要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 81/免疫7
多発性筋炎・皮膚筋炎


第1章 定義・概念と疫学
定義・概念

上阪 等   東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科膠原病・リウマチ内科 教授

要旨
  多発性筋炎(PM)は自己免疫性筋傷害により主に近位筋に筋力低下を来す疾患で,典型的な皮膚症状を伴うものを皮膚筋炎(DM)と呼ぶ.この臨床的定義とは別に,病態概念には不明な部分が多い.PM は,細胞傷害性T細胞により,DM は液性免疫の自己免疫により起きるという古い概念は,臨床像や新しい免疫学的知識からは受け入れがたい.むしろ,筋組織,皮膚,間質炎症を合併しやすい肺組織に共通の基盤で起きる病態を考慮すべきだろう.

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第1章 定義・概念と疫学
疫 学

冨滿 弘之    JAとりで総合医療センター神経内科 部長

要旨
 2011年度に厚生労働省「自己免疫疾患に関する調査研究班」にて,特定疾患医療費助成申請用臨床調査個人票の2009年度集計結果を解析して疫学調査を行った.本邦に多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)患者は約17,000人おり,毎年約1,500人増加していた.男女比は1:2.7と女性に,また中年期発症が多かった.近位筋の筋力低下,筋痛での発症が多く,初期より間質性肺炎の合併を過半数で認めた.免疫治療によりほぼ全例改善を認めたが,約半数に筋力低下が残り,日常生活に支障を来していた.

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第2章 病理・病態生理
筋病理

前田 明子   国家公務員共済組合連合会 虎の門病院神経内科
清水 潤     東京大学医学部附属病院神経内科 講師

要旨
 皮膚筋炎では小径化および円形化した筋線維,および筋線維の壊死,再生を認める.Perifascicular atrophy を認めることが診断的であり,血管周囲または筋周膜を主体に炎症細胞浸潤を認める.筋内鞘の小血管には補体複合体が沈着し,電子顕微鏡的観察では血管内皮に管状封入体を認める.特に筋束周辺の筋線維において,筋細胞膜への MHC classTの発現亢進を認める.一方,多発性筋炎では筋原性変化および MHC classTの筋細胞膜への発現亢進所見を認めるほかに,筋内鞘主体に炎症細胞浸潤を認めるという特徴を有す.抗 CD8 抗体陽性T細胞が MHC classTを発現した非壊死筋線維へ侵入する像が認められ,CD8/MHC classTcomplex を形成することが,特徴的かつ診断的である.

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第2章 病理・病態生理
皮膚病理

藤本 学     筑波大学医学医療系皮膚科学 教授

要旨
 皮膚筋炎(DM)の皮膚病理について,病理組織学的所見や病態機序を概説した.DM は典型例では臨床像のみでも診断可能であるが,確実な診断のためには,病理所見を組み合わせることが望ましい.本症の病理所見として,@表皮基底層の液状変性,A真皮血管周囲性の炎症細胞浸潤,B真皮ムチン沈着が特徴である.しかしながら,これらは特異的な変化ではなく,特にエリテマトーデス(LE)との鑑別が重要である.近年,皮膚病変の形成にT型インターフェロン(IFN)の関与が重要と考えられている.

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第2章 病理・病態生理
病態生理

沖山 奈緒子   米国立衛生研究所皮膚科部門

要旨
 多発性筋炎/皮膚筋炎は,種々の程度で筋炎,特徴的な皮膚症状,間質性肺炎を合併するスペクトラムである.がんの転移を説明する「種と土壌の理論」は,多臓器症状を呈する多発性筋炎/皮膚筋炎にも応用でき,自己免疫性疾患の側面としてのT細胞(種)と,炎症性疾患の側面としての筋組織のコンディション(土壌)を分けてとらえることで,病態生理の理解に役立つ.具体的な土壌の条件には,遺伝的背景や環境要因が挙げられる.

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第3章 診 断
診 断

梅澤 夏佳  東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科膠原病・リウマチ内科

要旨
 多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)は,骨格筋の筋力低下と特徴的な皮膚所見だけでなく,肺,心,消化管,関節など,多臓器の障害を来す.診断には,筋力低下を来す多岐の疾患を鑑別する必要があり,しばしば筋生検を要する.Bohen and Peter の診断基準や,Tanimoto の診断基準は参考になるが,筋症状を伴わない皮膚筋炎を診断できないなどの問題があるため,新規国際分類基準の策定が現在進行中である.    

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第3章 診 断
血液検査所見

三森 経世     京都大学大学院医学研究科内科学講座臨床免疫学 教授
細野 祐司   京都大学大学院医学研究科内科学講座臨床免疫学
中嶋 蘭     京都大学大学院医学研究科内科学講座臨床免疫学

要旨
 多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)は,骨格筋の炎症と共に皮膚,肺,心臓,関節など種々の臓器病変を合併する,原因不明の全身性炎症性疾患(膠原病)である.その血液検査において,血清筋原性酵素は筋炎の診断と疾患活動性の指標として有用であり,さらに自己抗体検査は筋炎の診断のみならず,病型分類,経過・予後の予測,治療方針の決定において,極めて有力な情報となる.

