要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 8/免疫 1
関節リウマチ 
(改訂版)


第1章 概念・定義,疫学
概念・定義

宮坂 信之  東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科膠原病・リウマチ内科学 教授

要旨
 関節リウマチ(RA)は,関節滑膜を病変の主座とする原因不明の炎症性疾患である.炎症を起した関節滑膜からはさまざまな炎症性メディエーターが産生され,軟骨・骨の破壊が起る.そのために,患者の日常労作(ADL)は阻害され,生活の質(QOL)は低下することとなる.  RA の原因は不明であるために,本症を予防することはできない.したがって,RA を早期より診断し,的確な治療を行うことが肝要である.

目次に戻る



第1章 概念・定義,疫学
疫 学

當間 重人  独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センターリウマチ性疾患研究部部長

要旨
 関節リウマチ(RA)の有病率に関する報告は0.3〜1.5%(平均0.8%)とバラツキはあるものの,すべての人種・すべての年齢に発症しうる疾患である.HLA-DR4 などが疾患感受性遺伝子であるが,それ以上に環境因子の関与が考えられている.薬物療法の進歩は疾患活動性の改善をもたらしているが,寛解達成率は高くない.さらなる治療法の開発が必要である.

目次に戻る



第2章 病理・病態生理
病 理 ―滑膜の炎症から骨破壊まで―

澤井 高志   岩手医科大学医学部病理学第一講座 教授
宇月 美和   岩手医科大学医学部病理学第一講座
佐々木喜子   岩手医科大学医学部病理学第一講座整形外科
金  仁順    岩手医科大学医学部病理学第一講座/中国延辺大学附属病院病理科

要旨
 関節リウマチは免疫異常を背景とした全身性の疾患であるが,その標的臓器は主に関節であり,病理組織学的な特徴として滑膜細胞の増殖,血管の新生,炎症性細胞の浸潤,軟骨・骨破壊などが挙げられる.ここでは滑膜に始まる炎症から軟骨・骨破壊に至る過程を病理組織学的な見地から説明し,それぞれの stage や病変部に見られる細胞とその機能,さらに病変形成に関する因子について述べた.

目次に戻る



第2章 病理・病態生理
病態生理 ―サイトカインの面から―

山村 昌弘  愛知医科大学リウマチ科 教授

要旨
 関節リウマチ(RA)の関節滑膜では,血管新生に伴いリンパ球とマクロファージの強い浸潤と滑膜線維芽細胞の増殖を認め,これらの細胞から多彩なサイトカインが産生されている.RA の病態である血管新生,滑膜細胞増殖,炎症細胞浸潤,軟骨・骨破壊,全身性炎症反応にはサイトカインが密接に関与する.その活性を特異的に阻害する生物学的製剤の優れた有効性から,腫瘍壊死因子(TNF)α,インターロイキン(IL)-1,IL-6など炎症性サイトカインのRA病態形成における重要性が明らかになっている. 

目次に戻る



第2章 病理・病態生理
病 因

上阪  等  東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科膠原病・リウマチ内科 准教授

要旨
 関節リウマチ(RA)の病因のうち,遺伝因子が3割を,環境因子が7割を占めると言われている.遺伝因子のうち,最も影響の大きいものは HLA であり,RA 感受性を与える HLA-DR 分子はシェアード・エピトープと呼ばれる特有のペプチド配列を持つ. 影響は弱いながら,非 HLA 遺伝子も幾つか報告されてきている.環境因子としては, エプスタイン・バーウイルス,大腸菌,レトロウイルス,パルボウイルスなどの微生物感染が常に有力な候補であるが,確定的な証拠はない. 

目次に戻る



第3章 関節外病変


徳田 道昭   さぬき市民病院 院長
土橋 浩章   香川大学医学部内分泌代謝・血液・免疫・呼吸器内科 学内講師

要旨
 関節リウマチ(RA)の肺病変では,胸膜病変が最も頻度が高いが,高分解能 CT(HRCT)によって末梢気道病変も高率に伴うことが明らかにされてきた.また,RA を含めた膠原病では種々の間質性病変が同一個体内でも混在しやすいため,欧米で提唱された特発性間質性肺炎に関する新分類案のように,“病理診断”と“臨床診断”を対応させることは困難である.さらに,RA では抗リウマチ薬による薬剤性肺障害や日和見感染症を合併することがあり,1次的な肺病変との鑑別が困難な場合がある. 

