要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 78/精神8
心身症


第1章 定義・概念・歴史
心身医学の歴史

久保木富房   秀峰会心療内科病院楽山 名誉院長
           東京大学医学部心療内科 名誉教授

要旨
 心身医学という言葉はドイツの精神医学者Heinroth, M. が 1818年に最初に使用したと言われている.歴史的には,神経症における心身相関の研究から,心身症へ,さらに疾患全般の心身両面への研究と全人的医療の実施へと発展した.また,心身医学の歴史を見ると,西洋医学の流れと東洋医学の流れがある.最後に,日本心身医学(会)の歴史について,学会活動を中心にまとめてみた.

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第1章 定義・概念・歴史
心身症の定義・概念

中井 吉英    関西医科大学 名誉教授
          洛西ニュータウン病院 名誉院長,心療内科部長

要旨
“心身症”は国民のみならず医師にも大変誤解されている言葉である.心身症は独立した疾患名ではなく,心身相関の病態を有する身体疾患である.しかし,発症や経過に関与する心理社会的因子の医師の診断能力により,心身症と診断されたり,されなかったりするわけである.そこに心身症定義の問題を指摘することができる.本稿では,心身症の定義と心理社会的因子について解説し,定義の問題点について述べた.

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第2章 病 態
ストレスと身体反応

須藤 信行   九州大学大学院医学研究院心身医学 教授

要旨
 生体は,ストレッサーに曝露されると,恒常性(homeostasis)を維持すべく内分泌系や自律神経系を総動員する.この一連の生体応答をストレス反応と言う.本来,複数のシステムを介するストレス反応は,さまざまな急性ストレッサーに対応できるように進化したと考えられるが,現代のように慢性ストレッサーが問題となる状況下では,さまざまな疾患の発症や増悪に関与する因子と成りうる.

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第2章 病 態
ストレスと心理反応

中尾 睦宏   帝京大学大学院公衆衛生学研究科 教授
           帝京大学医学部附属病院心療内科

要旨
 ストレス心理反応には急性例と慢性例がある.急性例では,驚愕・激怒・喜悦といった急激な感情と,血圧上昇・心悸亢進・呼吸数増加といった身体症状が,同時に情動反応として出現する.多くは一過性であるが,不可逆例もあり気をつける.慢性例では,否定的な感情を悪化させ,不安障害やうつ病圏に陥らないよう気をつける.無理に感情を抑えても,失感情症となって心身症に罹患するリスクがあるので,適切なストレス対処を心がける.

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第3章 診 断
心身症の診断

石川 俊男   国立国際医療研究センター国府台病院心療内科 部長
星  明孝    国立国際医療研究センター国府台病院心療内科

要旨
 心身症の診断では,心理社会的因子と身体症状や身体疾患との関連を,心身相関の視点で診られるようにならねばならない.そこでは,基本的な信頼できる医師−患者関係をもとにした,話しやすい診療環境が必須である.背景にある心理社会的因子は,直接疾病の発症や増悪因子につながる急性ストレッサーと準備因子や増悪因子,持続因子になる慢性ストレッサーなどがある.併存する精神疾患や発達障害への理解も重要である.

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第3章 診 断
インテーク面接,心理テスト

富岡 光直  九州大学大学院医学研究院心身医学

要旨
 九州大学病院心療内科で行っている,インテーク面接と心理テストによる患者評価の方法を紹介する.インテーク面接は,医師の診察前に臨床心理士が行う,心理社会的状況を把握し,心身相関の評価をするための面接である.ストレスモデルを医師と臨床心理士で共有しており,それに沿って聴取,評価,報告をしている.心理テストとしては,人格検査,心理状態(精神症状)の検査,知能検査がよく使われている.

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第4章 心身症各論
循環器系心身症

野村  忍   早稲田大学人間科学学術院人間科学部健康福祉科学科 教授

要旨
 循環器系疾患では,心理社会的要因がその発症や経過に密接に関連し,心身相関が顕著な場合が多い.代表的な循環器系心身症である,本態性高血圧,虚血性心疾患,心臓神経症(神経循環無力症:NCA)について,その病態や心身相関のトピックスについて述べた.これらの循環器系心身症の診療にあたっては,身体的因子および心理社会的因子について評価し,心身両面から病態を把握するとともに,全人的医療を実践することが重要である.