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第3章 診 断
画像所見

中山 貴博   横浜労災病院神経内科 副部長

要旨
  筋炎では,画像診断による病変の分布や性質・程度の画像的評価が,病状把握と筋生検部位決定に重要である.画像的診断では,CT,核医学検査,MRI が行われている.CT は全身の筋萎縮や脂肪置換を短時間に定性的評価できるだけでなく,骨格筋の筋量といった定量的な評価も可能となってきたが,筋炎の部位診断は難しい.99mTc−MDP シンチグラフィーを用いた核医学検査は,炎症の部位を検出することができ,全身の評価に有用である.MRI は浮腫性変化を鋭敏にとらえるので,筋炎による浮腫性変化が存在する筋の部位を正確に描出できる大きな利点がある.これらを組み合わせ,病状を把握し,筋生検部位を決定する必要がある.

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第3章 診 断
針筋電図所見

園生 雅弘   帝京大学医学部神経内科学 主任教授

要旨
  筋炎の針筋電図では,安静時の線維自発電位/陽性鋭波の出現が必発であり,筋障害の存在を証明するのに最も信頼できる所見となる.他筋で異常がつかまらないときは,腸腰筋を検査すると良い.随意収縮時活動は,神経原性・筋原性の鑑別に役立つ.急性例では典型的な低振幅運動単位電位(MUP)主体だが,慢性例では,高振幅・巨大MUPが目立つことがあり,注意を要する.この場合は動員パターンに注目すると,誤診を避けられる.    

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第3章 診 断
疾患活動性評価

五野 貴久      東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター
勝又 康弘      東京女子医科大学リウマチ科 講師
川口 鎮司      東京女子医科大学リウマチ科 臨床教授

要旨
  多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)では,筋肉のみならず,皮膚,関節,心臓,肺などの筋外病変も併発するため,疾患の活動性を包括的に評価する必要がある.近年,筋炎の国際研究グループである IMACS により,PM/DM の疾患活動性の評価である Myositis Disease Activity Core Set(MDACS)が提唱され,この core set を用いたさまざまな臨床研究が欧米を中心に成されている.

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第3章 診 断
若年性皮膚筋炎

森 雅亮   横浜市立大学附属市民総合医療センター小児総合医療センター 准教授

要旨
 若年性皮膚筋炎(JDM)は,自己免疫反応性血管炎を基盤とした小児期の皮膚・筋疾患であり,小児リウマチ性疾患の中で3番目に頻度が多い疾患である.筋力低下が軽微で皮膚症状のみ認める症例もある一方,筋症状を認めず急速進行性間質性肺炎を合併する予後不良な症例もあるため,早期診断およびそれに即した治療が重要である.成人で注目されている筋炎特異的自己抗体が,本疾患の予後判定において有用であることも判明している.

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第3章 診 断
抗SRP抗体陽性筋炎

清水 潤   東京大学医学部附属病院神経内科 講師

要旨
 筋炎の中で,壊死再生線維の多発を主体とし炎症性リンパ球浸潤の乏しい病理像を特徴とする一群が,壊死性筋症として近年注目されている.抗 SRP 抗体陽性筋炎はこの壊死性筋症の代表的な原因病態で,高度の四肢筋力低下,体幹筋や嚥下筋の障害,高度 CK 値上昇,ステロイド治療抵抗性を特徴とする.萎縮が目立ち,慢性経過の場合,筋ジストロフィーとの鑑別も重要である.本稿では,抗 SRP 抗体陽性筋炎について概説する.

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第3章 診 断
鑑別診断 1.封入体筋炎

青木 正志   東北大学大学院医学系研究科神経内科学 教授
鈴木 直輝   東北大学大学院医学系研究科神経内科学

要旨
 封入体筋炎(sIBM)は中高年に発症する特発性の筋疾患である.左右非対称の筋力低下と筋萎縮が大腿四頭筋や手指・手首屈筋に見られる.骨格筋には縁取り空胞と呼ばれる特徴的な組織変化を生じ,炎症細胞浸潤を伴う.免疫学的治療に反応せず,かえって増悪することもある.経過は進行性で5〜10年で車椅子生活となるが,嚥下障害や転倒・骨折に注意が必要である.我が国でも患者数が増加しており,2013年に厚生労働省の研究班により,新しい診断基準が作成された.

