要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 79/血液9
悪性リンパ腫


第1章 概念・定義と疫学
概念・定義

加藤 省一   名古屋大学医学部附属病院病理部

要旨
 悪性リンパ腫の診断において,病変が腫瘍性か反応性か,腫瘍とすればリンパ腫か非リンパ球系腫瘍か,リンパ腫とすればいずれの疾患単位に属するか,が常に問題となる.個々の診断に際しては,単に組織像のみにとどまらず,腫瘍細胞の生物学的性状の総合的な評価が必要とされる.腫瘍発生部位,免疫学的表現型,染色体転座,さらにウイルス学的所見などの評価が必要である.悪性リンパ腫の診断とは,これらを総合的に勘案したものにほかならない.

目次に戻る



第1章 概念・定義と疫学
疫 学

原田 舞    岡山大学大学院医歯薬学総合研究科病理学(腫瘍病理/第二病理)分野
吉野 正    岡山大学大学院医歯薬学総合研究科病理学(腫瘍病理/第二病理)分野 教授

要旨
 近年,悪性リンパ腫は増加傾向にある.アジア系人種では発生頻度は低い.本邦では,欧米と比較して,ホジキンリンパ腫,濾胞性リンパ腫(FL),慢性リンパ性白血病(CLL)の頻度は低いが,FL は増加傾向にある.九州地区を中心に,成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の頻度が高い.T/NK細胞リンパ腫はアジアに多く発生している.発生要因として,Epstein−Barr ウイルス(EBV),H. pylori などの感染症,免疫不全,慢性炎症の存在が示唆されている.

目次に戻る



第2章 病理・病態生理
病 理

津山 直子   公益財団法人がん研究会がん研究所病理部

要旨
 病理診断はリンパ腫診療の要である.リンパ腫診断に必要な情報は,形態学,免疫形質,遺伝子,染色体,そして臨床情報であり,これらの情報を総合して病型を決定する.多くの情報を最大限に活用して診断されることが望ましく,そのためには採取した組織を適切に処理しなければならない.これは,単に診断にとどまらず,患者の治療方針の決定,予後にもつながるため,リンパ腫診療に携わるスタッフへの周知が必要である.

目次に戻る



第2章 病理・病態生理
病態生理

城 有美    島根大学医学部附属病院腫瘍・血液内科
鈴宮 淳司   島根大学医学部附属病院腫瘍・血液内科 教授

要旨
 一般的にホジキンリンパ腫(HL)は連続的な進展を示し,非ホジキンリンパ腫(NHL)は非連続的な進展を示すという特徴がある.リンパ腫の病態生理として,腫瘍自体によるものと腫瘍細胞が産生するサイトカインなどの生理活性物質により生じるものがある.病態はリンパ腫細胞の増殖の速さ,出現する部位や臓器が異なるため,リンパ腫の病理診断が極めて大切である.また,血球貪食症候群や高カルシウム(Ca)血症などを生じるリンパ腫があることの理解も必要である.

目次に戻る



第2章 病理・病態生理
病 因

中峯 寛和    関西医療大学保健医療学部病理学・免疫学部門 教授

要旨
 病因の判明しているリンパ腫は一部の症例に限られるが,他系統の腫瘍の病因に比べると,リンパ腫ではウイルスの比重が重く,放射線関与の可能性が低いという特徴がある.ヒト腫瘍発生の病因とされるウイルスの大半はリンパ腫発生に関連し,特に Epstein−Barrウイルス(EBV)は単独,あるいは他のウイルスと共に多種のリンパ腫発生にかかわる.一方,細菌である Helicobacter pylori が MALT リンパ腫発生に関連することは,発生母地からすれば,それほど奇異ではないようにも思われる.

目次に戻る



第3章 診 断
診 断

杉本 耕一  JR東京総合病院血液・腫瘍内科 部長

要旨
 悪性リンパ腫の診断では,病歴,身体所見を把握したうえで,病理学および分子生物学的な所見に基づいて,多岐にわたるリンパ腫の分類の中から疾患単位を確定することが必要である.さらに,治療目標を治癒とするのか,それとも生存期間,生活の質などの予後の改善とすべきかを決めるために,リンパ腫の病変の広がりを正確に決定するとともに,どの程度までの強度の治療に耐えられる全身状態であるかを把握することが必要である.

