最新医学54巻10号(絶版売切)

特集要旨


心臓血管内分泌学

斎 藤 能 彦*   中 尾 一 和**

* 京都大学大学院医学研究科 臨床病態医科学・第二内科 助教授 ** 同 教授

要旨
 1980 年代の前半,心房性ナトリウム利尿ペプチド (ANP) や内皮由来血管弛緩因子 (EDRF) の発見を端緒として,新しい内分泌学,心臓血管内分泌学 (cardiovascular endocrinology and metabolism) が産声を上げた.この学問は,その後エンドセリンファミリーやレニン・アンジオテンシン系を加え,分子生物学や発生工学の進歩と協調して急速に発展し,広く循環器系の分化発生,病態生理に深く関与していることが明らかとなってきた.ナトリウム利尿ペプチド系,エンドセリン系,レニン・アンジオテンシン系の最近のトピックスを紹介する.

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神経内分泌代謝学のトピックス

今城 俊浩*   出村 博**

* 東京女子医科大学 第二内科 ** 同 教授

要旨

 神経内分泌代謝学の分野では,分子生物学の進歩によりプロオピオメラノコルチンの合成・分泌やその作用に関連する遺伝子の変異による肥満症が明らかとなった.また,MRI の普及により自己免疫機序による下垂体炎の病態の解明が進んでいる.治療のトピックスとして,非ペプチド性の受容体拮抗薬が種々の疾患の治療薬として臨床応用される見込みである.副腎皮質ホルモン補充療法はさまざまな問題を抱えており,エビデンスに基づいた治療指針を決めるのが急務である.

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脂肪内分泌代謝学

松 澤 佑 次
大阪大学大学院医学系研究科 分子制御内科学 (第二内科) 教授

要旨
 脂肪細胞が単なるエネルギー備蓄細胞でなく,多彩な生理活性物質を分泌する内分泌細胞であることが明らかとなってきた.脂肪細胞から分泌される物質 (adipocytokines) には,種々の成長因子,補体,がん遺伝子 (oncogene) などに加えて,プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1型 (PAI-1) 等が同定されており,脂肪の蓄積,特に内臓脂肪蓄積時に分泌が増加して血管病変に関連する.そのほかにも新規の脂肪細胞特異性分子が次々と同定されてきており,肥満に関連する多くの病態の分子メカニズムが解明されていくものと思われる.

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骨・カルシウム内分泌代謝学

松 本 俊 夫
徳島大学医学部 第一内科 教授

要旨
 副甲状腺ホルモンによる血中カルシウム (Ca) 濃度の維持に中心的役割を担う Ca 感知受容体が同定され,その異常に基づく各種の疾患も明らかにされた.またビタミン D の 1α-ヒドロキシラーゼがクローニングされ,ビタミン D 依存症I型がその遺伝子変異によることも証明された.一方,骨芽細胞分化のマスター遺伝子である Cbfa 1 や骨芽細胞表面に発現される破骨細胞分化因子など,画期的な発見がなされた.さらに,男性においてもエストロゲンが骨代謝の調節に重要な役割を果たすことが示された.

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甲 状 腺

網 野 信 行**  高 野 徹*   巽 圭 太*

*大阪大学医学部 臨床検査診断学 D2 講師
** 同 教授

要旨
 甲状腺乳頭癌では癌胎児性フィブロネクチンをマーカーに穿刺吸引 RNA 診断が可能となった.Basedow 病では Th1/Th2 両方に活性化が見られ,自己免疫性細胞障害機作として Fas/FasL 系が重要である.甲状腺刺激ホルモン (TSH) 受容体遺伝子変異による新しいタイプの甲状腺中毒症が報告され,受容体抗体の高感度測定法が開発された.ヨード輸送タンパク質 (NIS) の遺伝子解析からヨード濃縮障害の遺伝子異常が解明された.甲状腺特異的転写因子 TTF 1,TTF 2,Pax 8 の遺伝子異常症が発見された.