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第3章 診 断
鑑別診断 2.筋ジストロフィー

漆葉 章典    国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メディカルセンター臨床開発部
国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第一部
西野 一三    国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第一部 部長
国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メディカルセンター臨床開発部 部長

要旨
 筋ジストロフィーは,壊死・再生を主体とする慢性進行性の遺伝性筋疾患である.筋ジストロフィー患者骨格筋病理では,炎症細胞が時に認められるが,それは主に筋周鞘や壊死線維周囲に位置する.一方,多発性筋炎は一般的には急性・亜急性に発症し,炎症細胞は非壊死線維を取り囲む形で存在する.筋ジストロフィーと筋炎との鑑別には,さらに免疫組織化学染色や自己抗体測定,画像検査,遺伝子検査が有用である.

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第3章 診 断
鑑別診断 3.代謝性ミオパチー

門間 一成   国立病院機構東埼玉病院神経内科

要旨
 多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)の診断基準に関する議論は現在もなお進行中であり,確定診断には臨床症状に加え,筋病理学的検索が必須とされる.本稿ではPM/DMの鑑別疾患として,さまざまな代謝性ミオパチーを列挙し概説した.本疾患の病態生理学的研究の進歩により,将来的には鑑別診断が容易になることが期待される.

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第4章 管理・治療
薬物療法総論

杉原 毅彦     東京都健康長寿医療センター膠原病リウマチ科 医長

要旨
 多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)の治療は,プレドニゾロン(PSL)1mg/kgで開始され治療抵抗例に免疫抑制薬が併用されることが多かったが,ステロイドの副作用による身体機能低下が問題となり,近年は免疫抑制薬が治療早期から併用され,PSLの初期投与量は0.5〜1mg/kgと,症例に応じて減らすようになった.6週間を目安に初期治療の有効性を判定し,効果不十分なら免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)を併用する.

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第4章 管理・治療
ステロイド治療と筋症

田中 廣壽    東京大学医科学研究所附属病院抗体・ワクチンセンター免疫病治療学分野/アレルギー免疫科 教授

要旨
 成人発症の典型例では,ステロイド大量を初回投与量とし,2〜4週間継続する.重症例などではパルス療法も考慮される.ステロイド単独投与で効果不十分の場合免疫抑制薬の併用を行う.治療中ステロイド筋症との鑑別が問題となることもある.

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第4章 管理・治療
免疫抑制薬と副作用

川畑 仁人    東京大学医学部附属病院アレルギー・リウマチ内科 講師

要旨
 多発性筋炎および皮膚筋炎の薬物療法の中心はステロイドではあるが,間質性肺炎や心筋炎,嚥下障害などの重大な合併症やステロイド抵抗性症例,ステロイド減量困難例などでは,免疫抑制薬の併用が行われている.免疫抑制薬では,メトトレキサートやアザチオプリン,カルシニューリン阻害薬が用いられることが多い.安全に配慮しつつ十分に効果を得るには,各薬剤の特徴,副作用を熟知し使用しなければならない.
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第4章 管理・治療
皮疹の治療

室 慶直     名古屋大学大学院医学系研究科皮膚結合組織病態学 准教授

要旨
 本稿では,標準療法で皮膚症状のみ遷延した場合の皮膚筋炎(DM)や,間質性肺炎も筋炎も伴わない皮膚症状のみの DM の治療方法について述べた.また,石灰沈着や皮膚潰瘍の治療についても簡単にふれた.

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第4章 管理・治療
間質性肺炎治療

亀田 秀人      東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野 教授

要旨
 多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)に合併する間質性肺炎(IP)は臨床経過や病理組織所見が多彩であるが,その中に短期的な予後すら不良な一群が存在し,臨床病型,自己抗体,検査所見などから,ある程度の推定が可能である.治療においては副腎皮質ステロイド(GC)のみならず,少なくとも1剤の免疫抑制薬を初回治療から含めることが望ましく,特に予後不良と思われる患者に対しては,複数の免疫抑制薬を同時に開始することが普及している.

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第4章 管理・治療
公的支援の仕組みの現状と今後

笠井 祥子    厚生労働省

要旨
 我が国の難病対策は,1972年に策定された難病対策要綱に基づいて推進され,研究事業や医療施設等の整備,医療費の自己負担の軽減等の支援が進められてきた.しかし,現在の難病対策については,さまざまな課題があることも指摘されており,現在,厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会などで議論が進められている.本稿では,現在の制度の解説と,今後の難病対策の見直しにかかる検討状況について紹介する.

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第5章 ガイドライン
治療ガイドライン作成に向けて

川口 鎮司     東京女子医科大学リウマチ科 臨床教授

要旨
 治療ガイドラインの作成にはエビデンスレベルの高い研究が必要であるが,多発性筋炎や皮膚筋炎に対するランダム化比較研究は,非常に少ない.すでに,副腎皮質ステロイドが第1選択薬として世界中で使用されているが,今後は,免疫抑制薬の併用により,副腎皮質ステロイド投与量を少なくしていくことが行われている.

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