要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 72/血液8
再生不良性貧血


第1章 概念・定義と疫学
概念・定義:現状の問題点と望まれる改訂

中尾 眞二   金沢大学医薬保健研究域医学系細胞移植学(血液・呼吸器内科)教授

要旨
 再生不良性貧血(AA)は,末梢血でのすべての血球の減少(汎血球減少)と骨髄の細胞密度の低下(低形成)を特徴とする1つの症候群である.これらの検査所見を示す疾患は数多くあるため,ある患者を AA と診断するためには,特徴がより明確なほかの疾患を除外する必要がある.ただし,最重症例を除いては,骨髄に細胞が残っていることが多いため,現在の定義だけで正確な診断を下すことは不可能である.このため,定義にはとらわれずに,免疫抑制療法(IST)によって改善しやすいという特徴を有する例を積極的に AA と診断し,早期に治療を開始することが大切である.
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第1章 概念・定義と疫学
疫 学

杉田  稔   東邦大学 名誉教授
島田 直樹  昭和大学医学部公衆衛生学教室 准教授

要旨
 再生不良性貧血(AA)は,難治性疾患克服研究事業の臨床調査研究分野の対象疾患のうちで患者の医療費公的補助対象として,特定疾患治療研究対象疾患にも指定されている.その患者の医療情報は臨床調査個人票として電子入力されていて,その解析から疫学指標が得られる.その情報,死亡票と患者調査の情報から,日本の AA の死亡率,有病率と罹患率は,人口 100 万人あたり,5.7,73〜82 と 5.5 程度であった. 目次に戻る



第2章 病理・病態生理
病 理

伊藤 雅文   名古屋第一赤十字病院病理部 副部長

要旨
 再生不良性貧血(AA)の骨髄病理は,低形成髄が基本で,成熟巨核球の消失,成熟顆粒球の高度な減少,肥満細胞の増加を特徴的所見とする.病理学的な鑑別診断は低形成骨髄病変で,成人ではさまざまな原因で発症する二次性造血障害が重要である.低形成骨髄異形成症候群(MDS)は,小児でその頻度が高く,新 WHO 分類で小児不応性血球減少症(RCC)として検討課題に挙げられている.病理組織学的には MDS と同様な所見であり,通常の AA と臨床病理学的にどのような違いがあるかが今後の問題である.
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第2章 病理・病態生理
病因と病型分類

山口 博樹   日本医科大学血液内科 講師

要旨
 再生不良性貧血(AA)は病因によって大きく先天性と後天性の2つに分類される.先天性 AA は Fanconi 貧血(FA)などがあり,多くは責任遺伝子の変異によって発症をする.後天性は特発性,二次性,特殊型の3つに分類される.特発性は発症に免疫学的機序が大きく関与し,二次性の原因には薬剤,化学物質などがある.特殊型には肝炎関連 AA(HA−AA)と AA−発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)症候群(AA−PNH)がある.
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第2章 病理・病態生理
病態生理

山ア 宏人  金沢大学附属病院 血液内科 講師

要旨
 何らかの原因で造血幹細胞が持続的に減少した結果,血球減少を生じた状態が再生不良性貧血(AA)である.造血幹細胞が減少する機序としては,@造血幹細胞自身の異常,A免疫学的機序による造血幹細胞の傷害,B骨髄微小環境の異常,の3つが考えられるが,現在はAのT細胞を介した免疫学的機序による造血幹細胞の傷害が,主な病態であろうと考えられている.「末梢血中の発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)型血球の検出」は,現時点では簡便で信頼できる免疫病態のマーカーと考えられる.
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第3章 周辺疾患
不応性貧血(骨髄異形成症候群)

松田  晃   埼玉医科大学国際医療センター造血器腫瘍科 教授
要旨
 骨髄異形成症候群(MDS)と再生不良性貧血(AA)には共通点があり,境界は明確ではないため,両疾患の鑑別に苦慮することも多い.AA から MDS へと病型が移行することもある.さまざまな遺伝子異常が MDS の発症に関与するが,一部の症例では AA と同様に免疫病態が血球減少に関与している.そのような MDS 例に対しては,免疫抑制療法(IST)の効果が期待され,実際に IST で造血が回復する症例が存在する.
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第3章 周辺疾患
発作性夜間ヘモグロビン尿症

