要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 56/精神5
睡眠・覚醒障害


第1章 総 説
概 念
  −
睡眠障害についての研究の歴史と概念

大川 匡子   滋賀医科大学睡眠学講座 特任教授
要旨
 科学的な睡眠研究が行われるようになったのは 20世紀に入ってからのことであるが,約1世紀の間に画期的な進歩を遂げている.睡眠研究および睡眠診断技術の進歩によってその病態が明らかになってきた睡眠障害は,現代社会において国民病と言われるまでになった.また,睡眠障害は生活習慣病など他の身体的・精神的疾患とも深い関連があることが分かってきている.このような背景のもと,21世紀になって,睡眠学という新しい学問体系も生まれ,ますます世間の注目を集めている.

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第1章 総 説
疫 学

土井由利子  国立保健医療科学院研修企画部 部長

要旨
 疫学とは,特定の人口集団において,健康に関連する状態または健康事象(例えば,疾病の罹患・罹病,死亡や死因など)の分布および規定因子を明らかにし,健康問題の解決に役立てようとする研究である.特定の人口集団における疾病負荷を表す指標の1つとして有症率がある.本稿では,日本において,地域や職域での一般成人を対象に,睡眠障害の有症率を推定する目的で行われた主な疫学研究を紹介する.

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第1章 総 説
診断分類

角谷  寛  京都大学大学院医学研究科付属ゲノム医学センター疾患ゲノム疫学解析分野 准教授

要旨
 さまざまな睡眠障害について,その有病割合や他の疾患との関連を把握するためには,国際的に共通な診断基準が必要であり,これまで,幾つかの国際分類が作成されてきた.ここでは『睡眠障害国際分類第2版(ICSD−2)』を中心に,睡眠障害の分類と診断基準について解説する.

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第1章 総 説
メカニズム

木村昌由美   マックス・プランク精神医学研究所Neurogenetics of Sleep グループリーダー

要旨
 健康な睡眠−覚醒リズムは,正常なホメオスタシスのうえに成立する.また,ホメオスタシスの維持には健康な睡眠パターンの確保が欠かせない.他の高等動物と比較して,ヒトは長時間続く単相型の睡眠形態を示す.ノンレム睡眠とレム睡眠が周期的に発現し,朝の自然な覚醒を迎えるのはどのようなメカニズムに基づくものか?本稿では,健常者の睡眠−覚醒リズムの成り立ちを概説し,それにかかわる内因性睡眠調節物質についても言及する.

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第1章 総 説
睡眠障害の社会経済的問題

井上 雄一  財団法人神経研究所附属睡眠学センター センター長
          東京医科大学精神医学講座 教授

要旨
 睡眠障害は,夜間症状の苦痛だけでなく,日中の社会生活にも大きな影響を及ぼす.その代表である不眠症では,作業効率の低下とエラーの発生が問題となるし,睡眠時無呼吸症候群では,眠気による仕事のパフォーマンス低下ならびに事故リスクの上昇が問題視される.また,前者ではうつ病リスクを高めること,後者では心血管系疾患罹病率を上昇させることが確実視されている.これらは,医療費を含めた社会経済的な損失につながる.睡眠障害を軽症のcommon diseaseとして無視せず,早期治療・予防に努めることが必要である.

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第1章 総 説
評価法

野田 明子   名古屋大学医学部保健学科検査技術科学専攻病因・病態検査学講座 講師

要旨
 睡眠・覚醒障害の主観的および客観的評価法の両者から,その病態生理を把握することが重要である.睡眠や眠気の主観的評価であるピッツバーグ睡眠質問票およびエップワース眠気尺度は日常臨床で広く用いられている.睡眠日誌は睡眠・覚醒障害の診断に有用である.活動量を評価するアクティグラフィは,自宅で長期間の睡眠・覚醒リズムを評価できる.睡眠ポリグラフ検査は睡眠中の脳波,眼球運動およびオトガイ筋筋電図,呼吸曲線,心電図,酸素飽和度(SpO2)および前脛骨筋筋電図などの生体現象を同時記録することにより,睡眠深度,睡眠時異常行動,睡眠中の呼吸および循環の生理現象を総合的に評価するための検査である.睡眠潜時反復検査は過眠症やナルコレプシーの診断に有力である.