目次に戻る



第3章 診 断
検査所見

西村 倫子   公益財団法人がん研究会有明病院血液腫瘍科 副医長

要旨
 悪性リンパ腫は50種類以上の分類があり,正確な診断には固形がんと違った特殊な検査が必要となる.病理組織検査に加えフローサイトメトリー(FCM)による細胞表面抗原の検査を行うことで,より詳細な腫瘍細胞の由来を判定することが可能であるし,各種の遺伝子検査を行って,腫瘍のモノクローナリティを判別したり,特異度の高い染色体異常を検出したりできる.本稿では検査の概要と解釈について述べる.

目次に戻る



第3章 診 断
画像診断

立石宇貴秀    横浜市立大学医学部放射線科 准教授

要旨
 18F−FDG PET/CT の普及に伴い,悪性リンパ腫治療を考慮した病期診断,再発診断,効果判定のための画像診断プロセスが変化してきた.しかしながら,組織型別による評価,骨髄診断,治療中の評価方法など,解決すべき課題も残っている.より適切な治療方針の決定のために,臨床データを積み重ね,画像診断を中心とした悪性リンパ腫の病期診断は,絶えず発展を遂げていく必要がある.
目次に戻る



第3章 診 断
鑑別診断 1.小腸リンパ腫

坂本 博次   自治医科大学附属病院消化器センター内科部門 講師
矢野 智則   自治医科大学附属病院消化器センター内科部門 講師
山本 博徳   自治医科大学附属病院消化器センター内科部門 教授

要旨
 小腸リンパ腫の肉眼形態は多彩であり,がんや消化管間質性腫瘍(GIST)などの腫瘍性疾患,炎症性腸疾患などの良性疾患との鑑別がしばしば問題となる.肉眼型と組織型には相関が見られ,形態学的特徴を適切に診断することにより組織型を推測することは可能であるが,確定診断には病理組織検査が必須であり,バルーン内視鏡などにより生検を行うことが重要である.

目次に戻る



第3章 診 断
鑑別診断 2.壊死性リンパ節炎

森 政樹      自治医科大学内科学講座血液学部門 講師

要旨
 壊死性リンパ節炎は亜急性の経過をとり,東アジア地域からの報告が多く,Kikuchi−Fujimoto disease(菊池−藤本病,KFD)として知られている.良性のリンパ節腫脹,発熱などで発症するが,抗菌薬不応である.全身性の症状はまれで,多くは自然寛解するが,1ヵ月から10年の間隔で再発する場合もある.全身性エリテマトーデス(SLE)との類似性が指摘され,抗核抗体陽性例で再発しやすい.FDG−PET や超音波は診断に有用である.

目次に戻る



第4章 管理・治療
HBVキャリア,再活性化予防の管理

楠本 茂   名古屋市立大学大学院医学研究科腫瘍・免疫内科学 講師

要旨
 B型肝炎ウイルス(HBV)の再活性化は,悪性リンパ腫を始め血液疾患治療における致死的な合併症の1つであり,あらかじめリスクを評価し,適切な対策を講じる必要がある.HBs 抗原陽性例だけでなく HBs 抗原陰性例の一部(既往感染例)からも HBV 再活性化が報告されており,そのハイリスク例の同定,および HBV 再活性化対策ガイドラインの確実な遵守が求められている.

目次に戻る



第4章 管理・治療
悪心,嘔吐などの有害事象の管理

鈴木 一史   東京慈恵会医科大学附属病院腫瘍・血液内科

要旨
 がん薬物療法の有害事象である悪心,嘔吐対策は,催吐性リスクに応じた適切な予防治療である.高度リスクはアプレピタント+5HT3 受容体拮抗薬+デキサメタゾン,中等度リスクは5HT3 受容体拮抗薬+デキサメタゾンで予防する.コルチコステロイドとアプレピタントを併用するとコルチコステロイドの血中濃度が上昇するが,コルチコステロイドを含む治療レジメンを実施する場合もコルチコステロイドを減量しない.

