要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 75/神経6
末梢神経障害


第1章 総 論
末梢神経障害総論

有村 公良   医療法人三州会大勝病院神経内科 院長

要旨
 末梢神経障害は多くの原因による多様な疾患群から成り,その診断には臨床症状で大まかに分類した後,電気生理検査,病理検査などでその病態に基づき原因を推定し,さらに免疫学的検査,代謝異常の検査,遺伝子検査などを行い最終診断に至る過程がとられる.ニューロパチーの治療は多くがいまだ根本治療は困難である.しかし,症状の進行を遅らせるような新しい治療法の開発や再生医療の進歩とともに,新しい段階に入りつつある.
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第2章 診 断
電気生理学的診断

園生 雅弘   帝京大学医学部神経内科学 教授

要旨
 神経伝導検査(NCS)を始めとする電気生理学的検査は,ニューロパチーの診断において中核的役割を果たしている.特に有用性が高いのは,脱髄性ニューロパチーの診断,伝導ブロック(CB)の診断,絞扼・圧迫性ニューロパチーの診断などである.しかし,NCS も技術的に奥深い検査であり,さまざまな pitfall について熟知していないと容易に誤診を招く.神経筋電気診断の専門医が検査を統括する体制が,各中核病院で確立されることが望まれる.
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第2章 診 断
病理学的診断

神田  隆   山口大学大学院医学系研究科神経内科学 教授

要旨
 臨床所見,電気生理学的所見と並んで,病理学的所見は末梢神経障害の診断にあたっての3本柱である.神経生検で疾患特異的な変化が見いだされることは決して多くない.しかし,臨床データや電気生理学からの情報を併せて考察することで,末梢神経疾患の診断精度は格段に向上する.1枚の標本には数多くの情報が詰まっている.侵襲性のある検査であることを十分に理解し,適応のある症例を見逃さないための概略の知識を呈示する.
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第3章 各 論
ギラン・バレー症候群 1.診断・病態

濱田 征宏   近畿大学医学部附属病院神経内科
楠   進    近畿大学医学部附属病院神経内科 教授

要旨
 ギラン・バレー症候群(GBS)は,免疫介在性機序にて発症する運動神経障害優位の単相性の急性多発神経炎であり,先行感染が見られることが多い.急性期の血中に抗糖脂質抗体が高頻度に見られ,有用な診断マーカーであり,かつ病態形成にかかわる因子と考えられている.電気生理学的な末梢神経伝導検査や脳脊髄液検査も診断に有用である.近年,発症早期の時点で重症度や予後の予測をするための評価法も提案されており,注目されている.
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第3章 各 論
ギラン・バレー症候群 2.治療

汐崎  祐   防衛医科大学校神経内科
海田 賢一   防衛医科大学校神経内科 准教授

要旨
 ギラン・バレー症候群(GBS)の急性期治療は血液浄化療法と免疫グロブリン静注療法(IVIg)に大別される.両者の効果はほぼ同等だが,簡便性や低侵襲性から,IVIg が第1選択となる.ステロイドは単独では無効である.治療抵抗性や治療後に再増悪を来す場合は IVIg あるいは血液浄化療法の追加治療を検討する.予後の改善には,関節可動域の保持など,早期からのリハビリテーションも重要である.
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第3章 各 論
フィッシャー症候群

小鷹 昌明  南相馬市立総合病院神経内科
要旨
 フィッシャー症候群(FS)は,ギラン・バレー症候群(GBS)の亜型であり,急性発症の外眼筋麻痺,運動失調,腱反射消失を3主徴とする.急速に進行する複視や歩行時のふらつきを主訴に来院した場合,先行感染症状の詳細を尋ね,3徴の有無を丹念に診察することで,診断はそれほど困難ではない.Wernicke 脳症が鑑別として重要であり,血清 IgG 抗 GQ1b 抗体が診断マーカーとして有用である.GBS に倣った免疫グロブリン静注療法(IVIg)を行うことが多いが,GBS に進展しない限り,予後は良好である.
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第3章 各 論
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP) 1.診断・病態

