要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 6/消化器1
消化性潰瘍 改訂第2版


第1章 概論・疫学
概 論

浅香 正博   北海道大学大学院医学研究科がん予防内科 特任教授・名誉教授

要旨
 消化性潰瘍は,古代ギリシャ時代より記載のある古い疾患であるが,その病態生理の解明には長い期間待たねばならなかった.消化性潰瘍ほど,人類を苦しめ,命を奪っていった疾患はまれと言われている.19 世紀になり,胃酸およびペプシンの発見がなされ,研究は大きな飛躍を遂げた.しかし,治療となるとその確立には,さらに 100 年以上の年月がかかっている.H2 ブロッカーの登場,そして重要な成因としての H.pylori の発見とその除菌療法により,現在では容易に治る病気の範疇に入ってきている.
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第1章 概論・疫学
疫 学

菊地 正悟   愛知医科大学医学部公衆衛生学 教授

要旨
 我が国の患者数は,胃潰瘍では年齢とともに増加し,十二指腸潰瘍では 40 歳まで漸増,それ以上で横ばいで,全体に胃潰瘍>十二指腸潰瘍である.1996 年以降は両疾患とも減少している.死亡率は,両疾患とも年齢とともに上昇する.1969 年以降は,胃潰瘍では 1989 年から 1999 年にかけての微上昇を除いて低下しているのに対し,十二指腸潰瘍では低下/横ばい,微上昇,横ばいとなっている.胃潰瘍患者では胃がんリスクが高い.
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第2章 病理・病態生理
病 理

太田 浩良   信州大学医学部保健学科検査技術科学専攻生体情報検査学講座 教授
上原  剛    信州大学医学部医学科病態解析診断学教室 講師

要旨
 潰瘍は,欠損の深さによってT度からW度までに分類される.T度は欠損が粘膜内にとどまるもので,びらんに相当する.びらん面では,ムコイドキャップ下に上皮の再生が進む.潰瘍底には,滲出層,壊死層,肉芽組織層,線維化層の4層が観察され,急性潰瘍は後者の2層を欠いている.ラット酢酸胃潰瘍では,再生粘膜は成熟するに伴い,粘液細胞の粘液の性状も正常粘膜のものへと回復していく過程が報告されている.ヒト胃潰瘍の再生粘膜においても,再生の質的評価の指標が望まれる.
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第2章 病理・病態生理
病態生理 1.胃酸分泌機構

屋嘉比 康治    埼玉医科大学総合医療センター消化器・肝臓内科 教授

要旨
 胃酸分泌機構は,中枢神経と胃粘膜,さらに腸が協調して一体となり全体で調節している,いわゆる脳腸相間のシステムとして機能している.中枢による調節を胃に伝えているのは迷走神経であり,迷走神経はガストリン(Gas)分泌細胞やソマトスタチン(Som)分泌細胞,ヒスタミン(His)を分泌するエンテロクロマフィン様(ECL)細胞と協調して分泌調節を行っている.また,HCl を分泌する H+,K+−ATPase とK+と Cl−の輸送系の役割と機能が明らかになりつつある.
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第2章 病理・病態生理
病態生理 2.胃粘膜防御機構

中村 正彦   北里大学薬学部病態解析学 准教授
土本 寛二   北里大学薬学部病態解析学 教授

要旨
 胃酸,ペプシン,H.pylori などに対して,胃粘膜にはその防御ラインとしてさまざまな機構が存在することが明らかとなっている.その中で粘液層は,糖タンパクおよび重炭酸分泌がその主な構成成分となり,trefoil peptideがその調節因子として知られる.幹細胞およびその周辺の前駆細胞は傷害された細胞を保護するために活発な細胞増殖を行っているが,近年さまざまなマーカーによりその詳細な機構が明らかになりつつある.微小循環系は,単に栄養補給,老廃物排除の目的だけでなく,胃粘膜における酸分泌,およびalkaline tide形成にも重要であり,その傷害により潰瘍形成に至ることが明らかとなっている.また,その調節機序としては,古典的な自律神経系に加え,消化管ホルモン,知覚神経などの関与が検討されてきた.さらに近年は,H2S も防御機構に関与することが知られている.
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第2章 病理・病態生理
病因 1.Helicobacter pylori

下山  克  弘前大学大学院医学研究科消化器血液内科学 准教授
要旨
 Helicobacter pylori(H.pylori)感染は胃・十二指腸潰瘍に密接に関連している.2000 年 11 月には胃潰瘍・十二指腸潰瘍患者への H.pylori 除菌治療が保険適用となって,除菌治療が行われるようになった.潰瘍発生機序が完全に解明されたとは言えないが,消化性潰瘍診療にあたっては H.pylori 感染診断を行い,感染者には除菌治療と除菌判定を行う必要がある.
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第2章 病理・病態生理
病因 2.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

