要旨


最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 69/循環器12
狭心症


第1章 概念・定義と疫学
狭心症の疾患概念


今井  靖   東京大学大学院医学系研究科循環器内科学・TRセンター 特任講師
永井 良三   東京大学大学院医学系研究科内科学専攻・循環器内科学 教授
要旨
 狭心症は一過性の心筋虚血により胸痛・胸部苦悶感などの症状を生じる臨床症候群である.主として動脈硬化を基盤として生じる冠動脈硬化・狭窄のほか,冠攣縮,微小循環障害,プラークびらんや破綻による血栓形成などがその発症機序であり,その理解が本症の診断・治療につながる.狭心症の診断・重症度にはさまざまな臨床分類が知られるが,特に急性心筋梗塞・突然死に結びつく可能性のある不安定狭心症が重要であり,初発・安静・増悪狭心症をみたときには,その可能性を十分に考慮する必要性がある.

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第1章 概念・定義と疫学
狭心症の疫学

興梠 貴英  東京大学大学院医学系研究科健康医科学創造講座

要旨
 狭心症は心筋虚血に伴い出現する、前胸部を中心とした不快感を主症状とする臨床症候群であり、冠動脈の器質的な狭窄によるものと攣縮によって生ずる冠攣縮性狭心症に大きく分けることができる。狭心症単独としての疫学データは正確な数の把握が難しいため,通常狭心症を含む虚血性心疾患に含まれる。例えば,急性心筋梗塞はいまだ欧米に比較すると発生率は低いが、近年の生活の欧米化に伴い、喫煙を除く冠危険因子が国民レベルで悪化しており、将来の動向に気をつける必要がある。また,動向把握のための疫学データベースの充実も望まれる。

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第2章 病理・病態生理
冠循環・心筋虚血の発生機序

安田  聡  東北大学大学院医学系研究科循環器病態学分野 准教授
下川 宏明  東北大学大学院医学系研究科循環器病態学分野 教授

要旨
 狭心症は,心筋の酸素需要と供給の不均衡に基づく一過性の心筋虚血により発生する病態で,無症候性心筋虚血も同じカテゴリーに属する.その成因として,血液供給が低下する一次性虚血,需要が増加する二次性虚血,およびそれらの混合型がある.一般に,冠動脈攣縮のような機能的障害や,冠動脈硬化に伴う器質的病変などにより,狭窄の程度が 90% 以上となったときに,さまざまな代償機転による限界を超えて冠血流量は減少する.本稿では,心筋虚血発生機序と冠循環調節機構について概説する.

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第2章 病理・病態生理
動脈硬化の病理

橘 真由美   大阪市立大学大学院医学研究科病理病態学
和田 諭子   大阪市立大学大学院医学研究科病理病態学
上田真喜子   大阪市立大学大学院医学研究科病理病態学 教授

要旨
 ヒト冠動脈の動脈硬化性プラークが不安定化し,プラーク破裂やプラークびらんにより壁在血栓が形成されることで,不安定狭心症(UAP)が引き起される.プラーク不安定化因子としては,これまでにプラーク炎症,ミエロペルオキシダーゼ(MPO)や酸化低比重リポタンパク(LDL)などの酸化ストレス因子,spotty calcification,ネオプテリンの発現,プラーク内出血とヘモグロビンスカベンジャーレセプター CD163 の発現などが見いだされている.今後,さらにプラーク不安定化のメカニズムを明らかにする必要がある.

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第2章 病理・病態生理
冠動脈イメージングがとらえる冠動脈病変

谷本 貴志  和歌山県立医科大学循環器内科
水越 正人  和歌山県立医科大学循環器内科 講師
赤阪 隆史  和歌山県立医科大学循環器内科 教授

要旨
 冠動脈硬化は,冠動脈の内腔狭窄を生じ心筋虚血を起すだけの病変ではなく,血管壁自体の病変であるとの認識が広まり,血管壁の性状を診断する冠動脈イメージング法が開発,臨床応用されている.血管内超音波(IVOS),血管内視鏡,光干渉断層法(OCT)は血管内イメージングの代表的検査法であり,生体における冠動脈プラークの組織性状診断を可能とし,急性冠症候群の病態解明,治療戦略の決定や治療効果判定など,幅広く臨床で活用されている.

