要旨


最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 60/循環器10
閉塞性動脈硬化症


第1章 概念・定義と疫学
概念・定義

太田  敬   愛知医科大学外科学講座血管外科 教授

要旨
 ASO 治療の難しさは,客観的な重症度評価,解剖学的評価,QOL の評価,施設の成績に基づきながら保存的治療,外科的治療,血管内治療の中からいずれを選択するかにあるが,いずれを選ぶにせよ“肢機能の回復”を目標としなければならない.また,ASO 治療により患者の受ける恩恵は「良好な QOL のもとで患者がどれくらい長生きできるか」であることから,生命予後を左右する全身の粥状硬化性血管病変の予防,進展防止のための取組みが究極の目標となる.

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第1章 概念・定義と疫学
疫 学

市来 正隆  JR仙台病院血管外科 副院長

要旨
 閉塞性動脈硬化症はアテローム血栓症の一部分症である.アテローム血栓症の危険因子である喫煙と糖尿病の影響を特に強く受けて発症,進行する.主症状は間欠性跛行である.加齢とともに発症率は増加し,年間 1,000 人あたり2〜7人である.症候性の罹患率は3〜6%であるが,無症候性はその3倍と推定される.米国では 1,000 万人以上の患者数がいるが,我が国では 400 万人程度と推察される.間欠性跛行患者の下肢機能の転帰は良好であるが,下肢虚血が進行するに連れて生命予後は不良である.閉塞性動脈硬化症は「まれで,たかだか足の病気」ではない.
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第2章 病理・病態生理
病 因

出口 順夫   埼玉医科大学総合医療センター血管外科 准教授
佐藤  紀    埼玉医科大学総合医療センター血管外科 教授

要旨
 閉塞性動脈硬化症は,一般的には腹部・下肢の動脈硬化症を指し,その本体は主としてアテローム動脈硬化症である.危険因子としては喫煙,糖尿病が重要で,高血圧,脂質異常,高ホモシステイン血症,腎不全などである.それらの危険因子は,血管壁で酸化ストレスや内皮機能異常を引き起し,血管拡張が阻害され易血栓性になると同時に炎症反応が持続して,アテロームプラークが進展する.危険因子が虚血性心疾患と閉塞性動脈硬化症とでは若干差がある理由は不明である.閉塞性動脈硬化症の最重症型である重症虚血肢は,プラークの進展だけでなく,下腿動脈の病変の有無が関与し,糖尿病性神経障害による足趾皮膚が破綻・感染しやすいことが関係している.また,急性冠症候群のようなプラーク破綻が下肢動脈に起っている可能性がある.

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第2章 病理・病態生理
病 理

楠美 嘉晃    日本大学医学部病態病理学系病理学 講師
三俣 昌子   日本大学医学部病態病理学系病理学 教授

要旨
 閉塞性動脈硬化症(ASO)の基盤病変である粥状硬化の組織像,ASO の病理像と臨床症状の関連を述べた.粥状硬化性プラークが増大すると血管は拡張性リモデリングを起して血流を保つ.プラークの増大が進み,リモデリングによる代償性機構が破綻すると,無症候性から症候性に移行する.これにプラーク破綻・血栓形成が加わると重症虚血肢または急性増悪を来す.

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第2章 病理・病態生理
病態生理

伊東 啓行   九州大学大学院医学研究院消化器・総合外科 講師
福永 亮大   九州大学大学院医学研究院消化器・総合外科
前原 喜彦   九州大学大学院医学研究院消化器・総合外科 教授

要旨
 閉塞性動脈硬化症は動脈硬化による末梢動脈の狭窄・閉塞によって四肢の虚血症状を来す疾患であり,その臨床的病態として間欠性跛行と重症虚血肢が存在する.しかしながら,国際的な診療指針である TASCUでも述べられているように,間欠性跛行が増悪することで重症虚血肢に至る症例は実際には少ない.すなわち,この両者は基本的な病態生理が異なっていることが推測される.本稿では両者の病態生理について概説する.