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第2章 各 論
不眠症

山寺  亘    東京慈恵会医科大学精神医学講座 講師
伊藤  洋    東京慈恵会医科大学附属青戸病院 院長,教授

要旨
 『睡眠障害国際分類第2版』において,不眠症は「適切な睡眠環境下において,睡眠の質や維持に関する訴えがあり,これに基づいて日中の機能障害が認められる」と定義され,その原因別に,11の下位分類が記載されている.本稿では,不眠症の中核である精神生理性不眠症を解説し,プライマリーケアにおいて推奨される不眠症に関する診断および治療の手順を概説した.また,筆者らが施行している不眠症に対する外来個人精神療法−認知行動療法と森田療法−について紹介した.

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第2章 各 論
概日リズム睡眠障害

山田 尚登   滋賀医科大学精神医学講座 教授

要旨
 生体時計のリズムが外部の環境のリズムと同調しない場合に睡眠障害が生じ,心理社会的な機能の低下を引き起す場合を概日リズム睡眠障害と呼ぶ.概日リズム睡眠障害は,自由継続型,睡眠相後退型,睡眠相前進型,不規則睡眠覚醒型,時差型,交代勤務型などに下位分類される.治療としては,生活指導,高照度光療法,メラトニンなどを単独,あるいは併用する.

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第2章 各 論
睡眠時無呼吸症候群

赤柴 恒人  日本大学医学部睡眠学・呼吸器内科 教授

要旨
 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は,睡眠中に無呼吸が頻発する特異な病態であるが,上気道が閉塞する閉塞型 SAS(OSAS)は決してまれな疾患ではない.睡眠中の上気道の閉塞は,咽頭部の形態的・機能的異常によって生ずる.したがって,上気道が狭小化しやすい肥満者や小顎症に認められることが多い.著明ないびきはOSASに必発の徴候である.無呼吸が重症になると著しい低酸素状態となるため,循環系に大きな影響が及び,高血圧,冠動脈疾患,肺性心,脳血管障害などの合併症が起ってくる.また,無呼吸により睡眠が障害されるため日中に著しい過眠が出現し,交通事故や災害事故の原因となる.
 SASの診断は,上記の症状に加え,睡眠中の異常呼吸(無呼吸+低呼吸)が1時間あたり5回以上(無呼吸−低呼吸指数:AHI≧5)の場合に診断される.したがって,確定診断には睡眠ポリグラフ検査(polysomnography)が必須である.5≦AHI<15を軽症,15≦AHI<30を中等症, AHI≧30を重症とするのが一般的であるが,我が国では,AHI≧20の場合に最も有効な治療法である経鼻的持続的気道内陽圧呼吸(NCPAP)の適応を健康保険で認めている.
 治療は重症例に対しては NCPAP が第1選択であり,その有効性,安全性とも確立されており極めて有効な治療法である.しかし,あくまで対症療法であり,また毎晩機器を装着して就寝することの煩わしさがあり,治療の継続が大きな問題となる.軽症〜中等症では,減量などの生活習慣の改善や口腔内装置が有効である.


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第2章 各 論
睡眠関連運動障害

宮本 雅之  獨協医科大学内科学(神経)講座 准教授
宮本 智之  獨協医科大学内科学(神経)講座 准教授

要旨
 睡眠関連運動障害は,睡眠障害国際分類(ICSD)の第2版で睡眠障害の大項目の1つになった.この中に,レストレスレッグス症候群,周期性四肢運動障害,睡眠関連下肢こむらがえり,睡眠関連ブラキシズム(SB),睡眠関連律動性運動障害(SRMD)が含まれ,ICSD第1版で睡眠時随伴症であったSBと睡眠覚醒移行障害であったSRMDが第2版から加わった.

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第2章 各 論
ナルコレプシー

藤木 通弘  徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部統合生理学分野
神林  崇   秋田大学医学部神経運動器学講座精神科学分野 准教授

要旨
 ナルコレプシーは,繰り返す耐え難い昼間の眠気と,情動刺激により誘発される筋脱力発作(カタプレキシー発作)を主症状とする傾眠症(過眠症)である.1999年にナルコレプシーの動物モデルを用いた研究により,オレキシン神経伝達障害によってこの疾患が引き起されることが明らかになり,この疾患の診断,治療に大きな変化をもたらした.本稿では 2005年に第2版として改訂された『睡眠障害国際分類』をもとに,この疾患を解説する.

