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最新医学54巻6号

特集要旨


アプローチ:冠動脈疾患の病態解明と急性冠症候群

泰 江 弘 文

熊本大学医学部循環器内科 教授

要旨
 不安定狭心症や急性心筋梗塞あるいは虚血性心臓突然死のほとんどは,冠動脈のプラーク (粥腫) に破綻を来し,それに続いて冠動脈内腔に血栓が形成され,内腔が閉塞ないしは亜閉塞されるために発生することが明らかにされた.このため,不安定狭心症や急性心筋梗塞および虚血性心臓突然死は,発生機序から一括して急性冠症候群とも呼ばれるようになった.破綻しやすいプラークは,脂質核が大で炎症所見を呈し,線維性被膜が薄くなっている

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冠動脈硬化の発生機序−脂質代謝との関連を中心として−

村 山 敏 典*   北 徹**

* 京都大学大学院医学研究科 臨床生体統御医学講座 (成人・老年病病態学部門) ** 同 教授

要旨

 急性冠症候群の基礎病態となる冠動脈硬化は,他の粥状動脈硬化病変と同様に,内皮細胞障害,単球の接着,変性 LDL の取り込みと泡沫細胞化,平滑筋細胞の遊走,細胞外マトリックスの合成といった機序で起きると考えられる.高脂血症治療薬による急性冠症候群発症の予防は粥腫の安定化によるとされるが,マクロファージ,平滑筋細胞などの細胞成分の機能を修飾するような研究も進められている.

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実験モデル動物からみた動脈硬化の発生機序

山 田 信 博
東京大学医学部附属病院 糖尿病代謝内科 助教授

要旨
 粥状動脈硬化症は高脂血症,糖尿病,高血圧,肥満などを危険因子として発症する.このような複雑な要因に基づく粥状動脈硬化症の病態生理を理解するためには,その原因遺伝子を探索して,共通する分子生物学的バックグラウンドを解明することが重要である.まず原因となる候補遺伝子を抽出して病態モデル動物を開発し,おのおのの候補遺伝子と病態との関係を明確にしなければならない.発生工学的手法の進歩は,特定の遺伝子を動物に導入・欠損させることにより,モデル動物の開発を可能とした.

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内皮保護と血管リモデリング−血管作動性物質の意義−

伊 藤 裕
京都大学大学院医学研究科 臨床病態医科学

要旨
 内皮細胞は,血流刺激をはじめ種々の血管障害ストレスを受容し,血管作動性物質群の協調的発現制御を行い,血管平滑筋の拡張能の維持,脱分化の抑制,さらに血球の接着や血栓形成の抑制に作用する.この内皮機能の障害/破綻が動脈硬化症の発症,心血管事故の発症に直結する.「内皮保護」 は,この疲弊した内皮を 「休ませる」 べく,不足した内皮由来血管作動性物質の補充および過剰な血管作動性物質の抑制を行うことであると考えられる.

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冠動脈血栓の分子細胞機構

丸 山 征 郎

鹿児島大学医学部 臨床検査医学 教授

要旨
 冠動脈血栓は多くの場合,粥腫の破綻によって起こる.粥腫内,特に肩の部位は外因系のイニシエーターである組織因子やマトリックス分解酵素,炎症性サイトカイン,VEGF を発現した泡沫細胞やマクロファージに富んでいるため,生化学的にも力学的にも脆弱で,裂隙が入りやすい.裂隙が入ると凝固外因系が作動され,誤った止血血栓が生じる.これが負のフィードバックを外れ,血管内腔面まで血栓がせり出してくると,冠動脈血栓となる.

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冠動脈血栓形成の病理

居 石 克 夫
九州大学医学部 第一病理 教授

要旨
 急性心筋虚血の発生原因として重要な冠動脈血栓症の病理について,粥腫性硬化病変の血栓性特性に関する組織因子の過剰発現,また活動性硬化病変の1つとして重要な硬化内膜内の新生血管の病態学的意義について概説した.以上の動脈硬化発生,進展に関する研究における炎症・修復反応を基盤とした視点が,今後の急性冠症候群の病態解明に向けて役立つことを期待する.

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プラーク不安定化と急性冠症候群

伊 倉 義 弘*   上田 真喜子**

* 大阪市立大学医学部 第二病理 ** 同 教授

要旨
 プラーク破裂やプラークびらんは急性冠症候群の原因となる.プラーク破裂・びらんの部位には,マクロファージ,T細胞などの炎症細胞浸潤が目立つ.酸化 LDL は,プラークにおける炎症性プロセスの進展やマクロファージの泡沫化に加え,アンジオテンシン変換酵素の発現増強,C型ナトリウム利尿ペプチド産生抑制を介して,冠動脈プラークの不安定化に関与していることが示唆される.さらに,急性心筋梗塞患者における血中酸化 LDL 値上昇の意義が注目される.

