要旨


最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 64/循環器11
心臓突然死


第1章 概念・定義と疫学
概念・定義

相澤 義房  新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器学分野 教授

要旨
 心臓突然死は,心臓に起因する予期せぬ死亡で,発症1時間以内の例では不整脈死が推定されている。突然死への不整脈の関与は,ホルター心電図記録中に偶然死亡した例,植込み型除細動器(ICD)における適切作動例,および救急医療の現場から明らかにされてきている。しかし,頻脈の発生機転についてはまだ不明点が多いし,ほぼ健常な集団にみられる突然死をどのように予知するかも大きな課題である。

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第1章 概念・定義と疫学
疫 学

相澤 義泰  慶應義塾大学医学部循環器内科
小川  聡  慶應義塾大学医学部循環器内科 教授

要旨
 突然死には明確な定義がないことから,その実態は不明な点が多い.過去には突然死の実態を把握するために,幾つかの疫学調査がなされてきた.これらの研究から推定すると,我が国においては年間 13 万人が突然死しているものと思われる.突然死の内訳で最も多いのが,心血管疾患であり7割弱を占める.そのうち冠動脈疾患が大部分で8割弱,肥大性心疾患,大動脈瘤破裂が約1割とこれに続く.
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第2章 病理・病態
虚血性心疾患(急性心筋梗塞・陳旧性心筋梗塞・冠攣縮性狭心症)

奥村  謙   弘前大学大学院医学研究科循環呼吸腎臓内科学 教授

要旨
 心臓突然死の約 60% は虚血性心疾患に伴う致死的不整脈を原因とする.急性心筋梗塞(AMI)が特に重要で,発症直後に心室細動(VF)を起しやすい.一次性 VF と呼ばれ,電気的不安定性と交感神経活性化を原因とするが,生存退院すれば長期予後には影響しない.急性期に持続性心室頻拍(VT)を認めると1年後の死亡率が高くなる.心筋梗塞後の低心機能例では,特に非持続性 VT を認めると2年間の死亡率は 30% にも達する.欧米では ICD による突然死1次予防の適応とされるが,我が国では確立されていない.一方,狭心症の中でも異型狭心症は高度の虚血を来し,VT,VF,徐脈,突然死を来す危険性がある.多枝冠攣縮例,難治性冠攣縮例ではリスクが高い.

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第2章 病理・病態
拡張型心筋症

河野  了    筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学救急集中治療医学 病院教授
青沼 和隆    筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学循環器内科学 教授

要旨
 従来から拡張型心筋症は原因不明の疾患とされていたが,近年ではその成因として遺伝子異常,ウイルス,自己免疫機序などさまざまな要因の関与が明らかにされつつある.実際の症例では,これらの複数の要素が関与している可能性があり,不整脈機序も個々の症例によって異なることが予想される.心不全における不整脈の原因として伝導遅延が最も重要とされるが,拡張型心筋症の病因が一元的でないために,合併する不整脈については各症例に応じた綿密な対応が要求される.

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第2章 病理・病態
肥大型心筋症

裄V 智義  北里大学医学部循環器内科学
和泉  徹   北里大学医学部循環器内科学 教授

要旨
 肥大型心筋症は若年者の心臓突然死の最も有力な原因疾患であり,時に運動中や運動直後に発症する.病理学的には明らかな誘因なしに生じた歪な心筋肥大を示し,生理学的には拡張障害を主徴とする心筋症である.本症総体の予後は比較的良好である.しかし,心臓突然死した約半数例が致死的不整脈による.したがって,ハイリスク例では強力な予防策を必要とする.本症の病像を熟知し,突然死と心不全を予防する診療姿勢が求められる.

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第2章 病理・病態
催不整脈性右室心筋症

萩原 誠久   東京女子医科大学循環器内科 主任教授
要旨
 催不整脈性右室心筋症(ARVC)は右室起源の心室頻拍など重症心室性不整脈や突然死を主症状とし,右室に特異的な心筋変性や脂肪・線維化を伴う心筋症の1種である.ARVC の病因として,細胞間接着に重要なデスモゾーム構成タンパクの遺伝子変異が指摘されており,デスモゾーム病と認識されつつある.現在までにさまざまなデスモゾーム構成タンパクの遺伝子変異とともに新しい診断技術が報告されるようになった.
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第2章 病理・病態
その他の心疾患(大動脈弁狭窄症,僧帽弁逸脱症候群,人工弁術後)

