要旨

最新醫學 診断と治療のABC 106
心不全

第1章 概念・定義と疫学
慢性心不全の概念とそのクロニクル
~急性心不全と慢性心不全は分けなければいけないか~

加藤 真帆人   日本大学医学部内科学系 循環器内科学分野

要旨
 本邦では,急性心不全と慢性心不全それぞれにガイドラインが存在しているが,臨床では,両者は同一の患者に生じる.虚血性心疾患や弁膜症,もしくは心筋症などの基礎心疾患によって,心機能異常を有する患者は慢性心不全と診断され,急性心不全もしくは急性増悪は,慢性心不全の“発作”ととらえるべきである.

キーワード
急性心不全 急性増悪 慢性心不全 Stage NYHA機能分類

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第1章 概念・定義と疫学
我が国における心不全患者の動向 海外との比較

坂田 泰彦     東北大学大学院医学系研究科 循環器内科学分野 准教授
下川 宏明     東北大学大学院医学系研究科 循環器内科学分野 教授

要旨
 現在,世界中で心不全が増加しており,心不全パンデミックと呼ばれる時代が到来している.特に,世界に先駈けて超高齢社会に突入した我が国においては,高齢者を中心に心不全の増加は深刻であり,虚血性心不全,左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF),女性の心不全が,心不全診療におけるキーワードとなっている.本稿では,東北慢性心不全登録(CHART)研究のデータをもとに,海外との比較を行いつつ,我が国における心不全患者の動向を概説する.

キーワード
心不全パンデミック 超高齢社会 虚血性心不全 女性 左室駆出率の保たれた心不全

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第2章 病態・病態生理
基礎疾患鑑別に必要な病理知識

池田 善彦  国立循環器病研究センター病院 病理部 臨床病理科 医長

要旨
 2006年米国心臓協会(AHA)分類に沿って,心筋症,特定心疾患例について,膠原線維を青染するマッソン・トリクローム染織標本のルーペ像を中心に提示した.近年の画像検査の進歩に伴い,微細な病変の把握が可能になりつつあり,できる限り病変の質的診断を行うことが望まれている.本稿では,日常診療の場において役立てていただくため,大切片のルーペ像について解説した.

キーワード
心筋症 特定心疾患 微小循環 線維化

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第2章 病態・病態生理
心筋症の原因遺伝子

朝野 仁裕      大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学

要旨
 遺伝性心筋症の鑑別においては,特発性心筋症(拡張型心筋症(DCM),肥大型心筋症(HCM),拘束型心筋症(RCM),左室緻密化障害(LVNC))だけでなく,代謝蓄積性疾患(アミロイドーシス,ダノン病,ファブリー病,糖原病),心伝導障害,ミトコンドリア病,神経筋疾患(筋ジストロフィー)などの全身疾患も想定しなければならない.近年大きく進歩した遺伝子解析技術により原因遺伝子の同定も進み,難治性疾患の病態理解と診療への応用が期待されている.

キーワード
特発性心筋症 遺伝素因 遺伝子変異 次世代シーケンス解析 2次性心筋症鑑別

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第2章 病態・病態生理
不全心筋のメカニズム

中村 一文  岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学 准教授
高橋 生    岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学
木村 朋生  岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学

要旨
 心不全の発症・進展のメカニズムは原因疾患によって異なるが,心筋細胞の喪失と機能不全(収縮・拡張不全)が共通する.その要因として,心筋細胞死(アポトーシス・ネクローシス・オートファジー),心筋細胞の機能不全(収縮・弛緩障害)さらに酸化ストレスとネプリライシン(NEP)上昇などがある.高血圧・糖尿病・脂質異常症・メタボリックシンドロームという危険因子も,それらのメカニズムを惹起させ,心不全を発症・増悪させる.

キーワード
心筋細胞死 心筋カルシウム制御異常 酸化ストレス ネプリライシン

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第2章 病態・病態生理
交感神経の役割
岸 拓弥     九州大学循環器病未来医療研究センター 未来心血管治療学共同研究部門 准教授

要旨
 心不全は,心臓・血管・腎臓など自律神経により連携して維持している循環動態が破綻した状態である.自律神経系は脳が制御しており,特に交感神経は圧受容器・化学受容器・心肺圧受容器・筋肉からの神経性入力,さらには液性因子入力を,脳が情報処理し出力する.つまり,脳の情報処理不全が,交感神経の過剰な活性化を介して,心不全の本質的な原因となっていると言える.

