要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 68/呼吸器8
胸膜・縦隔・胸壁・横隔膜の疾患


第1章 総 説
肺の周辺組織

坂  英雄   国立病院機構名古屋医療センター呼吸器科 部長

要旨
 肺は,気道と血管から構成され,肺胞でガス交換を行うことが主な役目と考えられる.そうした機能を持つ肺の周囲組織には,胸膜・縦隔・胸壁・横隔膜が含まれる.胸膜は,肺の外側から縦隔・横隔膜・胸壁の胸郭側内面に連なって,二重の膜として肺を包み込んでいる.縦隔は,左右の胸腔の間に位置し,心臓,気管,食道,胸腺など多くの重要臓器を含んでいる.また,胸壁・横隔膜は呼吸運動の主体を成して肺という呼吸装置の駆動を担っている.

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第2章 胸膜疾患
総 論

坂  英雄   国立病院機構名古屋医療センター呼吸器科 部長

要旨
 胸膜は,壁側胸膜と臓側胸膜から成る漿膜で,二重の膜として肺を包み込んでいる.両胸膜の間の腔を胸膜腔と言い,胸膜疾患は,胸膜,胸膜腔に発生する病態を指す.炎症として胸膜炎があり,日本では,がん,結核の順に頻度が高い.感染症としては膿胸があり,細菌感染が肺外に波及して胸膜腔に膿が貯留する.胸膜腔に空気が入り,肺が虚脱することを気胸と言い,若年者に多い自然気胸と,肺の疾患に2次的に発症する続発性気胸がある.腫瘍としては胸膜中皮腫があり,限局性の良性胸膜中皮腫と,びまん性の悪性胸膜中皮腫に分かれる.悪性胸膜中皮腫は,建築用資材として用いられたアスベストの暴露との関係が強く,今後,増加が予想されている.
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第2章 胸膜疾患
胸膜炎の診断

石田 敦子   聖マリアンナ医科大学呼吸器・感染症内科 講師
宮澤 輝臣   聖マリアンナ医科大学呼吸器・感染症内科 教授

要旨
 胸膜炎の多くは胸水貯留にて発症する.診断のため,胸腔穿刺や盲目的胸膜生検がまず試みられるが,約 20〜25% は診断に至らず,胸腔鏡下胸膜生検が奨められる.その方法として,内科医が行える胸腔鏡検査(medical thoracoscopy)が,より侵襲性が少なく,比較的短時間で安全に施行でき,90% 以上と高い診断率が報告されており,我が国でも徐々に一般的になっており,本稿で紹介する.

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第2章 胸膜疾患
膿 胸

降旗 友恵    獨協医科大学呼吸器・アレルギー内科
石井 芳樹    獨協医科大学呼吸器・アレルギー内科 教授

要旨
 膿胸の原因はさまざまであるが,約半数が肺炎,肺化膿症に続発するものである.細菌感染が胸膜に及ぶと,多数の好中球とフィブリンが析出し,胸腔内に膿が形成され,胸腔ドレナージが必要な状態となる.基礎疾患を有するものや高齢者などでは難治化しやすく,膿胸の予後改善のためには,迅速で適切な初期治療が重要と考えられる.

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第2章 胸膜疾患
気 胸

渡辺 洋一  岡山赤十字病院呼吸器内科 副院長

要旨
 気胸は,診断・治療のやさしい軽症疾患と勘違いされがちである.十分な知識に基づいた適確な診断,治療の実践が望まれる.原発性自然気胸における穿刺脱気の理解,適切な胸腔ドレナージの実施,年齢,基礎疾患などを考慮した手術適応の正しい判断が重要である.また,再膨張性肺水腫の発症予防,難治性気胸の十分な治療対応などに関する理解も臨床医に期待されるところである.