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ヒトゴナドトロピン受容体の分子機構

大須賀 穣*   武 谷 雄 二**
* 東京大学医学部 産科婦人科学教室 ** 同 教授

要旨
 卵胞刺激ホルモン (FSH) と黄体形成ホルモン (LH) は,哺乳類の雌雄の性腺の増殖と分化において必須である.疾病の原因となる変異受容体を用いることにより,受容体の分子機構が研究できる.思春期早発症患者に見つかった LH 受容体の機能獲得変異を用い,LH 受容体の活性化における第V,第VI膜貫通領域 (TM) の相互作用の重要性を示し,仮性半陰陽患者に見つかった LH 受容体の機能喪失変異をはじめとする実験により,LH 受容体の機能における細胞外ドメインと TMI の結合の重要性を示した.また,FSH,LH 受容体おのおのの細胞外ドメインのみよりなるタンパク質を作成し,FSH,LH おのおのに特異的なアンタゴニストの開発の可能性を示した.

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内 分 泌 病 理 学

梶 原 博*   長 村 義 之**

* 東海大学医学部 病態診断系病理学 ** 同 教授

要旨
 内分泌細胞は全身に分布し,反応性ないし腫瘍性病変においてさまざまな組織像を呈する.内分泌病変を病理学的に把握するためには,ホルモンの化学的性状からペプチド,アミン,ステロイド,ジフェニルエーテルの4つに大別し,それぞれにおける生合成の過程を理解し,その現象を組織化学,免疫組織化学,in situ ハイブリダイゼーションもしくは電子顕微鏡を用いた超微形態観察などによって病理組織学的につかむ必要がある.病変における内分泌形質を証明する方法について,最近の話題も含めて解説する.


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Endocrinology から Intracrinology へ


笹 野 公 伸**  鈴 木 貴*
* 東北大学大学院医学系研究科 医科学専攻病理学講座 病理診断学分野 ** 同 教授

要旨
 近年ステロイドホルモンの作用においては,血中の生物学的活性の低いホルモンを標的組織において生物学的活性の高いホルモンに変える機構が,極めて重要な役割を果たしていることが示されてきている.この作用機構は,従来の古典的な endocrinology (液性内分泌学) に対して intracrinology または incrinology (細胞組織内分泌学) と呼ばれてきており,性ステロイドおよび副腎皮質ホルモンが関与する生理学的および病的現象双方において大きな注目を集めてきている.

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内分泌かく乱物質

井 口 泰 泉
横浜市立大学理学部・大学院総合理学研究科 教授

要旨
 内分泌かく乱物質の問題は,野生動物において化学物質と生殖器の奇形や,生殖の減少の関連から提起された.ヒトでは胎児への影響が最も懸念される.野生動物では,生態学的な調査と環境中の化学物質の量の把握,化学物質の複合影響の解明が求められている.作用機構に基づいた内分泌かく乱の解明が急務である.このような観点から,昨年と本年にゴードン会議とキーストンシンポジウムが開催されたので,その内容を紹介する.


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糖 尿 病 学


春 日 雅 人
神戸大学医学部 第二内科 教授

要旨
 糖尿病学においても,ノックアウトマウスを用いた研究が盛んになってきた.この手法を用いて,インスリン作用に重要と考えられていたインスリン受容体あるいは IRS-2 が膵 β 細胞でも重要な働きをしている成績や,肝臓におけるインスリン作用のほうが筋肉,脂肪におけるインスリン作用より重要かもしれないという成績が得られつつある.マウスについての成績であるが,検討すべき興味ある成績である.