桑原  聡   千葉大学大学院医学研究院神経内科学 教授

要旨
 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は末梢性髄鞘に対する自己免疫疾患であり,末梢神経脱髄を基本的病態とする.ギラン・バレー症候群とは異なり,2ヵ月以上進行する.CIDP の臨床病型には,左右対称性で近位筋と遠位筋に同様の脱力を呈する典型的 CIDP と,それ以外の非典型的 CIDP(非対称型,遠位優位型,局所型)がある.診断は末梢神経脱髄を示す電気生理学的所見,その他の補助検査(脳脊髄液,末梢神経 MRI)所見,除外診断によって成される.
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第3章 各 論
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP) 2.治療

飯島 正博   名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学

要旨
 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は自己免疫機序による末梢神経疾患であり,治療はランダム化比較試験により裏づけられた標準的治療法と,一部の難治・治療抵抗性を示す症例に対して期待される第2選択の治療法に分類される.標準的治療法は副腎皮質ステロイド剤,免疫グロブリン静注療法(IVIg),血液浄化療法の3種類であり,各治療間の有効性に優劣はないものの,投与の簡便性と副作用の点から,国内外ともに IVIg が主に選択されている.
 標準的治療法に対し治療抵抗性を示す難治例に対しては,免疫抑制薬,分子標的薬,インターフェロン(IFN),造血幹細胞移植などが第2選択の治療法となりうるが,これらはいずれもランダム化比較試験による有効性は確立していない.したがって,標準的治療法に対し治療抵抗性を示す症例は,すぐに難治例として第2選択の治療に移行するのではなく,まだ試みていない別の標準的治療法を検討するとともに,診断の妥当性を検証する必要がある.

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第3章 各 論
多巣性運動ニューロパチー

森  敦子   徳島大学医学部神経内科
梶  龍兒   徳島大学医学部神経内科 教授

要旨
 多巣性運動ニューロパチー(MMN)は,非対称性の脱力を主体とした下位運動ニューロン症状を呈する疾患である.主に運動神経が障害され,感覚は侵されないことから,1980 年代に初めて報告されて以来,筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む運動ニューロン疾患(MND)の鑑別において重要な病態であると強調されてきた.検査所見では,一部の症例において電気生理検査で伝導ブロックを認めること,抗ガングリオシド抗体価が上昇することが特徴である.治療は,免疫グロブリン静注療法(IVIg)が奏効し寛解に至る症例もあるが,反復投与が必要なことも多い.本稿では,MMN の臨床像,診断方法と治療について解説する.
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第3章 各 論
抗MAG抗体陽性ニューロパチー

川頭 祐一     名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学
飯島 正博     名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学
小池 春樹     名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学
祖父江 元     名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学 教授

要旨
 IgM monoclonal gammopathy は,骨髄やリンパ組織での腫瘍性増殖のない monoclonal gammopathy of undetermided significance(MGUS)から悪性リンパ腫まで多岐にわたる.ニューロパチーは比較的頻度が高い合併症として知られ,中でもミエリン構成タンパクである myelin−associated glycoprotein(MAG)に対する活性が見られる場合は,特異な臨床病理像を呈することが知られている.抗 MAG 抗体陽性ニューロパチーでは,経静脈免疫グロブリン療法などの免疫治療に抵抗することが多く,新たな治療戦略が求められている.
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第3章 各 論
POEMS(Crow−Fukase)症候群

三澤 園子   千葉大学大学院医学研究院神経内科学

要旨
 POEMS(Crow−Fukase)症候群は,脱髄性ニューロパチーを中核に浮腫等の多彩な症候を呈する疾患である.本症候群の基盤は形質細胞腫であり,類縁疾患の骨髄腫の治療の進歩に伴い,予後は改善しつつある.しかし,多様な臨床像から診断が遅れる症例が存在する,新規治療薬に保険適応がない,などの問題点がある.適切な治療が行われない場合の予後は不良なことが多く,疾患の啓蒙・治療の標準化推進が今後の大きな課題である.

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第3章 各 論
血管炎性ニューロパチー

服部 直樹   愛知県厚生農業協同組合連合会豊田厚生病院神経内科 部長

要旨
 血管炎性ニューロパチーは,基礎疾患にかかわらず末梢神経領域に生じた壊死性血管炎により,虚血性の障害が引き起されて発症する.腎・肺・心筋・消化管などの臓器障害や中枢神経障害のように生命予後を左右することはないが,ニューロパチーによる四肢機能障害のため,日常生活機能や QOL に重大な影響を及ぼす.末梢神経系は血管炎の好発部位であることを十分に認識して,迅速な早期診断と適切な治療介入が肝要である.


