要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 9/精神 1
気分障害 躁うつ病改訂第2版



第1章 概念・定義,疫学
概念・定義

島内 智子 都立梅が丘病院精神科
古茶 大樹 慶應義塾大学医学部精神・神経科
大野  裕  慶應義塾大学医学部ストレス・マネジメント室 教授

要旨
 気分障害(感情障害)を単極性障害と双極性障害に2分する考え方は比較的新しく,1950 年代に入ってからである.近年になって,双極性障害の異質性に眼が向けられるようになり,DSM−Wで初めて双極U型障害が正式に採用された.今後の研究によっては,さらなる細分化が行われる可能性がある.また,躁病,うつ病の診断基準に,気分と調和しない幻覚・妄想状態が取り入れられ,気分障害の診断の範囲が拡大された.

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第1章 概念・定義,疫学
疫 学

越野 好文 粟津神経サナトリウム 顧問

要 旨
 1980 年に『精神疾患の分類と診断の手引第3版』が提案された.診断基準の明確化によって,構造化面接を用いた一般住民を対象とする疫学研究が発展した.世界各国における双極T型障害の生涯有病率は 0.08〜3.4%,6ヵ月あるいは1年の期間有病率は 0.07〜1.7% であり,日本では生涯有病率が 0.08%,1年有病率は 0.03% であった.双極U型障害は米国で0.5〜1%,ヨーロッパで5〜6%,日本で 0.13% と報告され,ばらつきが大きい.
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第2章 病因・病態
遺 伝

赤羽 晃寿  帝京大学医学部精神神経科
南光進一郎  帝京大学医学部精神神経科 主任教授

要 旨
 躁うつ病の病因はいまだに不明であるが,遺伝的要因が関与していることは明らかである.その遺伝様式は糖尿病,高血圧,そして脂質異常症などのいわゆる“生活習慣病”と同様に,主として多因子遺伝であると考えられている.近年,分子遺伝学的方法を用いた病因解明が活発に行われているが,遺伝様式が複雑であることなどから,いまだに発症に関与する遺伝子変異は見いだされていない.

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第2章 病因・病態
成因仮説

加藤 忠史 理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チーム チームリーダー

要 旨
 双極性障害では,遺伝的基盤によるCa2+ 制御障害などによって細胞脆弱性が生じていると考えられる.そのため,気分を制御する神経系が障害されるとの仮説がある.うつ病は種々の原因による症候群で,メランコリー型は性格とストレスの相互作用により発症すると考えられる.一方,非定型は早期養育の問題によるストレス脆弱性などが関与すると考えられる.ストレスに伴って神経細胞の形態学的変化が生じることがうつ病に関係しており,抗うつ薬は脳由来神経栄養因子増加を介して作用するという神経可塑性説がある.

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第2章 病因・病態
脳画像から見た気分障害の病態研究

福田  一  放射線医学総合研究所分子神経イメージング研究グループ グループリーダー
須原 哲也  放射線医学総合研究所分子神経イメージング研究グループ

要旨
 気分障害における脳画像研究では,形態学的異常所見の報告に始まり,脳機能画像を用いた病態解明の試みもされるようになった.現在までに多様な非侵襲的検査手法が開発され,さまざまなアプローチから病態解明に向けた研究が行われている.形態研究では,前頭葉から側頭葉領域の体積が減少しているとする報告が多い.また,機能画像では安静時,課題刺激時の脳活動,また受容体,トランスポーターの結合能の評価などが行われているが,報告間で結果が一致していないものも多く,今後病態解明に向けて対象の均一性を高めるとともに,複数の画像技術を組み合わせ,脳の形態や機能の相互関係を検討していくことが重要である.

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第2章 病因・病態
躁うつ病の病前性格・発病状況論

上瀬 大樹 虎の門病院精神科
松浪 克文 虎の門病院精神科 部長

要旨
 精神医学にとって精神疾患の発症とは,個人の性格と環境に含まれる多様な生物・社会・心理的な諸モーメントが交錯する局面での個人の精神的な変容である.したがって,病前性格・発病状況論はおよそ精神現象にかかわる多様な要因間のダイナミズムを射程に含む仮説であると言える.本稿では,このような観点から,うつ病に重点を置いて病前性格・発病状況についての研究を概観した.
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第3章 診 断
うつ病の診断

野村総一郎 防衛医科大学校精神科学講座 教授

要旨
 うつ病はゆううつな状態が極端となり,社会機能に支障を来すレベルとなる疾患である.その診断は現時点ではもっぱら患者の陳述,行動などの現象をもとに行われるが,できるだけ客観的な診断基準を用いる方向づけがなされている.代表的な診断基準 DSM−Wによるうつ病概念を示し,それを補う形でのうつ病診断のポイントを述べた.