目次に戻る



第3章 関節外病変
腎 臓

中野 正明   新潟大学医学部保健学科臨床生体情報学講座 教授

要旨
 関節リウマチ(RA)では治療抵抗例を中心に,アミロイドーシスの合併により進行性の腎障害を来す.抗リウマチ薬による膜性腎症の頻度も比較的高く,タンパク尿が遷延する場合がある.血尿陽性例では光学顕微鏡でメサンギウム増殖性糸球体腎炎の合併頻度が高く,蛍光抗体法ではIgA腎症の所見を呈することが多い.電子顕微鏡では糸球体基底膜菲薄化の頻度も高く,この病変は前述の各病変に重複することも多い.RA では筋肉量の減少した例が多く,血清クレアチニン(Cr)による腎機能評価には注意を要する.

目次に戻る



第3章 関節外病変
関節リウマチ(RA)続発アミロイドーシスの臨床

安田 正之  独立行政法人国立病院機構別府医療センターリウマチ膠原病センター 部長

要旨
  関節リウマチ(RA)続発アミロイドーシスでは,amyloid protein A(AA)が消化管や腎に沈着する.50% 生存期間は2〜4年と予後不良であり,強い炎症が持続することが発症の主要因子であるので,ステロイドを併用しつつメトトレキサート(MTX)や抗腫瘍壊死因子(TNF-α)製剤などの強力な抗リウマチ薬を投与し,速やかに炎症を抑制せねばならない.ルーチン化された十二指腸生検による検出頻度は約 10% であり,早期診断と治療が生命予後の改善につながると期待されている.

目次に戻る



第4章 類縁疾患
悪性関節リウマチ

高林克日己  千葉大学医学部附属病院企画情報部 教授

要旨
 悪性関節リウマチ(MRA)は関節リウマチのうちで主に血管炎による関節外病変を認めるもので全関節リウマチの1%未満で認められる.多臓器にわたる重篤な障害を来し,放置すれば生命にかかわることがあり,積極的な内科治療が必要である.最近では免疫抑制薬や,生物学的製剤,その他の支持療法も進歩しているが,一般の関節リウマチに比して死亡率の高い疾患であり悪性関節リウマチと呼ばれるゆえんである.ただし,この疾患名が広く使用されているのは本邦のみであり,国際的には rheumatoid arthritis with vasculitis と呼ばれているものに相当すると考えられている.

目次に戻る



第4章 類縁疾患
若年性特発性関節炎

横田 俊平  横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学 教授

要旨
 小児期の慢性関節炎は,2次性関節炎を別にすれば,多くは原因不明の若年性特発性関節炎である.全身型と関節型の2病型に分けられ,前者は弛張熱,皮疹,関節炎を主徴とし,しばしば肝脾腫や心膜炎を伴う.その病態形成には IL-6 が重要な役割を果たしている.治療はステロイド剤が基本となるが,トシリズマブ(ヒト化抗 IL-6 受容体モノクローナル抗体)が著効する.炎症性サイトカインの過剰産生によりマクロファージ活性化症候群へ病態移行する.関節型はリウマトイド因子陽性型,抗核抗体陽性型,血清因子陰性型に亜分類され,メトトレキサートを中心とする多剤併用療法で約 70% は寛解に至るが,効果不十分な例に対して TNFα 遮断薬,IL-6 遮断薬が使用されるようになった.

目次に戻る



第4章 類縁疾患
成人Still病

大田 明英  佐賀大学医学部看護学科成人・老年看護学講座 教授

要旨
 成人 Still 病は若年性特発性関節炎の全身型が成人に認められたものであり,発熱,関節症状,皮疹の3主徴のほか,種々の全身症状,高度の炎症所見,高フェリチン血症,肝障害などの臨床像を示す.診断はこれらの症候の組合わせと発熱を来す他疾患の除外でなされる.ステロイド剤が有効であり,難治例には免疫抑制薬が併用され,また近年は生物学的製剤も有効とされる.経過は多様であるが,一部の重症難治例を除きその予後は良好である.