新田  隆   日本医科大学心臓血管外科 教授

要旨
 大動脈弁狭窄症の死亡の約 20% は突然死とされ,左室肥大に関連する心室性不整脈がその主因と考えられている.失神や狭心症,あるいは心不全を来す例では,突然死の頻度が高い.大動脈弁置換術だけでなく,持続性心室頻拍があれば植込み型除細動器(ICD)の植込みも適応となる.僧帽弁逸脱症候群では高度の僧帽弁逆流例で突然死がしばしば認められるが,心不全と心室性不整脈発生の関連は不明である.持続性心室頻拍や心室細動例,心停止蘇生例では ICD の適応である.
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第2章 病理・病態
心原性失神

阪部 優夫   富山大学大学院医学薬学研究部第二内科
井上  博    富山大学大学院医学薬学研究部第二内科 教授

要旨
 失神は日常診療において遭遇することが多い症状の1つである.その原因は多岐にわたり,原因によって予後も大きく異なることから,適切かつ迅速な診断が求められる.
 本稿では失神の原因診断アルゴリズムを中心に,代表的な病態の鑑別と治療法について述べる.

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第2章 病理・病態
心不全と心臓突然死

池田 安宏  山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学
松ア 益コ  山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学 教授

要旨
 心不全はあらゆる心疾患の終末像で,国民の生活の質・生命予後に重要な影響を与える重要な疾患である.アンジオテンシン変換酵素阻害薬,β遮断薬などの薬物治療の導入により,心不全患者の予後は改善してきたが,それでも年間死亡率は5〜10%程度と高く,そのうち約半数は突然死が直接死因である.ここでは,心不全に伴う心臓突然死の現状,ならびに病理・病態について概説する.

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第2章 病理・病態
遺伝性不整脈 1.QT延長症候群

清水  渉    国立循環器病センター心臓血管内科 医長

要旨
 先天性 QT 延長症候群(LQTS)は,心電図上 QT 時間延長に伴い torsade de pointes(TdP)を発症し,失神や突然死の原因となる症候群である.遺伝子解析により,現在までに 12 個の遺伝子型(原因遺伝子)が同定され,臨床的に先天性 LQTS と診断される患者の 50〜70% でいずれかの遺伝子上に変異が同定される.先天性 LQTS の遺伝子診断は,平成 20 年4月1日付で保険診療が承認され,特に頻度の多い LQT1,LQT2,LQT3 型では,遺伝子型と表現型(臨床病態)との関連が詳細に検討され,遺伝子型特異的な生活指導や治療がすでに実践されている.また,最近では各遺伝子型の遺伝子変異部位や変異タイプ別の重症度や治療に対する反応性の違いも報告されており,今後は遺伝子型にとどまらず,原因遺伝子上の変異部位や変異タイプなどを考慮した治療の可能性も示唆されている.
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第2章 病理・病態
遺伝性不整脈 2.Brugada 症候群

草野 研吾   岡山大学大学院医歯学総合研究科循環器内科 准教授
  
要旨
 Brugada 症候群についてこの 10 余年にさまざまな報告がなされてきたが,その原因や不整脈発生のメカニズムについてはいまだ不明な部分が多い.心室頻拍/心室細動(VT/VF)の2次予防としての植込み型除細動器(ICD)治療については確立されているが,ICD は不整脈そのものを予防するものではないため,頻回の VT/VF 発作が生じる例では薬物治療が必要である.ここでは,診断と治療について臨床的な注意点について概説する.

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第2章 病理・病態
遺伝性不整脈 3.カテコラミン誘発多形性心室頻拍

住友 直方  日本大学医学部小児科学系小児科学分野 准教授

要旨
 カテコラミン誘発多形性心室頻拍は,2方向性心室頻拍などの特徴的な心室頻拍が運動で誘発され,死亡率が 20% にも達する予後不良の疾患である.リアノジン受容体や carsequestrin 異常により発生し,細胞内 Ca2+ が過負荷になることにより遅延後脱分極を機序とする心室頻拍が発生する.発症年齢は 10 歳前後で,安静時には特徴的な心電図所見はない.治療はβ遮断薬,Ca 拮抗薬,植込み型除細動器などが行われている.