キーワード
交感神経 心不全 脳

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コラム
心不全と老化
池上 龍太郎   新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学
清水 逸平     新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学 特任准教授
吉田 陽子     新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学
南野 徹      新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学 教授

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第3章 診断
心不全におけるclinical profileの有用性

佐藤 直樹   日本医科大学武蔵小杉病院 循環器内科 教授・集中治療室 室長

要旨
 心不全の診断には,症状および兆候をしっかりと把握することが不可欠である.診断とともに,病態把握を行うことが適切な治療に結びつくことは言うまでもない.特に,急性期において,迅速にかつ的確に病態把握し,時間軸を想定した早期介入を念頭に置くことが重要である.そして慢性期は,適宜病態変化を把握し,治療の軌道修正,強化を図っていくことが,再入院減少につながると考えられる.

キーワード
うっ血 低心拍出 肺水腫 溢水 臓器うっ血

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第3章 診断
心不全のバイオマーカー

佐藤 幸人   兵庫県立尼崎総合医療センター 循環器内科 科長

要旨
 バイオマーカーは,採血のみで結果が得られ,①診断,②予後予測,③治療効果判定,において客観的な評価が可能である.注意点としては,バイオマーカーだけで診断,評価するのではなく,症状とほかの検査所見を組み合わせて,総合的に判断することが大切である.心不全におけるバイオマーカーの候補は数多くあるが,ガイドライン推奨のバイオマーカーとしては脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)が第1選択であり,次はトロポニンT(TnT)またはI(TnI)である. キーワード
BNP トロポニン 心不全 バイオマーカー

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第3章 診断
心エコーで心不全の何が分かるか
山田 聡     北海道大学大学院医学研究科 循環病態内科学 講師

要旨
心エコー法による心機能評価にあたっては,心臓に固有の“心機能”と,時間とともに変化する“血行動態”を区別することが大切である.心室充満圧と心拍出量の2つの血行動態指標により,心不全の病型を分類する.予後を予測するためには,固有の心機能指標,経時的変化の要素を加えた血行動態指標,さらには,心筋機能を反映する指標や右室機能を評価する.

キーワード
心エコー法 心不全 左室収縮機能 左室拡張機能 左室充満圧
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第3章 診断
右心カテーテルはどのタイミングで使うべきか

樋口 義治   大阪警察病院 循環器内科 副部長

要旨
 心不全症例において,右心カテーテル法をルーチンで用いることや,漫然と留置し続けることは,慎むべきである.急性呼吸不全の診療の初期において,心不全の関与を診断する際に有効ではあるが,呼吸器疾患と心疾患は合併することが多く,厳密な鑑別は臨床的意義が薄い.ポンプ機能の低下した心不全の治療過程で,うっ血の解除が困難な状況であれば,右心カテーテルによる血行動態モニタリングは,薬剤選択・調整に有用である.

キーワード
右心カテーテル Forrester分類 非心原性肺水腫 体血管抵抗 左室仕事量    

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第3章 診断
心臓核医学を用いた心不全予後予測:
心臓交感神経活性および局所心機能解析の観点から
木曽 啓祐   国立循環器病研究センター 放射線部 医長

要旨
 123I-メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)は,心臓交感神経活性を評価できる,数少ない有用な検査法であり,心不全における予後予測や治療効果予測,さらにはその効果判定についても数多く報告されており,臨床現場でも活用されている.心電図同期心筋血流SPECT(GMPS)においても,位相解析を加えることで局所の収縮時相の同定から左室収縮協調不全(LV dyssynchrony)の定量的評価が可能となり,心臓再同期療法(CRT)の適応決定や治療効果判定について,その有用性が期待されている.

キーワード
心不全 MIBG 心電図同期心筋血流SPECT 位相解析 LVdyssynchrony

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コラム
これからの心不全画像診断のあるべき姿 中谷 敏  大阪大学大学院医学系研究科 機能診断科学 教授

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第4章 管理・治療
心不全におけるチーム医療とは
鈴木 誠   亀田総合病院 循環器内科 部長

要旨
心不全は予後不良で,再入院率が高く,それに伴う医療費増加,患者の生活の質(QOL)低下が問題とされている.心不全増悪は,飲水塩分制限の不徹底など,医学的因子以外が指摘され,その指導,管理の重要性が報告されている.このような問題を解決するため,多職種で治療介入するチーム医療が重視されてきている.チーム医療の導入は容易ではないが,心不全に立ち向かうために,各施設に適切な多職種チームを立ち上げることが望まれる.