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第4章 心身症各論
消化器系心身症

春田いづみ   鹿児島大学医学部・歯学部附属病院心身医療科
浅川 明弘    鹿児島大学医学部・歯学部附属病院心身医療科 准教授
          鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心身内科学分野
乾  明夫    鹿児島大学医学部・歯学部附属病院心身医療科 教授
          鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心身内科学分野 教授

要旨
 ストレス社会と言われる現代社会において,心理社会的ストレスによって消化器症状が発症・増悪するという現象はよく知られており,ストレス−脳−消化器という“脳腸相関(brain−gut−interactions)”が重要な役割を担っている.消化器心身症においては,心理社会的因子を考慮した心身医学的アプローチが重要であり,身体症状だけでなく,向精神薬や心理療法を用いた,心身両面からの治療が重要である.
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第4章 心身症各論
呼吸器心身症

村上 正人   日本大学医学部附属板橋病院心療内科 部長
           日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野 診療教授
丸岡秀一郎   日本大学医学部附属板橋病院心療内科 医長
           日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野
三浦 勝浩   日本大学医学部附属板橋病院心療内科
           日本大学医学部内科学系血液膠原病内科学分野

要旨
 呼吸器疾患の中でも,感冒,気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの発症と経過には,感染,炎症,アレルギー免疫機序のみならず多くの環境要因や情動的要因が関与しており,過換気症候群(HVS),神経性咳嗽などには,神経症的な性格特性や精神疾患に近い背景も関与する.これらの呼吸器心身症の病態理解やより有効な治療のためには,心身相関に対する正しい認知と,重症化・複雑化要因となるストレス要因の緩和,病態に即した有効な薬剤の選択など,専門性の高い心身医学的アプローチが必須である.

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第4章 心身症各論
神経・筋肉系心身症

坪井 康次      東邦大学医療センター大森病院心療内科 教授
小田原 幸      東邦大学医療センター大森病院心療内科
西宮 常代      東邦大学医療センター大森病院心療内科
端詰 勝敬      東邦大学医療センター大森病院心療内科 准教授

要旨
 神経・筋肉系疾患では,環境,性格要因などの心理的要因によって,さまざまな形でその病像が修飾を受けやすい.主な神経系心身症には,片頭痛,緊張型頭痛,書痙,痙性斜頸,パーキンソン病などがある.これらの疾患はストレスと密接な関係にあり,日常生活への支障度も大きい.また,うつ病やほかの精神疾患を合併することが多い.本稿では,日常診療で頻繁に遭遇することの多い頭痛を中心に,神経・筋肉系心身症を概説する.

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第4章 心身症各論
内分泌・代謝系心身症

神谷 博章   九州大学病院心療内科
           国立病院機構肥前精神医療センター精神科
瀧井 正人   九州大学病院心療内科 特任准教授

要旨
 糖尿病は内分泌・代謝系心身症の代表的疾患であり,世界の5大疾病の1つである.糖尿病患者数は年々増加しており,治療はセルフケアが大きな割合を占めている.そのため,糖尿病に罹患したことからのストレスや,罹患後のセルフケアの負担や周囲からのストレスなどがセルフケアに影響を及ぼし,気分障害などの精神疾患を併発することも多い.本稿では,糖尿病に関するこれらの心理的な問題点に焦点を当て,心身医学的アプローチについて述べる.

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第4章 心身症各論
摂食障害

山岡 昌之   日本摂食障害治療研究所 所長

要旨
 摂食障害,特に,拒食症は思春期女性の死因のトップにあるとされる疾患である.ダイエットはあくまで発症の引き金とはなるが,真の原因ではない.摂食障害の発症の条件として,患者の乳幼児期における母親の情緒応答性が十分機能しなかったことが推測される.

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第4章 心身症各論
疼痛性障害

細井 昌子   九州大学病院心療内科 講師
           九州大学大学院医学研究院心身医学 講師

要旨
 疼痛性障害は,現代ストレスの多様化とともに,一般臨床で遭遇する機会がますます増える可能性がある疾患である.痛みが不快な感覚・情動体験であるという定義に関連して,脳画像研究でも社会的疎外感が身体的痛みと共通の脳部位を活性化することが明らかになってきた.疼痛性障害は,器質的診断よりも過度な心理的苦悩が臨床場面で表現されることが特徴で,治療チームで社会的痛みなどの心理社会的要因に注目することが重要である.

