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最新医学54巻6月増刊号

要旨


ラ ッ サ 熱

五 十 嵐  章

長崎大学熱帯医学研究所 病原体解析部門 分子構造解析分野 教授

要旨
 ラッサ熱は西アフリカに常在する比較的頻度の高い熱病であり,ウイルス性出血熱の1つである.ヒトへの感染は,ウイルスを保有するげっ歯類の排泄物のほか,患者の血液などからの2次感染も高頻度に発生する.病原体は,マールブルグ病,エボラ出血熱,クリミア・コンゴ出血熱の病原体とともに危険度4に分類されている.

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エボラ出血熱

倉 田   毅

国立感染症研究所 感染病理部 部長

要旨

 エボラ出血熱は,致命率が高いことからしばしば大発生の際にはパニック状態となり,報道がそれを加速する事態となる.自然界の宿主が不明な点は今後も “不気味”ではある.しかし,感染の連鎖が発生する理由をよく調べると,発生地域の医療機関等における,注射器,手袋,マスク,ガウン等の基本的な医療用具 (いわゆる第1次バリアーとなる) の不足による,感染血液を介してのウイルスの伝播が中心である.家族内での看護,介護の問題もそこにある.自然界の宿主が判明するまで,発生は繰り返されていくであろう.

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クリミア・コンゴ出血熱

倉 田   毅
国立感染症研究所 感染病理部 部長

要旨
 ウイルス性出血熱の中で最も警戒すべき疾患である.哺乳動物での病原体の分布域が極めて広く,ダニの体内で垂直伝播が起こっていることが分かり,“ダニに咬まれないようにする”以外に対策の立てようがない.また渡り鳥により遠隔地へ運ばれる事実も,疾患の発生可能領域が拡大していくことを意味する.

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インフルエンザ感染の予防と治療

西 藤 岳 彦*1  田 代 眞 人*2
*1 国立感染症研究所 ウイルス第一部 *2 ウイルス製剤部 部長

要旨
 インフルエンザ感染症対策の第1は,流行期に先立つワクチン接種である.しかし,先進諸国の中で我が国のみ,例外的にインフルエンザワクチン接種率が低下している.一方,昨年我が国でも,抗インフルエンザ A 型ウイルス治療薬としてアマンタジンが認可された.またノイラミニダーゼ阻害薬の開発も進んでおり,今後のインフルエンザ対策を考える上でようやく我が国でも,多岐の選択肢が得られたようだ.

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ウイルス性肝炎

丸 山 敦 史*  清 澤 研 道**

* 信州大学医学部 第二内科学教室 ** 同 教授

要旨
 本邦におけるウイルス性肝炎の動向は大きく様変わりしている.肝移植後の免疫抑制療法下などでの肝炎ウイルスの動態に関して,従来の常識とは異なる知見も得られるようになった.慢性ウイルス性肝炎の治療は,肝庇護療法から抗ウイルス療法が主体となり,ラミブジン,リバビリンといった新しい治療法も登場してきている.C 型肝炎ウイルスに対するワクチン療法の開発,慢性肝炎から肝硬変,肝がんへの移行抑制などが今後の課題である.

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黄    熱

奥 野 良 信
大阪府立公衆衛生研究所 ウイルス課 課長

要旨
 黄熱は,フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスの感染によって起こる致命率の高い疾患である.出血傾向,黄疸を示すと予後が悪い.都市部ではネッタイシマカが媒介蚊となってヒトからヒトに感染し,しばしばアフリカと中南米で大流行を起こしてきた.一時患者数は減少したが,最近になり増加に転じ,再興感染症として注目されている.黄熱ワクチンの接種が最も有効な対策である.

