要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 67/免疫6
全身性エリテマトーデス


第1章 概念・定義と疫学
概念・定義

三森 経世   京都大学大学院医学研究科臨床免疫学 教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)は自己免疫異常を基盤として発症し,多彩な自己抗体の産生により多臓器を障害する全身性炎症性疾患であり,膠原病(結合組織疾患)の代表的疾患であるとともに,代表的な全身性自己免疫疾患,全身性リウマチ性疾患でもある.臓器病変や検査異常の組み合わせと障害の程度によって多彩な病態を示し,再燃と寛解を繰り返しながら病像が完成されていくのが SLE の特徴である.

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第1章 概念・定義と疫学
抗リン脂質抗体症候群

渥美 達也   北海道大学大学院医学研究科内科学講座第二内科 准教授

要旨
 抗リン脂質抗体症候群(APS)は,自己免疫血栓症あるいは妊娠合併症と理解される.APS 患者の半数は全身性エリテマトーデス(SLE)に合併し,APS を定義する抗リン脂質抗体は SLE の分類基準の項目にも採択されていて,APS は SLE の類縁疾患と考えることができる.抗リン脂質抗体は免疫学的にも機能的にも多様な自己抗体群で,どのように抗リン脂質抗体を同定するかは,APS の概念の提唱以来の重大な問題である.
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第1章 概念・定義と疫学
疫 学

島根 謙一   東京大学大学院医学系研究科アレルギー・リウマチ内科

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)の有病率や罹患率,または臨床症状や予後は,患者の人種・地理(居住地域),性別,(発症)年齢,経済・教育環境により,違いがあることが知られている.SLE の疫学について,前半では欧米での代表的な研究結果を,後半では日本での報告について紹介する.

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第1章 概念・定義と疫学
予 後

亀田 秀人    慶應義塾大学医学部内科学教室リウマチ内科 講師

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)の短期予後は,難治性病態を認める一部の患者を除いて良好であるが,長期予後は今なお不良である.長期予後の改善には,一般医による早期発見と専門医への早期紹介,専門医による的確な病態診断と,障害(後遺症)なき寛解を目指した治療という機能的病診連携が不可欠である.専門医には免疫抑制薬などの積極的使用により,ステロイド投与量を従来量より大幅に削減する不断の努力が望まれる.

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第2章 病理・病態生理
病 理

宮崎 龍彦  愛媛大学大学院医学系研究科病態解析学講座ゲノム病理学分野 准教授
          愛媛大学プロテオ医学研究センター自己免疫疾患病理解析部門
能勢 眞人  愛媛大学大学院医学系研究科病態解析学講座ゲノム病理学分野 教授
          愛媛大学プロテオ医学研究センター自己免疫疾患病理解析部門

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)は,多様な病理・病態像を示す.その中でループス腎炎(LN)は生命予後にかかわる重要な病変であり,その診断には病理所見が不可欠である.病理組織学的分類として,国際腎臓学会/腎臓病理協会(ISN/RPS)の 2003 年分類が主に用いられる.本稿では LN を始め,皮膚,肺,心,血管,肝病変および抗リン脂質抗体症候群(APS)の病理像について概説し,病態発生につき最近の知見を紹介する.

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第2章 病理・病態生理
全身性エリテマトーデスの病態生理

廣畑 俊成   北里大学医学部膠原病・感染内科学 教授
要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)においては全身の多臓器病変がみられる.本稿においては,SLE の多臓器病変の形成と多様な自己抗体との関係について概説した.発現される自己抗体の多様性により SLE の症候の多様性がある程度は説明可能である.したがって,今後 SLE 患者に発現される自己抗体の多様性形成のメカニズムを明らかにすることが病態解明のうえで重要と考えられる.
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第2章 病理・病態生理
病 因