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第3章 各 論
シェーグレン症候群に伴うニューロパチー

森  恵子  医療法人社団主体会小山田記念温泉病院神経内科

要旨
 シェーグレン症候群に伴うニューロパチーは,感覚失調性ニューロパチーを始めとして多彩な病型が見られる.乾燥症状が明らかでなく,ニューロパチーが先行する場合が多い.自己抗体の出現率は高くないので,診断の際は注意が必要である.治療には副腎皮質ステロイドや免疫グロブリン静注療法(IVIg)などが用いられ,一定の効果が認められる.長期予後や副作用を考慮して治療を選択する必要がある.
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第3章 各 論
傍腫瘍性ニューロパチー

肥田あゆみ   東京大学医学部神経内科
清水  潤   東京大学医学部神経内科 講師

要旨
 傍腫瘍性ニューロパチーの多くは悪性腫瘍に先行して出現する.肺小細胞がんに伴い起る感覚性ニューロパチーが最もよく知られた古典的症候群で,典型的なものは抗 Hu 抗体が検出される.そのほか,感覚運動性ニューロパチー,パラプロテイン血症に伴うニューロパチー,血管炎性ニューロパチー,自律神経性ニューロパチーなど,さまざまな病型が存在する.随伴する悪性腫瘍の早期発見,早期治療が神経症状の改善に有効である.
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第3章 各 論
自律神経ニューロパチー

古賀 道明    山口大学大学院医学系研究科神経内科学 講師

要旨
 自律神経ニューロパチーは,自律神経症状が症例によって種々の程度・組み合わせで発症するため多彩な臨床像を呈し,歴史的にもさまざまな名称で報告されてきた.近年,自律神経節におけるアセチルコリン受容体(gAChR)と結合する自己抗体が血中に検出されることが報告され,自己免疫性自律神経ガングリオノパチー(AAG)という,包括的な疾患概念が提唱されている.今後,この新しい疾患概念の枠組みを活用して有効な治療法の確立が期待される.

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第3章 各 論
Charcot−Marie−Tooth病 1.病態・治療

中川 正法    京都府立医科大学大学院医学研究科神経内科学 教授

要旨
 Charcot−Marie−Tooth 病(CMT)は,最も頻度の高い遺伝性ニューロパチーであり,40 個以上の原因遺伝子が特定されている.CMT の中で最も多い CMT1A に関して,PMP22 の発現抑制化合物の研究や“network pharmacology”による治療薬の開発が注目されている.我が国を中心に,ロボットスーツ HALの医師主導臨床治験が計画されている.外科的治療,リハビリテーション,装具療法,日常生活上の工夫も機能維持・改善にとって重要である.
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第3章 各 論
Charcot−Marie−Tooth病 2.遺伝子診断・新規遺伝子探索

樋口雄二郎   鹿児島大学大学院医歯学総合研究科神経内科・老年病学
嶋  博    鹿児島大学大学院医歯学総合研究科神経内科・老年病学 教授

要旨
 Charcot−Marie−Tooth 病(CMT)の原因遺伝子は 40 以上報告されており,臨床的および遺伝学的に多様である.CMT の遺伝子異常をすべてスクリーニングするには膨大な労力と費用が必要であったが,近年,マイクロアレイ DNA チップや次世代ゲノムシークエンサーを用いることで,多数の原因遺伝子を網羅的に解析することが可能となった.一方で,原因未解明の症例が多いことも確認され,今後は Exome 解析などにより新規の原因遺伝子の発見が期待される.

