要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 51/内分泌5
乳癌


第1章 概念・定義と疫学
診断と治療−概要および最近の動向−

園尾 博司   川崎医科大学乳腺甲状腺外科 教授

要旨
 乳癌の診断と治療の現状と進歩について概説した.新しい遺伝子プロファイルによる分類を紹介し,マンモグラフィ(MMG),超音波検査,MRI,CT,PETなどの各種画像診断の成績と臨床応用について述べた.また,患者のQOLの向上を目指した乳房温存手術,乳房再建やセンチネルリンパ節生検の現状,LHRHアゴニスト,アロマターゼ阻害薬,タキサン,トラスツズマブ補助療法およびSt.Gallen国際会議の推奨などの最新情報について述べた.

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第1章 概念・定義と疫学
乳癌の疫学

黒石 哲生  愛知県がんセンター研究所疫学・予防部 客員研究員

要旨
 これまで乳癌罹患・死亡率が高かった欧米の先進国で,乳癌死亡が近年減少に転じつつある.我が国では乳癌の罹患・死亡とも依然,増加傾向にあり,乳癌罹患数・率ともに日本の女性のがんの中で第1位であり,乳癌の年齢調整死亡率も2〜3年後には肺癌,胃癌を抜いて第1位になることが確実とみられた.年齢別では乳癌罹患率では40歳代に,死亡率では50歳代後半にピークを持ち他のがんと比べて若年でもあり,乳癌は我が国の女性にとって最重要課題の1つである.
 乳癌予防の観点から生活習慣上制御しうる因子としては,肥満,食事性因子,アルコール飲用,運動などが重要と考えられる.2次予防としては乳癌検診受診率を大幅に引き上げる抜本的な方策が必要である.

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第2章 病理・病態
乳房の解剖と乳癌の発生

石原 明徳   松阪中央総合病院臨床病理 副院長

要旨
 乳腺疾患の的確な画像診断や外科的治療には,乳房の解剖と組織学的構造の正確な知識と理解が大切である.乳癌の発生にはエストロゲンが関与するさまざまな危険因子が指摘されてきたが,今日エストロゲン受容体,癌遺伝子,癌抑制遺伝子の変異や,それらの生化学的経路について分子レベルの解析が進行中である.さらに,分子標的治療薬の開発へと展開されており,この分野の研究が期待される.

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第2章 病理・病態
乳腺の病理診断に有用な免疫染色

市原  周    国立病院機構名古屋医療センター研究検査科病理検査室 研究検査科長
森谷 鈴子   国立病院機構名古屋医療センター研究検査科病理検査室

要旨
 乳腺病変の病理診断の基本はヘマトキシリン・エオジン(HE)染色標本である.しかし,複雑で多彩な乳腺病変を正しく解釈するために,免疫染色の果たす役割は大きい.免疫染色マーカーとして特に重要なのは,@間質浸潤の有無を評価するための筋上皮細胞マーカー,A小葉癌と乳管癌の区別に有用な E-cadherin,B上皮過形成と非浸潤癌の区別に役立つ高分子量ケラチン,C転移癌から原発巣を推定するためのマーカーである.

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第2章 病理・病態
乳癌発生のリスクを高める良性乳腺病変と乳癌発見のチャンスを高める良性乳腺病変

森谷 鈴子  国立病院機構名古屋医療センター研究検査科病理検査室

要旨
 乳癌リスクを高める良性病変として管内増殖性病変,末梢性乳頭腫,硬化性腺症,放射状瘢痕/複雑型硬化性病変,乳腺症型線維腺腫を取り上げた.これらの病変は,病理組織学的にも癌との鑑別が問題になることが多い.乳腺症型線維腺腫を除く4病変については,癌の背景にみられたり癌病巣と密接に関連してみられることがある.すなわち,付近の乳癌を発見するチャンスとなることがある.これらの疾患については,臨床医と病理医が互いの意思疎通を密にして共通の理解を持って対応する必要がある.

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第3章 診 断
マンモグラフィを用いたスクリーニング

森田 孝子   中日病院乳腺科 部長

要旨
 マンモグラフィ検診が普及し,読影方法が進歩している.また,高濃度乳腺が多い我が国の女性の乳房内の小さな病変を見つけるために,高解像度,高コントラストの画質向上が求められている.位相コントラスト技術を擁するデジタルマンモグラフィにより,乳腺内の“構築の乱れ”や腫瘤あるいはFADとも言えないような淡いdensityが表現されるようになってきた.本稿では,病理像と対比させながら,3次元画像であるマンモグラフィ所見の読影の解説を試みる.