目次に戻る


第4章 管理・治療
薬物療法・選択基準

木下 朝博   愛知県がんセンター中央病院血液・細胞療法部 部長

要旨
 悪性リンパ腫の治療は病型によって異なるため,病理組織検査,染色体分析,細胞表面マーカーなどの検討によって,正確な病型診断を得ることが最も重要である.治療方針の決定にあたっては,病型以外に臨床病期,予後因子,腫瘍量,臓器機能,年齢,全身状態,合併症などを考慮する必要がある.また近年,分子標的治療薬の開発が進んでおり,標的分子の評価も治療選択上重要となっている.

目次に戻る


第4章 管理・治療
治療薬剤 1.濾胞性リンパ腫

永井 宏和    国立病院機構名古屋医療センター血液・腫瘍研究部 部長

要旨
 濾胞性リンパ腫は低悪性度B細胞リンパ腫であり,抗 CD20 抗体治療薬であるリツキシマブが有効である.初発症例は低腫瘍量症例と高腫瘍量症例に分けられる.前者には,注意深く無治療経過観察を行うことも治療戦略の1つとされる.後者に対しては,リツキシマブと化学療法の併用が標準的治療である.再発症例では,プリンアナログ,ベンダムスチン,90Y−イブリツモマブ チウキセタンなどの治療薬剤も効果が高い.

目次に戻る



第4章 管理・治療
治療薬剤 2.びまん性大細胞型B細胞リンパ腫

横山 雅大    公益財団法人がん研究会有明病院血液腫瘍科

要旨
 悪性リンパ腫の標準治療は1990年代までは CHOP 療法であったが,抗 CD20 抗体であるリツキシマブの登場以来,初発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者では R−CHOP 療法が標準治療となった.再発または難治例では救援化学療法として,R−ICE やR−DHAP療法が用いられるが,ゲムシタビンを含む GDP 療法,リツキシマブ−ベンダムスチン療法も良好な治療成績が報告されている.今日,さらなる有望な新薬が研究されており,それらを含む DLBCL に対する新たな治療に期待が寄せられている.

目次に戻る



第4章 管理・治療
治療薬剤 3.T細胞リンパ腫

安部 康信     国立病院機構九州がんセンター血液内科 医長

要旨
 初発T細胞リンパ腫に対しては,CHOP 類似療法が選択されることが多いが,ALK 陽性未分化大細胞型リンパ腫を除くと予後は不良であり,標準治療は確立されておらず,造血幹細胞移植療法を含めた治療戦略が検討されている.近年,CD30 抗原や CCR4 といった分子を標的にしたモノクローナル抗体に代表される新規薬剤の開発や,既存抗がん剤のT細胞リンパ腫への応用が進められており,今後の展開が期待されている.
目次に戻る



第4章 管理・治療
治療薬剤 4.NK細胞リンパ腫

磯部 泰司    聖マリアンナ医科大学血液・腫瘍内科 講師

要旨
 NK細胞リンパ腫は『WHO分類(第4版)』で節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型(ENKL)と診断され,80%以上の症例は鼻腔・鼻咽頭に発症する.限局期には化学放射線同時併用療法が,進行期には SMILE 療法が有効である.また,血中 Epstein−Barr ウイルス(EBV)−DNA 量が予後推定にも有用であることがわかってきた.SMILE 療法の施行にあたっては,感染症や凝固異常などの有害事象への対策を十分に行う必要がある.

目次に戻る



第4章 管理・治療
リンパ系腫瘍に対する自家造血幹細胞移植

池田 和眞   岡山県赤十字血液センター 所長

要旨
 自家造血幹細胞移植は,造血幹細胞への最大耐用量を超える抗腫瘍剤投与や放射線照射により,悪性腫瘍への抗腫瘍効果を増大させるために行われる.抗腫瘍薬や放射線の大量療法後に,あらかじめ採取しておいた造血幹細胞を輸注することにより,造血系を再構築する.主として再発や難治性のリンパ系腫瘍の予後を改善するが,新規の治療法により対象疾患の治療成績が向上しており,適応や併用薬剤などに関して継続した検討が必要である.
目次に戻る



