要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 61/腎7
糖尿病性腎症


第1章 概念・定義と疫学
概念・定義

羽田 勝計   旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野 教授

要旨
 糖尿病性腎症は,糖尿病性細小血管障害の代表であり,臨床的には微量アルブミン尿で発症し,持続性タンパク尿,慢性腎不全へと進行する.病理学的には,糸球体結節性病変とびまん性病変をその特徴とする.糖尿病性腎症は現在,透析療法導入原疾患の第1位であり,的確な診断・管理が求められている.糖尿病性腎症の病期分類は臨床の場で広く用いられているが,最近発表された慢性腎臓病のステージ分類とは若干の相違点があることも事実である.

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第1章 概念・定義と疫学
疫 学

鈴木 芳樹  新潟大学保健管理センター 教授
山本 佳子  新潟大学大学院医歯学総合研究科内部環境医学

要旨
 糖尿病性腎症の有病率あるいは罹患率は,一般的に1型糖尿病より2型糖尿病で高い.1型糖尿病のこれらは,北欧では減少しているが米国では否定的な報告がある.2型糖尿病のこれらは,アジア人で高く本邦でも減少しているという報告はない.腎機能の点では,糸球体過剰濾過に関する一定の見解はなく,早期進行性腎機能低下などが注目されている.腎症は心血管病のリスクで家族集積性もあり,喫煙歴や家族歴も重要である.
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第2章 病理・病態生理
病理−正常アルブミン尿期の腎組織・機能連関を把握しよう−

守屋 達美   北里大学医学部内分泌代謝内科 准教授

要旨
 糖尿病性腎症(腎症)の典型的な組織所見は,糸球体基底膜(GBM)肥厚,メサンギウム拡大,尿細管基底膜肥厚,間質拡大,細小血管浸出性病変などである.また,GBM やメサンギウムの微細構造破綻,糸球体上皮および内皮細胞の変化,傍糸球体装置の拡大やT細胞浸潤,血管極の小血管増生などが新しい組織変化として注目されている.以上の組織変化の多くは,正常アルブミン尿期にすでに認められる.しかし,腎組織と機能の関連は十分に解明されたとは言いがたく,腎症の成因や臨床経過の解明のためには,まず正常アルブミン尿期の組織・機能連関の把握が必要である.

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第2章 病理・病態生理
病態生理

豊田 雅夫    東海大学医学部腎内分泌代謝内科 講師
鈴木 大輔   東海大学医学部腎内分泌代謝内科 准教授

要旨
 糖尿病性腎症は長期間の高血糖状態の結果生じ,臨床的には微量アルブミン尿から始まり,次第にタンパク尿が増加するとともに腎機能低下により最終的には透析療法が必要な末期腎不全に至る.高血糖が主要な原因であるが,さまざまな病態生理学的要因が密接に関連し特有の病理学的変化を引き起す.本稿では糖尿病性腎症の主要な病態であるタンパク尿とそれに伴う腎機能低下について概説する.

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第2章 病理・病態生理
病 因

四方 賢一  岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学 准教授
槇野 博史  岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学 教授

要旨
 糖尿病性腎症の成因は高血糖であるが,高血糖から腎障害に至る経路には,さまざまな因子が関与している.高血糖によって引き起される糸球体血行動態の変化,レニン・アンジオテンシン系の亢進,グリケーション,酸化ストレス,細胞内代謝異常(ポリオール経路の亢進やプロテイン・キナーゼの活性化),微小炎症(microinflammation),TGF−βなどのサイトカインの産生亢進,細胞外基質の産生増加と分解の低下などが腎症の成因に関与することが明らかにされており,これらの因子は糖尿病性腎症の治療ターゲットと成りうる.