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第3章 診 断
超音波検査によるスクリーニングの展望

中島 一毅   川崎医科大学乳腺甲状腺外科 講師

要旨
 1994年以降,日本人女性がんの罹患率1位は乳癌である.しかし,閉経前女性の割合が多い日本では,マンモグラフィ検診だけでの死亡率軽減効果は疑問視されており,30〜40歳代でも有効性が期待できる超音波検診の導入が検討され,厚生労働省指導で「乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験」が始まっている.本稿では,日本の乳癌検診の問題点を説明しながら,「乳房超音波検査によるスクリーニング」に至る経緯,現状と問題点,および今後の展望について解説する.

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第3章 診 断
精密検査としての画像診断−MGとUS−

遠藤登喜子   国立病院機構名古屋医療センター放射線科 部長

要旨
 マンモグラフィ検診で発見される非触知病変の精密検査としてのマンモグラフィと超音波検査の考え方,進め方について述べた.検査は,検診マンモグラフィから病変の位置と性状などの情報を最大限収集したうえで,追加撮影および超音波検査を施行する.超音波検査にあたっては,マンモグラフィの情報を踏まえ検査を構築することが重要で,従来の超音波像と異なる病変が診断されるようになっており,病理との対応が必要とされている.

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第3章 診 断
精密検査としての画像診断−MRIとCT−

五味 直哉  癌研有明病院画像診断部 医長

要旨
 乳癌の画像診断においてMRIは,@病変の良悪性の鑑別(生検の適応の決定などに有効),A乳癌の広がり診断,B非触知乳癌の診断(病変の局在と広がりの診断),C薬物療法の効果判定に用いられる.CTは腹臥位で撮影されることが多いMRIとは異なり,手術体位と同様な仰臥位で検査が可能であることから,乳房内の病巣の広がり診断・マーキングに有用である.

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第3章 診 断
Interventional Radiological Technique を用いた診断の確定

水谷 三浩    愛知県がんセンター愛知病院乳腺科 部長

要旨
 近年,微細石灰化や腫瘤像非形成性の非触知病変の発見が増加し組織診まで要する症例が多い.乳癌の早期診断は良好な予後から根治術の縮小化をもたらし患者のQOL向上も実現した.また,術前薬物療法,分子標的療法などの新たな治療も加わった.このような現状のさなか,高精度かつ低侵襲の画像診断とInterventional Radiological Techniqueを含む包括的診断システムの構築が強く求められている.

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第3章 診 断
センチネルリンパ節生検と腋窩郭清の省略

角田 伸行  愛知県がんセンター中央病院乳腺科 医長
  
要旨
 N0乳癌に対するセンチネルリンパ節生検は標準的術式として定着しつつある感が強いが,その手技に関しては細かな点で標準化が図れていない.一方,微小転移の扱い,術前薬物治療との組み合わせ,部分切除後温存乳房内再発に対する再センチネルリンパ節生検の可能性など,新たに検討すべき話題・問題は増加の一途である.本稿では,当院の手技とこれからの課題の概要を紹介する.

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第3章 診 断
術後の経過観察と再発の画像診断

植野  映  筑波大学大学院人間総合科学研究科乳腺甲状腺内分泌外科 病院教授

要旨
 術後の経過観察は早期に再発あるいは新病巣を発見し,適切な治療を行うところにある.再発には局所再発と遠隔転移による再発とがあり,前者の早期発見は重要視されているが後者においてはより早期に発見することの意義はないとされている.遠隔転移は発見された時点で進行病期であり,生命的な延長は期待できないためである.経過観察においては局所再発と新病巣の発見に主眼をおいて診療しなければならない.


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第3章 診 断
PET/CTの乳癌診療における役割

吉田 美和  国立がんセンター中央病院乳腺外科
明石 定子  国立がんセンター中央病院乳腺外科

要旨
 FDG-PETおよびPET/CTは,通常の形態学的診断では得られない腫瘍組織の代謝を反映した機能的情報を得ることができる.乳癌診療においても乳腺腫瘤の良悪性の鑑別,乳癌の病期診断(腋窩リンパ節転移の評価・遠隔転移の評価),化学療法・内分泌療法の治療効果判定や予後予測などにその有用性が期待されている.

