要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 84/血液10
多発性骨髄腫


第1章 概念・定義・疫学
概念:MGUS,くすぶり型から症候性骨髄腫

安倍 正博   徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部生体情報内科学 准教授

要旨
 多発性骨髄腫は,意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)より進展し発症する.骨髄腫細胞内で起るゲノム不安定性や遺伝子プロモーターのメチル化などのepigeneticな異常制御により特定の遺伝子が活性化あるいは不活性化し,骨髄腫は多段階の発がんステップにより進行する.また,このような骨髄腫細胞自身の細胞遺伝学的な異常に加え,本症に特徴的な病態の形成や腫瘍進展・治療耐性の獲得に骨髄腫細胞と骨髄微小環境との間の複雑な細胞間相互作用が注目されている.

目次に戻る



第1章 概念・定義・疫学
疫 学

照井 康仁    公益財団法人がん研究会有明病院血液腫瘍科 血液腫瘍担当部長

要旨
 多発性骨髄腫は低頻度のがん種である.米国での調査では,黒人>白人>アジア系アメリカ人の順の頻度であった.リスク因子としては,年令増加,男性,黒人種,家族歴 MGUS 陽性,が挙げられた.肥満,魚類低摂取,緑色野菜低摂取,AIDS,帯状疱疹は,可能性のあるリスク因子であった.喫煙,アルコール,放射線との関係はなかった.

目次に戻る



第2章 病理・病態生理
病 理

津山 直子   公益財団法人がん研究会がん研究所病理部 東京都健康長寿医療センター病理診断科

要旨
 病理組織検査は,塗抹標本やフローサイトメトリー(FCM)検査と合わせて,骨髄腫の診断に重要な検査である.病理診断では,骨髄腫細胞の形態学的情報だけでなく,腫瘍細胞の分布や骨髄の組織構築の情報を提供し,さらに,免疫染色や FISH 法を実施することで,クローナリティの評価,免疫形質,染色体異常を検索できる.ほかの検査所見と合わせることで,診断の客観性を高め,予後の推定,治療効果の判定に結びつくと考えられる.

目次に戻る



第2章 病理・病態生理
病態生理

半田 寛   群馬大学医学部附属病院血液内科 講師

要旨
 多発性骨髄腫(MM)は,B細胞の最終分化段階にある形質細胞のモノクローナルな増殖を来す腫瘍である.MMは骨破壊,骨髄機能不全,腎障害などの多彩な病態が引き起すが,その病態は形質細胞の高度な蛋白合成能によって産生される,さまざまな生理活性物質に由来する.例えば骨病変はMM細胞から産生される破骨細胞活性化物質によって惹起される.本稿ではMMで見られる多彩な病態の機序について解説する.

目次に戻る



第2章 病理・病態生理
病 因

平尾 磨樹    東京都済生会中央病院血液・感染症内科

要旨
 近年,正常形質細胞から多発性骨髄腫(MM)に至る原因と,その結果としての病態に対する理解が進んでいる.遺伝子変異やエピジェネティクスの継時的変化に加え,次世代シークエンサーなどの技術の進歩により,クローン間あるいはクローン内の不均一性(heterogeneity)が明らかになり,その複雑性がMMの多様な病態を招くことが分かってきた.

目次に戻る



第3章 診 断
診断とCRAB,病期

富川 武樹  埼玉医科大学総合医療センター血液内科
木崎 昌弘  埼玉医科大学総合医療センター血液内科 教授

要旨
 多発性骨髄腫は高カルシウム(Ca)血症,腎障害,貧血,骨病変による多彩な症状を呈する.症状から多発性骨髄腫を疑った場合,M蛋白の同定や骨髄での骨髄腫細胞の腫瘍性増殖を証明することにより,確定診断を行う.病期分類として,以前は Durie & Salmon の病期分類が用いられたが,現在では予後を反映する国際病期分類(ISS)が広く用いられており,血清アルブミン(Alb)値とβ2 ?ミクログロブリン値によって規定される.

目次に戻る



第3章 診 断
検査所見

西村 倫子   公益財団法人がん研究会有明病院血液腫瘍科 副医長

要旨
 多発性骨髄腫(MM)の診断基準に必須な検査として,骨髄穿刺・生検によるモノクローナルな骨髄腫細胞の同定,血清または尿中蛋白電気泳動によるM蛋白の検出がある.さらに免疫電気泳動,免疫固定法(IFE),血清フリーライトチェーン(FLC)定量の組み合わせでより鋭敏に重鎖,軽鎖の特定を行う.フローサイトメトリー(FCM)による細胞表面抗原,染色体・遺伝子検査ではモノクローナリティの同定や予後予測として重要である.

