要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 65/循環器14
HIV感染症とAIDS

第1章 概念・定義と疫学
概念と定義

満屋 裕明   熊本大学大学院生命科学研究部血液内科・膠原病内科・感染免疫診療部 教授
         米国国立がん研究所 レトロウイルス感染症部 部長
        国立国際医療研究センター臨床研究センター 理事・センター長

要旨
 後天性免疫不全症候群(AIDS)は,ヒト病原性レトロウイルスの一員,ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)の感染が招来する高度の免疫不全に特徴付けられる伝染性疾患である.AIDSの発生病理の理解と治療分野での進展は著しく,多剤併用療法によって感染者・発症者の生命予後は非感染者のそれに近くなってきている.しかし,本邦では感染者・AIDS 発症者数ともに現在も増加の一途を辿っており,「safe sex」や「予防としての治療」などの対応と啓発が重要で中心的な戦略であると強調される.

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第1章 概念・定義と疫学
HIV-1感染症とAIDSの疫学:世界と日本

鎌倉 光宏     慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科医療マネジメント専修 教授

要旨
 2013年末現在の世界のHIV感染者(生存AIDS患者を含む)の推定中央値は3,500万人で漸減傾向にある.世界の感染者の72%がサハラ砂漠以南を中心とする15ヵ国に集中・偏在している.我が国のHIV感染者(血液凝固因子製剤輸注により感染した者を除く)の累積数は16,302人,AIDS患者は7,397人で共に漸増傾向にあり,日本国籍男性の同性間性的接触による国内感染が最多である.

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第2章 病理・病態生理
HIV-1のウイルス学

佐藤  佳   京都大学ウイルス研究所ウイルス病態研究領域
小柳 義夫   京都大学ウイルス研究所ウイルス病態研究領域 教授

要旨
 ヒトゲノム解析とヒト遺伝子の機能解析により,HIV-1の複製に寄与する細胞性タンパクに加え,APOBEC3 や tetherin に代表されるさまざまな抗 HIV-1 宿主因子が同定された.これらの研究成果から,HIV-1感染症,すなわち“HIV-1とヒトの相克(interplay)”を,“ウイルス因子と宿主因子の相克”として理解することが可能となった.筆者らはこれまで,“ヒト化マウス”という小動物モデルを用い,“HIV-1感染動態におけるウイルス因子と宿主因子の相克”の一端を明らかにしてきた.本稿では,“ウイルス因子と宿主因子の相克”について概説し,HIV-1感染病態におけるこの動態の意義を解説する.
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第2章 病理・病態生理
HIV 感染症・AIDSの自然経過

松下 修三    熊本大学エイズ学研究センター松下プロジェクト研究室 教授

要旨
 HIV感染症の自然経過は症例によってさまざまである.多くの場合,何らかの急性感染症状を伴い,その後長期にわたる無症候期に入る.CD4陽性T細胞数が減少すると,軽症の免疫不全による非特異的な症状が出現し,その後数年してAIDSを発症する.抗ウイルス療法の進歩により,すべてのHIV-1感染症例の早期治療開始が推奨されている.多くの感染例の早期診断のため,HIV-1 感染症の自然経過を知ることは重要な意味を持つ.

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第2章 病理・病態生理
HIV感染症・AIDSの病態生理

中山 英美  大阪大学微生物病研究所ウイルス感染制御分野 准教授
塩田 達雄  大阪大学微生物病研究所ウイルス感染制御分野 教授

要旨
 HIV-1感染症は,免疫の司令塔であるCD4陽性ヘルパーT細胞が破壊された結果として免疫不全に陥り,日和見感染症などにより死に至る病である.AIDSを発症する以前の無症候期にも,免疫細胞は日々ウイルスによって大量に壊されるため,やがてCD4陽性T細胞の寿命は短くなり,非特異的な免疫反応が慢性持続性に引き起されるために徐々に免疫システムが疲労していく,一種の炎症性疾患でもある.