平石 秀幸   獨協医科大学消化器内科 主任教授
笹井 貴子   獨協医科大学消化器内科 講師
島田 忠人   獨協医科大学消化器内科 教授

要旨
 NSAIDs は整形外科的疾患の治療などに広く用いられるが,消化性潰瘍の重要な病因となり,潰瘍発生のリスクを約 20 倍,潰瘍出血のリスクを約5倍増加させる.NSAIDs は,主に酸に依存した直接的な上皮細胞傷害,シクロオキシゲナーゼ(COX)−1 および COX−2 阻害に伴う胃粘膜防御および修復機構破綻により上部消化管粘膜障害を惹起する(dual insult hypothesis).この理論に基づき,『消化性潰瘍診療ガイドライン』においても NSAIDs 潰瘍の予防・治療戦略が構築されている.
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第2章 病理・病態生理
病因 3.低用量アスピリン

佐藤 貴一    自治医科大学消化器内科 准教授
菅野 健太郎   自治医科大学消化器内科 教授

要旨
 アスピリンは,従来型の NSAIDs と同様に,粘膜傷害作用が強い.シクロオキシゲナーゼ(COX)−1選択性の高いアスピリンは,直接的傷害作用の関与が重要と考えられる.低用量アスピリン(LDA)の上部消化管出血のリスクは,無作為割付試験のメタ解析や case−control study の検討で 1.6〜8.2 と報告されている.LDA 服用例の消化性潰瘍有病率は,4〜19%と報告されている.

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第2章 病理・病態生理
病因 4.その他の病因

間部 克裕   北海道大学病院光学医療診療部

要旨
 消化性潰瘍の最大の原因は,Helicobacter pylori(H.pylori)菌の感染である.次に多いのが,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用で,最近は高齢者の増加,抗血小板薬としてのアスピリン使用例の増加により NSAIDs 潰瘍が増加している.これら以外に知られている原因としては,ストレス性,NSAIDs 以外の薬剤性,H.pylori 感染以外の感染症,過酸性の Zollinger−Ellison(ZE)症候群,Crohn 病などの随伴性,そして原因不明の特発性がある.ストレス性については熱傷後の Curling 潰瘍,頭蓋内病変による Cushing 潰瘍が知られているほか,地震など大きなストレスによっても増加することが報告されている.薬剤性としては,ステロイド,ビスホスホネート製剤,一部の抗血栓薬などで知られており,感染性としては結核,サイトメガロウイルス(CMV)などが,随伴性としては放射線性,サルコイドーシス,腫瘍性などが知られている.頻度が少なく十分に解明されていない分野であるが,H.pylori 感染の除菌治療の普及,NSAIDs 潰瘍に対する予防的プロトンポンプ阻害薬(PPI)投与など,有効な消化性潰瘍対策がなされている現在,それ以外の原因として理解しておく必要がある.
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第3章 診 断
X線所見

中島 滋美     社会保険滋賀病院総合診療科 部長

要旨
 バリウムを用いた胃X線検査の方法と診断のポイントを解説する.胃X線検査の読影では Helicobacter pylori(H.pylori)感染診断を行い,現在または過去の感染が疑われる症例では消化性潰瘍や瘢痕の有無を診断する.潰瘍はニッシェなどの直接所見だけでなく,治癒機転により生じるひだの集中や胃壁の変形などの間接所見にも注目する.潰瘍または瘢痕の可能性がある場合には,悪性疾患の鑑別のため,必ず内視鏡検査を実施する必要がある.
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第3章 診 断
内視鏡所見

太田 和寛   大阪医科大学第2内科
竹内 利寿   大阪医科大学第2内科
樋口 和秀   大阪医科大学第2内科 教授

要旨
 消化性潰瘍は内視鏡所見にてその存在診断,時相分類が可能で,さらに色素内視鏡,拡大観察などでそれぞれの潰瘍の性状を明確にし,良悪性の鑑別や瘢痕部の質の判定などにも応用できる.潰瘍の再発は瘢痕部局所の炎症の持続が関与していると言われており,その指標として,QOUH(潰瘍治癒の質:Quality of Ulcer Healing)という概念がある.QOUH に着目して瘢痕部を観察し,その潰瘍の性状を把握し,その潰瘍にあった治療方法を検討していくことが,臨床の場では重要である.