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がん悪液質惹起因子の解明−サイトカインを中心に−


奈 良 典 子*   梶 村 直 子* 塚 田 俊 彦**  山 口 建***
* 国立がんセンター研究所 細胞増殖因子研究部 
** 同 室長 *** 同 部長


要旨
 顕著ながん悪液質を呈するヒト・ヌードマウス移植腫瘍系を用いて,がん細胞の産生する悪液質惹起因子の同定を試みたところ,悪性黒色腫株および神経上皮腫株では大量の LIF の産生が,子宮頸がん株では IL-6 の産生が,また口腔底がん株では LIF,IL-6,IL-11 の同時産生が認められた.これらの結果は,がん悪液質と異所性サイトカイン産生の関連を示唆するものである.

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小児内分泌代謝学

神 崎 晋*1  池 上 彩 子*2  清 野 佳 紀**2
*1 鳥取大学医学部 小児科 教授
*2 岡山大学医学部 小児科 **2 同 教授


要旨
 近年の著しい分子遺伝学の進歩とともに,急速な早さでホルモン受容体ならびにその発現調節にかかわる (転写因子) 遺伝子がクローニングされつつある.本稿では下記に示す小児領域における近年の内分泌学の進歩について概説した.1) GH 系 : 1. GRH 受容体異常症,2. Prop-1 異常症,3. IGF-I 遺伝子異常,2) 甲状腺系 : 1. TSH 受容体異常症,2. Na/I 輸送体,3) 性腺系 : 1. SOX 9,2. SF-1,3. DAX-1,4) カルシウム・リン代謝 : 1. カルシウム感受性受容体,2. PHEX 遺伝子,3. 1α-ヒドロキシラーゼのクローニングとビタミン D 依存性くる病1型.今回提示した知見を基に,今後さらに軽症あるいは非典型的な症例が見いだされ,小児内分泌疾患の解明が進むことが期待される.


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加齢内分泌代謝学


森 本 茂 人*   荻 原 俊 男**
* 大阪大学大学院医学系研究科 生体制御医学専攻 加齢医学講座 助教授 ** 同 教授


要旨
 加齢に伴う内分泌機能の変化で最も顕著なものは性腺ホルモンの低下であり,特に女性においては閉経後種々の老化現象が現れる.これに対して女性ホルモン補充療法が行われており,骨粗しょう症の予防のほか,動脈硬化性脳心血管疾患,脂質代謝異常,あるいは Alzheimer 病に対する予防・治療効果が報告されている.その他,メラトニンと老年者の夜間不穏,ビタミン D と老年期痴呆,高齢者肺炎,老年者の糖代謝の最近の話題について紹介する.

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内分泌臓器の分化と再生


石 山 延 吉*1*2 小 島 至**2
*1 群馬大学医学部 臨床検査医学
*2 群馬大学生体調節研究所 細胞調節分野 **2 同 教授

要旨
 内分泌臓器である膵臓は内胚葉由来の臓器で,胎生期中期に消化管から腹側および背側が出現し,その後両者が癒合することで形成される.膵内分泌細胞は,神経細胞に類似した特徴を持つが,外分泌細胞とともに膵導管上皮の共通前駆細胞から分化してくる.この分化過程には,さまざまな転写因子が関与している.またアクチビン,フォリスタチン,ベータセルリン,HGF などの因子が分化を調節していると考えられる.

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内 分 泌 外 科


高 見 博
帝京大学医学部 第一外科 教授

要旨
 最近の内分泌外科の進歩の中に,超音波ガイド下による穿刺吸引細胞診 (USG-FNA) と経皮的エタノール注入療法 (PEIT) ,遺伝性甲状腺髄様がんに対する RET がん遺伝子による DNA 診断がある.副甲状腺では 99mTc-MIBI シンチグラフィーによる局在診断,術中迅速インタクト PTH 測定などが挙げられる.また,手術では内視鏡下甲状腺・副甲状腺手術があり,MIBI を用いた放射免疫ガイド下手術 (RIGS) も新しい.多発性内分泌腫瘍症 (MEN) 1型においても MEN 1 遺伝子による診断が行われつつある.

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