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第3章  診断と症状・合併症
HIV感染症・AIDSの臨床像と診断

木村  哲   東京医療保健大学 学長
要旨
 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染すると,数年~10数年で免疫不全が進行し,後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症する.その診断基準は当初,サーベイランスの疾患定義のために作成され,何度かの改訂を経て,現在の2007年版の基準に至っている.この診断基準はHIV感染症の有無の診断基準とAIDSを規定する23のAIDS指標疾患の診断方法とで構成されている.本稿ではHIV感染症の臨床像の概略とこのHIV感染症と AIDS の診断基準について解説した.
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第3章 診断と症状・合併症
HIV感染症・AIDSの診断につながる検査・画像所見

塚田 訓久    国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター医療情報室 室長

要旨
 HIV感染症に特異的な症状・所見は存在せず,積極的に疑って検査を行わなければ診断には至らない.細胞性免疫不全時に合併しやすい疾患や性感染症(既往を含む)のある症例,感染リスクを有する症例には,積極的に検査を勧める必要がある.スクリーニング検査の感度は良好であり,現在普及している第4世代の検査では,ウィンドウピリオドも短縮しているが,検査結果の告知にあたっては,偽陽性の問題に配慮が必要である.

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第3章 診断と症状・合併症
HIV感染症・AIDSにおける日和見感染症

安岡  彰   市立大村市民病院内科 副院長

要旨
 HIV感染症の日和見感染症は,AIDS指標疾患である23疾患に加え,口腔カンジダ症など特徴的な疾患がある.日本における代表的疾患はニューモシスチス肺炎,サイトメガロウイルス感染症,カンジダ症,結核であったが,近年は悪性腫瘍の頻度が増してきている.高度免疫不全状態で抗HIV治療を開始すると免疫再構築症候群を起すことがあり,抗HIV治療の開始にあたっては,日和見感染症の治療を十分考慮する必要がある.

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第3章 診断と症状・合併症
HIV感染症・AIDSにおける悪性腫瘍

岡田 誠治   熊本大学エイズ学研究センター 教授

要旨
 多剤併用療法の普及によりHIV-1感染者の死亡は減少したが,その3人に1人が悪性腫瘍で死亡するようになった.AIDS指標悪性腫瘍のうちカポジ肉腫と原発性脳リンパ腫の合併は減少しているが,非ホジキンリンパ腫は,依然高頻度に合併する.また,ホジキンリンパ腫,肺がん,肝臓がん,ヒトパピロマウィルス(HPV)関連腫瘍などの非AIDS指標悪性腫瘍の増加が問題となっている.HIV-1感染者の長期予後の改善には,HIV-1感染のコントロールと悪性腫瘍の予防・早期発見が重要である.



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第3章 診断と症状・合併症
HIVと肝炎ウイルスとの重複感染症

四柳  宏      東京大学医学部感染症内科 准教授
小池 和彦     東京大学医学部消化器内科 教授

要旨
 HIVに感染した症例の6%がB型肝炎ウイルス(HBV)に,20%がC型肝炎ウイルス(HCV)に感染している.HBVとの重複感染では,抗HBV作用を有する核酸アナログを複数用いた抗レトロウイルス療法(cART)を導入する.HCVとの重複感染では,肝線維化の進展が速いにもかかわらず,抗ウイルス療法の効果が低いことが問題であったが,プロテアーゼ阻害薬(PI)の併用により大きく改善した.さらに,抗ウイルス薬を用いたインターフェロン(IFN)フリーの治療が開始されており,高い効果が得られている.HIV感染症の予後を決定する大きな因子の1つが合併するウイルス肝炎であり,HIV感染症の診療にあたる者は,その概要を理解しておく必要がある.ことにC型肝炎については,病態,臨床経過,治療に関して最新の知識を持っていることが望まれる.
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第3章 診断と症状・合併症
HIV-1感染症と合併症(腎疾患や骨代謝など)

立川 夏夫   横浜市立市民病院感染症内科 部長

要旨
 HIV-1 感染者の長期生存は,合併症の管理の重要性を再認識させている.本稿ではHIV-1 腎症,骨代謝,心血管系疾患,神経疾患,に関して整理している.腎疾患にはHIV-1 感染症自体の影響と抗HIV-1 薬(特にテノホビル:TFV)の影響が問題となる.TFV は骨代謝異常にも影響している.これらの問題は新薬である tenofovir alafenamide(TAF)によって軽快化する可能性がある.今後重要な臓器は中枢神経系であり,HIV 関連神経認知障害(HAND)という考え方は,HIV-1 感染症が常に神経系に影響を与えていることを意識させる考え方である.

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第4章 治療と管理・対応
HIV感染症・AIDS治療の基本戦略

岡 慎一  国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター センター長

要旨
 HIV/AIDS治療の基本戦略は,強力にウイルスを抑え続けることにある.治療は一生涯にわたるため,より服薬が簡便で副作用の少ない薬剤を用いることが重要である.予防としての治療という概念も定着し,「治療を受けている患者の90%に対しウイルス抑制を」という達成目標も掲げられている.治療の長期化を想定した導入・維持療法という新しい魅力的な治療戦略が試されつつある.

