危険因子の存否を認識し,その結果に基づいて CMV 感染症を視野に入れた術後管理を行い,発症を早期に迅速に診断して,適切な治療を行なわねばならない.


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第3章 血液疾患合併感染症の診断
造血幹細胞移植後の感染症診断: (3)移植後の出血性膀胱炎の診断

釜江  剛 大阪府立成人病センター第五内科
平岡  諦 大阪府立成人病センター第五内科 部長

要旨
 造血幹細胞移植後合併症のウイルス性出血性膀胱炎は,重症になると患者の QOL は著しく低下し,ときに致死的である.移植後の出血性膀胱炎はウイルスが原因となるほか,移植前処置に用いたシクロホスファミドでも起り,まれに移植片対宿主病(GVHD)の一症状としても発症する.我々が報告した,尿沈渣の Papanicolaou 染色法,透過型電子顕微鏡検索による確定診断法を中心に,移植後の出血性膀胱炎の診断について概説する.


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第3章 血液疾患合併感染症の診断
造血幹細胞移植後の感染症診断: (4)移植後リンパ増殖性疾患の診断

加藤 剛二 名古屋第一赤十字病院小児医療センター血液腫瘍科 副部長

要旨
 移植後リンパ増殖性疾患(PT-LPD)は臓器移植や造血幹細胞移植後に発症する極めて予後不良な主にB細胞型のリンパ増殖性疾患である.発症の危険因子としては1)ドナーが HLA 不一致血縁者か非血縁者,2)抗胸腺細胞グロブリン(ATG)もしくは抗 CD3 モノクローナル抗体を使用すること.3)ドナー骨髄もしくは末梢血幹細胞からのT細胞除去である.本症に対する迅速かつ正確な診断法として近年 real-time PCR による EB ウイルスの定量法が開発され臨床的に極めて有用と考えられている.

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第4章 血液疾患合併感染症の管理・治療
血液疾患治療時の感染管理

神田 善伸 東京大学医学部附属病院無菌治療部
平井 久丸 東京大学医学部附属病院無菌治療部 助教授

要旨
 造血器腫瘍患者や再生不良性貧血患者は,好中球減少などのために感染症の危険が高い状態にあり,通常の感染症対策とは異なる対応が必要である.感染症の予防,診断,治療のそれぞれにおいて,過去の臨床研究の結果を参考にするだけでなく,各施設における好発感染症や耐性菌の出現頻度などを考慮したうえで,その施設に最適な対策を考えていくべきであろう.

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第4章 血液疾患合併感染症の管理・治療
好中球減少時の感染症治療薬の選択

長谷川廣文 近畿大学医学部血液・腎臓・膠原病内科 助教授

要旨
 血液疾患における好中球減少時の感染症は,起炎菌が検出されにくく発熱以外の感染症症状に乏しい.容易に感染を合併しやすく急激に重症化する.また,抗菌薬などの治療薬の効果が出にくい,などの特徴がある.この病態(febrile neutropenia)では,起炎菌の同定を待たずに empiric therapy を開始する必要がある.ここでは,この治療方法について述べた.  初期に投与される抗菌薬としては,第4世代セフェム系やカルバペネム系抗生物質が,好中球減少下においても広域性に強力な殺菌作用を有するため,これらが選択され,単独療法あるいは併用療法で開始される.  投与4日目に発熱,臨床症状,各種の検査結果をもとに薬剤の臨床効果評価を行い,薬剤の継続,中止,他の薬剤への変更,追加などを検討する.さらに,発熱が続く場合には,抗真菌薬,G-CSF,静注用ヒト免疫グロブリン製剤の追加を考慮することも必要である.

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第4章 血液疾患合併感染症の管理・治療
Febrile neutropenia の治療(ガイドライン)

田村 和夫 福岡大学医学部内科学第一 教授

要旨
 血液疾患や化学療法による好中球減少に伴う発熱には,適切な検査後,第4世代セフェムやカルバペネムの単独療法か,これらにアミノグリコシドを加えた併用療法を開始する.72 時間後までに解熱した場合は同薬剤をさらに4日間継続する.改善が見られないときは,単独療法例ではアミノグリコシドを加え,併用の場合はセフェムやカルバペネムを他剤に変更する.同時に,真菌血清検査を含む再評価を行い解熱傾向が見られないときは,抗真菌薬を加える.

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第4章 血液疾患合併感染症の管理・治療
全身性炎症反応症候群(SIRS)の治療

林    泉 癌研究会附属病院内科 副部長
桜井 雅紀  癌研究会附属病院内科 医長
塩谷 譲司 癌研究会附属病院臨床検査第1部

要旨
 感染症によって起ってくる全身性炎症反応症候群(SIRS)は敗血症に代表される.強毒菌による感染症の場合,健常者にもありうるが,術後,担がん患者,熱傷・外傷に合併した感染症の場合は,弱毒菌によっても SIRS の状態になることがある.  SIRS の治療は全身管理のもと,適切な抗菌薬を理論的に用いるとともに,サイトカインネットワークを有利な方向へと修復する作戦が必要である.ステロイドを少量,短期間用いるなどの工夫をしながら,短期決戦型の治療を行う.  多剤耐性菌(MDRP,MRSA など)の場合,耐性機構を打破するためにホスホマイシン(FOM)先行の時間差攻撃療法,それに抗 MRSA 薬を加えた最強療法,バイオフィルム対策なども行われる.