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第2章 胸膜疾患
血胸・乳糜胸

多田 弘人   大阪市立総合医療センター呼吸器外科 副院長
要旨
 血胸は,多くは胸部外傷により発生するが,外傷の既往がなくとも気胸やその他の原因で発症することがある.乳糜胸は,多くは胸部外科手術後に発生するが,まれには手術歴がなくとも発症することがある.血胸と乳糜胸のどちらも,多くの場合適切な胸腔ドレナージ(および食事療法)で治癒するが,持続的で排出量が多い場合には,生命予後にかかわるため開胸手術を必要とする.血胸の場合には,凝血塊を胸腔内に残さないようにする必要がある.
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第2章 胸膜疾患
胸膜中皮腫

中野 孝司    兵庫医科大学内科学呼吸器RCU科 主任教授

要旨
 胸膜中皮腫は,胸腔内面を一層に覆う中皮細胞に発生する極めて難治性の悪性腫瘍である.近年,1960 年代後半〜1970 年代の大量のアスベスト消費の影響で,世界的に急増している.中皮腫の治療成績は悲観的であったが,葉酸拮抗薬であるペメトレキセド(PEM)とシスプラチン(CDDP)の併用療法に良好な抗中皮腫活性があり,現在,切除可能の早期例には,本併用化学療法に続く胸膜肺全摘術(EPP)+術後全胸部照射による集学的治療が行われている.
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第3章 縦隔疾患
総 論

長谷川好規   名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座呼吸器内科学 教授

要旨
 胸部単純X線写真に加え CT 横断像や3次元構成像,さらに磁気共鳴画像(MRI)により,縦隔疾患へのアプローチは格段に進歩した.診断技術の進歩を診断に活かすうえで,縦隔の解剖を理解しておくことは,疾患の鑑別に重要である.縦隔疾患は,非腫瘍性病変と腫瘍性病変に大別されるが,それぞれの疾患で発生における好発部位がある.縦隔を前縦隔,中縦隔,後縦隔の3区分に分け,それぞれの区分に発生する疾患を学ぶことが,縦隔疾患の理解に有用である.

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第3章 縦隔疾患
縦隔炎

冨田ゆうか   名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座呼吸器内科学
八木 哲也   名古屋大学医学部附属病院中央感染制御部 准教授

要旨
 縦隔炎は臨床的に,急性と慢性に分類できる.両者は発生機序や病態,臨床症状,治療方法,予後が異なる.急性縦隔炎は,胸部外科手術,食道穿孔,口腔咽頭領域の深部感染症からの波及などを原因として起る.致死的と成りうるため,早期の診断・治療が求められる.慢性縦隔炎はまれな疾患で,通常結核あるいは真菌によって起されるが,原因不明の特発性縦隔炎もある.

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第3章 縦隔疾患
縦隔気腫

山本  洋     信州大学医学部内科学第一講座 講師
久保 惠嗣    信州大学医学部内科学第一講座 教授

要旨
 縦隔気腫は何らかの原因によって生じる続発性と,誘因がない特発性に分類される.
 特発性縦隔気腫は若年でやせ型の男性に好発し,胸痛,呼吸困難感などを呈す.胸部X線写真で診断が困難な例もあり,胸部 CT が有用である.一般に予後は良好であるが,急速に増悪する症例もあり,慎重な経過観察が必要である.
 続発性縦隔気腫は基礎疾患に合併するため,多くは予後不良である.気腫の管理に加え,基礎疾患に対する治療が重要である.
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第3章 縦隔疾患
胸腺腫・胸腺癌

矢野 智紀   名古屋市立大学大学院医学研究科腫瘍・免疫外科学 准教授
  
要旨
 胸腺腫は胸腺上皮発生の腫瘍細胞が非腫瘍性のリンパ球を混じえ,重症筋無力症(MG)などを合併する.良性腫瘍のごとく認識されるのは約7割が予後良好なT,U期で発見されるからである.胸腺癌は明らかな細胞異型を伴うがん種である.胸腺癌上皮には胸腺上皮の機能がなく,自己免疫疾患を合併しない.どちらも腫瘍の完全切除が治療根幹となるが,切除不能例や進行症例には化学療法,放射線療法も考慮される.治療方針の早期確立が望まれる.