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第4章 治療と管理・対応
抗HIV-1療法:いつ,どのように開始するか

白阪 琢磨  国立病院機構大阪医療センターHIV/AIDS先端医療開発センター センター長

要旨
 1996 年頃に登場した多剤併用療法によって HIV-1 感染症は慢性疾患と位置づけられるまでになったが,生涯の治療は変わらない.当時は有効ではあったものの,飲みにくく副作用も多かった.最近では副作用も減り,製剤開発の著しい進歩によって合剤ができ,さらに 2013 年には1日1回1錠の治療が,我が国でも可能となった.この治療薬の進歩と HIV-1 感染症の病態についての新しい知見から,米国では CD4 陽性T細胞数に依らず開始が勧められるほどになった.本稿では最新の米国の治療ガイドラインや,国内の治療のガイドラインなども踏まえて概説する.

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第4章 治療と管理・対応
抗HIV-1療法:治療の失敗とサルベージ療法

遠藤 知之   北海道大学病院血液内科 講師
要旨
 抗 HIV-1 療法を続けていても血中 HIV-1 RNA 量が十分に低下しない場合には,服薬率が保たれているか,薬物動態に影響を及ぼす因子がないかなどを確認し,それを是正することが重要である.サルベージ療法の薬剤選択にあたっては,薬剤耐性検査の結果に加え,過去の治療歴・服薬状況も加味する必要がある.治療を変更する際には,有効と考えられる薬剤を少なくとも2種類,可能なら3種類以上を同時に使用することが重要である.

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第4章 治療と管理・対応
1日1回1錠による治療とそのインパクト

菊池 嘉   国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター臨床研究開発部 部長

要旨
 本邦では1997年以来,多剤併用療法(ART)が開始され,当初10錠(カプセル)以上を複雑に内服していた辛い時代から,今や1日1回1錠の single tablet regimen(STR)の時代が到来した.多くの国内の施設から総じて良好なウイルスコントロールの状態が報告され,HIV-1感染症は,コントロール可能な慢性疾患であるという地位を確立しつつある.しかし,それは患者さんの弛まぬ継続内服へのモチベーションの維持があってこそであり,医療者からの服薬支援はその一部に過ぎない.

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第4章 治療と管理・対応
抗HIV-1薬の作用機序とその特性 1.抗HIV-1薬開発の原理とアプローチ

青木 学   熊本大学大学院生命科学研究部血液内科・膠原病内科・感染免疫診療部 熊本保健科学大学保健科学部医学検査学科 講師
満屋 裕明   熊本大学大学院生命科学研究部血液内科・膠原病内科・感染免疫診療部 教授
         米国国立がん研究所 レトロウイルス感染症部 部長
        国立国際医療研究センター臨床研究センター 理事・センター長

要旨
 AIDSの病原体がHIVであることが明らかにされるや,その数年のうちにウイルスの逆転写酵素を標的とした治療薬ジドブジン(AZT)が臨床に供されるようになった.その後もHIV-1特有のタンパクを標的にした分子標的治療薬が次々に開発,それらを種々に組み合わせた多剤併用療法(cART)は,HIV-1 感染症/AIDSの病態と予後を著しく変えた.また同時にB型肝炎ウイルスなどのウイルス感染症に対する治療薬開発の起爆剤となった.

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第4章 治療と管理・対応
抗HIV-1薬の作用機序とその特性 2.ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬

前田 賢次   米国国立衛生研究所米国国立がん研究所 レトロウイルス感染症部

要旨
 抗HIV-1 薬としてのヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(NRTI)は現在では合剤を含めると10種類以上に及ぶ.初期に開発されたNRTIを用いた治療では,乳酸アシドーシスを含めた副作用や耐性変異株の出現などが見られ,最近ではそれらの使用頻度は減少しているが,今後ともNRTIがAIDS治療に対する多剤併用療法(cART)での重要なクラスであり続けることに違いはない.現在,さらに強力で,薬剤耐性のプロフィールが既存のNRTIと異なる薬剤が,開発途上にある.

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第4章 治療と管理・対応
抗HIV-1薬の作用機序とその特性 3.非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬

潟永 博之    国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター治療開発室 室長

要旨
 非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬は,多剤併用療法のキードラッグとなる重要な抗HIV-1薬である.その中でも,特にエファビレンツ(EFV)は,未治療患者に対する初回治療時のキードラッグとして推奨され,長く使用されている.しかし,EFVの使用に伴う中枢神経系の副作用や脂質代謝障害が問題となってきている.第2世代の非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬としてリルピビリン(RPV)が開発され,EFVとの比較臨床試験で非劣性が示された.RPV 投与症例の増加が期待される.