キーワード
チーム医療 心不全増悪因子 多職種チーム

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第4章 管理・治療
慢性心不全における薬物治療のエビデンス
奥村 貴裕   名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学

要旨
 慢性心不全の治療薬には,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),β遮断薬,抗アルドステロン薬,利尿薬,ジギタリス,血管拡張薬,ホスフォジエステラーゼ(PDE)Ⅲ阻害薬/Ca感受性増強薬がある.さらに,近年,ネプリライシン阻害薬やivabradineといった,新しい薬剤のエビデンスも出てきている.本邦のガイドラインでは,大規模臨床試験の結果に基づき,重症度に応じた治療薬の選択が推奨されており,無症候期からの適切な薬剤導入が望まれる.

キーワード
ACE阻害薬 ARB β遮断薬 耕アルドステロン薬
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第4章 管理・治療
急性心不全における血管拡張薬の役割
木田 圭亮    聖マリアンナ医科大学 循環器内科 講師

要旨
 急性心不全は,慢性心不全の急性増悪もしくは新規発症から成り,キーワードは臓器うっ血と低心拍出(LOS)で,この2つを常に意識した薬物治療と非薬物療法を,チーム医療で行うことが重要である.そのうち,血管拡張薬はうっ血の解除に大きな役割を果たしており,本稿では,急性心不全における血管拡張薬の役割について,各薬剤の特徴,実際の使用方法,最新のトピックス,エビデンスを紹介したい.

キーワード
ATTEND Registry うっ血 エビデンス クリニカルシナリオ

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第4章 管理・治療
上手な利尿薬の使い方
猪又 孝元   北里大学医学部 循環器内科学 講師

要旨
 血管内外すべてのうっ血を取り除くことは,患者の愁訴を軽減するだけでなく,予後をも改善させる.ただし,問題となるのは,ループ利尿薬抵抗性であり,低心拍出と腎機能悪化の副作用である.ループ利尿薬を効かせるために,血圧を保ち,少量でもかまわないので,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)遮断薬を併用する.それでも抵抗性の場合は,積極的に多剤併用を試みる.

キーワード
ループ利尿薬 抵抗性 体液量 心不全予後 多剤併用

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第4章 管理・治療
強心薬は善か悪か
神津 英至   札幌医科大学医学部 循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座

要旨
 ポンプ失調による低灌流を呈する重症心不全にとって,強心薬は生命の維持に不可欠である.一方で強心薬が必ずしも必要のない心不全にとって,強心薬は予後を悪化させる可能性がある.強心薬が必要か否かを判断するために重要なことは,患者背景から心不全の病期分類を行い,心予備能が極めて低下した重症心不全かどうか判断すること,およびその時点での血行動態を正しく把握することである.

キーワード
StageD心不全 血行動態 ドブタミン ホスフォジエステラーゼ阻害薬

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第4章 管理・治療
陽圧呼吸療法の可能性
安達 仁   群馬県立心臓血管センター 循環器内科

要旨
 陽圧呼吸は,急性心不全症候群に対しては,心機能・酸素化・心内圧改善効果を速やかに発揮するため,初期治療として使用する.慢性心不全に対しては,心ポンプ機能・自律神経活性・運動耐容能改善効果を示して,日常活動中の症状を改善させる.自宅に順応性自動制御換気(ASV)があれば,心不全が急性増悪しそうなときに,硝酸薬スプレーとASVによって緊急入院を回避できる.効果は無呼吸低呼吸指数(AHI)に依存せず,日中1時間使用で心不全治療効果が得られる.無理強いは逆効果である.