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第5章 心身症の治療
治療の基本

吾郷 晋浩    吉備国際大学大学院臨床心理学 客員教授

要旨
 我が国においては,医療関係者を始め一般の人々の心身医学・医療に対する理解には,今なお誤解があり,精神科と同じような医療を行う科と考えている人のほうが多いように思われる.したがって,一般診療科の治療により効果なく,難治化し,心身症が疑われて心療内科に紹介されてきた患者に対して心身医学療法を効果的に進めるためには,心身医学的な診断の段階から治療への導入にあたって,さまざまな工夫がいることについて略述した.

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第5章 心身症の治療
薬物療法

福土  審    東北大学大学院医学系研究科行動医学 教授
          東北大学病院心療内科 科長

要旨
 心身症においては,薬物療法が有益である.心身症に対する薬物療法は個別器官そのものに対する治療と中枢のストレス反応性に対する治療の2つの組み合わせから成る.例えば,過敏性腸症候群に対しては,まず消化管機能の調整を行い,これで不足の場合に,向精神薬を追加する.中枢のストレス制御に有用な薬物の代表が,抗うつ薬と抗不安薬である.心身症に対する抗うつ薬の有効性のエビデンスが集積してきている.

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第5章 心身症の治療
カウンセリング

川原 律子      日本大学医学部附属板橋病院心療内科
石風呂素子     日本大学医学部附属板橋病院心療内科

要旨
 カウンセリングとは,心の悩みや人生の問題などを話し合うことによって解決を促し,落ち込みから回復し,心の健康を維持・増進させることを目標とした専門的な相談援助である.一般的なカウンセリングに関してはほかに多く論じられているため,本稿では,ふれられることの少ない小児科領域における親子を対象としたカウンセリング,および身体疾患の中でも緩和ケア領域におけるカウンセリングについて解説する.
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第5章 心身症の治療
自律訓練法

松岡 洋一    岡山大学学生支援センター 教授

要旨
 心身症の治療の中では,自律訓練法は基本的な治療法の1つとして位置づけられている.本稿では,自律訓練法の技法体系や特徴,心身症における自律訓練法の適用とその有効性,治療への導入時に配慮すべきことなどについて概説した.さらに,実際に自律訓練法を指導する際の留意点や標準練習の指導実際について,具体的に説明した.

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第5章 心身症の治療
交流分析

芦原  睦    中部労災病院心療内科 部長
加藤さやか   中部労災病院心療内科

要旨
 交流分析(TA)は,Berne, E. によって創始されたパーソナリティ理論であり,その理論による行動体系および心理療法である.「人はすべて3つの自我状態を持つ」という人格形成の考え方と「今,ここ」を肯定する哲学に基づき,3つの欲求理論と4つの分析理論から成り立つ.TA の特徴は,自己分析が可能であり,学習した範囲までの内容で実践に移せるという点である.本稿では,TA の基本である3つの欲求理論と4つの分析理論について概説する.
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第5章 心身症の治療
行動療法・認知行動療法

安藤 孟梓     北海道医療大学大学院心理科学研究科
坂野 雄二     北海道医療大学心理科学部臨床心理学科 教授

要旨
 さまざまな心身症に心理療法が適用され,中でも行動療法と認知的アプローチが統合された認知行動療法の有効性が報告されている.そこで本稿では,行動療法・認知行動療法の基本的な考え方について説明し,機能分析の重要性,実際にどのような技法があるのかを紹介する.また実施の際に,どのようなポイントに留意する必要があるかを考察する.

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第5章 心身症の治療
内観療法

河合 啓介    九州大学病院心療内科 講師

要旨
 内観療法はこれまで自分のかかわりの深かった人(母,父,兄弟姉妹,配偶者など)に対して過去の自分の行動や生活態度を,「お世話になったこと」「して返したこと」「ご迷惑をかけたこと」の3つのテーマに沿って年代順に自問自答の形式で内省する心理療法である.この治療は,“自己中心的な思考”から“他者によって生かされている”という発想に至る転回を主眼にしており,不安障害,うつ病,アルコール依存症,適応障害,摂食障害,気管支喘息などに対して幅広く用いられている.九州大学病院心療内科では内観療法の単独使用だけではなく,摂食障害や糖尿病の症例で,入院による認知行動療法を施行したが治療後半になっても内省が進みにくく,家族や周囲の人々に対して怒りや不信感が根深く残る症例に,内観療法を併用することがある.本稿では,内観療法の概説とともに,治療の実際として,2つの治療法の併用例を提示する.