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日 本 脳 炎

福 永 利 彦

琉球大学医学部 ウイルス学 教授

要旨
 近年,我が国では日本脳炎患者発生数が年間 10 人以下の低流行が続き,社会の注目を浴びることはない.しかし,インド,ネパール,スリランカ,タイ,ベトナム,中国などでは,今なお日本脳炎は流行を繰り返し,公衆衛生上の重大問題となっている.また,オーストラリアでも患者が確認されたように,日本脳炎は拡大傾向を見せている.日本製ワクチンは安全性と有効性が証明されているが,発展途上国では価格に問題があり,高品質で安価,かつ大量生産が可能なワクチンの開発が急がれる。


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狂  犬  病


高 山 直 秀
東京都立駒込病院 小児科 医長

要旨
 狂犬病は,1.発病すればほぼ 100 % 死亡する,2. 潜伏期が通常1〜3ヵ月と長い,3. ほとんどの哺乳動物が罹患する などの特徴を持つ代表的な人獣共通感染症である.通常ヒトは狂犬病のイヌやネコ,キツネ,コウモリなどに咬まれて感染を受ける.発病した狂犬病に対する特異的な治療法はなく,狂犬病ワクチンによる狂犬病曝露後発病予防が狂犬病死を免れる唯一の手段である.狂犬病常在地に行く人々は,曝露前免疫を受けるべきである.

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Creutzfeldt-Jakob 病


山 内 一 也
(財)日本生物科学研究所 理事

要旨
 代表的プリオン病である Creutzfeldt-Jakob 病 (CJD) およびウシ海綿状脳症 (狂牛病) の感染による新型 CJD は,患者由来の血液,組織などを介して医原性感染を起こす理論的危険性が大きな問題になっている.迅速かつ高感度のプリオン検出法の開発,プリオンの効果的な不活化法の開発などが,公衆衛生上での緊急課題である.一方治療に関しては,動物実験で発病遅延を起こさせる薬剤は見いだされているが,実用にはほど遠い.


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後天性免疫不全症候群


立 川 夏 夫
国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター

要旨
 後天性免疫不全症候群 (AIDS) の特徴は,まれな日和見疾患 (感染症・腫瘍) が多発し,死に至った特異な臨床像であった.しかし,近年の抗 HIV 療法の進歩より,AIDS 発症以前の HIV 感染症の段階での対応・治療開始の重要性が認識されてきている.HIV 感染症の重要な指標が CD4+ T 細胞と血漿 HIV RNA 量であり,CD4+ T 細胞数により臨床病期を区切ることができる.現在の HIV 療法の目的は,患者が免疫不全状態 (AIDS) に至らないようにするということであり,強力な抗 HIV 療法の開始で HIV 患者の予後はかなりの改善が期待できる.

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腎症候性出血熱


苅 和 宏 明** 水 谷 哲 也* 高 島 郁 夫***
* 北海道大学大学院獣医学研究科 環境獣医科学講座公衆衛生学教室
** 同 助教授 *** 同 教授

要旨
 腎症候性出血熱は,ハンタウイルスによって引き起こされるウイルス性人獣共通感染症である.本ウイルスの病原巣動物はげっ歯類であり,感染動物は無症状のまま長期間ウイルスを排出する.現在我が国では,本症の発生はほとんどないが,ウイルスはげっ歯類集団に常在している.また,中国,韓国および極東ロシアなどのユーラシア大陸東部には,強毒型のウイルスが存在するため,今後輸入感染症として監視体制を強化する必要がある.

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最近の水痘感染について


小 出 和 可* . 神 谷   齊**
* 国立療養所三重病院 小児科 ** 同 院長

要旨
 水痘は水痘帯状疱疹ウイルスの初感染像で,小児期に大多数の人が感染する.一般的に予後は良好であるが,まれに重篤な合併症を来すことがある.重症化の危険性が高い乳幼児,成人 (特に妊婦),家族内2次感染者,免疫抑制状態者等では,早期にアシクロビル投与の適応を判断し,治療を開始すべきである.診断には,血清診断,抗原検査,皮内テスト等が利用できる.我が国では予防に水痘ワクチンが用いられている.


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性器ヘルペスウイルス感染症


川 名   尚
帝京大学溝口病院 産婦人科 教授

要旨
 性器ヘルペスはウイルス性性感染症の1つで,この 10 年間漸増している.病態は,単純ヘルペスウイルス (HSV) 初感染による場合と,潜伏しているものが再活性化される場合とがある.一般に前者の方が症状は強い.再発を繰り返すことが多く,特に HSV 2 型の感染例では大部分再発する.抗 HSV 薬であるアシクロビルが著効を示す.最近,腸管吸収率の良好なファムシクロビルやバラシクロビルが開発され,さらに治療に好都合になると思われる.