目次に戻る



第5章 診 断
診 断

田中 良哉   産業医科大学医学部第一内科学講座 教授

要旨
 関節リウマチ(RA)の診断には米国リウマチ学会(ACR)の分類基準が汎用される.@1時間以上持続する朝のこわばり,A3関節領域以上の関節炎,B手の関節炎,C対称性関節炎,Dリウマトイド結節,E血清リウマトイド因子陽性,F典型的X線像の4項目以上でRAと分類する.客観的診察所見に関する記載が4項目を占め,十分な臨床経験に基づく総合的判断を要する.本基準を満たさない症例でも診断を否定できず,基準を満たしても鑑別を十分に行う必要性がある.

目次に戻る



第5章 診 断
検 査

江口 勝美   長崎大学大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座(第一内科)教授

要旨
 関節リウマチ(RA)では検査は診断の確定,疾患活動性の評価,薬剤の有害事象の有無を知るために行われてきた.RA 治療に免疫抑制薬や腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬など新しい薬剤が登場し,関節破壊の進行阻止や寛解導入が治療目標になってきている.このような治療目標の変化から,関節炎が出現して間もない早期に RA に移行することを予測できないのか,あるいは関節破壊が出現していない時期に将来関節破壊に移行するのかを予測できないのかが重要な課題となっている.近い将来,臨床症状,血清マーカー,画像および遺伝子検査によって,診断およびその臨床経過を予知し,各患者に合ったオーダーメイド治療が施行されることが期待される.

目次に戻る



第5章 診 断
画像所見

小林  勉    群馬大学大学院医学系研究科機能運動外科学(整形外科)
岸 憲二   群馬大学大学院医学系研究科機能運動外科学 教授

要旨
 関節リウマチ(RA)において骨,関節および関節周囲の軟部組織に破壊が生じるため,RA の画像診断法は特に RA の診断,病態の進行状況,整形外科的治療の適応の決定,治療方法の選択および治療効果の判定に非常に重要である.単純X線検査は画像診断のうえで,重要かつ簡便である.これは RA による関節破壊の程度や全身の関節罹患の広がりを評価するのに有用である.すなわち,RA の罹患関節におけるX線学的特徴は,軟部組織の変化,骨萎縮,関節裂隙の狭小化,骨びらん,骨破壊,関節変形,関節強直である.関節変化の進行度の判定には Steinbrocker の stage 分類や Larsen の grade 分類が用いられる.CT では骨,関節の詳細な情報が得られ有用である.股関節や肩関節などの関節破壊の評価には特に重要である.肩関節では,骨頭および肩甲骨関節窩の破壊の評価に役立つ.MRI は非侵襲的な検査で軟部組織,骨組織の状態を評価でき,非常に情報量の多い検査である.核医学検査として骨シンチグラフィーや特に最近では PET の使用もみられる.

目次に戻る



第5章 診 断
鑑別診断

三森 経世   京都大学大学院医学研究科臨床免疫学 教授

要旨
 アメリカリウマチ学会の分類によれば 100 種類以上の疾患がリウマチ性疾患として分類されており,関節リウマチ(RA)の鑑別診断には,これらのリウマチ性疾患が挙げられることになる.リウマチ性疾患の診断には,関節症状の詳細な病歴の聴取と関節所見が極めて大切であり,関節症状の発症様式,罹患関節の数と部位,関節変形を正しく把握することは,関節炎の鑑別上極めて大切である. 

目次に戻る



第5章 診 断
活動性の評価と薬効判定

近藤 啓文   北里大学北里研究所メディカルセンター病院 院長

要旨
 関節リウマチの活動性を評価する指標としてアメリカリウマチ学会(ACR)コアセットが我が国でも定着した.多面的な疾患の活動性を現すもので,医師による評価,患者の評価および検査所見と多項目から構成されている.それはリウマチのoutcome(運動機能障害,X線所見など)を反映する.薬効検定においては改善度を評価し,有効性を示す指標として標準的になった.一方,ヨーロッパを中心に開発された DAS28 が我が国でも臨床研究で使用されている.

