要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 59/代謝5
肥満症


第1章 概念・定義と疫学
肥満と肥満症の定義

宮崎  滋   東京逓信病院内科 部長

要旨
 肥満と肥満症とは明確に区別しなければならない.肥満とは脂肪組織が過剰に蓄積した状態であり,疾患であるかどうかとは関係ない.一方,肥満症とは減量治療すべき肥満であり,疾患である.肥満症には内臓脂肪蓄積型の質的異常と皮下脂肪蓄積型の量的異常の2つのタイプがある.タイプにより,合併する健康障害が異なり,生命予後にも関係してくる.単に肥満とひとくくりにしないで,肥満,肥満症およびそのタイプを区別して診療にあたる必要がある.

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第1章 概念・定義と疫学
疫 学−我が国の特徴−

吉池 信男  青森県立保健大学健康科学部栄養学科 教授
川崎 徹大   青森県立保健大学大学院

要旨
 2005年の『国民健康・栄養調査』では,20歳以上の日本人における体格指数(BMI)≧25kg/m2の割合は,男性 28.6%(BMI≧30 では 3.4%),女性 22.0%(同 4.3%)であった.経済協力開発機構(OECD)の Health Data に登録されている肥満(BMI≧30),過体重(BMI 25≦,<30)の割合をみると,男性では韓国(2005 年)よりもさらに低く30ヵ国中最も少ない.一方,女性では肥満者の割合は韓国よりも若干高いものの,30ヵ国中 29 位となっている.最近 30 年間の推移では,男性では 30 歳代以降のすべての年齢階層で増加幅は 10% 前後で,急激な増加がみられている.一方,女性では,30〜50 歳代においてはむしろ減少している.平成 20 年度より,『特定健康診査・特定保健指導』が開始された.その際,地域差などを考慮して効果的なアプローチを行うことが必要である.
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第2章 病因と病態生理
食欲コントロールシステムとその異常

吉松 博信   大分大学医学部総合内科学第一講座 教授

要旨
 視床下部にはエネルギー代謝動態をモニターするセンサーが存在し,代謝産物などの液性情報や肝臓などからの求心性神経情報を受容している.それらの情報は各種神経ペプチドやその受容体で構成される神経ネットワークで統合処理され,摂食行動および末梢エネルギー代謝を調節する.また,視床下部は大脳皮質連合野や大脳辺縁系との間で情報交換を行うことで,食物の認知や摂食行動の動機付けなどを制御している.

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第2章 病因と病態生理
エネルギー消費と肥満

斉藤 昌之   天使大学大学院看護栄養学研究科 教授

要旨
 我が国の肥満増加にはエネルギー消費の減少が大きく寄与している.これに対する対策として,積極的な運動が推奨されているが,最近これとは別に家事や通勤などごく日常的な身体活動(NEAT)の役割が注目されている.さらに,褐色脂肪による熱産生についても,肥満との関係がヒトで再発見された.今後,これらをターゲットにした新たな肥満対策が期待される.

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第2章 病因と病態生理
肥満遺伝子

佐藤 哲子  独立行政法人国立病院機構京都医療センター
         臨床研究センター糖尿病研究部臨床代謝栄養研究室 室長
小川 佳宏   東京医科歯科大学難治疾患研究所分子代謝医学分野 教授

要旨
 脂肪細胞から分泌される肥満遺伝子産物レプチンは強力な摂食抑制作用とエネルギー代謝亢進作用により体重減少効果を発揮する.レプチン遺伝子変異を伴う肥満や脂肪萎縮性糖尿病ではレプチン治療が奏効し臨床応用されている.一方,抗肥満薬としては,多くの単純性肥満に存在する“レプチン抵抗性”が問題となっている.また,レプチンは摂食調節,交感神経系活性化,血圧上昇,神経内分泌機能調節などの中枢作用以外に,血球系機能調節や血管新生などの末梢作用を有する.レプチンは肥満とその合併症・動脈硬化症を結ぶ脂肪血管連関においても重要なメディエーターである.

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第2章 病因と病態生理
肥満合併症とアディポサイトカイン

中川 靖彦   大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学
船橋  徹   大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学 准教授

要旨
 肥満,特に内臓脂肪蓄積型肥満は種々の代謝異常を合併し,耐糖能異常,高脂血症,高血圧やこれらの帰結としての動脈硬化疾患の発症が明らかにされ,メタボリックシンドロームとして注目されている.これらの肥満およびそれに伴う合併症発症の分子基盤として,脂肪組織がさまざまな生理活性物質(アディポサイトカイン)を分泌し,これらの調節障害が危険因子集簇および動脈硬化を引き起していることが明らかとなってきた.
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第2章 病因と病態生理
脂肪細胞の質的異常による肥満症