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第2章 病理・病態
遺伝性不整脈 4.QT短縮症候群

堀江  稔  滋賀医科大学呼吸循環器内科 教授

要旨
 本章の前項目でもあるように,QT 延長症候群を始めとして,この 15 年の間に,遺伝性不整脈の概念が大きく変わってきた.QT 短縮症候群は,これらの多くの遺伝性不整脈の中では,最近その本体が明らかにされつつある病態である.まず,非常に頻度が低い病気のため,まだ十分な数の症例が集積されておらず,その遺伝的背景を含めて,未知の部分が多い.本稿では,この QT 短縮症候群に焦点を当てて 2009 年の時点で解明されているポイントを紹介する.
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第2章 病理・病態
特発性心室細動

野上 昭彦   横浜労災病院循環器内科冠疾患集中治療部 部長

要旨
 特発性心室細動(VF)には,@短い連結期の心室期外収縮(VPC)から生じるもの,A右室流出路起源の VPC から生じるもの,B下方・側方誘導に早期再分極を呈するもの,がある.@のトリガー VPC 起源は Purkinje 組織であり,Aと共にカテーテルアブレーションで VF が抑制できる可能性があるため,その診断は重要である.Bはしばしば認められる心電図異常であるが,無症候性のもののリスク層別化が課題である.
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第2章 病理・病態
徐脈・心静止

藤木  明    富山大学大学院医学薬学研究部第二内科 講師

要旨
 血行動態の破綻を原因としない徐脈性不整脈による突然死として,2つの病態 @房室ブロックによる QT 延長に伴う torsades de pointes(TdP)と A洞機能不全を伴う Brugada 症候群について述べる.補充調律のレートが40/分を下回るような場合は,心室の再分極チャネルにリモデリングが不均一に生じるため,QT が不均一に延長し TdP の危険性が増す.また,先天的な Na チャネルの異常は洞不全症候群をはじめ Brugada 症候群様の ST 変化を生じさせる可能性があり注意する.

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第2章 病理・病態
日本における小児の心臓突然死の特徴

吉永 正夫  国立病院機構鹿児島医療センター小児科 部長

要旨
 日本では小児の心血管疾患による死亡が著しく低下してきている.日本の循環器関連学会と現場でのたゆみない努力が死亡数の低下を支えていることを推測させる.しかし,小児期の突然死に関する正確な情報が集めにくい方向に進みつつある.子どもの突然死はいかなる理由にせよ,家族,学校,地域社会を後悔と不安に落とし入れる.正確な情報が得られれば,学校管理下における突然死の予防はさらに進み,悲劇的な事故にあわなくてよくなると考えられる.
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第3章 予知
臨床像(心停止既往,失神,心不全など)

村川 裕二   帝京大学医学部附属溝口病院第四内科 教授

要旨
 突然死のリスクを決定する因子として心不全が大きな要素となる.背景疾患,心停止の既往が突然死のリスク予測因子となることは理解しやすいが,胸痛が血行再建を促すことにより結果的に突然死の回避に結びついているという逆説的な観察もある.また,貧血や社会経済学的な修飾因子も示唆されている.病態そのもの,臨床像,あるいは社会環境因子まで突然死を取り巻く因子は多彩である.

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第3章 予知
心電図 −12誘導心電図・ホルター心電図・加算平均心電図−

庭野 慎一  北里大学医学部循環器内科学教室 診療教授
村上 雅美  北里大学医学部循環器内科学教室

要旨
 心臓突然死の 80〜90% は初発イベントであるため,突然死高リスク症例を抽出する予知指標が重要である.心電図は,非侵襲的に繰り返し行うことができる検査法であり,基礎病態のスクリーニング検査として優れている.基礎疾患の診断確定のための検査法としては特異度に限界があるため,他の検査を併用する必要があるが,Brugada 症候群など特定の疾患においては心電図変化の程度が一義的な治療指標となる場合がある.
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第3章 予知
その他の心電学的指標(TWA,LP,HRV,BRS,HRT)

池田 隆徳   杏林大学医学部第二内科 准教授

要旨
 日欧米の循環器学会から心臓突然死に関するガイドラインが発刊され,心臓突然死をどのようにして予測したらよいかの道筋が示されている.心臓突然死を予知する指標としては,左室駆出率がゴールドスタンダードとなっているが,これ以外にも T−wave alternans(T波交互現象),心室遅延電位,心拍変動指標などの心電学的解析指標も活用されている.ここでは,リスク層別化において有用性が高い心電学的指標を中心に解説する.