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第2章 病理・病態生理
冠攣縮

南井 孝介   東京慈恵会医科大学循環器内科学
吉村 道博   東京慈恵会医科大学循環器内科学 教授

要旨
 本邦では冠攣縮性狭心症(CSA)の発症率が欧米に比して高い.また,冠攣縮は急性冠症候群(ACS)の主要因の1つとしても非常に重要である.冠攣縮のリスクファクターとしては,喫煙,ストレス,遺伝的要因が重要であり,その基本的病態は血管内皮機能の低下にあると考えられる.CSA の標準的治療は,禁煙を主とした生活指導とカルシウム(Ca)拮抗薬の投与である.

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第3章 診 断
診断と検査の進め方

鈴木 秀治    大阪医科大学第三内科
石坂 信和    大阪医科大学第三内科 教授

要旨
 狭心症の診断には詳細な問診が最も重要である.症状や心電図の時間的な経過を分析することで,冠動脈病変がどの程度ありそうか,また,もし存在するなら重症度や緊急度はどの程度か,などを推察できる場合も多い.最終的な診断には,冠動脈造影(CAG)が必要な場合も多いが,冠動脈 CT などの新しい画像診断モダリティや,心筋障害マーカーの迅速判定キットは,虚血性心疾患の診断・鑑別に日常臨床でも利用可能なツールとなっている.
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第3章 診 断
安静時心電図・運動負荷心電図

安喰 恒輔    JR東京総合病院循環器内科 担当部長

要旨
 狭心症患者における安静時心電図の異常は多くが非特異的変化であり,診断的価値は高くないが,一部には重症例がみられるため油断は禁物である.狭心症の診断に際し,最も一般的に行われるのが運動負荷心電図検査である.安全かつ有効な検査とするためには,運動中止徴候・禁忌・心電図診断基準に精通するとともに,検査前確率の概念を理解して結果を解釈することが重要である.

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第3章 診 断
心エコー

田中 秀和  神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野
川合 宏哉   神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野 特命教授

要旨
 心エコー図検査は冠動脈疾患に対する重要な非侵襲的診断法であり,狭心症患者において,臨床上多くの有益な情報を得ることができる.狭心症発作により心筋虚血が生じた場合,ischemic cascade(虚血の滝)と呼ばれる一連の現象が起る.心エコー図検査では,この ischemic cascade の上流にある灌流障害,拡張障害,収縮障害を,胸痛や心電図変化に先駈けて検出することが可能である.


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第3章 診 断
核医学検査

吉永恵一郎  北海道大学大学院医学研究科連携研究センター
                  分子・細胞イメージング部門 光生物学分野 准教授
玉木 長良  北海道大学大学院医学研究科病態情報学講座核医学分野 教授

要旨
 虚血性心疾患の診断において,心筋血流単光子コンピューター断層撮影(SPECT)による心臓核医学検査は,非侵襲的に心筋局所の虚血を診断できることが特徴である.そのため,冠動脈疾患の診断から中等度冠動脈狭窄病変に対する血行再建術の適応決定に,循環器領域の日常臨床で広く応用されている.さらに,これまでの豊富なエビデンスに基づき,予後予測の有用性が画像診断の中で確固として確立されている.
 近年では,心筋血流ポジトロン断層撮影(PET)も冠動脈疾患の診断に北米で臨床応用が開始され,我が国でも導入が開始されている.
 本稿では,心筋血流 SPECT を中心とした狭心症の診断について概説し,将来展望として心筋血流 PET についても言及する.

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第3章 診 断
冠動脈CT・MRI

佐藤 裕一  黒沢病院附属ヘルスパーククリニック画像センター センター長
茂木 俊一  黒沢病院附属ヘルスパーククリニック画像センター
黒澤  功  黒沢病院附属ヘルスパーククリニック 理事長

要旨
 冠動脈多列検出器型 CT(MDCT)および磁気共鳴画像(MRI)の登場によって,低侵襲的および非侵襲的な冠動脈病変の診断が可能となったが,それぞれのモダリティーに有用性および欠点があるのが現状である.例えば,高度石灰化病変を有する患者の診断精度は磁気共鳴血管造影(MRA)が MDCT より優れるが,冠動脈プラークの検出および定性評価は MRA では不可能である.また,MDCT は放射線被曝が避けられず,また造影剤の使用が必須であるため,小児や慢性腎臓病,造影剤アレルギーを有する患者には,MRA が優位である.本稿では,それぞれのモダリティーの特徴とその選別について述べる.