注-本誌117ページの表1のタイトルは「ICSD-2によるナルコレプシーの分類とその診断基準」が正しいものです。
お詫びして訂正致します。


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第2章 各 論
睡眠時随伴症

千葉  茂  旭川医科大学医学部精神医学講座 教授

要旨
 睡眠時随伴症(parasomnia)とは睡眠障害の1型である.本症は,睡眠中だけでなく,睡眠から覚醒へ,あるいは覚醒から睡眠への移行期にも起りうる.これらの異常現象の発現機序として,ノンレム睡眠からの覚醒障害(睡眠時遊行症など),レム睡眠に関連するもの(レム睡眠行動障害など),てんかん発作,睡眠関連運動障害,睡眠関連呼吸障害,せん妄,その他(泌尿器科的異常,心理社会的要因,遺伝的要因など)などがある.鑑別診断においては,睡眠ポリグラフ検査(polysomnography)を積極的に施行すべきである.


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第2章 各 論
小児の睡眠障害

岡  靖哲   財団法人神経研究所附属睡眠学センター
井上 雄一  財団法人神経研究所附属睡眠学センター センター長
           東京医科大学精神医学講座 教授

要旨
 小児の睡眠障害は,成人の睡眠障害と共通するものもあるが,成人とは異なる臨床像を呈する場合も少なくない.また,年齢により起りやすい疾患が変化したり,小児に特有の睡眠障害もあるため,診療にあたってはその特徴を十分に把握することが大切である.また,小児の睡眠の問題は,児の学校や家庭生活でのパフォーマンスを低下させるほか,心身の発達に影響を与えうることから,早期に診断し,治療や指導を行うことが重要である.

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第3章 トピックス
高齢者の睡眠障害

稲見 康司  愛媛労災病院精神科 部長
          島根大学医学部精神医学講座 臨床教授
新野 秀人  香川大学医学部精神神経医学講座 准教授
堀口  淳   島根大学医学部精神医学講座 教授

要旨
 高齢者では,多相性睡眠,就床時刻の前進,就床時間の増加,中途覚醒回数の増加など,若年者と異なった生理的な変化が生じる.これらの変化に気づくことなく,単に夜間の睡眠が不良であるとする主訴だけで,睡眠薬などによる薬物療法を開始することは,ふらつき・転倒事故につながる場合が多いので注意が必要である.睡眠衛生教育として生活習慣の改善を働きかけ,そのうえでなお障害があるようならば,少量の薬物療法の適応となるかも知れない.その他,高齢者にみられる特殊な問題として,睡眠時無呼吸症候群,むずむず脚症候群,周期性四肢運動障害,せん妄などについての概略を示した.それぞれの病態の詳細については,成書を参照されたい.

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第3章 トピックス
睡眠障害と生活習慣病

大塚 邦明   東京女子医科大学東医療センター 内科 教授
高杉絵美子   東京女子医科大学東医療センター 在宅医療部・内科
堀田 典寛   東京女子医科大学東医療センター 内科 講師
山本 直宗   東京女子医科大学東医療センター 在宅医療部・内科 講師
山中  崇    東京女子医科大学東医療センター 在宅医療部 准教授

要旨
 地域に見合った医学(フィールド医学)の立場から,睡眠障害と生活習慣病とのかかわりについて解析した.就眠までの時間が長いほど,朝の家庭血圧が高く,non−dipperを呈し,睡眠時間が長すぎる場合は,起床後の疲労感が大であった.脂質異常の頻度は不眠群に多く,HOMA指数 は不眠群で高値であった.5年間の追跡調査で,「睡眠が十分ではない」と回答した住民の,心脳血管事故発症の相対リスクは3.17,発がんの相対リスクは4.67であった.

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第3章 トピックス
睡眠薬の正しい使い方

小曽根基裕  東京慈恵会医科大学精神医学講座 講師
小幡こず恵   東京慈恵会医科大学精神医学講座

要旨
 何らかの睡眠障害は国民の5人に1人にみられ,最近うつ病を始めとした精神疾患や高血圧や糖尿病など身体疾患の発症や経過に影響する因子として注目され,睡眠薬のニーズが高まっている.薬物療法においては正確な診断のもと,睡眠衛生教育を行い,個々の治療目標を正しく設定し,睡眠薬の種類と特性および副作用,服用方法などについて患者に説明した後に投与することが重要である.