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第2章 病理・病態生理
遺伝素因

前田 士郎   理化学研究所ゲノム医科学研究センター内分泌代謝疾患研究チーム チームリーダー
要旨
 糖尿病性腎症の発症あるいは進展に遺伝因子が関与することは確実と考えられているが,いまだ確立した遺伝因子の同定には至っていない.最近,数十万の一塩基多型を解析することにより全ゲノムを網羅するゲノムワイド関連解析が可能となり,2型糖尿病などではすでに十数ヵ所の感受性遺伝子領域が同定されている.糖尿病性腎症の遺伝因子解明にもゲノムワイド関連解析が有用であることは疑いがなく,現在複数の人種において解析が進行中である.
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第3章 診断
診断と検査・画像所見

猪股 茂樹   秋田県成人病医療センター 研究室長

要旨
 糖尿病性末期腎不全の発生阻止のためには微量アルブミン尿による早期診断が不可欠である.尿中Y型コラーゲン値増加,腎肥大(CT による voxel count method)も早期診断の参考になる.正常あるいは high GFR を検知するには血清 cystatin C 値の eGFR(86.7/cystatin C−4.2)のほうが血清 Cr 値による eGFR より感度が高く早期腎症の糸球体濾過量(GFR)の推移を知る際有用であろう.今後,真の正常アルブミン尿値を設定し軽度のアルブミン尿の臨床的背景を明確にすべきである.
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第3章 診断
病期分類

谷本 光生    順天堂大学医学部 腎臓内科学講座
富野 康日己   順天堂大学医学部 腎臓内科学講座 教授

要旨
 糖尿病性腎症による末期腎不全により透析導入された患者数は増加の一途をたどっており,1998 年以降透析導入原疾患の第1位となっている.また,糖尿病性腎症患者では,顕性タンパク尿は治療抵抗性であり,より早期の発見・治療が重要である.そのため,早期の病状経過を把握するのに適した病期分類が必要と考えられる.本稿では,糖尿病性腎症患者の診断・病期分類について概説する.

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第4章 管理・治療
エビデンスに基づいた管理目標

荒木 信一  滋賀医科大学内科学講座内分泌代謝・腎臓・神経内科

要旨
 糖尿病性腎症の管理目標は,腎症の発症・進展抑制のみならず心血管疾患の発症抑制をも目指したものである.そのための管理目標として,HbA1C 値 6.5% 未満,血圧 130/80mmHg 未満が推奨されている.また,これらの管理目標に基づいた集約的治療が,腎症の寛解を高頻度でもたらす.しかし,血糖管理の目標達成は難しく,重篤な低血糖出現リスクも高くなることより,個々の症例に応じた管理目標の設定が必要である.

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第4章 管理・治療
薬物治療(血圧管理)

伊藤 貞嘉    東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座腎・高血圧・内分泌学分野 教授

要旨
 糖尿病性腎症での降圧目標は 130/80mmHg 未満である.第1選択薬はレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬であり,順次他の薬剤を追加する.十分な降圧と同時に尿中アルブミンを正常化させる.本症は早期に介入することが肝要で,腎機能が低下した症例での治療はしばしば困難となる.本症は腎血管病変なども伴いやすく,またコントロール不良な高血圧では原発性アルドステロン症などの二次性高血圧を疑う必要がある.
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第4章 管理・治療
薬物治療(血糖管理)

宇津  貴   滋賀医科大学内科学講座内分泌代謝・腎臓・神経内科 講師
  
要旨
 臨床的エビデンスの蓄積により厳格な血糖コントロールが腎症予防に有効であることは確立し,我が国においても血糖管理目標が定められている.また,血糖コントロールにより,腎症が回復・寛解する可能性が報告されている.しかし,実際に管理目標を達成している患者数は少ない.また,腎機能が低下するとHbA1C では血糖コントロールを過小評価する.進行した腎症患者に対する血糖管理目標を設定することが,今後の課題である.

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第4章 管理・治療
薬物治療(脂質管理)

宇都宮一典  東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科 教授

要旨
 現在,糖尿病性腎症(腎症)が持つ大きな問題は,その生命予後が不良なことである.これは腎症が強い心血管疾患のリスクになることが原因であって,腎症の管理には,全身の血管を保護する包括的な視点を要求される.スタチンは,糖尿病において心血管疾患のリスク低下をもたらすことから,腎症は積極的な対象となる.加えて,スタチンには腎保護効果が期待でき,その機序として Rho/Rho キナーゼ系シグナルの抑制が注目される.