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急性冠症候群における凝固線溶系


小 川 久 雄
熊本大学医学部 循環器内科 助教授

要旨
 トロンビンによるフィブリノーゲンの分解産物であるフィブリノペプチドA (FPA) は,急性冠症候群で上昇している.また,FPA は冠攣縮の発作で有意に上昇する.急性冠症候群においては,血中の血液凝固系のイニシエーターである組織因子 (TF) 抗原レベルが高く,凝固活性が亢進している.一方,線溶系の重要な要素はプラスミノーゲン アクチベーター インヒビター (PAI) であり,急性冠症候群においては血漿 PAI 活性は上昇しており,線溶能が低下している.また組織学的検討から,急性冠症候群の発生にマクロファージおよびマクロファージ上の TF が関与していると考えられる.

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急性冠症候群と細胞接着分子


池 田 久 雄*   今 泉 勉**
* 久留米大学医学部 第三内科 助教授 ** 同 教授

要旨
 急性冠症候群の主因は,粥腫の破裂に引き続く血小板粘着・凝集による血栓形成である.血小板膜糖タンパク質 Ib (GPIb) と粘着性タンパク質である von Willebrand 因子との結合により発生した細胞内シグナルが,血小板膜 GPIIb/IIIa を活性化し,さらに活性化 GPIIb/IIIa に粘着性タンパク質が結合して血小板同士が結ばれ,血小板粘着・凝集が起こる.活性化された血小板 P-セレクチンは白血球膜上の糖鎖である sLex 糖鎖と接着し,血栓上における白血球のローリングに関与する.このように血小板膜 GP による細胞間相互作用は,血栓形成に重要な役割を果たす.


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急性冠症候群の冠動脈造影所見


延 吉 正 清**  貝 谷 和 昭*
* 社会保険小倉記念病院 循環器科 ** 同 副院長

要旨
 突然死の原因となり得る不安定狭心症から急性心筋梗塞の一連の病態を,症候群として急性冠症候群と称するようになった.これは,安定狭心症と異なり急性冠症候群は,冠動脈硬化病変の障害と血栓形成による急激な冠動脈内腔の狭窄・閉塞を発症機序とすることに基づくものである.
 この考え方はむしろ数多くの急性冠症候群に対する冠動脈造影の蓄積によるものであるが,本症候群を疑う症例の注目すべき造影所見としては,血栓の存在とその背景にある複雑病変である.これらの所見は治療方針の選択に大きく影響する因子の1つであり,重要である.


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血管内視鏡から見た急性冠症候群


稲 見 茂 信*   水 野 杏 一**
* 日本医科大学付属千葉北総病院 内科 ** 同 教授

要旨
 プラークの破綻に引き続いて起こる血栓が,急性冠症候群発症の病因として重要な役割を果たしている.血管内視鏡は冠動脈造影法や血管内エコー法などに比較しプラークの破綻や血栓の診断精度は高く,肉眼的病理所見を得ることができる唯一の方法である.これまでの血管内視鏡的検討では急性冠症候群の症例は黄色プラークが観察されることが多く,また,黄色プラークは破綻しやすいプラークであり,血栓性を持つプラークであることが報告されている.いかにしてプラークの破綻の予知を行うか,プラークの破綻を生じない予防対策の確立が望まれる.

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急性冠症候群における冠動脈内エコー図所見


斎 藤 穎**  高 山 忠 輝*  本 江 純 子*   上松瀬 勝男***
* 日本大学医学部 第二内科 ** 同 助教授 *** 同 教授

要旨
 急性冠症候群において血管内エコー法で責任病変を観察した結果,心筋梗塞発症群では潰瘍形成や解離など,プラークの破綻からなる特徴的な病変形態が高頻度に認められた.その成因には種々の因子が複雑に絡み合ってプラークの脆弱化を招き,最終的にはプラーク破綻が生じ,引き続き起こる血栓形成が急性冠症候群,特に急性心筋梗塞発症機転の重要なイベントである.プラーク破綻は急性冠症候群の発症機序であるが,プラークの脆弱化にはずり応力 (shear stress),冠攣縮,炎症などが重要な要因と考えられ,多彩な病態であることが示唆される.血管内エコー法は冠動脈病変の詳細な観察に有用であり,病態を理解するうえで不可欠な診断方法であると思われる.


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急性冠症候群 (不安定狭心症) の内科的治療


角 田 等*   野々木 宏**
* 国立循環器病センター 内科心臓部門 ** 同 部長

要旨
 不安定狭心症は幅広いスペクトルを含み,均一な症候群ではない.その治療に当たっては,重症度の把握と病態理解に基づいた薬剤選択が必要である.また,薬物治療の有効性を見極め,薬物治療抵抗性のものには時機を逸することなく侵襲的治療が必要となる.


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急性冠症候群に対する PTCA および new device の適応


中 村 正 人*   山 口 徹**
* 東邦大学医学部附属大橋病院 第三内科 講師 ** 同 教授

要旨
 病態が多様である急性冠症候群では,一律に経皮的冠動脈形成術 (PTCA) の適応を決定することは困難であるが,侵襲的治療の適応,治療時期に関する診療指針が,多施設比較検討試験によって明確にされてきている.急性冠症候群に対する侵襲的治療の戦略決定における大きな進展は,ステントの登場と強力な抗血小板薬の開発である.急性冠症候群に対する PTCA の初期成績ならびに遠隔期成績は,ステントによって大きく改善した.したがって,待期的な PTCA と同様に,急性冠症候群においても,侵襲的治療はステントを中心として展開されていくものと考えられる.

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