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第3章 縦隔疾患
縦隔胚細胞性腫瘍

薄田 勝男  金沢医科大学呼吸器外科 准教授
佐川 元保  金沢医科大学呼吸器外科 特任教授
相川 広一  金沢医科大学呼吸器外科
田中  良   金沢医科大学呼吸器外科
佐久間 勉  金沢医科大学呼吸器外科 教授

要旨
 胚細胞性腫瘍は縦隔腫瘍全体の 6.8% を占め,奇形腫・セミノーマ・非セミノーマに大別される.非セミノーマではα−フェトプロテイン(AFP)もしくはヒト絨毛性ゴナドトロピンβ(β−HCG)が上昇することが多い.成熟型奇形腫では外科切除が選択される.セミノーマ・非セミノーマは,遠隔転移を有しても化学療法で治療可能であり,化学治療が第1選択となる.化学療法後に腫瘍が遺残した場合,たとえ血中腫瘍マーカーが正常化した場合であっても,外科切除が必要である.


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第3章 縦隔疾患
縦隔神経原性腫瘍

細野 達也   自治医科大学呼吸器内科 講師
杉山幸比古  自治医科大学呼吸器内科 教授

要旨
 縦隔神経原性腫瘍は,神経鞘,神経節,傍神経節から生じ,後縦隔肋骨脊椎溝に好発する.成人発生例では多くが神経鞘由来でありほとんどが良性である.神経芽腫は小児に好発する.多くは無症状で画像検査により発見されるが,増大に伴い周辺臓器圧迫症状,ホルネル症候群などを認める.ダンベル型腫瘍は約 10% に認められる.良性腫瘍の完全切除後の予後は良好である.神経芽腫ではリスク分類に基づき集学的治療を行う.
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第3章 縦隔疾患
縦隔悪性リンパ腫

新津  望    埼玉医科大学国際医療センター造血器腫瘍科 教授

要旨
 縦隔リンパ腫は,縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫,Hodgkin リンパ腫,未分化大細胞型リンパ腫,Tリンパ芽球性リンパ腫などがある.臨床症状は,呼吸困難,咳嗽,胸痛,嚥下困難,嗄声,上大静脈症候群,胸水,心?液貯留などを認める.急速に増大する縦隔腫瘍を認めた場合,リンパ腫を疑い,生検による病理組織検査を早急に行うことが重要である.悪性リンパ腫は,化学療法および放射線療法を早期に行うことにより治癒可能な疾患であり,早期診断が本疾患の予後を規定する.
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第3章 縦隔疾患
先天性縦隔嚢胞

大森 一光   日本大学医学部心臓血管・呼吸器・総合外科分野 准教授

要旨
 先天性縦隔嚢胞は,先天性に発生の過程での異常により縦隔に発生する嚢胞の総称であり,気管支性嚢胞,心膜嚢胞,食道嚢胞などがある.近年画像診断技術の向上により,嚢胞内容の性状の評価や形態が確認できるようになり診断率は改善している.
 先天性縦隔嚢胞は悪性変化する疾患はほとんどないが,術前診断が得られにくく,嚢胞内容物の評価および最終的に病理診断により確定診断が得られる.

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第4章 胸壁・横隔膜疾患
総 論

川口 晃司  名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器外科学
横井 香平  名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器外科学 准教授

要旨
 胸壁と横隔膜は胸郭を構成し,中心に縦隔があって左右を隔てている.胸壁は強固な骨性胸郭と何層かの筋肉から成り,横隔膜は薄い筋肉と膜から構成されて,呼吸運動を担うとともに心臓や肺などの重要な臓器を保護している.したがって,そこに起こる疾患は,しばしば重篤な状態に成りうる.
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第4章 胸壁・横隔膜疾患
胸郭異常:漏斗胸,鳩胸,Poland 症候群

城田 千代栄    名古屋第二赤十字病院小児外科 副部長
吉岡  洋      名古屋第二赤十字病院呼吸器外科 部長

要旨
 漏斗胸・鳩胸・Poland 症候群は,胸郭異常を呈する疾患で,頻度はそれぞれ1/400〜1,000人・1/2,000〜10,000 人・1/20,000〜30,000 人である.特徴的な外観を呈し,診断は比較的容易である.呼吸器・循環器症状を合併することもあるが,ほとんどの場合は外見的な問題が主訴となる.いずれも一貫した治療方針はなく,個々の患者のニーズに合わせた治療がなされる.