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第3章 診 断
躁病の診断

大坪 天平 東京厚生年金病院精神科・心療内科 部長

要旨
 躁状態では,爽快気分,脱抑制(多弁,多動,浪費),誇大感,思考散乱,観念奔逸,易怒性,注意散漫,性欲亢進,睡眠時間の短縮がみられる.躁病患者の話を中断させることは困難で,大声で早口であるばかりか,内容のつながりが不明瞭であり,観念奔逸,言葉遊び,言語新作などもみられ,思考障害は統合失調症と区別しがたい場合もある.一般に,見当識や記憶は保たれるが,病識はないことが多い.これらの症状により,社会的または職業的に著しい障害を起すほどである場合を躁病エピソード,そこまでいかない場合を軽躁病エピソードとして区別する.

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第3章 診 断
鑑別診断

福永 貴子 ふくクリニック 院長
坂元  薫  東京女子医科大学精神神経科 教授

要旨
 躁うつ病(気分障害:大うつ病性障害,双極性障害)との鑑別が必要なものとして,身体疾患および薬物による躁・うつ状態(一般身体疾患による気分障害,物質誘発性気分障害,二次性躁病),統合失調症,失調感情障害,非定型精神病(急性一過性精神病性障害),抑うつ神経症(気分変調性障害),気分循環性障害,抑うつ反応(適応障害)などが挙げられる.伝統的診断,操作的診断の両局面に配慮し,それらと気分障害との鑑別のポイントについて述べた.

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第4章 管理・治療(総論)
うつ病の管理・治療

忽滑谷和孝 東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科 講師

要旨
 社会的価値観の多様化,急激な変化によってストレスも多くなり,また精神障害に対する偏見が薄らぎ,うつ症状を呈して自ら精神科外来を受診することも増えている.新規抗うつ薬によって,副作用が少なく入院まで至らず外来にて比較的容易に治療できるうつ病が増えてきた反面,ほかの精神症状や身体症状を合併したより複雑な難治例も多い.治療および管理をするうえで,薬物療法に対する比重は大きいものの,修正電気痙攣療法(m−ECT),経頭蓋的磁気刺激(TMS)などの身体療法のみならず,各種技法を使った精神療法,家族療法,心理療法など心理社会的アプローチも必要になっている.

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第4章 管理・治療(総論)
躁病の管理・治療

澁谷 治男 国分寺メンタルクリニック 院長

要旨
 躁病患者は,爽快気分と自尊心の肥大,脱抑制のために長年にわたり築き上げた社会的信頼を一気に失うような行動をとることも多い.そのような行動を未然にあるいは最小限で防ぐために,薬物療法を含む精神科的マネージメントが必要である.急性期薬物療法と,病相間欠期の維持療法におけるリチウム,カルバマゼピン,バルプロ酸などの気分安定薬の使用と,最近注目されている非定型抗精神病薬の併用療法について触れた.

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第4章 管理・治療(総論)
治療薬剤(1)抗うつ薬

渡邉 昌祐   財団法人河田病院SRCセンター心療内科

要旨
 うつ病治療における抗うつ薬の役割はうつ病の改善と予防である.抗うつ薬の用い方の実際を,抗うつ薬の選択,用量の決定,治療反応がみられない場合の対応,維持療法と予防療法についてできるだけ具体的に説明した.新規抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は安全性が高く,不安と抑うつの合併例の外来治療,軽症〜中等症のうつ病の治療に有用性が高い抗うつ薬である.さらに,ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)に分類されるミルタザピンが 2009 年に承認され,抗うつ薬の選択肢が広がっている.ミルタザピンは早期の効果発現と優れた抗うつ効果を示し,さらに睡眠改善効果や抗不安効果の高い抗うつ薬と評価されている.うつ病の治療は薬物療法のみで完了するものではなく,非薬物療法の併用が必須であることも述べた.