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第3章 診 断
身体所見

新本 春夫   (財)日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院外科(末梢血管外科)部長 BR>
要旨
 閉塞性動脈硬化症の存在診断は特徴的な臨床症状と理学的所見から決して困難ではない.重症度分類として Fontaine 分類は簡便で広く用いられているが,臨床上重要なのは,間欠性跛行と重症虚血肢の鑑別である.前者は神経性跛行との鑑別が重要であり,後者は治療方針や肢の予後,生命予後が間欠性跛行肢とは大きく異なるので注意が必要である.近年,世界的に標準化された客観性のある診断治療ガイドラインが報告されている.
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第3章 診 断
無侵襲診断

正木 久男   川崎医科大学胸部心臓血管外科 准教授

要旨
 閉塞性動脈硬化症に対する診断・評価には,病態にあった無侵襲診断機器を用いることが重要である.虚血肢には,超音波ドプラあるいはオシロメトリック法による足関節上腕血圧比(ABI),足趾上腕血圧比(TBI)の測定,間欠性跛行には,近赤外線分光法を用いた回復時間の測定,formPWV/ABIメ を用いた ABI の回復時間の測定で,重症度評価を行う.安静時疼痛や潰瘍には,経皮的酸素分圧法,皮膚灌流圧測定が有用で,切断部位の決定,緊急性の有無,治療の効果の判定に用いる.
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第3章 診 断
画像所見:(1)DSA,CTA,MRA

海野 直樹   浜松医科大学第2外科・血管外科 講師

要旨
 閉塞性動脈硬化症の画像診断法として DSA,コンピューター断層血管造影(CTA),磁気共鳴血管造影(MRA)が多く用いられている.それぞれ長所と短所があり,目的に応じた modality の選択が重要である.DSA は侵襲的検査法であるため治療を念頭に置いた画像検査,CTA,MRA は非侵襲的検査法であるためスクリーニング目的や,経過観察目的の画像検査として有用である.

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第3章 診 断
画像所見:(2)末梢動脈超音波検査

北川  剛  東京逓信病院第一外科 医長

要旨
 末梢動脈超音波検査は無侵襲であり,簡便で迅速に結果が得られスクリーニング法として利用されている.特に,腎機能障害を有する症例に対しては最も有用な検査と言える.また,ほかの画像診断とは違い,血管の形態だけではなく血流速度,血流波形など血行動態に関する情報も得られるという点から,血管造影後,病変に対する治療適応を決める際にも非常に有用である.末梢動脈疾患の診療においては必須の検査と言える.

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第3章 診 断
鑑別診断

木村 直行    自治医科大学さいたま医療センター心臓血管外科
安達 秀雄     自治医科大学さいたま医療センター心臓血管外科 教授

要旨
 閉塞性動脈硬化症は,通常 50 歳以上の高齢者に好発する四肢の主幹動脈の閉塞性疾患であり,その代表的な症状は,間欠性跛行と冷感である.また,通常,本疾患は慢性に経過するが,血栓症を併発し増悪すれば,急性動脈閉塞症を惹起しうる.本稿では,まず閉塞性動脈硬化症の鑑別診断を,上記臨床像から述べるとともに,Buerger 病に代表される他の下肢動脈の慢性閉塞性疾患群についても概説する.
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第4章 管理・治療
併存疾患管理(高血圧・糖尿病・脂質代謝異常など)

仲栄真盛保   琉球大学医学部生体制御医科学講座機能制御外科学分野(第二外科)
國吉 幸男    琉球大学医学部生体制御医科学講座機能制御外科学分野(第二外科)教授
  
要旨
 高血圧や糖尿病,脂質異常症は高率に動脈硬化性血管疾患を発症することが知られており,閉塞性動脈硬化症(ASO)ではこれらを合併することが極めて多い.したがって,併存疾患によってもたらされる心血管病の発症とそれらによる死亡を抑制することが重要である.本稿では上の併存疾患に対して各ガイドラインに基づいた管理・治療を述べたが,ASO では虚血性心疾患や脳血管障害,腎機能障害を合併することも少なくないため,症例に応じて治療方針やコントロール目標を設定し集学的観点から治療を行うことが重要となる.