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風疹の現状とワクチン


豊 田 美 香* . 神 谷   齊**
* 国立療養所三重病院 小児科 ** 同 院長


要旨
 風疹は我が国では4〜5年周期で流行する感染症であり,流行時には先天性風疹症候群 (CRS) 児の出生がみられる.CRS 児の出生を減少させるためには,風疹の流行のコントロールが大切である.風疹ワクチン接種後の免疫能は比較的長期にわたり持続するので,風疹の流行をコントロールするためには,今後とも男女共に積極的にワクチン接種を行うよう勧奨することが必要である.

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手 足 口 病


武 内 可 尚
川崎市立川崎病院 副院長


要旨
 手足口病は,コクサッキー A-16,エンテロ 71,まれにコクサッキーウイルス A-10 の初感染で発症する発疹と口内炎を伴う夏かぜの代表的疾患の1つである.例年7月に流行のピークがあり,手足に水疱を混じた発疹に特徴がある.大半は軽症に経過するが,この2,3年エンテロウイルス 71 による脳炎の多発と死亡例が注目されている.

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デングウイルス感染症−デング熱とデング出血熱−


倉 根 一 郎
国立感染症研究所 ウイルス第一部 部長


要旨
 デング熱とデング出血熱は,デングウイルスの感染によって起こる2つの異なる病態である.確定診断は特異抗体やウイルス遺伝子の検出,ウイルス分離による.病態形成のメカニズムは解明されていない.熱帯・亜熱帯地域への旅行者の熱性・出血性疾患においては,デング熱・デング出血熱を鑑別診断に加える必要がある.感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律においては,4類感染症として定められている.


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突 発 性 発 疹


多 屋 馨 子
大阪大学大学院医学系研究科 生体統合医学専攻小児発達医学講座


要旨
 生後6ヵ月〜2歳までに好発するウイルス性疾患で,38 〜 39 ℃台の発熱が数日間続いた後,解熱とともに体幹を中心に淡紅色紅斑が出現する予後良好な疾患である.原因ウイルスはヒトヘルペスウイルス6 (HHV-6),-7 (HHV-7) であることが多く,感染時期は HHV-6 の方が HHV-7 よりも早い.最近の研究で,脳炎/脳症,髄膜脳炎,肝機能異常,血小板減少性紫斑病,血球貪食症候群を合併することが報告されており注意が必要である.

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ハンタウイルス肺症候群


有 川 二 郎
北海道大学医学部附属動物実験施設 教授


要旨
 ハンタウイルス肺症候群は,ハンタウイルスを原因とし,げっ歯類によって媒介される人獣共通感染症である.呼吸困難を特徴とする急性の経過を示し,発症例の 40 % 以上が死亡する.1993 年に米国で初めて発生が報告され,現在では南北アメリカ全域で流行が確認されている,新興 (emerging) ウイルス感染症の代表である.我が国では,本症の発生は報告されていないが,輸入感染症として注意を払う必要がある.


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B ウイルス病


吉 川 泰 弘
東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学 教授


要旨
 B ウイルスは,アジア産マカカ属サル類が普通に保有するヒト単純ヘルペスウイルス類似のアルファヘルペスウイルスである.比較的まれではあるがヒトが咬傷等により感染・発症すると,死亡率は 70 % と非常に高率である.このため,B ウイルス病は第4類感染症に指定された.したがって,B ウイルスに感染した患者を診断した医師は,7日以内に最寄りの保健所長を経由して,都道府県知事に届け出る義務を持つことになった.