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第4章 管理・治療(総論)
治療薬剤(2)気分安定薬

中込 和幸 鳥取大学医学部統合内科医学講座精神行動医学分野 教授

要旨
 近年,従来に比して双極U型障害に対する認知度の高まりとともに,気分安定薬の使用量も増加しつつある.海外においては,その他の抗てんかん薬や非定型抗精神病薬が気分安定薬として承認され,幅広い選択肢を持つが,我が国では 2002 年のバルプロ酸の導入以来,新たな気分安定薬の承認は得られていない.今後は,各種気分安定薬の臨床特徴や併用の可否,さらに気分安定薬の持つ細胞保護作用などに関心が向けられることになるだろう.

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第4章 管理・治療(総論)
治療薬剤(3)抗精神病薬

大森 哲郎 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部精神医学分野 教授

要旨
 躁うつ病薬物療法の基本は気分安定薬による病相治療と病相予防である.しかし,抗精神病薬を適切に併用すれば治療が円滑に進む.近年開発された錐体外路性副作用の少ない非定型抗精神病薬は,躁病相だけでなくうつ病相の治療にも有効であることが判明し,さらには再発予防のための維持療法へと応用されている.これらの薬物の適切な使用は,躁うつ病の治療レベル向上をもたらすものと期待されている.

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第4章 管理・治療(総論)
認知行動療法

小山 徹平 鹿児島大学医学部歯学部付属病院 臨床心理室
坂野 雄二 北海道医療大学心理科学部臨床心理学科 教授

要旨
 認知療法は,うつ病患者特有の認知(思考パターン)を変容することで症状の改善を試みる治療法である.
 認知療法の介入は,日常生活の活動記録表をつけるなどの行動的技法と,自動思考,背景にある思い込み,スキーマにおける認知のゆがみの変容を試みるといった認知的技法の2つから成り立っている.
 うつ病の認知モデルと認知療法で用いられる技法を例証し,その臨床的意義が論じられた.

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第4章 管理・治療(総論)
電気けいれん療法(ECT)

新垣  浩  埼玉県立精神医療センター
本橋 伸高 山梨大学大学院医学工学総合研究部精神神経医学 教授

要旨
 電気けいれん療法(ECT)は躁うつ病の治療において重要な位置を占めている.現在では,静脈麻酔薬と筋弛緩薬を併用することで全身けいれんを引き起さない修正型 ECT が主流となり,さらに短パルス矩形波(パルス波)治療器が日本でも認可され治療現場で使用されている.この新しい治療器の特徴および治療の実際を含めて,修正型 ECT の適応と禁忌,前検査や併用薬への対応,治療計画,副作用,再燃予防のための継続・維持療法などについて言及した.

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第4章 管理・治療(総論)
その他の治療法

谷  将之 昭和大学医学部精神医学教室

要旨
 気分障害のその他の治療法として,反復性経頭蓋的磁気刺激療法と,高照度光療法について解説した.反復性経頭蓋的磁気刺激療法はうつ病に対しての有効性は確立しているが,他の治療法に勝る部分も限定的である.一方,高照度光療法は,季節性感情障害には極めて高い治療効果を持つが,非季節性の感情障害に対しては十分な効果が得られない.いずれの治療法も状況に応じて行うと,他の治療法に比べ有用である可能性があるため,主要な治療技法の1つとして留意しておく必要がある.

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第4章 管理・治療(総論)
経過と予後

広瀬 徹也  (財)神経研究所附属晴和病院 院長
牧原 総子  若草クリニック 院長

要旨
 躁うつ病の経過は,うつ状態か躁状態が相期性に反復し,間欠期にはほぼ寛解に達する特徴を持つ.その予後は従来,統合失調症と比して楽観視されがちであった.しかし最近では,慢性化,遷延化,頻発化,さらには機能低下,残遺状態の存在も指摘され,その経過や予後はさほど思わしくないことが分かってきている.経過と予後を左右する要因として,軽躁ならびに躁状態の存在,気分変調性障害や気分循環性障害といった軽症慢性病像および重複うつ病,ほかの障害との comorbidity などが注目されている.今回は,これらの点を考慮しつつ,DSM−W診断分類の“気分障害”に準じて,その経過と予後をまとめた.

