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最新医学54巻3号

特集要旨

アプローチ:ABCタンパク質の多機能性と生体防御
京都大学大学院農学研究科 応用生命科学専攻 生化学研究室 植田 和光

要旨
ABCタンパク質は,よく保存されたATP結合ドメイン(ATP結合カセット)を1機能分子当たり2つ持つ膜タンパク質の総称である.いずれも細胞内ATPによって駆動あるいは制御されているが,トランスポーター,チャネル,受容体(レギュレーター)という多様な機能を持った膜タンパク質に分化している.さらに,P糖タンパク質やCFTRは多機能性を示し,2つ以上の機能を合わせ持つ.生物は,ABCタンパク質をさまざまな活性を持つ膜タンパク質に進化させ,外界の有害物や環境変化に対応している.

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トランスポーター型ABCタンパク質P糖タンパク質
京都大学大学院農学研究科 応用生命科学専攻 生化学研究室 植田 和光


要旨

MDR 1/P糖タンパク質(Pgp)は,真核生物で最初に見つかったATP結合カセット(ABC)タンパク質である.Pgpは,多様な構造の脂溶性生体異物が細胞内に入る前,つまり細胞膜中で捕らえ,ATP加水分解のエネルギーに依存して細胞外へ排出している.Pgpは生体異物に対する防御機構の最前線として働いている.

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チャネル型ABCタンパク質CFTR
国立生理学研究所 機能協関部門 三好 毅志岡田 泰伸

要旨
ATP 結合カセット(ABC)タンパク質の一員であるCFTRは,それ自身cAMP賦活性Cl−チャネルであるとともに,他チャネルのレギュレーターとしても働く多機能性タンパク質である.チャネル活性のcAMP依存性制御は,細胞内制御ドメインのタンパク質リン酸化/脱リン酸化反応によって行われる.チャネルの開閉そのものには,2つの細胞内ヌクレオチド結合ドメインにおけるATP 結合・水解反応が関与する.CFTR遺伝子変異によって嚢胞性線維症がもたらされるが,その大部分は形質膜への発現欠損に原因する.

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受容体型ABCタンパク質SUR
秋田大学医学部生理学 第一講座 稲垣 暢也

要旨
ATP感受性K+(KATP) チャネルは,細胞内のATP濃度によって開閉が調節されるK+チャネルである.膵ベータ細胞においてはインスリン分泌の鍵となる分子であり,現在世界で最も広く用いられている経口糖尿病治療薬スルホニル尿素(SU)薬の作用点でもある.また心筋や神経細胞においては虚血時の細胞保護作用を有する分子であると考えられている.筆者らは,KATPチャネルがATP結合カセット(ABC)タンパク質であるSU受容体(SUR)と内向き整流性K+(Kir)チャネルのサブファミリーKir 6.xの2つのサブユニットからなる複合体であることを明らかにした.この結果は,ABCタンパク質がイオンチャネルを制御することを明確に示したものであり,これらの研究分野に新たなパラダイムをもたらすこととなった.

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P糖タンパク質MRPとがん
鹿児島大学医学部附属腫瘍研究施設 秋山 伸一  陳 哲生  古川 龍彦

要旨
抗がん薬に対する耐性腫瘍の出現は,がんの治療を行ううえで大きな障害となっている.構造的に関連性のない広範な抗がん薬に同時に耐性になることを多剤耐性(MDR)と言う.MDRに関与する因子として,ATP結合カセット(ABC)トランスポーターファミリーに属するP糖タンパク質MRPがある.MRPは広範な腫瘍に発現し,治療抵抗性と関係している.これらのトランスポーターの機能を阻害して耐性を克服する薬剤が開発されている.

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ABCトランスポーターと体質性黄疸,肝内胆汁うっ滞
九州大学医学部 生化学第一   和田 守正 藤 賢史 内海 健 桑野信彦

要旨
肝は多くの代謝産物や異物を直接あるいは抱合・解毒し,排泄するという極めて重要な機能を持つ.したがって,各トランスポーターの機能異常により,多くの疾病がもたらされることが予測される.最近,体質性黄疸,遺伝性肝内胆汁うっ滞症の責任トランスポーター遺伝子が相次いで同定された.驚くべきことに,このうち3遺伝子がATP結合カセット(ABC)トランスポーターであった.