土屋 尚之    筑波大学大学院人間総合科学研究科生命システム医学専攻分子遺伝疫学研究室 教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)は,複数の遺伝要因と後天的要因の複合により発症に至る多因子疾患である.遺伝因子としては,従来から知られている HLA,C4,Fcγ 受容体に加え,近年の大規模ゲノム解析研究により,STAT4,IRF5,BLK,TNFAIP3,TNIP1 など,新たな疾患感受性遺伝子が次々に見いだされ,さらに,疾患感受性遺伝子には,集団差を示すもの,複数の自己免疫疾患に共通の遺伝因子となるものがあることも明らかになってきた.今後,これらの知見に基づいた病因研究と,創薬,個別化医療への展開が必要である.
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第3章 診 断
診 断

崎 芳成   順天堂大学医学部膠原病内科学 教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)の診断は,定型的な病像を示すときは比較的容易にできる.しかし,非定型的病像を有する例や重複例,さらに病像の移行期にある症例などの診断が難しい場合がある.臨床像と血清学的所見を加味した診断基準を用いて診断するが,その適切な運用のためには,各所見を的確にとらえることが求められる.また,診断に加え,個々の症例の臓器病変とその重症度の評価を適切に行い,それに応じて過不足のない治療を行うことが必要とされる.

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第3章 診 断
検査所見

松本 和子   自治医科大学アレルギー・リウマチ科
簑田 清次   自治医科大学アレルギー・リウマチ科 教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)ではさまざまな自己抗体が陽性になるが,個々の症例で現れる症状が異なるように,検査所見もさまざまである.正しい診断と疾患活動性の評価,および治療に伴う合併症の出現のモニタリングのためには定期検査が必要不可欠であり,身体所見と検査結果の総合的な解釈が重要である.

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第3章 診 断
画像所見

水谷 昭衛    藤田保健衛生大学リウマチ感染症内科 講師
吉田 俊治    藤田保健衛生大学リウマチ感染症内科 教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)では,免疫複合体が組織に沈着し,補体を介して全身の臓器に炎症を生じる.病態の基本は血管炎であるが,その他にも,抗リン脂質抗体,播種性血管内凝固(DIC),ステロイドなど多くの因子の関与も加わっている.臓器障害の評価には画像診断が重要であり,近年はその技術も進歩している.頻度の高い骨関節病変と重要臓器である中枢神経,心臓,肺,消化器における画像診断には習熟しておく必要がある.
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第3章 診 断
腎生検所見

廣村 桂樹   群馬大学大学院医学系研究科生体統御内科学 准教授
野島 美久   群馬大学大学院医学系研究科生体統御内科学 教授
  
要旨
 ループス腎炎の病理像は多彩であり,従来世界保健機関(WHO)分類が使用されてきた.しかし,各クラス(型)や各病変の定義がより明確化された国際腎臓学会/腎病理学会(ISN/RPS)分類が 2003 年に作成され,診断の標準化が進むことになった.本分類を利用した検討では,慢性病変を持つW型の腎予後が不良であるとの報告が多い.0.5g/日以上の尿タンパクや活動性の尿沈渣を有する全身性エリテマトーデス(SLE)患者では,治療方針に影響を及ぼす腎炎が存在する可能性が高く,積極的に腎生検を施行し組織学的検討を行うべきである.

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第3章 診 断
鑑別診断

長澤 浩平  佐賀大学医学部内科学講座膠原病リウマチ内科 教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)は多彩な臨床症状と検査所見を呈する全身性疾患である.そのため,診断のための分類基準は確立されているが,疾患の初発,および経過における臨床所見の出現は,ほかの種々の疾患との鑑別を必要とする.中でも,感染症,ほかの膠原病,およびリンパ腫などが重要である.臨床所見のうち,特に全身症状,関節症状,皮疹,腎病変,中枢神経症状,胸膜炎などが他疾患や他病態との鑑別の対象になる.