藤岡 滋典   日本生命保険相互会社本店健康管理所 所長

要旨
 脂肪細胞の質的異常による肥満症は,内臓脂肪蓄積に伴う健康障害を有する肥満であり(内臓脂肪型肥満),日本肥満学会では疾患群として耐糖能障害,脂質代謝異常,高血圧,高尿酸血症,脂肪肝,冠動脈疾患,脳梗塞を挙げている.病態としては,内臓脂肪・肝臓連関を中心とする代謝異常と脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの産生・調節異常を介するメカニズムが重要であり,前者では内臓脂肪の細胞的特性と門脈系に存在するという解剖学的特徴がキーポイントである.
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第2章 病因と病態生理
脂肪細胞の量的異常による肥満症

山口  崇    東邦大学医療センター佐倉病院内科講座
高橋 真生   東邦大学医療センター佐倉病院内科講座
白井 厚治   東邦大学医療センター佐倉病院内科講座 教授

要旨
 高度肥満は,脂肪組織の重量と容量拡大による特有の病態を引き起す(表1).睡眠時無呼吸症候群,心不全,また近年,腎障害があり,重量そのものの負荷として変形性関節症を引き起す.高度肥満の定義はないが,日本人では,体格指数(BMI)30 以上,あるいは 35 とする場合もある.BMI 30 以上は日本人では男性,女性約2〜4%である.
 問題は,肥満が高度であると合併症が異なってくるとともに,肥満の原因も異なり,過食がしばしば性格や精神的な問題と関係している.したがって,精神科的アプローチも必要になってくる.

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第3章 診 断
肥満症の分類とガイドライン

徳永 勝人  みどり健康管理センター 健診部長

要旨
 肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか,臨床的にその合併が予測される内臓脂肪型肥満は,医学的治療の必要な“肥満症”と診断する.新しい『肥満症治療ガイドライン 2006』では肥満症を,脂肪細胞の質的異常による肥満症(耐糖能障害・2型糖尿病,脂質代謝異常,高血圧,高尿酸血症・痛風,脂肪肝,冠動脈疾患,脳梗塞)と脂肪細胞の量的異常による肥満症(骨・関節疾患,睡眠時無呼吸症候群,月経異常)に分類している.

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第3章 診 断
肥満症の診断基準

中村  正    大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学

要旨
 日本人は肥満が軽度でも健康障害を合併する頻度が高く,体格指数(BMI)が 25 以上であれば肥満と判定する.そして,肥満と判定された中でも,肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか,臨床的にその合併が予測される場合で,医学的に減量を必要とする病態を肥満症と定義し,疾患単位として取り扱っている.健康障害を,内臓脂肪蓄積を基盤とする脂肪細胞の質的異常によるものと,脂肪の絶対量増加による脂肪細胞の量的異常によるものと2つのカテゴリーに分けている.これは,2つのカテゴリー別に肥満症治療アプローチを分けて考えることを想定したものである.
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第3章 診 断
遺伝性肥満をめぐる最近の進歩

益崎 裕章    京都大学大学院医学研究科内科学講座内分泌代謝内科 講師
堀田 紀久子   理化学研究所ゲノム医学研究センター内分泌・代謝疾患研究チーム
田中 智洋    京都大学大学院医学研究科内科学講座内分泌代謝内科
中尾 一和     京都大学大学院医学研究科内科学講座内分泌代謝内科 教授
  
要旨
 単一遺伝子の異常による肥満(non−syndromic monogenic obesity),多遺伝子の相互作用によるヒトの肥満,遺伝性症候性肥満の遺伝学における最近の進歩を概説した.ゲノムワイドスキャンにより新たに同定された肥満感受性遺伝子の同定は画期的であり,肥満の遺伝学が進展する以前には遺伝性症候性肥満として分類されてきた一連の症候群において続々と遺伝子レベルでの解明が進んでいることも特筆に値する.遺伝子産物の機能が十分に解明されていないものも多いが,同一のシグナル経路における多数の遺伝子の関与や遺伝子間の相互作用は一般の肥満の成因や病態を考察するうえで貴重なモデルであり,polygenic obesity のメカニズム解明に多くのヒントを与えている.

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第3章 診 断
脂肪分析法

善積  透   医療法人川崎病院予防医学部
           大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学

要旨
 本稿では,肥満症の病態基盤である腹腔内(内臓)脂肪蓄積評価のうち,最も代表的な画像診断法である CT 法について解説を行った.CT 法では現在,施設間・検者間の誤差をなくし,被検者での再現性を良くするために,脂肪分布評価法の標準化と最適化を行っている.今後はこれらを利用し,各施設で標準的な方法での CT 脂肪分布評価をすることが重要である.