目次に戻る



第6章 管理・治療
薬物療法・選択基準

原 まさ子  東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 教授

要旨
 関節リウマチ(RA)の薬物療法の目的は,炎症を抑え,骨破壊や機能障害に陥るのを防ぐことである.そのためには,骨破壊のない早期から抗リウマチ薬(DMARDs)やステロイド剤を積極的に使って,病気の進展を抑える治療戦略がとられている.早期に治療を開始するために,早期 RA の診断基準と DMARDs による治療開始の指標が作られている.

目次に戻る



第6章 管理・治療
治療薬剤:(1)非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

楠  夏子    東邦大学医療センター大森病院膠原病科
川合 眞一   東邦大学医療センター大森病院膠原病科 教授

要旨
 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は,関節リウマチ(RA)治療において,炎症反応を直接緩和する作用を期待し広く使用されている.その主たる作用機序は,シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害によるプロスタグランジン(PG)産生抑制と考えられており,有害反応の軽減を目的とした新たな薬物やドラッグデリバリーシステム(DDS)技術の開発も行われている.また,ある種の薬物には,COX 阻害以外の薬理作用も見いだされており,その有用性に期待が持たれている.しかし近年,従来指摘されていたものとは異なる新たな有害事象の存在が指摘されており,有効性と安全性を総合的に考慮した使用が求められている.

目次に戻る



第6章 管理・治療
治療薬剤:(2)抗リウマチ薬(DMARDs)

山中  寿   東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 教授

要旨
 抗リウマチ薬(DMARDs)は関節リウマチ(RA)の長期予後を改善させることを目的として投与される薬剤である.多種類の DMARDs があるが,メトトレキサートが中心である.共通した特徴と薬剤固有の特徴を理解するとともに,患者の病態に合わせた選択が必要である.治療目標は寛解導入であり,達成できない場合は DMARDs 併用や生物学的製剤を考慮する.ただし,DMARDs の副作用は他のクラスの薬剤より多く,十分な注意を要する.

目次に戻る



第6章 管理・治療
治療薬剤:(3)ステロイド剤

鈴木 康夫   東海大学医学部内化学系リウマチ内科学 教授

要旨
 ステロイドの関節リウマチ(RA)に対する効果が報告されて以来,50 年が経つが,RA における少量ステロイド治療の位置付けについてはいまだ確立していない.ステロイドの関節症状や赤沈値に対する効果は単独では6ヵ月を過ぎると減弱し,中止後の反跳現象や骨粗鬆症などの副作用もみられる.しかし,抗リウマチ薬併用下ではプレドニゾロン5〜10mg/日の投与は中期的に関節破壊の進行を抑制する.また,ステロイドと複数の抗リウマチ薬を組み合わせた強力な初期治療は,生活機能を速やかに改善し関節破壊の進展を阻止する.

目次に戻る



第6章 管理・治療
治療薬剤:(4)生物学的製剤

天野 宏一   埼玉医科大学総合医療センターリウマチ・膠原病内科 准教授
竹内  勤    埼玉医科大学総合医療センターリウマチ・膠原病内科 教授

要旨
 生物学的製剤は,関節リウマチの治療において欠かせないものになりつつある.現在腫瘍壊死因子(TNF)αの作用を特異的に阻害するインフリキシマブ,エタネルセプト,adalimumab がすでに臨床応用され画期的効果を上げている.その他では,ヒト化抗インターロイキン(IL)-6 受容体抗体の tocilizumab が今年発売予定である.CD28 を介したT細胞活性化経路を阻害する abatacept は,治験が終了し申請予定であり,ヒト化抗CD20モノクローナル抗体 ocrelizumab も国内で治験が始まっている.感染症などの有害事象,高価な薬価,投与方法などの問題点はあるが,いずれも関節リウマチを臨床的寛解に導き,骨破壊の進行を抑制する有望な薬剤である.