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第4章 治療と管理・対応
抗HIV-1薬の作用機序とその特性 4.プロテアーゼ阻害薬

天野 将之     熊本大学医学部血液内科学・膠原病内科学・感染免疫診療部
満屋 裕明   熊本大学大学院生命科学研究部血液内科・膠原病内科・感染免疫診療部 教授
         米国国立がん研究所 レトロウイルス感染症部 部長
        国立国際医療研究センター臨床研究センター 理事・センター長

要旨
 HIV-1 プロテアーゼ阻害薬(PI)は,HIV-1 のタンパク分解酵素であるプロテアーゼ(PR)の基質と似た構造を有するが,本来の基質とは異なり HIV-1 PR による切断を受けないため,ウイルスタンパクの成熟化が起らず,未熟な感染性を有しないウイルス粒子の産生へ誘導することで,その抗 HIV-1 作用を発揮する.本稿では,熊本大学医学部血液内科学・膠原病内科学・感染免疫診療部における新規 PI の開発,また中枢神経系移行性に優れた薬剤の開発についてまとめた.

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第4章 治療と管理・対応
抗HIV-1薬の作用機序とその特性 5.HIVインテグラーゼ阻害薬

横幕 能行    国立病院機構名古屋医療センター感染症内科 部長

要旨
 インテグラーゼ阻害薬(INI)は抗HIV-1 療法の初回治療を容易にし,治療困難例の代替療法も可能にした.現在で使用可能な3種類の INI は,それぞれ剤型,代謝,薬剤耐性関連変異部位などが異なる.また,今後,新規機序の阻害薬が登場する可能性もある.真の長期予後改善につながる抗HIV-1 療法実践のため,臨床医は現在使用可能な薬剤に精通するとともに,インテグレーションに関する基本的知識を身につける必要がある.

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第4章 治療と管理・対応
抗HIV-1薬の作用機序とその特性 6.侵入阻害薬

馬場 昌範    鹿児島大学大学院医歯学総合研究科附属難治ウイルス病態制御研究センター 教授

要旨
 HIV-1感染の最初の過程は,ウイルス粒子の宿主細胞への侵入であり,これには幾つかの特異的なメカニズムが存在する.したがって,この過程は抗HIV-1薬の有望な標的である.侵入阻害薬として,ウイルスの吸着阻害薬,HIV-1のコレセプターであるケモカインレセプターに対する拮抗薬,そしてウイルスエンベロープと宿主細胞膜の膜融合阻害薬が研究されており,ケモカインレセプター拮抗薬と膜融合阻害薬は,臨床的に用いられている.

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第4章 治療と管理・対応
抗HIV療法の副作用とその対策

味澤 篤    公益財団法人東京都保健医療公社豊島病院 副院長

要旨
 抗HIV-1薬の進歩により,HIV-1感染者の予後は飛躍的に改善した.また,ガイドラインの推奨薬も副作用が少なく,かつ内服しやすいものが選ばれるようになった.本稿では,抗HIV-1薬の副作用を作用機序別に概説する.しかし,投与開始が早まり,長期間の内服があたりまえになった現在,治験時には指摘されなかった新たな副作用を認めることがしばしばある.抗 HIV-1 薬選択後の,長い経過観察中も,常に注意を払っていく必要がある.

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第4章 治療と管理・対応
薬剤耐性HIV-1の発現と対応

杉浦 亙    国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター感染・免疫研究部 部長
           名古屋大学大学院医学系研究科免疫不全統御学講座 客員教授

要旨
 抗HIV-1 薬の進歩に伴い,今日では薬剤耐性を獲得する症例は少なくなったものの,今も薬剤耐性の獲得はHIV感染症の予後を規定する重要な因子である.また,近年では薬剤耐性HIV-1 による感染も拡大しており,薬剤耐性HIV-1 に関する知識と正確な理解は欠かせない.本稿では,薬剤耐性の診断とその対応について概説する.

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第4章 治療と管理・対応
妊産婦とHIV-1感染,母子感染

塚原 優己    国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター産科 医長

要旨
 我が国の2012年末までのHIV-1感染妊娠は累計803例,その出生児は550人と報告され,またHIV-1母子感染は累計52例にすぎない.世界的に見てHIV-1感染妊娠の極めて少ない国である.HIV-1母子感染の感染経路は,胎内感染(経胎盤感染),経産道感染,経母乳感染,の3つであり,これらすべてを遮断することが母子感染予防対策の目標である.現実的な対応は,①妊娠母体に対する抗ウイルス療法,②帝王切開術による分娩,③出生児への予防的抗ウイルス療法,④止乳(人工栄養)の4骨子であり,これらすべてを完遂できれば,母子感染はほぼ回避可能と考えられている.