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第4章 管理・治療
治療法と選択基準

岩瀬 拓士   癌研有明病院レディースセンター乳腺科 部長

要旨
 原発乳癌の治療は,乳房とリンパ節に対する局所治療と全身に対する薬物療法とに分けて考える必要がある.乳房に対しては乳房温存療法が,リンパ節に対してはセンチネルリンパ節生検が主体となっているが,癌の広がりやリンパ節転移の状況に合わせて過不足なく治療を行うことが重要である.外科治療,放射線治療,薬物治療がいずれにも偏ることなくバランス良く組み合わされて初めてQOLと治療成績の向上が期待できる.

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第4章 管理・治療
乳房温存療法の長期成績

久保  真  九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科学
黒木 司    黒木クリニック 院長

要旨
 早期乳癌に対する標準的治療として乳房温存療法(乳房部分切除術+残存乳房への放射線療法)は定着し,根治性と整容性のバランスをとることが可能になった.これは病理学的診断,放射線療法,薬物療法の進歩が支えていることは言うまでもない.そこで乳房温存療法の実際と長期成績を総括する.また,乳房内再発,再発後のサルベージ手術,非浸潤癌への対応,術前薬物療法などを検討して今後の問題点を展望する.

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第4章 管理・治療
鏡視下乳房温存手術

中嶋 啓雄  京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・乳腺外科学 講師
藤原 郁也  京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・乳腺外科学
          京都府立医科大学大学院医学研究科腫瘍薬剤制御学講座 講師
水田 成彦  京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・乳腺外科学 助教
阪口 晃一  京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・乳腺外科学

要旨
 乳腺外科における鏡視下乳房温存手術は,本邦において開発され,発展してきた術式である.皮膚浸潤を伴わない乳癌が適応となり,皮膚切開創を見えにくい場所に移動させ,skin sparing glandectomy(SSG)と乳房の同時再建を行うことで,高い整容性が得られる手術法である.また,当科の鏡視下乳房温存手術の長期成績では,根治性と局所再発率は,従来の乳房温存手術の成績と同等であった.他施設からも当科と同等の優れた長期成績が報告されており,高い整容性と根治性が得られ,しかも保険収載されている本術式は,今後広く普及していくものと考えられる.

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第4章 管理・治療
内分泌治療薬の種類と現状

岩瀬 弘敬   熊本大学大学院医学薬学研究部乳腺・内分泌外科 教授
山本  豊    熊本大学大学院医学薬学研究部乳腺・内分泌外科

要旨
 抗エストロゲン薬であるタモキシフェンは,閉経前後にかかわらず,再発後あるいは術後再発予防の内分泌治療薬としての中心的役割を果たしてきた.閉経前乳癌には卵巣機能抑制薬である黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)作動薬が用いられ,タモキシフェンとの併用あるいは単独での有用性が証明されている.閉経後乳癌には,乳腺組織内でのエストロゲン合成を抑制するアロマターゼ阻害薬がタモキシフェンに代わって中心的役割を担うようになってきている.

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第4章 管理・治療
化学療法治療薬の種類と現状

澤木 正孝  名古屋大学大学院医学系研究科化学療法学 講師

要旨
 乳癌の治療にあたって,化学療法は手術,放射線療法とともに基本である.化学療法剤,ホルモン剤を含む薬物療法は,微小な転移を含めた全身の癌細胞に効果が期待できる.臨床試験で効果の認められた薬剤が多種にわたるうえ,目的によって種類,量ともに異なるので専門的な知識を要する.乳癌の薬物療法はエビデンスに基づいたガイドラインが整っており,位置付けごとに正しい理解と使い方をすることが重要である.本稿では標準的乳癌治療における化学療法薬の解説と,乳癌の治療目的別の現在の使い方(位置付け)について述べる.

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第4章 管理・治療
分子標的薬剤を使用した術前・術後治療−乳癌治療におけるトラスツズマブの現状−

渡辺  亨    浜松オンコロジーセンター センター長
          医療法人社団圭友会 理事長

要旨
 原発性乳癌に対する術前または術後治療の第1の目的は,微小転移を完全に駆逐して再発を予防し,疾患を治癒させることである.トラスツズマブの臨床導入により,術前治療では病理学的完全寛解は約2/3の症例に達成され,術後治療では再発リスクは50%程度に低減される.これらのエビデンスに基づき,トラスツズマブはHER2過剰発現を有する原発性乳癌に対する,術前または術後治療における標準治療薬と位置づけられる.