目次に戻る



第3章 診 断
画像診断

立石宇貴秀   横浜市立大学大学院医学研究科放射線医学 准教授

要旨
 骨髄腫の画像診断は,形態診断を組み合わせて行う.機能画像として,フッ化デオキシグルコース(18F?FDG)を用いた陽電子放射断層撮影(PET/CT)検査も骨髄腫の画像診断に導入されている.腫瘍の代謝を間接的に観察できるため,治療効果判定に導入可能であるものの,骨髄腫に関する診断意義はよく分かっていない.本稿では,骨髄腫の画像診断について形態診断,機能診断に分けて解説する.

目次に戻る



第3章 診 断
鑑別診断,症候群

青木 智広   名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科

要旨
 多発性骨髄腫の診断において,しばしば,ほかの疾患との鑑別に苦慮する症例に遭遇する.また,ALアミロイドーシスなどの骨髄腫類縁疾患と呼ばれるような疾患もあり,我々が知っておくべき疾患,施行すべき検査は少なくない.本稿では,多発性骨髄腫を診断するときに鑑別診断に考えるべき疾患や形質細胞関連疾患の中で代表的な疾患を幾つか具体的に取り上げ,多発性骨髄腫との鑑別のポイントや各疾患の特徴を中心に述べる.

目次に戻る



第3章 診 断
アミロイドーシスと心臓合併症

塚田 信弘      日本赤十字社医療センター血液内科 副部長

要旨
 多発性骨髄腫では約10?15%の症例でその経過中にALアミロイドーシスを合併する.ALアミロイドーシス合併例,特に心臓合併症を有する症例では,心不全や不整脈に注意が必要である.自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法(HDT/ASCT)はその適応を慎重に判断し,メルファラン(Mel)の投与量の調節を考慮する.ALアミロイドーシス合併例に対する新規薬剤の有効性,および安全性については,今後の検証が待たれる.

目次に戻る



第4章 管理・治療
末梢神経障害

上田 真寿   自治医科大学附属病院臨床腫瘍科/血液科 講師

要旨
 多発性骨髄腫(MM)における末梢神経障害(PN)は,疾患自体や化学療法により誘導される.また,PNの発症によりしばしば治療制限を来すことがあり,いかにPNをマネジメントしていくかが,治療継続の鍵と成りうる.本稿では,ボルテゾミブ(Bor),サリドマイド(Thal),レナリドミド(Len)などの新規治療薬も含めた幾つかの薬剤に関して,PNの発症機序や症状,予防と治療の現状について,幾つかの論文を交えて紹介する.

目次に戻る



第4章 管理・治療
血栓症の治療と管理

窓岩 清治   自治医科大学分子病態治療研究センター 分子病態研究部 講師

要旨
 免疫調節薬であるサリドマイドやレナリドミドなどの導入により,多発性骨髄腫の治療成績が大きく改善されている.多発性骨髄腫患者の約10%は経過中に何らかの血栓症を合併し,造血器腫瘍の中でも血栓症を来しやすい疾患である.静脈血栓塞栓症(VTE)や動脈血栓症などの血栓症はこれらの薬剤に関連する最も重要な合併症であり,多発性骨髄腫の生命予後やQOLに直結する.多発性骨髄腫患者に見られる血栓塞栓症は,新規診断例で化学療法開始後数ヵ月以内に発症することが多い.免疫調節薬であるサリドマイドやレナリドミドは,高用量のデキサメタゾンやドキソルビシンなどと併用した場合に血栓塞栓症を増加させる.血栓症の危険因子を把握し,低用量アスピリンや,用量調節ワルファリンおよび低分子量ヘパリンなどの抗血栓薬を,適切に選択する必要がある.


目次に戻る


第4章 管理・治療
骨病変とビスホスホネートの使用

志村 勇司   京都府立医科大学内科学血液・腫瘍内科部門
黒田 純也   京都府立医科大学内科学血液・腫瘍内科部門 講師

要旨
 骨折などの骨関連事象は多発性骨髄腫(MM)における重大合併症の1つとなる.窒素含有ビスホスホネート(BP)製剤は,破骨細胞の過剰活性化を抑制することで症候性骨髄腫における骨関連事象を減少させるのみならず,生存期間の延長効果も期待できることから,早期からの計画的投与が推奨される.一方,その使用に際しては,腎障害,顎骨壊死(BRONJ)など特有の有害事象が懸念されるため,適応と慎重な周辺管理の理解が必要である.