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第3章 診 断
超音波所見

今村 祐志   川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波)講師
畠  二郎   川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波)教授
春間  賢   川崎医科大学消化管内科学 教授

要旨
 体外式超音波検査は消化管疾患の診断には不適である,と従来は考えられていたが,適切な装置の設定や描出法により,消化管疾患の診断に有用な検査法となっている.消化性潰瘍の超音波所見は,壁の欠損,壁の肥厚,潰瘍エコーが特徴であり,消化管の層構造や消化管管腔外の観察により,穿孔・被覆穿孔の診断にも有用である.


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第3章 診 断
胃がんとの鑑別診断

安田  宏  聖マリアンナ医科大学消化器・肝臓内科 教授

要旨
 胃潰瘍と胃がんの鑑別について述べる.臨床上特に問題となるのは,V型・Uc+V・V+Ucなどの“明らかに深い陥凹”を伴う早期胃がんと潰瘍との鑑別である.陥凹部分は組織学的にも画像的にも良性潰瘍と同様の所見を示すことが多い.そのため,潰瘍周囲に存在するUc部分をいかに診断するかがポイントとなる.市川らによって提唱された,「胃潰瘍の良・悪性の鑑別に際しての5段階」をもとに解説する.
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第4章 管理・治療
管理・患者指導

吉田 純一   札幌社会保険総合病院内科・消化器科 副院長

要旨
 消化性潰瘍の治療における患者管理・指導の現状を概説した.薬物療法の進歩に伴い,生活管理の重要性は薄れているが,個々の症例において生活改善すべきところを把握し指導することは,いまだ重要である.
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第4章 管理・治療
薬物療法・選択基準

三宅 一昌    日本医科大学消化器内科学 准教授
坂本 長逸    日本医科大学消化器内科学 教授

要旨
 本邦における消化性潰瘍治療の概要については,厚生労働省の研究班から 2002 年(第1版)および 2007 年(第2版)に出版された『EBM に基づく胃潰瘍診療ガイドライン』および 2009 年日本消化器病学会から出版された,『消化性潰瘍診療ガイドライン』に示されている.消化性潰瘍の治療の中心は薬物療法であるが,薬剤の選択基準を含めた治療方針は,個々の症例における消化性潰瘍の成因や原因を認識しながら立てることが望まれる.

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第4章 管理・治療
治療薬剤 1.プロトンポンプ阻害薬

古田 隆久    浜松医科大学臨床研究管理センター 病院教授
杉本 光繁    浜松医科大学第一内科
山出 美穂子   浜松医科大学第一内科
魚谷 貴洋    浜松医科大学第一内科
佐原  秀     浜松医科大学第一内科
市川 仁美    浜松医科大学第一内科

要旨
 胃酸分泌抑制薬の中心はプロトンポンプ阻害薬(PPI)である.PPI 単剤での胃潰瘍や十二指腸潰瘍の8週治癒率は 90% 以上であり,また,PPI は H.pylori の除菌にも使用されるため,消化性潰瘍治療の中心的役割を担う薬物である.この PPI は,主に肝のシトクロム P450(CYP)の1つの CYP2C19 で代謝されるため,PPI の薬物動態,胃酸分泌抑制効果は CYP2C19 の遺伝子多型に依存する.そのため,PPI による潰瘍治癒率や PPI を用いた H.pylori の除菌率も CYP2C19 多型の影響を受け,rapid metabolizer(RM)では,PPI の効果は低下する.CYP2C19 多型に応じて PPI の投与量・方法を工夫することによって,RM でも十分な胃酸分泌抑制効果・臨床効果が得られ,個別化療法も可能となってきている.
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第4章 管理・治療
治療薬剤 2.H2 ブロッカー

浅岡 大介    順天堂大学医学部消化器内科 准教授

要旨
 H2 ブロッカーの登場は消化性潰瘍治療に画期的な成果をもたらし,外科手術は激減し,胃・十二指腸潰瘍は内科で治療しうる病気となった.H2 ブロッカーはその酸分泌抑制効果の立ち上がりの速さや夜間酸分泌抑制効果などの特徴を有し,その薬物代謝面の特性からも,今後も重要な酸分泌抑制薬の1つであると考えられる.