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第4章 管理・治療
他臓器疾患治療(冠状動脈・頸動脈を中心に)

荻野  均  国立循環器病センター心臓血管外科 医長

要旨
 閉塞性動脈硬化症には,しばしば脳血管,冠状動脈,腎動脈など他領域の動脈硬化性狭窄病変の併発を認める.高齢化や糖尿病の増加などで動脈硬化性病変の併存は増加傾向にある.また,これら他臓器病変は閉塞性動脈硬化症に対する治療時,特に危険因子にも成りえ,かつ遠隔成績にも影響する重要な問題である.その治療法について,特に冠状動脈病変および頸動脈病変を中心に記述する.


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第4章 管理・治療
治療方針の選択

重松 邦広  東京大学医学部附属病院血管外科 特任講師
宮田 哲郎  東京大学医学部附属病院血管外科 准教授

要旨
 閉塞性動脈硬化症に対する治療は,従来の運動療法,薬物療法,血行再建術以外に血管内治療の進歩や血管新生治療などの開発により,多様な選択が可能となってきた.世界的標準的治療ガイドラインとして報告された TASC から新たに改訂されたTASCUに至り,一定の治療方針が世界的にまとめられた.狭窄性病変があるから拡張し血流を再開するといった安易な治療ではなく,世界的なガイドラインに則って正しく評価したうえで治療方針を選択することが必要である.
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第4章 管理・治療
運動療法

林 富貴雄   大阪府立急性期総合医療センター血管内科 副部長

要旨
 閉塞性動脈硬化症に対する運動療法は,欧米での歴史は古く数多くのエビデンスが報告されている.近年,末梢動脈疾患の診断と治療に関するガイドラインが幾つか提唱されており,間欠性跛行肢に対しては監視下運動療法が第1選択の治療法と位置づけている.我が国でも 1990 年代から跛行肢に対する運動療法を行って有用性を認める報告が相次ぎ,2006 年4月より閉塞性動脈硬化症の間欠性跛行肢に対する監視下運動療法が保険適応となった.今後,多くの施設で普及することが期待される.
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第4章 管理・治療
薬物療法

西部 俊哉    恵庭みどりのクリニック
西部 正泰    恵庭みどりのクリニック
武藤 紹士    エール大学血管外科
近藤 ゆか    エール大学血管外科

要旨
 下肢閉塞性動脈硬化症の治療には,運動療法や薬物療法などの保存的治療や,血管内治療やバイパス手術などの外科的治療がある.薬物療法は外科的治療のような強力な効果は期待できないが,下肢虚血症状をある程度軽減させることが可能である.薬物療法を行うにあたっては,科学的根拠(エビデンス)に基づく有効性や合併症に対する安全性を考慮することが重要である.

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第4章 管理・治療
血管内治療

遠藤 將光  国立病院機構金沢医療センター心臓血管外科、血管病センター医長、外科系部長

要旨
 血行再建手技は経皮的血管形成術(PTA)とバイパス術に大別される.腸骨動脈病変には PTA が第1選択で問題ないが,大腿動脈以下の PTA では病変の形態や範囲,領域により成績が異なり,特に下腿では意見が分かれている.選択基準として TASC 分類があるが,各施設の経験と実績によっているのが現状で,今後も適応を含めたさらなる検討が必要であるが,理想的には PTA とバイパス術の双方に習熟した“血管治療医”が末梢動脈疾患(PAD)を治療すべきである.
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第4章 管理・治療
外科的血行再建

進藤 俊哉   山梨大学医学部第2外科 准教授

要旨
 閉塞性動脈硬化症による慢性動脈閉塞に対して外科的血行再建,すなわちバイパス手術が行われるが,特に重症下肢虚血に対しては第1選択の治療である.適応となる部位は,大動脈腸骨動脈領域,大腿膝窩動脈領域,脛骨足底動脈領域が多い.解剖学的ルートだけではなくリスクの高い患者では非解剖学的ルートも用いられる.グラフト材料は膝上までは人工血管が用いられるが,膝下以下は開存率の優れた自家静脈グラフトが使用される.

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第4章 管理・治療
血液浄化療法

井上 芳徳  東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
                   血管・応用外科(血流・血管応用外科)講師

要旨
 閉塞性動脈硬化症に対して,薬物治療やバイパス術,血管内治療が中心に施行されている.他方アフェレシス治療は比較的容易に施行でき,末梢循環改善や跛行距離延長,潰瘍治癒などの有効性が確認され 1992 年に保険適応が認められたが,高脂血症を伴う症例に限定されている.最近になり非高脂血症症例に対しても有効性が確認された.薬物治療の無効症例やバイパス術の適応がない症例に対しては本治療法を積極的に検討する.