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第3章 予知
電気生理学的検査

栗田 隆志   近畿大学医学部循環器内科 准教授

要旨
 心臓突然死を予知し,その発生を未然に防ぐことは循環器疾患患者の管理において極めて重要な課題の1つである.電気生理学的検査は古くから用いられてきたリスク層別化の手段であるが,ESVEM 試験以来,その有効性は限定的であることが示されてきた.しかしながら,植込み型除細動器(ICD)を使った最近の大規模臨床試験によると,心筋梗塞後患者の不整脈イベント予測にはある程度の効果が確認されているのも事実である.ここでは疾患別にみた電気生理学的検査の意義を考察したい.

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第3章 予知
心臓突然死の予知と遺伝子検査

蒔田 直昌     長崎大学大学院医歯薬学総合研究科内臓機能生理学分野 教授

要旨
 心臓突然死の原因はさまざまで,QT 延長症候群に代表される単一遺伝子疾患から,動脈硬化や虚血性心疾患のような頻度の高い,いわゆる多因子疾患も含まれる.遺伝子検査は単一遺伝子疾患の確定診断に有用であり,心臓突然死については,発症前からリスクを明らかにし,予後の予測や突然死の予防法の選択に役立てることが最大の目的である.QT 延長症候群では,遺伝子診断が治療法の選択や生活指導に役立つことが多いが,その他の疾患については診断率が必ずしも高くなく,心臓突然死の予知において遺伝子検査が確固たる意義を持つためには,さらなる研究の推進と飛躍的な技術革新が必要である.

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第4章 治療
心停止の救急処置

三田村秀雄   東京都済生会中央病院循環器科 副院長

要旨
 心停止の大部分は院外で起り,その場に医師や救急隊員はいない.現場の救急処置は素人がまず始めるしかないが,素人でも救うことのできる心停止の代表が心室細動によるものであり,実際,現場の目撃者による除細動が最も救命に効果的である.したがって,119 番通報の次には素早く自動体外式除細動器(AED)を取り寄せて使用することが勧められる.その前後には,絶え間なく力強い胸骨圧迫を加えることが有効である.これら Call and Push が初期処置の鍵と言える.

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第4章 治療
薬物治療(頻脈と徐脈)

加藤 貴雄   日本医科大学内科学講座(循環器・肝臓・老年・総合病態部門)教授

要旨
 心臓突然死の大部分は突発する心室頻拍ないし心室細動によるとされ,心肺蘇生の現場ではこれらの致死性不整脈に対する適切な治療が予後を決定する.この心肺蘇生治療の世界標準である米国心臓協会(AHA)ガイドラインでは,用いるべき抗不整脈薬としてアミオダロンが第1選択薬とされているが,我が国ではアミオダロンに加えて従来から用いられてきたリドカイン,および我が国でのみ使用可能なニフェカラントも有力な選択肢になっている.

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第4章 治療
非薬物治療(ICDとペースメーカー)

池主 雅臣    新潟大学医学部保健学科基礎生体情報学 准教授
長谷川奏恵   新潟大学医学部第一内科

要旨
 心臓突然死の主要原因は心室細動・心室頻拍と考えられるが,高度徐脈や心静止が原因となる場合もある.重症心室性頻脈や心肺蘇生の既往がある症例には,2次予防として植込み型除細動器(ICD)が予後の改善に有益とされる.さらに,近年の大規模臨床研究によって,心臓突然死のハイリスク症例への1次予防の ICD 治療に関する知見も集積されつつある.非薬物療法を安全かつ有効に行うためには,重症不整脈の病態の理解が重要である.

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第5章 ガイドライン
ガイドライン

鎌倉 史郎   国立循環器病センター心臓血管内科 部長

要旨
 種々の大規模臨床試験において,器質性心疾患に伴う心室頻拍/心室細動(VT/VF)既往例や低心機能例では,植込み型除細動器(ICD)が薬物治療よりも有意に生命予後を改善するとの結果が出ている.このため,ICD(または機能付き ICD:CRT−D)が致死性不整脈と低心機能例における第1選択の治療法とみなされるようになっており,その適応症はここ 10 年間で漸次拡大している.一方,Brugada 症候群と QT 延長症候群では,VF/心蘇生例をクラスTとし,それ以外の例では,@失神,A突然死の家族歴,B電気生理学検査(EPS)での VF 誘発(QT 延長症候群ではβ遮断薬無効)のうちの2つ以上を満たす場合をクラスUa の ICD 適応としている.

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