目次に戻る



第6章 管理・治療
理学療法

村澤  章   新潟県立リウマチセンター 院長

要旨
 関節リウマチ(RA)のリハビリテーションの基本は,障害や活動制限の回復を目指し社会参加や就業を維持することにある.リハビリテーションでは可能なすべての手技,手段を用いてこれらの達成を目指す.RA 治療は薬物療法,手術療法,心理療法と共に理学療法,作業療法,装具療法,ケアなどのリハビリテーションによって構成され,それぞれに関与する多職種によるチームアプローチが必要である.

目次に戻る



第6章 管理・治療
外科療法

清水 一郎   日本大学医学部付属板橋病院整形外科 講師
龍 順之助   日本大学医学部付属板橋病院整形外科 教授

要旨
 関節リウマチ(RA)は全身の関節が進行性に破壊され,手術を余儀なくされることがある.薬物療法で関節破壊を阻止することが理想的ではあるが現時点ではなかなか困難である.そのため外科的治療は RA の治療においては必要不可欠な治療法である.特に下肢関節破壊は歩行能力を奪い,車椅子での生活または寝たきりの原因ともなるため外科的治療の対象となることがある.本稿では RA における下肢の外科的治療法について述べる.

目次に戻る



第6章 管理・治療
経過と予後

松田 剛正   鹿児島赤十字病院 院長

要旨
 関節リウマチ(RA)患者の経過と予後を,1.骨破壊の進行と広がり 2.生命予後 3.QOL 4.合併症の視点より述べ,日常臨床での利用について述べる.関節破壊の進行と広がりにより病型分類し,早期であれば関節炎の分布と炎症の程度で推測し治療薬を選択する.アミロイドーシス,肺線維症,血管炎が死因に結びついていると考えられ,肺炎,病巣感染など感染症対策と,二次性アミロイドーシス早期発見と治療,血管炎のコントロールが重要である.骨粗鬆症は RA のための骨粗鬆症診断の基準が必要であり,早期から予防対策が必要である.

目次に戻る



第6章 管理・治療
医療経済

須賀 万智   聖マリアンナ医科大学予防医学教室 准教授
吉田 勝美   聖マリアンナ医科大学予防医学教室 教授

要旨
 関節リウマチの治療薬の薬剤費は,従来から使用されている免疫調節薬が年間数万ないし十数万円であるのに対して,免疫抑制薬が年間数十万円,生物学的製剤が年間百数十万円である.新規の治療薬の導入により患者1人あたりの診療費は増加する傾向にあり,関節リウマチの医療費は今後さらに増加すると予想される.最適な医療を提供するための意思決定は費用対効果が優れているかを基準に行われるべきであり,医療経済学的評価が必要である.障害調整生存年(DALY)を用いたマクロ経済的な評価方法は国家レベルで新規の治療薬の導入を認めるべきか検討するために有用である.

目次に戻る



第7章 治療ガイドライン
関節リウマチ治療ガイドライン

沢田 哲治   東京医科大学リウマチ膠原病内科 准教授
山本 一彦   東京大学大学院医学系研究科アレルギーリウマチ学 教授

要旨
 2002年の米国リウマチ学会の関節リウマチ治療ガイドラインでは,発症早期からの抗リウマチ薬による治療の重要性やリウマチ診療における専門医の役割などが記載されていた.本邦でも内科,整形外科や臨床疫学の専門家により診療ガイドライン作成が進められ,米国のガイドラインに沿うかたちで 2004 年に発表された.ガイドラインは一般医が利用しやすい形にまとめられているが,本邦には欧米と異なる抗リウマチ薬や生物学的製剤認可の現状があるので,欧米の多くのエビデンスを適用しにくい状況があることに留意する必要がある.