西村 純一   大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学 講師

要旨
 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は,後天性造血幹細胞疾患である再生不良性貧血(AA)や骨髄異形成症候群(MDS)と互いに合併・相互移行することから,骨髄不全症候群(BMF)と総称される.AA 患者や MDS 患者において高率に微少 PNH 型血球が検出されることから,これらに共通の免疫学的機構が PNH クローン拡大の機序に関与していることが示唆される.逆に,AA 患者や MDS 患者における微少 PNH 型血球の存在は,免疫抑制療法(IST)を選択するうえで有用であると考えられ,OPTIMA による全国調査による検証が待たれる.
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第3章 周辺疾患
赤芽球癆

廣川  誠    秋田大学医学部附属病院腫瘍情報センター 病院教授
澤田 賢一   秋田大学大学院医学系研究科血液・腎臓・膠原病内科学講座 教授

要旨
 赤芽球癆(PRCA)は正球性正色素性貧血と網赤血球の著減および骨髄赤芽球の著減を特徴とする造血器疾患であり,選択的に赤血球系のみが減少する.PRCA の原因は多様であり,病型・病因によって治療方針が異なる.後天性慢性 PRCA の病因として日本人に多く見られるのは,特発性,胸腺腫関連および大顆粒リンパ球(LGL)白血病関連 PRCA である.これらに対して免疫抑制療法(IST)が有効であるが,寛解維持のためには治療の継続が必要である.

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第4章 診 断
診断基準と重症度分類

澤田 賢一  秋田大学大学院医学系研究科血液・腎臓・膠原病内科学講座 教授
廣川  誠   秋田大学医学部附属病院腫瘍情報センター 病院教授

要旨
 我が国における再生不良性貧血(AA)診断のための血球減少の定義は,以下の3項目「@ヘモグロビン濃度:10g/dl 未満,A好中球:1,500/μl 未満,B血小板:100,000/μl 未満」のうち,少なくとも2項目を満たすものを指す.また,「好中球絶対数 500/μl 未満,血小板数 20,000/μl 未満,網赤血球数 20,000/μl 未満」のうち2項目を満たすものを重症とし,重症のうち「好中球絶対数 200/μl」を最重症と分類する.本稿ではこれらの診断基準と重症度分類について,内外の比較を中心に解説する.病因と病型分類,鑑別診断については他稿を参照されたい. 目次に戻る



第4章 診 断
検査所見と画像所見

張替 秀郎     東北大学大学院医学系研究科血液・免疫病学分野 教授

要旨
 再生不良性貧血(AA)の診断は,汎血球減少,骨髄における造血細胞数の低下によりなされる.典型例では,染色体異常や異形成を伴わない低形成骨髄,末梢血でのヘモグロビン(Hb)低下,血小板(Plt)減少,幼若球の出現を認めない白血球(WBC)減少などにより比較的診断は容易であるが,非典型例においては,ほかの汎血球減少を来す疾患,特に骨髄異形成症候群(MDS)との鑑別が重要である.これらの症例では,血液検査所見・骨髄所見・画像所見を合わせ,総合的に診断する必要がある. 目次に戻る



第4章 診 断
鑑別診断

千葉  滋   筑波大学医学医療系血液内科 教授

要旨
 再生不良性貧血(AA)との鑑別診断として,2系統あるいは3系統の血球が減少するさまざまな疾患を想起する必要がある.非血液疾患を除外し,末梢血スメアや網赤血球数,血液一般検査,骨髄検査のそれぞれで,鑑別を進める必要がある.

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第5章 管理・治療
治療方針と患者管理

檀  和夫  日本医科大学 内科学講座(血液・消化器・内分泌代謝部門)教授

要旨
 再生不良性貧血(AA)の治療は,造血能の回復を目指した治療と支持療法から成り,造血能の回復を目指した治療は重症度,年齢,造血幹細胞移植(SCT)ドナーの有無によって決定される.また,支持療法などの患者管理が大変重要であり,高度の貧血による QOL の低下や心不全の合併,好中球減少による重症感染症,そして高度の血小板減少による出血症状などに対して,適切に対処あるいは管理を要する.