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第4章 管理・治療
保存期腎不全の治療

馬場園哲也  東京女子医科大学糖尿病センター 講師

要旨
 糖尿病性腎症が進行し保存期腎不全に達した場合,以後徐々に腎機能が低下し末期腎不全に至る.それでも,降圧療法を中心とした保存的治療によって腎機能低下を抑制し,透析導入までの期間を遅らせることは,患者の生活の質(QOL)や生命予後改善の点で重要な課題である.網膜症や大血管障害,また腎不全の合併症である貧血,電解質・酸塩基平衡異常,体液過剰などの対策も同時に行い,適切な透析導入時期を逸しないことが重要である.
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第4章 管理・治療
透析療法

海津 嘉蔵   社会保険横浜中央病院内科・腎・血液浄化療法科 副院長/部長

要旨
 糖尿病透析患者は年々増加の一途であり,透析導入原疾患の第1位である.糖尿病性腎症の透析導入時の病態の特徴は,溢水・心血管系の合併症および感染症が多いことである.血糖管理の指標として,HbA1C は過小評価されることを考慮し,6.5% 未満を目標としたい(エビデンスなし).治療上,インスリン投与に工夫がいる.透析困難症が多い点に注意する.他の原疾患に比し,予後が悪い点が今後の管理上の問題点である.
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第4章 管理・治療
集約的治療

赤井 裕輝    東北労災病院糖尿病代謝センター 副院長

要旨
 糖尿病性腎症は,持続性タンパク尿のみられる顕性腎症期に至っても,十分な患者教育を行い,正常に近いレベルの厳格な血糖コントロール,レニン・アンジオテンシン系阻害薬を中心にした 125/75mmHg 未満の厳格な血圧管理,穏和でも確実な低タンパク食が実践されれば,尿タンパクは消失に至り腎機能低下が阻止される.尿タンパク消失直後とその5〜8年後の2度の腎生検では糸球体組織像の改善も確認された.顕性腎症の寛解も可能な時代となっている.

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第4章 管理・治療
食事療法

古家 大祐  金沢医科大学内分泌代謝制御学 教授

要旨
 食事療法は糖尿病治療の基本であり,糖尿病性腎症(腎症)においても血糖管理のみならず腎症の進展を阻止する観点から最も重要である.特に,腎症患者においては,従来のエネルギー制限を主体とした食事療法に加え,腎症の病期に応じて@過剰なタンパク質摂取量を控えること(0.8g/kg 体重/日),A130/80mmHg 以上の血圧のときには食塩制限(6g/日未満),B腎機能障害のときにみられる高カリウム血症に対するカリウム(K)摂取の制限(1,500mg/日未満)が必要となる.
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第4章 管理・治療
病診連携

前島 洋平   岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学 講師
槇野 博史   岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学 教授

要旨
 糖尿病性腎症は,近年,注目されている慢性腎臓病(CKD)において最も重要な疾患の1つであり,早期の厳格な管理・病診連携体制の構築による腎症の進展抑制および透析導入・心血管疾患発症阻止が必要である.現在,岡山市,浜松市などで CKD 病診連携ネットワークが構築され,CKD 戦略研究(FROM−J)も始まり,かかりつけ医・腎臓専門医・糖尿病専門医らによる有用な腎症進展抑制のための病診連携システムの確立が期待される.

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第4章 管理・治療
医療経済

池田 俊也  国際医療福祉大学薬学部 教授

要旨
 医療資源の有効活用を図るためには,おのおのの医療技術(介入方法や薬物療法なども含む)に対する「臨床エビデンス」を吟味するとともに「経済エビデンス」も考慮し,診療や施策に反映させることが重要である.本稿では,医療技術の費用対効果を検討する手法を概説するとともに,質調整生存年(QALYs)を用いた糖尿病治療の費用対効果の分析事例を紹介した.

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