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最新医学54巻1号

特集要旨

アプローチ
女子栄養大学大学院 教授 香川 靖雄

要旨
人体のエネルギー源であるATPは、ATP合成酵素によって1日に体重と同量程度合成され、全活動に消費される。その制御は救急医療から運動、肥満にいたるまで、大きな影響を持つ。分子遺伝学、生物物理学、測定法の発展による新しい視点からエネルギー代謝を検討する。根底にあるミトコンドリアや脂肪細胞の制御系β3アドレナリン受容体多型、内臓脂肪症候群、運動療法、輸液、アルコール代謝などの前提となる知見を示した。

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エネルギー所要量
国立健康栄養研究所 所長 小林 修平

要旨
エネルギー所要量は栄養所要量の最も基本的な数値であるが、我が国では原則としてエネルギー消費量に等しいとして算定されている。生活習慣病時代を迎えた我が国では、その保健政策を支える一環としての栄養所要量のあり方を見直すべき局面に立たされており、エネルギー所要量としても、その生理的個人差、肥満や糖尿病の予防、さらに栄養素密度の適切な確保といった視点を取り入れた検討がなされつつある。

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マクロレベルでのエネルギー代謝−二重標識水法の原理とその応用−
産業医科大学産業保健学部 人間科学教室 教授 柏崎 浩

要旨
1980年以降に用いられるようになった二重標識水(DLW)によるエネルギー消費量の測定は、マクロレベルのエネルギー代謝に新しい知見をもたらした。公表された研究報告は多くないが、1990年代後半から、この方法を用いた研究報告は確実に増加している。近年の諸科学の最先端が次々と示すような、いわゆる新発見をもたらすような華やかさを持たないが、過去の推計方法の問題点、エネルギー代謝に関わるさまざまな仮説の再検討、さらに蓄積したデータに基づくエネルギー所要量の見直しを促しつつある。

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呼気ガス分析法
新潟大学医学部 第一外科 講師 佐藤 信昭
同 教授 畠山 勝義

要旨
呼気ガス分析は、酸素消費量と炭酸ガス産生量を求め、間接的にエネルギー消費量を算出する方法であり、尿中窒素排泄量を加えると3大栄養素の燃焼に由来するエネルギー産生量がそれぞれ求められる。呼気ガス分析の実施に当たっては、呼吸状態が安定していることが重要である。換気状態や代謝変動の激しい高度侵襲下では、安定同位元素などの標識物質を併用した呼気ガス分析がよりエネルギー代謝変動を正確に表す。

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健康づくりのための運動所要量
順天堂大学大学院 スポーツ健康科学部 教授 青木 純一郎

要旨
健康づくりのための運動所要量(厚生省)は、平成元年に公表された。健康に関連する体力要素の中で、特に健康全般と関連が深く、研究も進んでいる全身持久性に焦点が絞られた。生活習慣病の危険因子の所有数との関係から、年代別に最大酸素摂取量(VO2max)の目標値(男性37ml/kg/分:女性31)を設定し、そのレベルを維持、またはそこまで高めるのに必要な効果的で安全な運動強度、1週間あたりの時間および頻度を運動所要量とした。

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ミトコンドリア病
国立精神 神経センター武蔵病院 院長 埜中 征哉

要旨
ミトコンドリアはエネルギーを産生する細胞内小器官で、その中に数コピーのミトコンドリアDNA(mtDNA)を持つ。ミトコンドリア電子伝達系酵素は、ミトコンドリアと核の両方の遺伝子でコードされている。ミトコンドリア遺伝子の変異(主として母系遺伝)でも核遺伝子の変異でも、ミトコンドリア病は起こる。病気の大半は進行性の筋力低下と何らかの中枢神経系症状を見る。しかし、同一の遺伝子変異でも症状が多様であることが特徴的である。

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ミトコンドリアと老化
名古屋大学医学部 名誉教授 小澤 高将

要旨
ミトコンドリアには固有のDNAが存在し、エネルギー産生系の主要部分をコードしている。このDNAは極めて脆弱であり、酸化的障害により断片化して遺伝子が崩壊し、エネルギー危機により細胞はアポトーシスすることが判明した。この遺伝子崩壊は、脳神経、筋肉などの安定組織において顕著で、加齢に伴う痴呆、心不全などの機能不全や、Parkinson病、心筋症など退行性疾患を発現する。これら組織の老化は、ミトコンドリア遺伝子の脆弱性に支配されているところが大きい。

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脂肪細胞分化
京都大学大学院農学研究科 応用生命科学 助教授 河田 照雄