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第4章 管理・治療
肥満治療の目的と考え方

齋藤  康  千葉大学 学長

要旨
 肥満という病態が次第に明らかにされるようになって,特にその直接原因である脂肪組織の機能が基礎的のみならず,臨床的にも明らかにされることによって疾患として鮮明にとらえることができるようになり,診断基準,治療基準などにも多くの進歩が生まれている.そのような進歩を踏まえてリスクと肥満症,そして治療について考え方を述べた.
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第4章 管理・治療
食事療法

倉貫 早智   神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科 講師
中村 丁次   神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部 学部長

要旨
 肥満症は,エネルギー出納の不均衡が原因で,消費エネルギー量に比べ摂取エネルギー量の増大した状態が長期に続き,余分のエネルギーが体脂肪へと合成されることにより発症する.肥満症に対する食事療法は,体内でエネルギーの不足状態を作り体脂肪の分解を亢進させ,体重を減少させることが原則である.体重減少および体脂肪の減少は,長期的な経過が必要とされるため,実際に生活の中に取り入れられるような具体的な計画を立てることが必要である.
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第4章 管理・治療
運動療法

佐藤 祐造   愛知学院大学心身科学部健康科学科 学部長

要旨
 適度な食事制限と身体トレーニングの継続的実施は,内臓脂肪を効率的に減少させ,肥満症患者の個体のインスリン抵抗性を改善させる.具体的には,散歩,ジョギングなどの有酸素運動を軽・中等強度で1回 10〜30 分(60 分まで),週3〜5日以上実施させる.高齢者ではレジスタンス(筋力)運動も併用する.運動によらないエネルギー消費(NEAT)も肥満防止に有用であり,「こまめに体を動かす」ライフスタイルを指導する.

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第4章 管理・治療
外科療法

太田 正之    大分大学医学部第一外科 講師
甲斐 成一郎   大分大学医学部第一外科
遠藤 裕一    大分大学医学部第一外科
江口 英利    大分大学医学部第一外科
平下 禎二郎   大分大学医学部第一外科
北野 正剛    大分大学医学部第一外科 教授

要旨
 肥満症治療の基本は内科的治療であるが,内科的治療無効で,body mass index(BMI)≧35kg/m2 の重度の肥満関連健康障害を有する症例に対しては,現在,海外では積極的に外科療法が行われている.いずれの外科療法によっても良好な減量効果とそれに伴う肥満関連健康障害の改善が得られる.外科療法による予後の改善も報告されている.また,我が国においても内視鏡下の肥満外科療法が相次いで導入され,良好な成績が報告されている.
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第4章 管理・治療
肥満症の薬物療法をめぐる最近の動向

益崎 裕章    京都大学大学院医学研究科内科学講座内分泌代謝内科 講師
石井 崇子    京都大学大学院医学研究科内科学講座内分泌代謝内科
秦江 慎太郎   京都大学大学院医学研究科内科学講座内分泌代謝内科
中尾 一和    京都大学大学院医学研究科内科学講座内分泌代謝内科 教授

要旨
 肥満症に対する治療のファーストラインは食事療法と運動療法であるが,健康障害のために確実で早急な減量を必要とし,食事療法と運動療法ではその目的が達成できない場合に初めて薬物療法の適応となる.従来,本邦ではマジンドールと防風通聖散の2種類の医薬が使用可能であったが,2006 年に日本肥満学会が提唱した『肥満症の薬物療法の適応とその基準』に沿って sibutramine,rimonabant,cetilistat,グルカゴン様ペプチド(GLP)−1 アナログなどの認可申請や治験が行われており,肥満症治療に新しい時代が訪れようとしている.

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第4章 管理・治療
メタボリックシンドロームと特定保健指導

津下 一代  あいち健康の森健康科学総合センター 副センター長

要旨
 メタボリックシンドロームの概念を活用して生活習慣病の予防を目指す政策が平成 20 年度に始まった.健診結果から肥満と動脈硬化リスクの重複に基づいて階層化し,“情報提供”,“動機付け支援”,“積極的支援”,“受診勧奨”を行う.保健指導では@本人が健診結果を理解して体の変化に気づき,A生活習慣を振り返って課題を発見し,B行動目標を立て,C実行・継続できるような支援を行うことが大切である.

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第4章 管理・治療
医療経済

徳永 勝人    みどり健康管理センター 健診部長

要旨
 我が国における肥満は増加し,肥満に伴う合併症による医療費が増大している.先進国での肥満症医療費は2〜7%とされており,日本では 3.2% との報告がある.国際的に広く用いられている直接費用の計算法は肥満の合併症を予防しうる率(PAF)から求める方法で,日本の肥満症による医療費は1兆 3,505 億円にものぼる.この数字からみても分かるように,肥満対策は医療経済の面からも重要である.

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