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第4章 管理・治療
治療薬剤 3.H.pylori 陽性潰瘍

土岐 真朗    杏林大学医学部第三内科
徳永 健吾    杏林大学医学部第三内科 講師
高橋 信一    杏林大学医学部第三内科 教授

要旨
 消化性潰瘍の原因として最も多いのは Helicobacter pylori(H.pylori)感染症であるが,近年,NSAIDs やアスピリンによるものが増加している.H.pylori 陽性の消化性潰瘍は,除菌治療によって治癒が促進され,再発が抑制されることが複数のメタ解析で示されている.また,H.pylori 陽性の消化性潰瘍治療の第1選択は,除菌治療とされている.
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第4章 管理・治療
治療薬剤 4.非ステロイド性抗炎症薬由来潰瘍

鈴木 英雄    筑波大学附属病院光学医療診療部 講師
           筑波大学消化器内科 講師
溝上 裕士    筑波大学附属病院光学医療診療部 病院教授
           筑波大学消化器内科 准教授
奈良坂 俊明   筑波大学附属病院光学医療診療部 講師
           筑波大学消化器内科 病院講師
金子   剛    筑波大学消化器内科 講師
兵頭 一之介   筑波大学消化器内科 教授

要旨
 処方数増加と Helicobacter pylori(H.pylori)感染率の低下から,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による消化性潰瘍は今後ますます増えるものと推測される.その対応には,発症を抑える1次予防,再発を抑える2次予防,そして治療,と分けて考える必要がある.近年,2次予防に一部のプロトンポンプ阻害薬(PPI)が保険適用となった.しかし,NSAIDs 潰瘍における H.pylori 感染への対応については,依然として議論の余地が残されている.

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第4章 管理・治療
治療薬剤 5.低用量アスピリン由来潰瘍

鈴木 秀和    慶應義塾大学医学部内科学(消化器)准教授
西澤 俊宏    国立病院機構東京医療センター消化器科
日比 紀文    慶應義塾大学医学部内科学(消化器)教授

要旨
 低用量アスピリン(LDA)は血栓予防効果に優れているが,副作用としての出血性潰瘍の問題は看過できない.消化性潰瘍の既往のない低リスク症例では,アスピリン潰瘍の予防にプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2 受容体拮抗薬が有用であり,一部の粘膜防御因子増強薬も効果がある可能性もある.一方で,LDA,クロピドグレル併用例などでは PPI を使用すべきである.また,消化性潰瘍既往のある高リスク症例では,H.pylori 感染症を有する場合は除菌をしたうえで,PPI を予防投与する必要がある.

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第4章 管理・治療
内視鏡的治療(止血療法)

白枝 久和    金沢医科大学消化器内科学 准教授
有沢 富康    金沢医科大学消化器内科学 教授

要旨
 消化管出血は,日常臨床でしばしば遭遇する病態である.中でも消化性潰瘍からの出血の頻度は高く,緊急処置を要する機会がまれではない.近年,内視鏡的止血法が初期治療の第1選択となっており1),止血や再出血の予防,interventional radiology(IVR)治療や手術への移行,死亡率の減少に貢献している.そこで,主な内視鏡的止血法を紹介し,そのポイントを解説する.

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第4章 管理・治療
外科療法

生越 喬二    東海大学消化器外科 教授

要旨
 消化性潰瘍の病態は,Shay と Sun が唱えたバランス説,H2 受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬の出現,Helicobacter pylori(H.pylori)の感染などがあり,それに伴って,外科療法は小船が大波に翻弄されるがごとく変遷した観がある.H.pylori の発見で外科医の出番はなくなったのではないかと考えられているが,筆者の経験した潰瘍症をまとめ,長期再発率を示して,外科医の役割を述べてみたい.今後,解析される H.pylori 除菌療法の長期再発率がどのようになるか,注目していきたい.

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第5章 ガイドライン
消化性潰瘍診療ガイドライン

芳野 純治    藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院内科 教授
小坂 俊仁    藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院内科
乾  和郎     藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院内科 教授

要旨
『消化性潰瘍診療ガイドライン』は日本消化器病学会により 2009 年に刊行され,76 項目のクリニカルクエスチョンに対して勧告を行っている.ガイドラインの刊行から3年が経過し,改訂の作業が現在開始されている.現在のガイドラインは文献のエビデンスレベルと推奨グレードは『Minds の診療ガイドライン作成の手引き 2007』を改変し用いているが,改訂ガイドラインでは,GRADE システムが導入されることになっている.

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第6章 診療のトピックス
COX−2阻害薬使用にあたってのピットフォールとは?