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第5章 管理・治療
免疫抑制療法

臼杵 憲祐  NTT東日本関東病院血液内科 部長

要旨
 未治療の重症再生不良性貧血(SAA)における抗胸腺細胞グロブリン/シクロスポリンA 併用(ATG+CsA)療法の奏効率は 60〜80% であり,5年生存率は 75〜85% である.ATG+CsA 療法では約1/3の例が治癒(血算の正常化)し,1/3は長期間 CsA 投与の依存性となり,残りの1/3は再発するかあるいは二次性クローン性異常(発作性夜間ヘモグロビン尿症:PNH,骨髄異形成症候群:MDS や急性骨髄性白血病:AML)に移行する.
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第5章 管理・治療
タンパク同化ステロイド療法

桐戸 敬太   山梨大学医学部血液・腫瘍内科 教授

要旨
 再生不良性貧血(AA)の治療において,タンパク同化ステロイド療法は長い歴史を持つが,免疫抑制療法(IST)や移植療法の進展により,その役割は限定的なものとなっている.しかしながら,確かに効果を示す症例も存在することは事実であり,現在の診療ガイドラインにおいても,治療の選択肢として残されている.また,タンパク同化ステロイドはテロメラーゼ活性化作用を有することが明らかとなり,その作用機序として注目されている.
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第5章 管理・治療
病態生理

岡本真一郎    慶應義塾大学医学部内科学教室血液内科 教授

要旨
 同種造血幹細胞移植(SCT)は重症再生不良性貧血(SAA)の根治療法である.成人においては 55〜85% の長期生存(=治癒)が得られているが,満足できる成績ではない.移植後の治癒の拡大とその質の向上を達成するためには,拒絶や移植片対宿主病(GVHD)に伴う移植後早期の死亡と移植後後期の合併症の制御が克服すべき課題であるが,至適な移植施行時期の検討に加えて,骨髄非破壊的移植前処置の普及により,移植成績がさらに向上することが期待される.

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第5章 管理・治療
小児再生不良性貧血の治療

小島 勢二   名古屋大学大学院医学研究科小児科学 教授

要旨
 従来のウマ抗胸腺細胞グロブリン(ATG)の代替としてウサギ ATG が再生不良性貧血(AA)に対する免疫抑制薬として我が国でも使用されるようになったが,まとまった治療成績の報告は見られない.海外からの報告では,従来のウマ ATG と比較して,治療成績は,劣っているとする報告,同等とする報告が見られ,我が国での検討結果が待たれる.現在,ウサギ ATG の至適投与量を検討する前方視的ランダム化多施設共同研究が企画されている.
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第5章 管理・治療
支持療法1.輸血療法

室井 一男   自治医科大学附属病院輸血・細胞移植部 教授

要旨
 再生不良性貧血(AA)への輸血療法では,輸血トリガー値,血小板輸血不応状態,抗 HLA 抗体,サイトメガロウイルス(CMV)感染,保存前白血球除去,B型肝炎ウイルス(HBV)の再活性化,を知る必要がある.輸血によって同種抗体(抗 HLA 抗体やマイナー組織抗原に対する抗非 HLA 抗体)が産生されると,これらの抗体が造血幹細胞移植(SCT)後の拒絶を起すことがあるため,SCT を予定している場合には,無用な輸血を控えることが重要である.

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第5章 管理・治療
支持療法2.感染症対策

外島 正樹   自治医科大学附属病院臨床感染症センター感染症科 講師

要旨
 再生不良性貧血(AA)患者の感染症では,好中球減少症と,細胞性免疫の低下が問題となる.重症で長期の好中球減少の患者では,細菌や真菌感染の危険が高い.免疫抑制薬投与による細胞性免疫の低下も考慮する.AA 患者の治療において,感染症の予防と治療は予後を左右するので,日々の臨床現場での患者の全身状態の注意深い観察や,各種培養の提出は重要である.
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第5章 管理・治療
支持療法3.造血因子の使い方

泉二登志子    東京女子医科大学血液内科 主任教授

要旨
 顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)は再生不良性貧血(AA)の治療に用いられる.抗生物質不応の感染時に短期間投与する意義はある.免疫抑制療法(IST)時の G−CSF 併用は,寛解率や生存率に影響を及ぼさないが,再発率を有意に減少させる.骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)へ移行するリスクは有意でないが増加する傾向にあり,G−CSF の影響を完全に否定することはできない.以上の結果をもとに,G−CSF の使用はガイドラインにより,臨床研究以外では推奨されていない.