第4章 管理・治療
同種造血幹細胞移植

神田 善伸     自治医科大学附属さいたま医療センター血液科 教授

要旨
 リンパ腫に対する造血幹細胞移植(HSCT)は自家移植が中心であり,同種移植は進行期の患者のみを対象として行われていたが,移植関連死亡率(TRM)が非常に高いということが問題であった.近年になり,支持療法の進歩,ミニ移植の開発,早期の同種移植の実施などによって,リンパ腫に対する同種移植の治療成績は着実に改善している.現時点では,リンパ腫に対する同種移植が推奨されるべき病状,病態は明らかになっていないが,難治症例に対する根治的治療法として期待されている.

目次に戻る



第4章 管理・治療
放射線療法

村上 恵理    自治医科大学附属病院放射線科
仲澤 聖則    自治医科大学放射線医学教室放射線腫瘍部 教授

要旨
 放射線療法の適応となる造血器疾患は,悪性リンパ腫,骨髄腫,白血病などがあり,根治療法,再発予防,緩和療法として有効である.以前は大照射野での治療が一般的に行われていたが,近年ではより低線量かつ小照射野での治療が選択されるようになっている.有害事象に対しては,関連スタッフどうしの密な連携と治療早期からの積極的な介入が,予防および症状緩和に効果的である.

目次に戻る



第4章 管理・治療
ピロリ菌除菌と胃MALTリンパ腫

岡田佐和子    慶應義塾大学医学部内科学(消化器)
鈴木 秀和    慶應義塾大学医学部内科学(消化器) 准教授

要旨
 胃MALTリンパ腫は胃粘膜の慢性炎症を背景として発生する低悪性度B細胞リンパ腫である.この発生機序としては H.pylori 感染と,API2−MALT1 などの遺伝子異常の関与が報告されている.胃MALTリンパ腫における H.pylori 感染率は高く,除菌治療の奏効率も高いため,H.pylori 陽性例では除菌治療が第1選択である.しかし H.pylori 陰性例,除菌治療抵抗例での治療コンセンサスは得られておらず,今後さらなる検討が期待される.

目次に戻る



第4章 管理・治療
悪性リンパ腫の組織型からみた経過・晩期毒性を含めた予後

和泉 透     栃木県立がんセンター化学療法部 部長

要旨
 悪性リンパ腫の経過・予後に関して主な組織型ごとに概説した.また,悪性リンパ腫の予後改善に伴い長期生存者が増加しているが,一方で二次発がんを中心とした治療関連晩期毒性のリスク増加が問題となっている.ホジキンリンパ腫(HL)では過剰治療を避けて晩期毒性を回避する試みが検討されており,非ホジキンリンパ腫(NHL)においても,長期生存が見込める限局期例や若年者例に関しては,同様の検討が必要と思われる.

目次に戻る



第4章 管理・治療
医療経済

川渕 孝一    東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科医療経済学分野 教授
梶谷 恵子    東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科医療経済学分野
長縄 弥生    東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科医療経済学分野

要旨
 公表データを使って悪性リンパ腫治療の“規模の経済性”を検証したところ,症例数と平均在院日数は関係ないが,治療成績については一定の傾向が見られた.今後は,がん登録の広域化に加えて,入院患者を対象とした DPC データに高価な(外来)化学療法の医療費を含めた,より精緻な費用対効果分析が求められる.

目次に戻る



第5章 ガイドライン
ガイドライン

鈴木 達也    名古屋第二赤十字病院血液・腫瘍内科

要旨
 2011年より日本血液学会の造血器腫瘍ガイドライン作成委員会によって『造血器腫瘍ガイドライン』が作成中であり,悪性リンパ腫ガイドラインも作成中である.悪性リンパ腫は病理組織型により,疾患の特性や治療方針が大きく異なり,各組織型でエビデンスレベルの高い推奨治療を確立させるのは困難と考えられるが,幾つかのガイドラインが公表されている.本稿では,これまでに国内外で作成されてきた悪性リンパ腫診療に関するガイドラインを紹介する.

目次に戻る