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第3章 各 論
家族性アミロイドポリニューロパチー  1.診断・病態

安東由喜雄   熊本大学大学院生命科学研究部神経内科学分野 教授
山下  賢    熊本大学大学院生命科学研究部神経内科学分野 診療講師

要旨
 トランスサイレチン(TTR)型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は成人期に末梢神経,自律神経系,心,腎,消化管,眼などにアミロイド沈着を来し臓器障害を起す,常染色体優性遺伝を呈する予後不良の疾患である.30 歳代半ばに発症のピークがあるが,最近遺伝歴が明白でない非集積地の高齢発症ケースが増えてきている.遺伝的に変異した TTR(ATTR)が組織沈着アミロイドの前駆タンパク質となるが,特に TTR の 30 番目のバリンがメチオニンに変異したタイプが多い.これまで 120 を超える TTR 遺伝子の異常が明らかにされており,さまざまな臨床病型を呈する変異型が報告されているが,Sensori−monor タイプの末梢神経障害が主体となるタイプが最も多い.
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第3章 各 論
家族性アミロイドポリニューロパチー 2.治療

関島 良樹    信州大学医学部遺伝子診療部 准教授
池田 修一    信州大学医学部脳神経内科,リウマチ・膠原病内科 教授

要旨
 家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)に対しては肝移植の有効性がすでに確立しているが,病状の進行や年齢などの理由により移植の適応とならない患者が多くを占める.新規の原因療法として,ジフルニサルや tafamidis などのトランスサイレチン(TTR)4量体の安定化薬が注目されており,tafamidis は 2012 年に欧州で FAP 治療薬として使用が開始されている.さらに,small interfering RNAs(siRNAs)などを用いた遺伝子治療の研究も進行している.

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第3章 各 論
糖尿病性ニューロパチー 1.診断・病態

八木橋操六    弘前大学大学院医学研究科分子病態病理学 教授

要旨
 糖尿病者に見られる末梢神経異常を包括し,糖尿病性神経障害と言う.単神経障害や多発神経障害など多彩な病型があるが,下肢感覚異常をもたらす遠位対称性感覚障害が最も多い.多くは無症状で進展し,次第に感覚鈍麻,自律神経障害が出現し,QOL 低下をもたらす.高血糖からの代謝異常に起因し,高血圧,喫煙などが促進因子となる.アキレス腱反射を中心とした積極的な診断が,神経障害の進展を抑制し,より良い管理・治療へとつながる.

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第3章 各 論
糖尿病性ニューロパチー 2.治療

安田  斎    滋賀医科大学医学部看護学科公衆衛生看護学講座 教授

要旨
 糖尿病性ニューロパチー(DN)の臨床像は多彩で治療に際しては,まず病型診断が必要である.糖尿病性多発ニューロパチー(DP)の治療は,血糖管理と生活習慣の改善が最も重要であり,確立した治療薬はない.患者の QOL 改善と生命予後の見地から疼痛と自律神経障害への対応が重要である.疼痛の第1選択は三環系抗うつ薬(TCA),プレガバリン,デュロキセチンであり,副作用に注意が必要である.自律神経障害は多彩であり,病態に応じて対応する.

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第3章 各 論
栄養障害・アルコール性ニューロパチー

小池 春樹    名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学
祖父江 元    名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学 教授

要旨
 栄養障害に伴うニューロパチーの代表は,ビタミンB1 欠乏によるものであり,急性の進行で,運動障害優位のために歩行不能になる例が多く,大径線維優位の軸索障害型ニューロパチーを呈する傾向がある.一方,アルコール性ニューロパチーは,栄養障害による修飾がない例では,緩徐進行性であり,感覚障害,特に表在感覚の障害が優位で痛みを伴い,小径線維優位の軸索障害型ニューロパチーを呈する傾向があり,ビタミンB1 欠乏ニューロパチーとは異なる特徴を有する.

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第3章 各 論
絞扼性ニューロパチー

新井  陽    青森県立中央病院神経内科 副部長
馬場 正之    青森県立中央病院神経内科 部長

要旨
 絞扼性ニューロパチーは圧迫部位と非圧迫部位の間に生じる圧較差によって引き起される髄鞘の障害や圧迫部位における血流,軸索流の障害,さらに神経幹の可動性障害などの複雑な要因によって生じる.診断の確定には,末梢神経と筋の解剖学的知識に基づく診察所見と神経伝導検査や針筋電図などの電気生理学的診断技術が必須である.電気生理学的検査はまた,障害の重症度や予後の推定にも重要な情報をもたらす.障害の重症度に応じて,保存的治療や手術的治療が選択される.

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