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第3章 診 断
冠動脈造影

原  弘典  社会福祉法人三井記念病院循環器内科
原  和弘  社会福祉法人三井記念病院循環器内科 部長

要旨
 適応と方法では冠動脈造影に必要となる知識について合併症なども含めて説明した.解剖と病変の評価では専門家の間でよく用いられる AHA 分類と CASS 分類を示し,その解剖の知識を踏まえたうえでの評価,造影検査の結果に関して論じた.側副血行路や冠攣縮性狭心症についても言及した.左室造影,その他の血管造影では冠動脈造影と同時に評価できる事項について補足した.


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第4章 管理・治療
管理・治療の進め方

古賀 聖士   長崎大学大学院医歯薬学総合研究科循環病態制御内科学
池田 聡司   長崎大学大学院医歯薬学総合研究科循環病態制御内科学 講師
前村 浩二   長崎大学大学院医歯薬学総合研究科循環病態制御内科学 教授

要旨
 狭心症の治療の目標は,狭心症症状の消失による生活の質(QOL)の改善と,心筋梗塞への移行の阻止や心臓突然死の予防による長期的予後の改善である.患者の病態,虚血の重症度,冠動脈病変の状態などを参考に,治療方法を選択する.治療には,非侵襲的な薬物療法と,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)などの侵襲的な血行再建術がある.長期的予後改善のためには,冠動脈危険因子の管理と患者教育も重要である.

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第4章 管理・治療
狭心症に対する薬物療法

山下 尋史  東京大学大学院医学系研究科内科学専攻・循環器内科学 講師

要旨
 狭心症の治療薬には,症状を改善する抗狭心症薬と,心血管イベントの再発を抑制する2次予防薬がある.前者には,硝酸薬,β遮断薬,カルシウム(Ca)拮抗薬などがある.これらの薬剤が無効な場合や,ハイリスク症例では血行再建術の併用を検討する.後者には,抗血小板薬,脂質異常症治療薬,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬などがあり,禁煙,運動,食事療法などの生活指導とともに,これらの薬剤で冠動脈疾患リスクファクターを十分に治療することが,予後の改善につながる.

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第4章 管理・治療
狭心症に対する経皮的冠動脈形成術

伊苅 裕二   東海大学医学部循環器内科 教授

要旨
 冠動脈インターベンション(PCI)は,狭心症の血行再建術として冠動脈バイパス術(CABG)とともに確立された治療法である.最大の弱点であった再狭窄が,薬剤溶出ステント(DES)の出現により克服され,PCI の臨床成績も向上している.バイパスの聖域であった左主幹部(LMT)病変に対する無作為試験も報告されつつある.2剤の抗血小板療法をいつまで続けるのかという点に関する議論はまだ解決されておらず,PCI の今後の課題である.
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第4章 管理・治療
狭心症に対する冠動脈バイパス術

宮入  剛  社会福祉法人三井記念病院心臓血管外科 部長

要旨
 冠動脈バイパス術(CABG)の対象患者は,複雑病変やびまん性病変例,あるいは心機能低下例など,より重症化してきている.現時点では,3枝病変や左冠動脈主幹部を含む病変では,CABG が適している可能性が高い.心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)は人工心肺使用例よりも良好な早期成績報告されている.すべてのバイパスを静脈で行った症例に対し,少なくとも1本の動脈グラフトを使用した症例の 10 年生存率は,有意に良好であると報告されている.
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第4章 管理・治療
不安定狭心症と判断したら

小谷 順一  国立循環器病研究センター心臓血管内科部門 医長

要旨
 不安定狭心症(UAP)は多彩な病態を包括する疾患概念であるために,軽症例から治療に抵抗する重症例までが含まれ,初期対応を行いつつリスクの層別化を行うことが重要である.長期予後は院内における治療戦略に大きく依存する.中等〜高度のリスク症例においては,早期保存的治療と早期侵襲的治療に分類されるが,これを主に規定するのは冠動脈造影とそれに伴う血行再建術であるため,これらのタイミングを逸しないことが肝要である.
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第5章 ガイドライン
日本循環器学会ガイドライン

西垣 和彦  岐阜大学医学部附属病院第二内科 准教授

要旨
 わが国で得られたエビデンスに基づいた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の新ガイドラインを昨年作成したが,冠動脈疾患(CAD)に対する主に PCI と冠動脈バイパス術(CABG)の治療法選択に関して外科系関連学会より異議の申し立てがあり,発表を見合わせざるをえなかった.2010 年 11 月現在,内科系,外科系の医師で構成された冠動脈血行再建術協議会で共通のステートメントを作成中であるため,その一部を紹介し,現在何が問題であるのかを概説した.
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第5章 ガイドライン
欧米のガイドライン(ACC/AHA/ESC)