キーワード
陽圧呼吸 心不全 不安定呼吸 心機能

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第4章 管理・治療
心不全における包括的心臓リハビリテーションについて
岡田 健一郎      大阪府済生会千里病院 心大血管疾患リハビリテーション科 部長・循環器内科 副部長

要旨
 包括的心臓リハビリテーションとは,心臓病患者の社会復帰および再発予防を目的とし,運動療法,患者教育や心理カウンセリングなどを包括した,治療手段の1つである.心不全患者に対しては,適切な方法で運動療法を継続的に行うことにより,運動耐容能や生活の質が向上し,生命予後が改善する.ただし,これらの効果を得るには,運動療法のみならず,疾病管理プログラムに基づいた患者教育を,多職種で実践していくことが重要である.

キーワード
包括的心臓リハビリテーション 運動耐容能 生活の質 生命予後 疾病管理プログラム

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第4章 管理・治療
心不全合併症としての貧血の影響
内藤 由朗    兵庫医科大学 内科学 循環器内科 講師
増山 理    兵庫医科大学 内科学 循環器内科 主任教授

要旨
 心不全の合併症として,貧血の存在が報告されている.また,貧血は心不全患者の予後規定因子であることも明らかにされ,貧血改善が心不全患者の予後改善につながることが期待される.そのため,最近心不全における貧血の研究が,盛んになされている.心不全における貧血はどうして起るのか?どのように治療すべきか?本稿では,その機序と対策について概説する.

キーワード
心不全 貧血 鉄欠乏 エリスロポエチン 鉄剤

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第4章 管理・治療
Structural heart diseaseの現状と未来
溝手 勇      大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学

要旨
 本邦における心構造疾患のカテーテル治療は,経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)が導入されることにより大きく注目された.ヨーロッパ(EU)では,すでに大動脈弁疾患のみならず,僧帽弁疾患にもデバイス治療が行われている.TAVIは,すでに新しいデバイスが出現することにより,多くの問題点が解決されつつあり,さらなる飛躍を遂げようとしている.これらのデバイスの進歩に合わせ,デバイス治療が心不全治療として画期的な方法と成りうるかが,今注目されている.

キーワード
SHD TAVI 経皮的カテーテル増傍弁置換術 心不全

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第4章 管理・治療
補助人工心臓治療の現状と問題点
簗瀬 正伸   国立循環器病研究センター 移植対策室 医長

要旨
 Stage Dの重症心不全に対する治療として,心移植と補助人工心臓(VAD)が広く認知されるようになった.2011年4月に非拍動流植込型VADが心移植へのブリッジに対して保険償還され,在宅による心移植待機が現実のものとなった.我が国のVAD治療を取り巻く医療現場や社会環境は,大きく変化したと実感しているが,まだまだ解決しなければならない問題も多い.本稿ではVAD治療の現状と問題について概説する.

キーワード
心不全 補助人工心臓 J-MACS

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第4章 管理・治療
心不全における緩和ケアとは
大石 醒悟   兵庫県立姫路循環器病センター 循環器内科

要旨
 緩和ケア(palliative care)という言葉から,循環器診療に携わる多くの医療者は,がんの終末期における,麻薬使用を中心とする症状緩和を想像するものと考える.しかし,緩和ケアは終末期ケアと異なり,全人的苦痛に対処し,QOLを改善する多面的アプローチと定義されており,診断時から介入すべきものである.心不全は増悪,寛解を繰り返す経過をたどることから,意思決定支援が非常に重要であり,緩和ケア実践の本質である.

キーワード
緩和ケア 終末期ケア 意思決定支援 ask-tell-askアプローチ

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コラム
めずらしい心筋症 -Only a heart isn’t everything-

北岡 裕章    高知大学医学部 老年病・循環器・神経内科学 教授

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第5章 ガイドライン
これからガイドラインで使われるであろう心不全のエビデンス

篠岡 太郎    東京医科歯科大学 循環器内科

要旨
 現在,日本循環器学会が発行している心不全に関するガイドラインは,薬物療法から非薬物療法,補助人工心臓まで多岐にわたり,終末医療なども入れると,関連するものは計8編にも及ぶ.心不全患者に最善の医療を提供するには,これらのガイドラインをバランス良く把握しておく必要がある.本稿では,薬物・非薬物療法ガイドラインが,今後改訂された際に引用されると思われる,最新のエビデンスを紹介する.現代の心不全治療では,患者背景や重症度に応じ,適切な薬物・非薬物治療を選択することが求められている.

キーワード
心不全 エビデンス 薬物療法 非薬物療法
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