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第5章 心身症の治療
マインドフルネス

有村 達之    九州ルーテル学院大学人文学部心理臨床学科 准教授

要旨
 本稿では,近年,慢性疼痛などの心身症の治療において注目されているマインドフルネスについて概要を解説した.マインドフルネスの定義,マインドフルネスを促進する訓練であるマインドフルネストレーニングについて解説し,マインドフルネストレーニングを応用した心理療法であるマインドフルネスストレス低減法(MBSR)などについて概説した.また,心身症患者にマインドフルネストレーニングを適用する際の注意点についても述べた.

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第5章 心身症の治療
アートセラピー

荒木登茂子     (前)九州大学大学院医療経営管理学講座医療コミュニケーション分野 教授

要旨
 心身症の患者では,過剰適応傾向や失感情傾向のために,言葉を主体とした心理療法が奏効しない場合もある.そのような患者には,言葉にならない感情や情動の表出を促すアートセラピーが有効であると考えられる.アートセラピーでは,イメージとして表現が可能なものも含めて治療が進展する.本稿では,アートセラピーを導入する際の留意点や工夫,素材の持つ枠,適用と禁忌,進展と役割,および症状の変動の可能性について述べる.

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第5章 心身症の治療
ヨガ・気功

岡  孝和    九州大学大学院医学研究院心身医学 准教授

要旨
 ヨガや気功は,ストレスによって生じる精神,神経,免疫,内分泌的変化に対して拮抗的な作用を発揮する.そのため,ヨガや気功は健康な人のストレス管理の一環,さらにストレス性疾患の治療法として効果が期待できる.しかしながら,その効果は限定的であるため,現代医学的治療に付加する形で用いるべきである.また,患者がヨガや気功を練習する場合,担当医はその指導者と緊密に連携することが重要である.

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第6章 心身症関連
慢性疲労症候群

吉原 一文    九州大学病院心療内科

要旨
 慢性疲労症候群(CFS)は,原因不明の強い疲労感が少なくとも6ヵ月以上持続し,その疲労感によって社会生活に支障を来す疾患である.CFS を診断するときは,診断基準を用いて診断すると同時に,CFS患者の症状を持続・増悪させている要因(持続・増悪因子)などの心理社会的要因を含めた病態を検討する.CFS の治療には,個々の患者の状態や段階に応じた非薬物療法と薬物療法の組み合わせを用いることが重要である.

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第6章 心身症関連
機能性身体症候群

革島 定信    関西医科大学心療内科学講座
福永 幹彦    関西医科大学心療内科学講座 教授

要旨
 身体症状があっても,医学的に説明できアプローチが確立されていれば,一定期間の治療で改善する.しかし,どの領域においても一定の割合で説明が困難な症状は存在し,その場合,病いと疾病との“ずれ”がきっかけとなって症状が持続し,生理機能の異常,気分の異常,医師−患者関係の“すれ違い”,そこから生じるストレスなどにより,症状が遷延,増大する悪循環が生じうる.そのような病態の一部を近年,機能性身体症候群(FSS)と呼ぶようになった.

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第6章 心身症関連
サイコオンコロジー

吉内 一浩    東京大学大学院医学系研究科ストレス制御・心身医学 准教授

要旨
 2012 年に出された「がん対策推進基本計画」では,“がんと診断された時からの緩和ケア”の推進が盛り込まれており,近年,特に“心のケア”の重要性が増している.がん医療における心のケアを担うのがサイコオンコロジーで,心とがんの双方向の関係を学際的に明らかにする学問である.本稿では,がん患者において頻度の高い“うつ”と“せん妄”および,悪い知らせの伝え方に関するコミュニケーションスキルであるSHAREに関して紹介を行う.

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第7章 ガイドライン
ガイドライン

小牧  元    国際医療福祉大学福岡保健医療学部 教授

要旨
 厚生省(現厚生労働省)の心身症を対象とした研究班の分担研究者が中心となり,心身症ガイドラインを作成し,2006年には,“エビデンスに基づくストレス関連疾患へのアプローチ”と題して,『心身症診断・治療ガイドライン2006』を出版した.対象は,過敏性腸症候群(IBS),functional dyspepsia(FD),慢性疼痛などの12の疾患・分野である.本稿では,その作成の背景,目的,概要と特徴,その効果と意義,最後に今後の展望について解説した.

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