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第4章 管理・治療(総論)
うつ病の経済的側面

山内 慶太  慶應義塾大学看護医療学部健康マネジメント研究科 教授

要旨
 @うつ病は,直接的な医療サービスの費用に比して,欠勤や仕事の能率の低下に伴う生産性の損失が大きい疾患である.Aうつ病の治療技術についての経済的評価は,特に薬物療法について近年多くなされているが,方法論上,問題点や限界のあるものが少なくない.したがって,分析結果を用いる際には,その妥当性についての慎重な検討が必要である.Bうつ病では不適切な受診行動と診断・治療がさらに費用を増大させている.その点で,幅広い啓蒙活動とともに,プライマリケアを担う内科医などへの教育,職場の健康管理システムの充実など多角的な取組みが必要である.

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第5章 管理・治療(各論)
血管性うつ病の本態と治療

木村 真人  日本医科大学千葉北総病院メンタルヘルス科 准教授
下田 健吾  日本医科大学精神医学教室 講師

要旨
 血管性障害の要因を伴ううつ病(主に高齢発症)を血管性うつ病と呼ぶことが提唱され,本邦でもその関心が高まっている.発症要因としては,局所病変仮説や脳血管障害の蓄積による閾値仮説が考えられている.治療的には,抗うつ薬によるうつ病治療だけでなく血管性障害に対する予防と治療が重要である.血管性うつ病の本態および治療を理解することは,高齢化社会における1つの包括的医療という観点からも重要である.

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第5章 管理・治療(各論)
児童・思春期うつ病のマネージメント

傳田 健三 北海道大学大学院保健科学研究院 生活機能学分野 教授

要旨
 児童・思春期うつ病のマネージメントにおいて,まず確実な診断と評価が必要である.DSM−W−TR において,うつ病性障害のどの下位分類に該当するか,双極性障害との異同を診断し,重症度を評価する.さらに,併存障害(comorbidity)を有することが多いので,十分な確認が必要である.それをもとに適切な治療法を選択する必要がある.治療としては,心理教育,薬物療法,精神療法,家族療法,学校との連携など総合的な対応が必要である.

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第5章 管理・治療(各論)
老年期うつ病の管理と治療

立山 萬里 飯田橋ガーデンクリニック 院長

要旨
 初老期ないし老年期うつ病には,心気,興奮,激越症状,妄想傾向などの特徴的な病像がみられる.急性の意識障害や慢性の認知症との病像の混合や移行もみられ,若者のうつに比べ自殺の頻度も高い.その類型化として,多彩な身体的訴え,妄想性精神病症状,“うつ病性仮性認知症”の3つが挙げられる.抗うつ薬療法としては,副作用の少ない選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)が第1選択薬である.精神療法としては,認知行動療法,対人関係療法などがあり,回復期に行う回想療法もある.

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第5章 管理・治療(各論)
軽症うつ病の治療

吉内 一浩  東京大学医学部附属病院心療内科 准教授
久保木富房  医療法人秀峰会心療内科病院楽山 院長

要旨
 近年,軽症うつ病が増加しているが,必ずしも正しく診断・治療されていないことが問題となっている.また,典型的な精神症状よりも自律神経系を中心とした身体症状が前面に出てくるいわゆる“仮面うつ病”の形をとる場合も少なくない.コンセンサスが得られた軽症うつ病の診断基準は存在しないが,アメリカ精神医学会の DSM−W−TR の研究用試案に記載されている小うつ病性障害などが該当する.診断のポイントは,“疑う”ことにあり,治療は,副作用の少ない選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)を少量から投与を開始し,効果が認められるまで十分に増量・維持することが大切である.

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第5章 管理・治療(各論)
難治性うつ病への治療戦略

竹内 龍雄 帝京大学医学部 名誉教授

要旨
 抗うつ薬を十分な量,十分な期間使っても,十分な改善が得られないうつ病を,難治性うつ病または治療抵抗性うつ病と言う.このような場合は,まずうつ病の診断が間違いないか,患者は指示通り服薬しているか,身体疾患が隠されていたり,回復を妨げている心理社会的要因はないかなどを調べてみる必要がある.次いで,抗うつ薬の投与期間,投与量を限度いっぱいまで増やす,治療アルゴリズムに則ってほかの抗うつ薬へ切り替える,ほかの抗うつ作用を持つ薬物の併用による増強療法,電気痙攣療法(ECT)などを試みる.