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第4章 治療と管理・対応
HIV検査と検査相談体制

加藤 真吾    慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室 専任講師
今井 光信    田園調布学園大学 副学長・教授

要旨
 HIV検査技術は近年飛躍的に進歩し,スクリーニング検査には抗原抗体同時検査や迅速検査,確認検査にはウェスタンブロット(WB)法に加え遺伝子検査法が導入され,HIV感染をより早期に診断できるようになった.保健所などでのHIV検査件数は2008年の17.7万件をピークにここ数年13万件台が続いている.HIV感染の早期診断・早期治療の普及と感染拡大の抑制のためには,よりいっそうの受検しやすい検査相談体制の整備・拡充を図ることが重要である.

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第4章 治療と管理・対応
HIV陽性者へのサポートと NPO/NGO

生島 嗣    NPO法人ぷれいす東京 代表

要旨
 ぷれいす東京は,HIV陽性者やその周囲の人たちのための相談や支援,予防や啓発,研究活動などを行うNPOである.私たちが5年おきに3回実施してきた調査によれば,HIV 陽性者の服薬や通院の負担はかなり軽減され,就労の制約も必要ないとの回答が増えているが,プライバシーへの不安は軽減されておらず,それがストレスになっていることが分かる.HIV陽性者もそうでない人も問題なく共に働けることの啓発は,さまざまな病気や困難を抱えた人たちも働きやすい職場環境の実現につながる.

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第5章 トピックス
HIV-1感染症の“治癒”と“機能的治癒”に向けた努力

白川康太郎    京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学
高折 晃史    京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学 教授

要旨
 HIV-1感染症は多剤併用療法(cART)によりコントロール可能となったが,いまだ治癒は得られない.これは,静止期 CD4陽性メモリーT細胞などのHIV-1潜伏感染細胞が,cARTや免疫による監視を生き残るためである.cARTのみでは潜伏感染細胞を排除できず,体内から完全にHIV-1を排除する完全な“治癒”を目指すのは困難である.cARTを中断してもHIV-1をコントロールできるような“機能的治癒”を目標とした新しい治療法の開発が世界中で進んでおり,“治癒”へ向けた治療法開発への努力を解説する.

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第5章 トピックス
HIV-1ワクチン開発とその課題

志田 壽利    北海道大学遺伝子病制御研究所感染病態分野 特任教授
松尾 和浩    日本BCG研究所研究開発部 部長

要旨
 近年の大規模臨床試験の失敗の結果から,HIV-1ワクチン開発の難しさを喧伝する風潮もある.しかし,その失敗を糧として,基礎研究レベルでは免疫学的な新知見を伴いつつ,目覚ましい進歩が見られる.HIV-1の抗原多様性を乗り越える広域中和抗体の発見,粘膜感染を阻止するIgAの誘導,SIVの感染防御と機能的治癒を成すT細胞免疫誘導法,などである.合わせて,我々自身の取組みも紹介する.

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第5章 トピックス
HIV感染症治療へのアクセスと世界

青木 宏美    熊本大学医学部 感染免疫診療部血液内科
満屋 裕明   熊本大学大学院生命科学研究部血液内科・膠原病内科・感染免疫診療部 教授
         米国国立がん研究所 レトロウイルス感染症部 部長
        国立国際医療研究センター臨床研究センター 理事・センター長

要旨
 最初のAIDS患者が報告されてすでに33年余が経過したが,全世界のHIV感染者数は,2013年末時点でおよそ3,500万人が生存している.浸淫地帯とされていた主として開発途上国で新規の感染者の著明な減少が見られているとの朗報があるものの,HIV感染症とAIDSが依然として世界各国での健康・衛生の最大の脅威の1つであることに変わりはない.現在でも新規発生のHIV感染者のほとんどがサハラ砂漠以南のアフリカ,インド・東南アジア地域,およびブラジル・アルゼンチンなどの南米地域の発展途上国に集中している.しかし,このような地域では,HIV感染症に対する具体的な対策が少なくとも2000年まではほとんど取られていなかった.やっと,ここ10年で開発途上国での治療・予防へのアクセスが拡大されてきており,「正の方向」へと前進を始めている.

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