目次に戻る


第4章 管理・治療
HBVキャリア,HCV,CMV対策

楠本 茂      名古屋市立大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学 講師
田中 靖人    名古屋市立大学大学院医学研究科病態医科学(ウイルス学)教授  
           名古屋市立大学病院肝疾患センター 副センター長

要旨
 がん化学療法後のウイルス再活性化は,注意すべき合併症であるが,骨髄腫治療においてB型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV)およびサイトメガロウイルス(CMV)への対策は,特に注意が必要である.その大半は,比較的若年者の症候性多発性骨髄腫(MM)症例に施行される自家末梢血幹細胞移植併用大量メルファラン療法後において問題となるが,HBV再活性化に関しては,通常の化学療法においても留意すべきである.

目次に戻る



第4章 管理・治療
移植適応例の治療戦略

鈴木 一史    東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科

要旨
 65歳以下で臓器障害を有さない多発性骨髄腫患者に対して,up?frontに自家移植が行われる.導入療法は早期に高い奏効を達成し,かつ自家末梢血幹細胞採取に不利益が少ない,ボルテゾミブ(BOR)を含む2剤もしくは3剤併用化学療法が選択される.自家移植後にさらに高い奏効を目標とした地固め療法,より長期間の生存,無再発を目標とした維持療法の報告が散見されるが,現状では臨床試験として行うべきである.

目次に戻る



第4章 管理・治療
移植非適応例の治療戦略

石塚 賢治     福岡大学医学部腫瘍・血液・感染症内科 講師

要旨
 未治療移植非適応の症候性多発性骨髄腫に対して,現在本邦で施行可能なレジメンは,世界的に標準療法とされるMPB療法[メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ]である.そのほか実臨床ではBD療法[ボルテゾミブ+デキサメタゾン],BDC療法[ボルテゾミブ+デキサメタゾン+シクロホスファミド]も実施されている.今後,初発例に対し,サリドマイド,レナリドミドも承認されると選択肢は広がる.維持療法の意義は現時点では明確でなく,安易な導入は行うべきでない.
目次に戻る



第4章 管理・治療
自家移植療法

中世古知昭    千葉大学医学部附属病院血液内科 准教授

要旨
 65歳以下で重篤な臓器障害のない症候性多発性骨髄腫症例では,ボルテゾミブを基本骨格とした2剤ないし3剤による寛解導入療法後に幹細胞採取を行い,自家末梢血幹細胞移植を行う一連の治療戦略が標準的治療に位置づけられる.さらに,新規薬剤を用いた地固め療法により,奏効の程度を深くすることができる.サリドマイドやレナリドミドを用いた維持療法は無増悪生存期間(PFS)を延長するが,全生存率(OS)に関しては,いまだ結論が出ていない.

目次に戻る



第4章 管理・治療
放射線治療

笹井 啓資   順天堂大学医学研究科放射線治療学講座 教授

要旨
 骨髄腫は放射線高感受性である.内科的治療が発達した現在,根治的放射線治療の適応は孤立性形質細胞腫のみである.症候性多発性骨髄腫では,除痛,骨折予防,脊椎病変による脊髄圧迫解除,根性痛の除痛など対症的な放射線治療の適応がある.放射線治療は強力な局所療法であり,治療体系の中でどのような役割を果たせるかを理解したうえで,この治療法を有効に活用すべきある.
目次に戻る



第4章 管理・治療
経過・予後

山ア 悦子     横浜市立大学大学院医学研究科病態免疫制御内科学 講師

要旨
 多発性骨髄腫(MM)は,分子生物学的に多段階の発がん過程を経て発症する.この経過は branching pathway 形式をとり,経過中に多彩な遺伝子異常,染色体異常を発生する.初発時のみならず,臨床経過の各段階でG分染法および FISH 検査による染色体異常の検出を行うことが必要である.予後は国際病期分類(ISS)と染色体異常により層別化され,染色体異常の中でも,t(4;14)と 17p13 欠失は,予後不良因子であるとされている.