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第4章 胸壁・横隔膜疾患
胸壁腫瘍

岩田  尚   岐阜大学医学部附属病院第一外科 臨床教授
白橋 幸洋  岐阜大学医学部附属病院第一外科 臨床講師
竹村 博文  岐阜大学医学部附属病院第一外科 教授
大野 貴敏  岐阜大学医学部附属病院整形外科 准教授
広瀬 善信  岐阜大学医学部附属病院病理部 臨床教授

要旨
 胸壁腫瘍は,主に原発性胸壁腫瘍,局所直接浸潤による腫瘍,転移性腫瘍の3つに分類される.この領域は,骨軟部腫瘍が主体であるがゆえに,整形外科領域にカバーされることが多い.原発性胸壁腫瘍のうち,良性腫瘍は 21〜67% との報告があり,おおよそ原発性胸壁腫瘍の半分とされている.胸部骨性腫瘍のうち,肋骨由来が 85%,胸骨由来が 15% 程度とされている.胸部軟部腫瘍は全軟部腫瘍の約 10% と報告されている.
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第4章 胸壁・横隔膜疾患
横隔膜ヘルニア

神谷 紀輝    東京慈恵会医科大学外科学講座呼吸器外科
森川 利昭    東京慈恵会医科大学外科学講座呼吸器外科 教授

要旨
 横隔膜ヘルニアは,先天性ヘルニア(CDH)と外傷性ヘルニア(横隔膜破裂)に大別される.先天性は,後側方(Bochdalek),胸骨後方(Morgagni),食道裂孔の3つに分類される.Bochdalek ヘルニアは出生時期に診断治療が行われ,これに対し Morgagni ヘルニアは幼児期に発症することは少なく,成人になってさまざまな症状を伴って出現することが多い.外傷性ヘルニア(横隔膜破裂)の診断は困難な場合もあるが,外傷エピソードや胸部X線写真所見より,まず鑑別診断に挙げて疑うことが大切である.

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第4章 胸壁・横隔膜の疾患
横隔膜弛緩症および横隔神経麻痺

高尾 仁二    三重大学大学院医学系研究科胸部心臓血管外科学 准教授

要旨
 狭義の横隔膜弛緩症は横隔膜筋部の先天的欠損で,脊髄や横隔神経障害や筋疾患などによる後天性の横隔膜麻痺と区別されているが,共に横隔膜挙上を示す病態である.横隔麻痺の原因は多様であるが,近年,肺癌などの悪性腫瘍,交通事故のほかに医原性のものも増えている.無症状の場合には治療は必要ないが,症状を伴う場合には横隔膜縫縮術が不全横隔膜の吸気時奇異性運動を防止することにより,症状と呼吸機能の改善に寄与する.

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第4章 胸壁・横隔膜の疾患
横隔膜腫瘍

高尾 仁二   三重大学大学院医学系研究科胸部心臓血管外科学 准教授

要旨
 横隔膜に発生する原発性・転移性腫瘍は極めてまれであり,日常臨床で遭遇するもの多くは胸膜中皮腫,肺癌のほか,食道・胃,肝,膵など隣接臓器の悪性腫瘍の直接浸潤や肺癌,胸腺腫瘍などの播種である.原発性腫瘍の場合は良性,悪性共に外科的切除が原則であるが,他臓器からの浸潤癌の予後は不良で,胸水や疼痛に対する対症療法を選択することも多い.

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