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第4章 管理・治療
熱凝固療法

尾浦 正二   和歌山県立医科大学第一外科 准教授

要旨
 究極の乳房温存療法として現在注目を浴びている non-surgical ablation には種々の方法が存在するが,ラジオ波熱凝固療法(RFA)の臨床応用が最も進んでいる.Cool-tip RFシステムを用いた場合は,皮膚に近接する乳癌でもRFAが可能である.腫瘤に対するアプローチとしては,乳輪アプローチが整容性,腫瘍へのアプローチの容易さ,乳管内進展の熱凝固,乳頭熱傷予防の観点から優れている.

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第4章 管理・治療
進行乳癌の治療アルゴリズム

加藤 大典   京都大学大学院医学研究科乳腺外科
戸井  雅和   京都大学大学院医学研究科乳腺外科 教授

要旨
 進行乳癌には,外科治療,内科治療,放射線治療をうまく組み合わせた集学的治療が治癒率向上をもたらす.新しい分子標的薬剤,metronomic therapy の導入などが,より一層の治癒率向上をもたらすものと期待されている.遺伝子発現プロファイル解析検査,circulating tumor cellsの測定のような治療予測,治療効果判定,予後予測のための検査法も開発されてきている.危険性の少ない,有効な集学的治療,個別化治療を実現するための検査法,治療法の進展は続いている.

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第4章 管理・治療
再発乳癌の治療アルゴリズム

山下 年成   愛知県がんセンター中央病院乳腺科 医長
岩田 広治   愛知県がんセンター中央病院乳腺科 部長

要旨
 再発乳癌に対する治療目的は,生存期間の延長と症状緩和によるQOLの改善である.ホルモン感受性がある場合はホルモン剤で開始し,無効となった場合には化学療法に移行するといったHortobagyiのアルゴリズムに従って治療を行うべきである.化学療法では経口 5-フルオロウラシル(5-FU)剤がQOLに優れ,再発後に頻用される.HER2陽性乳癌の場合,トラスツズマブが化学療法と併用が用いられる.

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第4章 管理・治療
乳房再建術

酒井 成身   国際医療福祉大学附属三田病院形成外科 教授
酒井 成貴   慶応義塾大学病院形成外科

要旨
 乳癌術後の乳房再建には,人工乳房を用いる方法と自家組織を用いる方法がある.乳癌切除後の皮下組織が厚く残っている場合は人工乳房を挿入することもできる.人工乳房には破損,露出,被膜拘縮,感染,波打ちなどの合併症がつきまとう.自家組織では乳癌後の瘢痕が強い場合でも利用できる.これには広背筋皮弁,腹直筋皮弁やこれらを遊離して血管吻合する方法がある.ただ,胸部に放射線治療された場合には組織が硬く手術はやりにくい.

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第4章 管理・治療
医療経済

福富 隆志    愛知医科大学医学部乳腺・内分泌外科 教授
中野 正吾    愛知医科大学医学部乳腺・内分泌外科 准教授
萬谷 京子    愛知医科大学医学部乳腺・内分泌外科 講師
高杉みゆき    愛知医科大学医学部乳腺・内分泌外科
毛利有佳子   愛知医科大学医学部乳腺・内分泌外科

要旨
 日本は国民皆保険制度下で必要な医療が提供されてきたが,少子高齢化や医療財源の逼迫化,患者ニーズの多様化などにより,がん医療も費用対効果などの経済的側面が重要視されるようになってきた.本稿では乳癌を例として,検診,治療,終末期医療などの点に絞って,医療経済的側面より現状と問題点を検討した.

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第5章 ガイドライン
乳癌治療のガイドライン:標的を重視した治療へ

渡部  剛    東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座腫瘍外科学分野
石田 孝宣   東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座腫瘍外科学分野
多田  寛    宮城県立がんセンター乳腺科
大内 憲明   東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座腫瘍外科学分野 教授

要旨
 診療ガイドラインは,医師が日常診療において,その時点での最良の医療を効率的かつ効果的に提供できるように支援する目的で作られたツールである.乳癌診療において,St.Gallen コンセンサスや日本乳癌学会編『乳癌診療ガイドライン』,全米がん総合ネットワーク(NCCN)乳癌ガイドラインなどの診療ガイドラインが多く活用されている.しかし,これらのガイドラインは絶対的なものではなく,医師の経験や裁量を無視し,画一的な方法を強制するものではない.実際の医療現場では,これらのガイドラインの特徴,内容を十分理解したうえで,それぞれの患者のライフスタイルや希望を考慮した治療方針の選択が望まれる.

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