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第4章 管理・治療
薬物療法・選択基準

田中 良哉  産業医科大学第一内科学講座 教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)の治療の必要性,ステロイド薬の初期治療量,免疫抑制薬の選択は,疾患活動性や臓器障害などを総合評価して決定する.重症臓器病変を有し,疾患活動性が高ければ,大量ステロイド薬と免疫抑制薬の併用療法を速やかに開始する.疾患活動性や重症臓器病変がなければ,経過観察,または,抗炎症薬や少量ステロイド薬による対症療法を考慮する.また,ステロイド薬や免疫抑制薬の副作用に関しては,適切で迅速な管理,予防,治療が必須である.
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第4章 管理・治療
治療評価・活動性評価(BILAG 指数/SLEDAI/SLICC など)

池田  啓    千葉大学医学部附属病院アレルギー・膠原病内科
高林克日己  千葉大学医学部附属病院企画情報部 教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)は多彩で不均一な臨床像を持つ自己免疫性疾患であるが,その疾患活動性および慢性障害を分けて把握することが適切な治療管理に必須である.一方,薬効評価や観察研究では定量的な評価指標が有用であり,疾患活動性の指標として BILAG 指数ならびに SLEDAI,慢性障害の指標には SLICC 障害指数が頻用される.いずれもその信頼性,一致性などにつき検証がなされ,臨床試験に広く用いられている.
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第4章 管理・治療
治療薬剤:副腎皮質ステロイド

川合 眞一   東邦大学医療センター大森病院リウマチ膠原病センター 教授

要旨
 副腎皮質ステロイドは,現在でも全身性エリテマトーデス(SLE)の標準的治療薬である.重症臓器障害が予想される例には高用量,それ以外の例には低用量が使われる.最近では免疫抑制薬を積極使用する傾向もあり,より低用量の使用および早めの減量となっている.一方,この薬物には重篤な副作用が知られている.本稿では特に SLE 患者における意義,注意すべき副作用とその対策,さらに使用上の注意点をまとめた.

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第4章 管理・治療
治療薬剤:免疫抑制薬

鈴木 康夫  東海大学医学部内科学系リウマチ内科学 教授
山田 千穂  東海大学医学部内科学系リウマチ内科学
若林 孝幸  東海大学医学部内科学系リウマチ内科学
斎藤 榮子  東海大学医学部内科学系リウマチ内科学
佐藤 慎二  東海大学医学部内科学系リウマチ内科学 准教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)の治療の中心はステロイド療法であるが,ステロイド抵抗性や重篤な病態の治療やステロイド減量目的で免疫抑制薬が併用される.主な適用は難治性ループス腎炎や神経・精神症状を伴う SLE である.増殖性ループス腎炎(PNL)の寛解導入目的では,シクロホスファミド間欠静注療法(IVCY)やミコフェノール酸モフェチル(MMF)の有効性が確立している.今後,タクロリムス(TAC)やシクロスポリン(CsA)の使用頻度も増えることが予想される.
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第4章 管理・治療
治療薬剤:生物学的製剤

針谷 正祥    東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科薬害監視学講座 教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)に対する新規治療薬として,生物学的製剤に期待が集まっている.これらの薬剤の分子標的は,B細胞表面抗原(CD19,20,21,22),B細胞サイトカイン(BAFF/BLyS),T細胞表面抗原(CTLA4),炎症性サイトカイン(IL−6,TNF)と極めて多彩である.一方で,有効性評価方法,対象患者集団,治療期間など,解決するべき問題も数多く残されている.

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第4章 管理・治療
補助療法:高血圧,脂質異常症,血栓症

後藤 仁志  大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学 講師

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)は,妊娠可能年齢の女性に好発するため,通常の生活習慣病としての高血圧,脂質異常症を既往に持つ可能性は少ないが,疾患の活動性に伴って出現する臓器障害や薬物の影響でこれらの合併症を呈するようになる.これらがさらに臓器障害を増強することになり,悪循環に陥り生命を脅かす.実際に感染症に次いで生命予後に影響するのが心血管系の障害であることからも,大変重要であることが理解される.また,この疾患特有の合併症として抗リン脂質抗体症候群(APS)に伴う動脈系の血栓症があるが,同様に心血管系に多大な影響を及ぼす.SLE の生命予後,QOL 改善にはこれらの対策も忘れてはならない.
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第4章 管理・治療
補助療法:血漿交換