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第5章 管理・治療(各論)
ラピッド・サイクラーの治療

山田 和夫  東洋英和女学院大学人間科学部人間福祉学科 教授
         和楽会横浜クリニック 院長

要旨
 ラピッド・サイクラー(RC)は,年4回以上病相を繰り返す頻発型の双極性気分障害で,リチウム治療に抵抗性であることが多く,難治性の障害である.それだけに系統的な治療アルゴリズムが求められる障害でもある.RC 治療のために,まず@リチウムを十分量投与する.効果が不十分であればAバルプロ酸またはカルバマゼピンを十分量加える.それでも寛解に至らなければBクロナゼパムを加えていくような段階的治療アルゴリズムを作成した.

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第5章 管理・治療(各論)
気分変調症の治療

坂本 暢典 南草津坂本診療所 所長

要旨
 慢性軽症のうつ状態は,日常臨床において最も頻度の高い状態像である.本稿では,慢性軽症のうつ状態の患者の診断治療を行う場合の手順について,日常臨床において念頭に置く順序に合わせて,不安性障害・適応障害・妄想性障害・解離性障害・広汎性発達障害・気分変調症の順に取り上げ,簡単に症例を呈示して,診断のポイントを中心に考察した.

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第5章 管理・治療(各論)
うつ病と自殺

高橋 祥友 防衛医科大学校防衛医学研究センター行動科学研究部門 教授

要旨
 さまざまな精神障害と自殺の関連が指摘されているが,その中でも気分障害(特にうつ病)と自殺の関係が最も密接である.ところが,自殺したうつ病患者を詳しく検討すると,生前に精神科治療を受けていた症例は必ずしも多くはないというのが現実である.現在では,うつ病に対して効果的な薬物療法や精神療法などが各種開発されているので,早期にうつ病を診断して,適切な治療を実施することが自殺予防につながる.

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第5章 管理・治療(各論)
働く人のうつ病

田中 克俊 北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学 准教授

要旨
 患者が労働者の場合,主治医は単に抑うつ症状の経過に焦点を当てるだけでなく,労働への適応状況にも目を配り,労働生活の質の向上も治療の重要なアウトカムととらえるべきである.うつ病労働者の治療・管理には,薬物療法や精神療法などの治療的アプローチのほか,労働者を取り囲むさまざまな職場要因を踏まえた心理社会的アプローチが必要となる.
 本稿ではうつ病労働者における薬物治療のポイント,うつ病労働者ケアにおいて必要と思われる仕事ストレスやその他の職場要因についての説明,および職場復帰における支援のポイントを中心に述べる.
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第5章 管理・治療(各論)
緩和医療におけるうつ病

小川 朝生 国立がんセンター東病院臨床開発センター精神腫瘍学開発部

要旨
 患者・家族からの強い要望を受けて,がん医療における精神症状・心理的苦痛に対する支援体制が強く望まれている.特にうつ症状は,がん患者の約 30% と高頻度に認められ,治療にも QOL にも著しい障害を引き起す.がん患者のうつ病に対しても薬物療法の有効性が示されている一方,うつ病は患者・医療者から見落とされることが多い.適切な支援を提供するためにも,施設をあげた取組みが求められる.

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第6章 ガイドライン
躁うつ病の治療ガイドライン

樋口 輝彦 国立精神・神経センター 総長

要旨
 大うつ病の治療ガイドラインのうち,治療計画の策定に絞って紹介した.精神医学的管理では,1)入院の適応,2)初診時診察のポイント,3)治療関係の確立,4)疾患教育について述べた.治療関係の確立には,@十分に話を聞く,A十分な病気の説明,B治療方針の説明,C経過に則した心理教育が重要と考えられた.次に急性期治療,継続期治療,維持期治療のアウトラインについて述べた.急性期治療の治療法には薬物療法,精神療法,電気痙攣治療(ECT)などの身体療法があるが,いずれか1つが選択されるわけではなく,重症度,症状に応じて幾つか組み合わせて用いるのが一般的である.次に,大うつ病治療のアルゴリズムについて紹介した.軽症あるいは中等症の大うつ病に対する第1選択薬は選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)あるいはセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)であることは広く認識されている.ベンゾジアゼピンの併用は初期に限るべきである.これらで効果が得られない場合には,ほかの種類の抗うつ薬に切り換えるかリチウムによる効果増強を試みる.このほか,重症例に対するアルゴリズムについても紹介した.

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