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嚢胞性線維症とCFTR
京都大学大学院医学研究科 循環病態学  堀江 稔

要旨
嚢胞性線維症(CF)は,欧米おいて現在判明しているヒト遺伝病の中で最も発生頻度の高い遺伝病で,常染色体劣性を示す.しかし本邦では,CF因子を有するキャリヤーが極端に少ないためにまれな疾患である.主に上皮細胞のCl−分泌が障害される.1989年にCF原因遺伝子が同定され,Cl−チャネルをコードすることが分かった.イオンチャネル病としてのCFの病態生理,臨床像,さらに治療戦略について概説する.

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ATP感受性K+チャネルとインスリン分泌異常
千葉大学大学院医学研究科 分子機能制御学  三木 隆司  長嶋 一昭  清野 進

要旨
1995年に膵ベータ細胞のATP感受性K+(KATP)チャネルの分子構造が解明され,KATPチャネルの遺伝子変異が新生児の家族性持続性過インスリン性低血糖症(PHHI)を起こすことが示された.さらにKir 6.2のドミナントネガティブ変異体を発現するトランスジェニックマウスや,Kir 6.2のノックアウトマウスの解析などにより,膵 細胞のKATPチャネルのインスリン分泌における役割は急速に明らかにされつつある.

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心血管系のATP感受性K+チャネルの機能,制御,薬理,分子構造
大阪大学医学部 情報薬理第二薬理学  片山 祐介   倉智 嘉久

要旨
ATP感受性K+(KATP)チャネルは,脳,心筋および骨格筋細胞,血管平滑筋細胞,膵 細胞などに存在し,細胞の代謝と電気的活性を連関させている.また,膵ベータ細胞のKATPチャネルは,経口糖尿病薬の標的となっている.心血管系においてもKATPチャネルに作用する虚血性心疾患や高血圧に対する新しい治療薬が開発されつつある.近年,このKATPチャネルの機能,薬理,分子構造について,より詳細な知見が得られつつある.

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TAPと免疫疾患
帝京大学医学部附属市原病院 第三内科   桑田 昇治

要旨
TAP分子は,抗原ペプチドの能動的輸送を行うATP駆動型トランスポーターである.TAP1遺伝子に2つ以上,TAP2遺伝子に4つ以上の多型領域が存在し,TAP対立遺伝子と免疫疾患における抗原ペプチド選択性の関連が想定される.現時点で免疫疾患では,第一義的にTAP対立遺伝子と相関を示すものは見いだされていない.今後,抗原処理機構,抗原提示機構の研究の進展により,疾患の発症機序,対応抗原の解明へと進むものと期待される.

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寄生原虫のABCタンパク質と薬剤耐性
群馬大学医学部 寄生虫学講座  片倉 賢

要旨
マラリア原虫,リーシュマニア,赤痢アメーバなどの寄生原虫の薬剤耐性にもATP結合カセット(ABC)タンパク質が関与している.ABCトランスポーターは細胞内小器官にも局在するため,薬剤耐性の機構としては,細胞外への排出モデルのほかに細胞内器官への隔離モデルが考えられる.多彩な原虫種と原虫株に対応するためには,薬剤選択性や生理的機能の多様性を考慮した耐性克服戦略が必要である.

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ABCタンパク質とペルオキシソーム病
富山医科薬科大学薬学部 衛生生物化学講座  今中 常雄
九州大学理学部 生物学教室    藤木 幸夫

要旨
ペルオキシソームは,脂肪酸の 酸化,コレステロールの胆汁酸への変換,プラスマローゲンの合成など,脂質代謝と密接にかかわっている.ペルオキシソームの形成異常や機能障害は,Zellweger 症候群や副腎白質ジストロフィーなど,ペルオキシソーム病と呼ばれる重篤な脂質代謝異常症をもたらす.ヒトを含めた哺乳動物のペルオキシソーム膜上には現在4種のATP結合カセット(ABC)タンパク質が同定されているが,それらはペルオキシソーム膜を介した物質輸送に重要な役割を果たしていると考えられる.ペルオキシソームABCタンパク質の構造と機能,ペルオキシソーム病とのかかわりについて解説する.

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ゲノムプロジェクトにより見いだされたABCタンパク質スーパーファミリー遺伝子
千葉大学大学院医学研究科 分子機能制御学   矢野 秀樹

要旨
DNAデータベースの検索によって,新たなABCタンパク質遺伝子の存在が明らかにされている.12Mbのゲノムサイズの出芽酵母で19個,3,000Mbのゲノムサイズのヒトですでに39個認められている.ATP結合カセット(ABC)タンパク質の重要性は,機能はもちろんのことヒトではその遺伝子変異が数々の疾患の原因となっていることであり,ゲノムプロジェクトによって疾患の原因となる新たなABC遺伝子が今後さらに見いだされるであろう.

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