目次に戻る

第7章 治療ガイドライン
生物学的製剤使用ガイドライン

小池 竜司   東京医科歯科大学医学部附属病院臨床試験管理センター センター長

要旨
 生物学的製剤は現在の関節リウマチ診療の重要な位置にあるが,診療ガイドライン作成時には治験が進行中であったため,詳細な記述が含まれなかった.そこで,各薬剤の市販承認時に使用ガイドラインが作成され,さらに内容の一部改訂とともに腫瘍壊死因子(TNF)阻害療法施行ガイドラインとして統一された.このガイドラインは,生物学的製剤投与の対象患者を適切に選択し,有害事象を回避ないし早期発見することに主眼を置いて作成されている.

目次に戻る



第8章 トピックス
早期関節リウマチ

川上  純    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・制御学講座(第一内科) 講師
玉井 慎美   長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・制御学講座(第一内科)
岩本 直樹   長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・制御学講座(第一内科)
川尻 真也   長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・制御学講座(第一内科)
藤川 敬太   長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・制御学講座(第一内科)
江口 勝美   長崎大学大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座(第一内科)教授

要旨
 早期関節炎の分類・進展予測に関して“診断未確定関節炎(UA)”の概念が普及してきた.早期関節リウマチ(RA)の診断・分類とは,多様な UA から“RA に進展するタイプ”を早期に予測することである.身体所見,炎症反応,血清自己抗体,MRI画像を組み合わせることで,かなりの正確度で,UAの中から“早期にRAに進展するタイプ”を予測することが可能となってきた.これら症例の抗リウマチ治療は早期から積極的に導入し,寛解を目指すことが推奨される.

目次に戻る



第8章 トピックス
寛解の概念の変遷 Drug free remission

名和田雅夫   産業医科大学医学部第一内科学講座
齋藤 和義    産業医科大学医学部第一内科学講座 准教授
田中 良哉    産業医科大学医学部第一内科学講座 教授

要旨
 関節リウマチの治療目標は,生物学的製剤の登場以前のメトトレキサート(MTX)を中心とした治療では関節の疼痛・腫脹などの症状の軽減であった.そのような治療によっても一部の症例では臨床的寛解(clinical remission)は達成しえたが,MTX にて臨床的寛解の得られている症例においても,関節破壊が進行していることが明らかとなった.ここで,登場した TNF 阻害薬は MTX と併用することで,MTX 効果不十分例にも臨床的寛解を導入し,さらには臨床的低活動性を維持することで,関節破壊のほぼ完全な抑制(画像的寛解:imaging remission)を可能にすることが明らかとなった.一方,TNF 阻害療法をもってしても,極めて高い画像的寛解率に対して,臨床的寛解率は3〜4割でしか達成されていない.今後,目指すべきは臨床的かつ画像的寛解を共に達成する真の寛解(true remission)であり,さらには TNF 阻害薬,抗リウマチ薬中止を目指す drug free remission となった.リウマチ治療の進歩により“寛解”の定義も変遷し,より高い目標を目指した治療が求められるが,いかなる症例でどのような戦略で加療すれば drug free remission を達成しえるかに関する検討が今後極めて重要と考えられる.

目次に戻る



第8章 トピックス
Window of Opportunity

宮坂 信之    東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科膠原病・リウマチ内科学 教授
駒野有希子   東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科薬害監視学講座

要旨
 近年,関節リウマチ(RA)の発症初期には抗リウマチ薬による治療に対して感受性が高く,適切な治療を開始することにより長期予後が著明に改善しうる時期(window of opportunity)が存在するという概念が登場した.実際,多くの臨床研究によって,関節破壊の抑制・身体機能障害の回復といった長期予後改善には,RA の発症初期における積極的治療が重要であることが示されている.

目次に戻る



第8章 トピックス
生物学的製剤とニューモシスチス肺炎

針谷 正祥   東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科薬害監視学講座 客員教授

要旨
 インフリキシマブ,エタネルセプト両剤の全例市販後調査結果から日本においてニューモシスチス肺炎(PCP)は TNF 阻害薬に共通した注意すべき日和見感染症であることが確認された.症例対照研究により PCP 発症危険因子として,年齢 65 歳以上,既存肺疾患あり,プレドニゾロン6mg/日以上投与が見いだされた.TNF 阻害療法中の呼吸器症状に対しては,PCP を含む肺感染症の鑑別診断・治療を的確に実施することが重要である.

目次に戻る