要旨
脂肪組織は、摂取エネルギーを脂肪の形態で蓄積し適宜全身に再供給する、高度に組織化された器官である。この制御は神経−内分泌系の支配下で行われ、生命活動の維持を物質面で保証する。近年、エネルギー備蓄器官としての脂肪細胞の分化、発生機構の詳細が次第に明らかになってきた。その制御機構は、エネルギー代謝異常症とも言える生活習慣病の発症とも絡んで注目される。

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脱共役タンパク質ファミリーの分子機構とエネルギー代謝における臨床的意義
京都大学大学院医学研究科 臨床病態医科学、第二内科 細田 公則、伊藤 裕、松田 淳一、孫 徹、小川 佳宏、益崎 裕章、井上 元、西村 治男
同 講師 吉政 康直
同 教授 中尾 一和

要旨
エネルギー消費の分子生物学は従来、未解明であったが、骨格筋特異的な脱共役タンパク質3(UCP3)、および白色脂肪などの全身で発現するUCP2の最近の発見により、急速に進展している。UCP3とUCP2は、電子伝達系とATP合成系を脱共役し、in vivoの機能として肥満の抑制と糖消費の増加などが示唆されている。またその遺伝子発現は、肥満、絶食、レプチン、寒冷、チアゾリジン、脂肪酸などのさまざまな代謝のパラメーターによって調節されており、UCP3とUCP2は生体代謝調節のキープレイヤーとしての意義が注目される。

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β3アドレナリン受容体多型
東京大学医学部 糖尿病代謝内科 森 保道、元山 薫
同 講師 門脇 孝

要旨
β3アドレナリン受容体(β3-AR)は、脂肪組織特異的に発現するβ受容体のサブタイプである。コドン64がトリプトファンからアルギニンに置換する遺伝子多型(Trp64Arg)が同定され、肥満、基礎代謝量の減少、内臓脂肪蓄積傾向、減量抵抗性との関連が示されている。この多型は日本人に高頻度に認められ、肥満や生活習慣病の遺伝的危険因子として重要である。

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内臓脂肪症候群
大阪大学大学院医学系研究科 分子制御内科学(第二内科) 中村 正
同 教授 松澤 佑次

要旨
近年、我が国において動脈硬化性疾患が増加し、その原因として腹腔内内臓脂肪の蓄積を基盤に多数の危険因子が集簇する内臓脂肪症候群が重要視されている。内臓脂肪は皮下脂肪と比較して脂肪合成や分解が速やかな代謝上活発な組織であり、内臓脂肪から遊離した脂肪酸は門脈を介して直接肝臓へ流入し、病態の発症に密接に関連する。最近では脂肪組織が多数の生理活性物質を産生し、直接病態に関与する機序も重要であることが明らかとなっている。そして、内臓脂肪の蓄積を改善させる最も有効な方法の一つとして、運動療法の重要性が指摘されている。

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運動療法
名古屋大学総合保健体育科学センター センター長、教授 佐藤 祐造

要旨
運動筋では、安静時に比して数十倍のエネルギーが消費される。短時間の急激な無酸素運動では、グルコース、グリコーゲンがエネルギー源となる。一方持続的な有酸素運動では、糖質に加えて脂質もエネルギー源となる。また身体トレーニングの継続は、糖尿病等で低下している個体のインスリン感受性を改善させる。したがって、糖尿病等の生活習慣病の予防、治療のためには、有酸素運動を中心としたトレーニングを継続しなければならない。

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高カロリー輸液
東海大学医学部附属大磯病院 外科 助教授 中崎 久雄

要旨
高カロリー輸液の開発の歴史を述べた。次いでその発展の過程で発生した多くの問題点を列記し、今後の研究に期待すべき点とした。高カロリー輸液は究極の栄養投与法として考えられてきたが、これまで多くの高カロリー輸液を施行し、幾多の合併症を経験し、まず臨床の場で第一に選択すべき栄養法は経腸栄養法であることを痛感した。可及的には経腸栄養法を考慮し、次いで経静脈的高カロリー輸液を選択すべきである。今後開発すべき新しい輸液製剤として、まだ多くの開発の余地がある。核酸輸液および免疫能低下の防止に関しては研究されるべき点である。

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アルコール代謝とアルコールカロリー
金沢医科大学総合医学研究所 がん研究部門 教授 蓮村 靖

要旨
アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)とそれに引き続くアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)によるアルコール代謝は、共に補酵素NAD+の還元化と共役するため高エネルギー産生を伴う。一方、常習飲酒者のアルコール代謝に中心的役割を担うミクロソームエタノール酸化系(MEOS)の反応は、NADPHとO2の消費を高進させエネルギー喪失となる。そこで常習飲酒時には、1g当たり7.1kcalと計算されるアルコール熱量が有効に利用されない可能性がある。

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