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第5章 管理・治療
支持療法4.鉄過剰症と鉄キレート療法

鈴木 隆浩    自治医科大学医学部内科学講座血液学部門 講師

要旨
 再生不良性貧血(AA)などの難治性貧血では,頻回の赤血球輸血によって鉄過剰症を発症するリスクが高い.鉄過剰症はさまざまな臓器障害を引き起すことが知られているが,十分な鉄キレート療法は臓器障害を改善し,低リスク骨髄異形成症候群(MDS)など一部の骨髄不全症においては,予後改善効果を持つことが明らかになってきた.本稿では,鉄過剰症の病態とその鉄キレート療法について概説する.

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第5章 管理・治療
経過・予後

大橋 春彦    国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター 部長

要旨
 補充療法を含めた治療技術の進歩により,近年再生不良性貧血(AA)の生命予後は改善していると考えられるが,重症で治療が奏効しない場合は,感染症・出血により致死的な経過をたどる.また,死に至らない場合も輸血依存となり,QOL が低い状態が継続する症例も少なくない.AA の経過・予後を,造血幹細胞移植(SCT)を行った場合,免疫抑制療法(IST)を行った場合,これらが適応とならない軽症・中等症に分けて解説した.

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第6章 先天性再生不良性貧血
Fanconi貧血

矢部みはる    東海大学医学部基盤診療学系臨床検査学・細胞移植再生医療科 専任准教授

要旨
 Fanconi 貧血(FA)は先天性の骨髄不全症であり,染色体不安定性と種々の身体異常を合併する.小児期に進行性の汎血球減少症を発症し,思春期から成人期にかけて骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)への移行が見られ,成人期に頭頸部などの発がんリスクが増加する.現在 15 個もの遺伝子が同定され,多様な表現型の遺伝的基盤が明らかになってきた.現時点では,造血幹細胞移植(SCT)が,血液学的異常に対して唯一治癒の期待できる治療法である.

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第6章 先天性再生不良性貧血
先天性角化不全症

高橋 義行    名古屋大学大学院医学研究科小児科学 准教授
西尾 信博    名古屋大学大学院医学研究科小児科学
小島 勢二    名古屋大学大学院医学研究科小児科学 教授

要旨
 先天性角化不全症(DC)は,爪の萎縮,口腔内白斑,皮膚色素沈着,造血不全を特徴とした先天性疾患である.本疾患はテロメア長の維持機能の障害を背景とした病態であり,古典的な DC のほかに,最重症型である Hoyeraal−Hreidarsson 症候群,Revesz 症候群や,不全型である再生不良性貧血(AA)や家族性肺線維症などが存在する.これらの疾患は共通してテロメア長の短縮や,テロメア関連遺伝子の変異が見られることから,一連の疾患と考えられている.DC のスクリーニングにはテロメア長の測定が有用である.本症における死亡原因としては,造血不全が最も多く 60〜70% を占める.造血不全に対する治療として,近年の骨髄非破壊的前処置を用いた移植によって,治療関連毒性を軽減しつつ良好な成績が期待できるようになってきている.特発性造血障害に関する調査研究班において,我が国の DC 患者に対し現時点で最も推奨されると思われる診療ガイドラインを作成したので,その内容を紹介する.

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第7章 その他
ガイドライン

南谷 泰仁    東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科 特任講師

要旨
 再生不良性貧血(AA)の治療として,支持療法,免疫抑制療法(IST),造血幹細胞移植(SCT)などが用いられるが,患者の年齢,重症度,幹細胞移植ドナーの有無などの要因によって優先順位が決まる.また,1次治療によって反応が得られなかった場合の2次治療にも,優先順位が設定される.国内外の AA の治療ガイドラインには,これらの治療アルゴリズムが提唱されており,ここでは本邦のガイドラインを中心に紹介を行う.

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第7章 その他
医療制度と医療経済

木村 之彦    東京医科大学血液内科 准教授
大屋敷一馬    東京医科大学血液内科 教授

要旨
 日本の医療制度は,国民皆保険制度のもと世界最高レベルの保健医療水準を達成してきているが,問題点として医療費増大がある.再生不良性貧血(AA)などの血液疾患では多くの治療法・新薬剤が開発され,治療成績が向上してきているが,その一方で治療費がかなり増額している.患者優先の診療は言うまでもないが,保険診療を留意しながら臨床に望むことも重要である.また,AA の公費補助は申請日以降であることに留意する.

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