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第4章 管理・治療
血管新生療法

小山 博之    東京大学大学院医学系研究科血管再生医療 特任准教授
           東京大学医学部附属病院ティッシュエンジニアリング部 特任准教授

要旨
 血管新生を誘導することにより虚血部位への血流を改善する血管新生療法は,閉塞性動脈硬化症などによる慢性虚血肢に対する新しい治療法として注目を集めている.現在までにさまざまなストラテジーの血管新生療法が発表されてきているが,大きな流れとしては組換えタンパク治療,遺伝子治療,細胞療法の3つに分類できる.これらは,それぞれに独自のコンセプトで設計されたものであり,その優劣を一元的に論じることは困難と言えよう.

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第4章 管理・治療
理学療法

松尾  汎   松尾循環器科クリニック 院長

要旨
 末梢循環障害の理学療法としては,物理療法,温泉療法,高気圧酸素療法などが用いられる.物理療法は一般的で広く応用されるが,循環障害を増悪させる結果となることもあるので,目的・適応・方法に注意して行う.温泉療法では,人工炭酸泉足浴が注目されており,その適応や実施法が模索されている.高気圧酸素療法は,設備があれば有用な末梢循環による低酸素状態の改善策となる.
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第4章 管理・治療
フットケア・四肢切断

三井 信介   社会保険小倉記念病院血管外科 部長

要旨
 重症虚血肢の治療としての第1選択は血行再建術であるが,救足のためにはむしろ周術期を通しての適切なフットケアがより重要となる.組織欠損症例では血行再建の適応を含めた全身および局所の評価を早急に行い,血行再建とともに適切な wound bed preparation が救足につながる.創難治例では angiosome を考慮した血行再建が再考されるべきである.症例によっては早期の大切断も考慮する.

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第4章 管理・治療
経過・予後

佐藤  成   東北大学病院移植・再建・内視鏡外科 副科長
          東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座先進外科学分野 特命教授

要旨
 末梢動脈疾患(PAD)患者は,冠動脈疾患,脳血管疾患の合併が多く,死因の約 75% は心血管イベントである.症状が進行するほど,また足関節上腕血圧比(ABI)が低下するほど,生命予後,下肢の予後は悪化する.重症下肢虚血患者の1年生存率は 75%,肢切断となるのが 30%,肢切断を免れるのは 45% である.5年生存率は約 40% である.非重症下肢虚血患者の5年後の転帰は,安定した症状が 70〜80%,跛行の悪化が 10〜20%,重症下肢虚血化5〜 10% とされている.重症下肢虚血に陥るリスクファクターは,糖尿病4倍,喫煙継続3倍,脂質異常2倍,65 歳以上2倍,ABI<0.752倍,ABI<0.52.5 倍であり,高血圧,腎不全も関連している.

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第4章 管理・治療
医療経済

土田 博光   誠潤会城北病院心臓血管外科 院長

要旨
 閉塞性動脈硬化症の治療法別費用を比較すると,エビデンスのある治療法の中では監視下運動療法が最も安価である.治療時間を費用計算した間接費用を加えた総費用でも同様で,歩行距離改善を効果指標とした費用対効果分析でも,監視下運動療法,外科手術,血管内治療の順に費用対効果が優れている.監視下運動療法が最優位であることは欧米でも同様で,これは TASC の治療アルゴリズムで監視下運動療法を第1選択としていることを支持するものである.しかし,医療経済的に優れた監視下運動療法は,医療者側にはメリットの少ない治療であることから,その普及が進まない問題がある.

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第5章 ガイドライン
ガイドライン

渡部 芳子    東京医科大学外科学第2講座(血管外科)

要旨
 高齢化社会の到来で閉塞性動脈硬化症の患者は増加し,血管外科医以外の多くの医師も診療に携わるようになった.また,血管内治療など新しい治療の登場や外科技術の向上で,治療法も選択肢が広がった.こうした流れを受け,世界的に標準化された診断・治療ガイドラインが作成され,2006 年には改訂版TASCUが発行された.患者は病状も背景も多様であり,ガイドラインに基づきながら個々に合わせた治療を行う必要がある.

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