荒尾憲司郎  自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科
阿古 潤哉  自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科 教授

要旨
 本邦においても米国心臓学会(ACC),米国心臓協会(AHA),および欧州心臓学会(ESC)のガイドラインがしばしば引用されるが,本邦と欧米では医療保険制度や患者背景および治療法に多少異なる点があることに留意して,解釈する必要がある.狭心症あるいは冠動脈血行再建については適宜改訂がなされ,近年,ESC,ACC/AHA ガイドライン共に非保護左冠動脈主幹部病変の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)適応が改訂された.
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第6章 総合医と研修医のためのエビデンスの読み方
薬物療法か?血行再建か?

石綿 清雄  虎の門病院循環器センター内科 部長

要旨
 狭心症の薬物療法は合併症のリスクコントロールから生活習慣にまで介入する集学的治療の基本である.不安定狭心症は心筋梗塞(MI)に移行する可能性の高い病態であり,十分な薬物療法に加えて早期の血行再建が必要になる.一方,安定狭心症は薬物療法から始め,その重症度に応じて血行再建を行う.重症度の評価は近年の診断学の進歩に伴い,より科学的根拠をもって治療方針の決定に寄与する.血行再建の手段としての冠動脈インターベンション(PCI)と冠動脈バイパス術(CABG)は相補的に治療に関与し,ハイリスク症例の QOL と生命予後を改善する.
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第6章 総合医と研修医のためのエビデンスの読み方
狭心症に対する血行再建 PCI か? CABG か?

浅野 竜太  榊原記念病院循環器内科 部長

要旨
 多枝病変に対する冠動脈バイパス術(CABG)と冠動脈インターベンション(PCI)の比較試験は,技術の進歩とともに繰り返し行われてきたが,症例登録率が低く,3枝病変例の割合も少ないという点から,実臨床でいずれの血行再建を選択するかが問題となる症例とはかけはなれたものであった.SYNTAX 試験は新規の冠動脈3枝病変または左主幹部(LMT)病変を対象として行われた CABG とパクリタキセル溶出ステント(PES)の無作為比較試験で,すでに3年までの成績が明らかにされ,高い登録率と SYNTAX スコアという病変の複雑性が考慮されている点で,極めて重要な位置付けにある臨床試験と言える.
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第6章 総合医と研修医のためのエビデンスの読み方
狭心症に対する血行再建 DES か? BMS か?

宮内 克己  順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学講座 准教授
古屋 俊宏  順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学講座

要旨
 薬剤溶出ステント(DES)は金属ステント(BMS)に比べ再狭窄や標的病変再血行再建(TLR)を有意に抑制するが,遅発性ステント血栓症の問題が残った.DES により長期の心筋梗塞(MI)発症・死亡に差はないことから,安全性の面での懸念はある程度払拭されている.このような臨床試験の蓄積により,DES の有用性・安全性は BMS との比較において確立されたと言っても過言ではない.残された課題は,抗血小板薬2剤併用の継続期間や,第2世代 DES の有効性の検証にある.
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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
初診におけるアセスメントと緊急時の対応

山ア 正雄  NTT東日本関東病院循環器内科 主任医長

要旨
 初診外来ではいろいろな胸痛関連疾患の中から循環器疾患を鑑別しなければならず,特に緊急治療を要する虚血性心疾患を見逃してはならない.鑑別のために最も重要なポイントは問診であり,理学的所見・胸部X線写真・心電図・心臓超音波検査などを組み合わせて迅速に病態を把握する.重症の不安定狭心症や急性冠症候群は即日入院の適応であり,積極的に心臓カテーテル検査を考慮する必要がある.
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第7章 総合医と研修医のための日常診療ポイント
循環器専門医にコンサルトするとき

上妻  謙   帝京大学医学部附属病院循環器内科 准教授

要旨
 虚血性心疾患のコンサルトは,安定狭心症か急性冠症候群かを意識することが重要である.病歴,症状,心電図変化,心不全や重篤な不整脈の有無,トロポニンなどの心筋逸脱酵素の上昇などによりリスクを評価することで,コンサルトのタイミングは決まってくる.
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