堀木 紀行    三重大学医学部光学医療診療部 講師
長谷川 正裕   三重大学大学院医学系研究科整形外科学 講師
田中 匡介    三重大学医学部光学医療診療部
田野 俊介    三重大学医学部光学医療診療部
葛原 正樹    三重大学医学部光学医療診療部
濱田 康彦    三重大学医学部光学医療診療部
若林 弘樹    三重大学大学院医学系研究科整形外科学 講師
内田 淳正    三重大学 学長
須藤 啓広    三重大学大学院医学系研究科整形外科学 教授
竹井 謙之    三重大学医学部消化器肝臓内科 教授

要旨
 シクロオキシゲナーゼ(COX)−2 阻害薬は,従来の NSAIDs と比較して有意に上部消化管粘膜傷害が少なく,整形外科領域を始めとして広く使用されている.我々は,GLORIA 試験(関節リウマチ,変形性関節症,腰痛症の患者を対象にセレコキシブ単独群とレバミピド併用群の2群間比較を行い,セレコキシブにレバミピドを併用することで有意に胃粘膜傷害の低下を認めた)を報告するとともに,COX−2 阻害薬を使用するにあたってのピットフォールについて解説する.

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第6章 診療のトピックス
非ステロイド性抗炎症薬(低用量アスピリンを含む)由来の小腸病変に対する治療および対策

河合  隆     東京医科大学病院内視鏡センター 教授
福澤 麻理    東京医科大学病院内視鏡センター
杉本 弥子    東京医科大学病院内視鏡センター
福澤 誠克    東京医科大学病院第4内科 講師
後藤田 卓志  東京医科大学病院第4内科 准教授
森安 史典    東京医科大学病院第4内科 教授
山科  章    東京医科大学病院第2内科 教授

要旨
 NSAIDs および低用量アスピリン(LDA)による消化管傷害が注目されている.傷害部位は,胃ばかりでなく,食道,小腸,さらには大腸まで及んでいる.近年,特に小腸傷害が注目されている.NSAIDs および LDA 小腸傷害の機序としては,まず tight−junction が傷害され,細胞の透過性亢進が起り,細菌感染バリア機能が低下し,小腸傷害が発生するとされている.胃と異なり,胃酸の影響がないため,PPI の効果はあまり期待できず,粘膜防御因子製剤やプロバイオティクスの効果が,今後期待される.

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第6章 診療のトピックス
消化性潰瘍治療薬の医療経済評価

池田 俊也    国際医療福祉大学薬学部薬学科 教授

要旨
 医療経済評価の目的は“限りある資源を有効に使うこと”であり,投資(費用)と結果(健康アウトカム)を同時に評価することで,期待される結果が,投資した額に見合うかどうかを評価するものである.医療経済評価は,多くの国々において医療技術の保険償還の可否の判断などの政策決定に利用されており,健康アウトカムとして,患者の QOL と生存期間の両面を反映した質調整生存年(QALY)がよく用いられている.本稿では,医療経済評価の手法を概説するとともに,消化性潰瘍に関する分析事例を紹介する.

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第6章 診療のトピックス
消化性潰瘍治療薬の知っておくべき副作用

羽生 泰樹    大阪府済生会野江病院消化器内科 部長
片山 雅之    大阪府済生会野江病院消化器内科
谷村 雄志    大阪府済生会野江病院消化器内科
宮本 早知    大阪府済生会野江病院消化器内科
水野 成人    神戸薬科大学医療薬学研究室 教授

要旨
 消化性潰瘍治療薬(酸分泌抑制薬)の安全性は高いが,重篤な副作用の報告もあり,その存在と対処法を知ることは重要である.長期使用により,腸管感染症,肺炎,骨折のリスクがわずかに増大する可能性を示唆する報告が見られ,注意深い観察が必要である.酸分泌抑制薬の適切な使用により得られるベネフィットは大きく,臨床での薬剤の使用は,個々の症例におけるベネフィットとリスクのバランスのうえで決定されるべきである.

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第6章 診療のトピックス
防御因子増強薬はどのようなケースに使用するのか?

塩谷 昭子    川崎医科大学消化管内科学 准教授
鎌田 智有    川崎医科大学消化管内科学 講師
春間  賢     川崎医科大学消化管内科学 教授

要旨
 プロスタグランジン(PG)製剤は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)潰瘍予防に対して,また一部の防御因子増強薬(スクラルファート,レバミピド,イルソグラジンなど)は,H.pylori 潰瘍除菌治療後の追加治療および早期胃がん内視鏡治療後の人工潰瘍治療として,有効性が報告されている.さらに,一部の防御因子増強薬(PG 製剤,レバミピド)は,プロトンポンプ阻害薬(PPI)が無効である NSAIDs 小腸あるいは大腸粘膜傷害に対する治療,および予防に効果が期待されている.

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