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第4章 血液疾患合併感染症の管理・治療
真菌症の予防と治療

吉田  稔  帝京大学医学部附属溝口病院第四内科 助教授

要旨  
深在性真菌症の予防として,カンジダ症では同種骨髄移植でのフルコナゾール(FLCZ)が,アスペルギルス症では高性能除塵(HEPA)フィルターの使用の有用性が確立している.治療は前者はアムホテリシンBと FLCZ が,後者ではアムホテリシンBが主体となるが,予後は不良なことが多い.むしろ本症では empiric therapy が重要で,広域スペクトラム抗生物質に不応性の発熱に対して早期にアムホテリシンBまたは FLCZ の投与が推奨される.

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第4章 血液疾患合併感染症の管理・治療
造血幹細胞移植時の感染管理 −ガイドラインを中心に−

岡本真一郎  慶應義塾大学医学部内科(血液) 助教授

要旨
 最近,CDC より造血幹細胞移植時の日和見感染の予防に関するガイドラインが発表された.内容は環境,細菌感染,真菌感染,ウィルス感染,原虫・寄生虫感染,移植後の生活指導,ワクチン接種と多岐にわたる.このガイドラインは現在のデータを統括し,日和見感染予防に関する根拠に基づく勧告を提供することである.表面的には感染管理の簡略化と理解されやすいが,医療従事者,患者,その家族が感染予防について十分な知識と認識を持つことによって,始めて有用な感染管理法として役立つことを忘れてはならない.


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第4章 血液疾患合併感染症の管理・治療
造血幹細胞移植時のヘルペスウイルス感染症の予防と治療

三井 秀紀  大阪府立成人病センター第五内科 医長

要旨
 単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)はいずれも造血幹細胞移植後に感染症を起しうるウイルスである.特に,HSV は移植後早期に単純疱疹を起すため,アシクロビル(ACV)の予防投与が保険適応となっている(day−7 から day35 まで1g/日経口または5mg/kg/日点滴静注).HSV,VZV 共に発症時の治療の第1選択は ACV であり投与量は HSV では1g/日経口,VZV では4g/日経口である.

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第4章 血液疾患合併感染症の管理・治療
造血幹細胞移植時のサイトメガロウイルス感染症における抗ウイルス薬の予防投与と早期投与

権藤 久司  九州大学大学院病態修復内科学

要旨
 造血幹細胞移植後に合併するサイトメガロウイルス(CMV)感染症の予防対策には,抗ウイルス薬の予防投与(prophylactic therapy)と早期投与(preemptive therapy)がある.しかし,強力な抗ウイルス薬(ガンシクロビル)と信頼性の高い迅速診断法(抗原血症検査や PCR など)を背景に多くの施設で早期投与が実施され,CMV 感染症の発症予防における有用性が確認されている.この予防対策は,造血幹細胞移植の安全性を高め,治療成績の向上に貢献した進歩の一つである.

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第4章 血液疾患合併感染症の管理・治療
造血幹細胞移植後の出血性膀胱炎の治療

宮村 耕一  東北大学医学部血液免疫科
森島 泰雄  愛知県がんセンター病院血液化学療法部 部長

要旨
 造血幹細胞移植後の出血性膀胱炎は多くの場合致死的ではないが,罹患中の患者の苦痛は強く,一般状態を悪化させ重篤な合併症の併発の1要因となる.また,最近非血縁者間の移植が増えるに伴い,致死的なウイルス性の出血性膀胱炎が増加している.したがって出血性膀胱炎の治療計画を考えるうえで,正確な原因と重症化のリスクを把握することが重要であり,治療は患者の一般状態を保つ支持療法,原因に対する治療,膀胱粘膜の保護,治癒促進の三つの観点から行う必要がある.

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第4章 血液疾患合併感染症の管理・治療
造血幹細胞移植後の EB ウイルス関連リンパ増殖性疾患の治療

山崎 宏人  富山県厚生農業協同組合連合会高岡病院内科 医長
塩原信太郎 金沢大学医学部附属病院輸血部 助教授

要旨
 同種骨髄移植後の免疫不全状態に合併する EB ウイルス(EBV)関連リンパ増殖性疾患は化学療法に反応せず予後不良と言われていた.最近新しい治療法として,ドナーリンパ球輸注(DLI)という免疫学的アプローチが注目されている.DLI は極めて簡便で有用な治療であるが,GVHD を誘発する危険性をはらんでいるため,EBV 特異的細胞傷害性T細胞の誘導や,最近開発された rituximab による抗体療法も広まりつつある.

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第4章 血液疾患合併感染症の管理・治療
健保審査と血液疾患合併感染症

冨山 佳昭  大阪大学大学院医学系研究科分子制御内科学 講師

要旨
 医療制度改革が叫ばれる中,血液診療に代表される高額医療は厳しい保険査定の対象となっている.一方,血液診療における最近の進歩は目を見張るものがあり,先進医療と保険診療との整合性も問題点として挙げられる.本稿では,実地医療の観点より,血液疾患に伴う感染症治療を保険審査の観点から概説する.

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