津田 裕士    順天堂東京江東高齢者医療センター高齢者総合診療科 教授
梁  広石     順天堂東京江東高齢者医療センター高齢者総合診療科 准教授

要旨
 血漿交換療法(PP)は,疾患やその病態に深く関与している免疫関連物質を体外循環により除去し病態の改善を図る治療法である.PP 単独では疾患活動性をコントロールすることは困難であるが,副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬との併用により難治性の病態を速やかに改善しうる.近年,技術面や装置などの環境が整備され,より身近な治療法となっている.

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第4章 管理・治療
補助療法:透析治療

有村 義宏    杏林大学医学部第一内科 教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)の生命予後は,著しく改善しているが,依然として毎年 300 人前後の SLE 患者に透析が導入されている.近年,透析導入される SLE 症例では,急速進行性糸球体腎炎(RPGN)の経過での導入例が減少し,慢性腎不全での導入例の増加が見られる.また透析導入例,維持透析例は高齢化している.透析施行の SLE 患者のさらなる予後改善には,RPGN の早期発見・治療とともに,再燃予防,長期透析・高齢化を考慮した維持透析期の管理・治療が重要である.

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第4章 管理・治療
外科療法:合併症としてのステロイド性大腿骨頭壊死症に対する外科的治療

上島圭一郎   京都府立医科大学大学院医学研究科運動器機能再生外科学 講師
藤岡 幹浩    京都府立医科大学大学院医学研究科運動器機能再生外科学 講師
久保 俊一    京都府立医科大学大学院医学研究科運動器機能再生外科学 教授

要旨
 阻血により骨および骨髄組織が壊死して発生する大腿骨頭壊死症は,症候性と特発性に分類される.特発性では関連する背景因子としてステロイド,アルコール多飲があり,青壮年期に好発する.大腿骨頭の圧潰が生じると疼痛や歩行障害が出現し,著しい機能障害を認めるようになる.外科的治療には,骨頭温存手術として大腿骨頭彎曲内反骨切り術や大腿骨頭回転骨切り術,または人工大腿骨頭置換術や人工股関節全置換術(THA)が行われる.

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第4章 管理・治療
誘因に対する管理・指導

石ヶ坪良明   横浜市立大学大学院医学研究科病態免疫制御内科学 教授

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)の病態の悪化を来す誘因については,あらかじめ管理・指導を徹底することにより防ぐことができる場合もある.本稿では,@遺伝的因子,A臓器別病変,Bルーチン検査,C薬,D感染症,E結婚,妊娠,F日常生活などの多様な視点から,SLE の悪化を来す誘因の管理・指導について概説した.

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第4章 管理・治療
妊娠・出産時の対応

村島 温子   国立成育医療研究センター母性医療診療部 部長
          国立成育医療研究センター妊娠と薬情報センター センター長

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)患者に妊娠を認容する条件は,@ステロイド維持量で活動性が抑えられている,A重大な臓器合併症がない,B妊娠転帰が不良となる可能性があることを患者ならびに家族が理解し受け入れができている,の3点である.妊娠による免疫環境の変化により,妊娠中,産後に再燃する可能性がある.また,妊娠高血圧症候群(PIH)などの産科合併症を併発しやすいため,信頼できる産科医および新生児科医との連携をとれた環境で管理を行う必要がある.

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第5章 ガイドライン
ガイドライン/治療の手引き

三森 明夫   国立国際医療研究センター膠原病科 副院長

要旨
 全身性エリテマトーデス(SLE)の診療ガイドラインは,欧米の学会から発表されているが,処方など実地診療に役立つ具体的内容は,含まれていない.一方,我が国の自己免疫疾患調査研究班では,治療用量と日程を記した詳細が,“指針”または“手引き”の名称で作成されてきた.その“手引き”の最新版について,本稿で解説する.

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