目次に戻る



第4章 管理・治療
経口薬の服薬指導と管理

田瀬 徹    公益財団法人がん研究会有明病院薬剤部

要旨
 多発性骨髄腫は,第1世代,第2世代の免疫調節薬(IMiDs),ボルテゾミブの3剤が導入されたことにより,治療効果は大きく向上した.治療効果を十分に発揮するために,薬剤師には患者への適切な服薬指導と副作用対策が求められる.その一方で,患者自身には内服コンプライアンスの維持,ならびに薬剤の管理,副作用の初期症状の理解が必要とされるようになった.多発性骨髄腫治療は,治療スケジュールや副作用プロファイルも複雑化しており,治療にかかわる医療従事者には,十分な知識を理解することが重要である.

目次に戻る



第4章 管理・治療
プロテアソーム阻害薬の新薬

田村 秀人    日本医科大学血液内科 准教授

要旨
 プロテアソーム阻害薬(PI)ボルテゾミブにより,多発性骨髄腫(MM)の治療は大きく変貌し予後も著明に改善したが,依然として治癒困難な疾患である.この薬剤の迅速で高い臨床効果は,構造や作用の異なる次世代 PI の開発を活発にした.臨床実用に最も近いcarfilzomibや経口薬であるixazomibなど,幾つかの新規 PI による臨床試験の結果が報告され,再発・難治例に対する治療効果の改善が期待されている.

目次に戻る



第4章 管理・治療
IMiDsの新薬

尾崎 修治     徳島県立中央病院血液内科 部長

要旨
 再発難治性多発性骨髄腫に対するサリドマイドの有効性が報告されて以来,サリドマイド誘導体の臨床開発が積極的に進められてきた.最近ではレナリドミドに次いでpomalidomideが登場し,治療抵抗例に対する有効性が示されている.これらの薬剤は抗腫瘍活性のみならず免疫賦活作用を有することから,免疫調節薬(IMiDs)と呼ばれ,多発性骨髄腫治療のキードラッグの1つとして注目されている.

目次に戻る



第4章 管理・治療
その他の新薬

柴山 浩彦    大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科 講師

要旨
 最近10年の間に,多発性骨髄腫に対する新規の治療薬が続々開発され,初発症例のみならず,再発症例の治療成績の向上が見られるようになった.骨髄腫の新薬として,プロテアソーム阻害薬,免疫調節薬(IMiDs),抗体薬以外に,ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬や骨髄腫細胞の生存・増殖シグナル伝達経路を標的とした治療薬,などが開発されている.それらの薬剤は,既存のプロテアソーム阻害薬や IMiDs との併用で用いられることにより,相乗効果が期待されている.

目次に戻る



第4章 管理・治療
骨髄腫における二次がん

鈴木 憲史    日本赤十字社医療センター血液内科 部長

要旨
 レナリドミド(Len)やサリドマイド(Thal)を用いた移植後あるいは高齢者の骨髄腫初期治療後の維持療法期間において,対照群に比し二次がん(SPM)の発症率が高い.多発性骨髄腫(MM)の病態そのものが,固形がんやほかの造血器腫瘍の発症リスクの高い集団である可能性もある.また,治療に汎用されるメルファラン(Mel)の長期経口使用についても,関与が検討されている.同種造血幹細胞移植が唯一の根治療法であるが,適応例も少なく,啓蒙と予防が大切である.

目次に戻る



第4章 管理・治療
抗体医薬に関する新薬の開発

鈴木 達也    国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科

要旨
 多発性骨髄腫(MM)の治療は,移植治療や新規薬剤の導入により大きく進歩した.しかし,いまだ MM の治癒を得ることは困難で,さらなる治療改善が求められている.モノクローナル抗体(mAb)医薬は最も開発が進んでいる骨髄腫治療薬の1つである.MM に対する mAb 医薬は,骨髄腫細胞表面の分子だけでなく,骨髄腫細胞の生存・増殖に関与する骨髄微小環境やシグナル伝達分子などの,多様な分子を標的としている.

目次に戻る



第5章 ガイドライン
多発性骨髄腫の診療ガイドライン

飯田 真介    名古屋市立大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学分野 教授

要旨
 日本血液学会(JSH)版『造血器腫瘍診療ガイドライン』が発刊された.化学療法の対象が症候性骨髄腫患者であること,自家移植の適応患者と非適応患者に分けたうえで無増悪生存期間(PFS)延長効果の高い治療を初期治療として推奨し,支持療法とともに患者QOLの改善を図ること,再発・再燃時には臓器障害の増悪前に適切な救援療法を選択すること,などの具体的な指針が盛り込まれた.日常診療の指針として用いられることが期待される.

目次に戻る