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麻    疹


須 賀 定 雄* . 浅 野 喜 造**
* 藤田保健衛生大学医学部 小児科学 講師 ** 同 教授


要旨
 麻疹は一般的な急性ウイルス性疾患である.現在,本症に有効な原因療法はなく,その治療は安静臥床,水と電解質の補給に加え,発熱や咳嗽,鼻汁,結膜炎などのカタル症状に対し対症療法を行う.最近,ビタミン A 補充療法の有効性が再び取り上げられている.また重症の肺炎,脳炎合併症にリバビリン治療が試みられている.現段階では弱毒麻疹生ワクチンによる発症予防が不可欠とされる.


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流行性耳下腺炎


中 山 哲 夫
北里研究所 ウイルス1室 室長


要旨
 MMR ワクチンが 1993 年に接種中止となり,ムンプス単味ワクチンが使用されているが,その接種率が低くムンプスの症例報告数は増加している.自然感染の合併症の頻度と比較して,ワクチンは有効な予防手段と考えられるが,無菌性髄膜炎等の副反応が認められ,ワクチン接種後の副反応のウイルス学的検討等とあわせてワクチンの意義について考察する.


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ウイルス性胃腸炎


中 田 修 二
札幌医科大学医学部 小児科 講師


要旨
 ウイルス性胃腸炎の治療は対症療法であり,免疫不全などの特殊な症例にはヒト免疫グロブリン製剤の投与も考慮される.しかし,根本的な解決法はワクチンによる予防法の確立である.ヒト-サル ロタウイルス組換えワクチン (RRV-TV : Rotashield) が米国で開発されたが,幾つか問題点もある.そこで,現在開発中の新しいワクチンについて,これまでの進展状況を解説した.


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マ ラ リ ア


狩 野 繁 之
国立国際医療センター研究所 適正技術開発・移転研究部 部長


要旨
 マラリアは人類の歴史とともに常に存在してきた重大な疾病であり,現在も最も流行制圧が難しい感染症として猖獗を極め,実に世界の年間罹患者数は3〜5億人,死亡者数は 150 〜 270 万人と報告される.日本国内で発症するいわゆる 「輸入マラリア」 の患者数は年間 100 名をゆうに越え,死亡例も毎年でている.「感染症新法」 の施行と相まって,今国内におけるマラリア患者の適切な診断治療法の導入が強く望まれる.


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赤痢アメーバ症


小 林   潤*1 . 新 里   敬*2
*1 琉球大学医学部寄生虫学 *2 同 第一内科


要旨
 赤痢アメーバは,病原性のある Entamoeba histolytica と非病原性の Entamoeba dispar に分けられる.我が国では輸入感染症としてのみならず,男性同性愛者間での性感染症としての流行により,赤痢アメーバ症は報告が多くなっているが,これらの患者間で Entamoeba histolytica が多く感染している.このような流行の中で,日本で多くみられる病態に対しての治療指針と予防法の改定に基づく患者管理について解説した.


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ランブル鞭毛虫症


大 西 健 児
東京都立墨東病院 感染症科 医長


要旨
 ランブル鞭毛虫には栄養型と嚢子がある.嚢子の経口摂取で感染し,小腸上部で栄養型となり2分裂で増殖する.栄養型は小腸上部に寄生し病原性を発揮する.急性や慢性の下痢,腹部不快感など種々の消化器症状を呈するが,無症状の感染者も多い.感染者から虫体を検出すれば診断できる.感染者の負担を考慮すれば,まず便から虫体を検出するように試みるべきである.治療する場合はメトロニダゾールを経口投与する.発展途上国で感染した症例が多いが,日本国内で感染することもある.


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クリプトスポリジウム症


山 本 徳 栄
埼玉県衛生研究所 環境衛生部 専門研究員


要旨
 クリプトスポリジウム症は,Cryptosporidium parvum の経口感染に起因する疾患である.主な症状は,激しい水様性の下痢と腹痛であり,発熱,頭痛,吐き気,嘔吐や咳を伴うことがある.現在著効を示す治療薬はなく,対症療法を基本とする.生体の免疫能で,下痢は1週間以内に自然治癒する例が多い.しかし,免疫機能不全者 (特に後天性免疫不全症候群) では難治性かつ,致死的な下痢症を発症することがあり,臨床的寛解が期待される薬剤投与や免疫療法が試みられている.


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サイクロスポーラ症−新興感染症として注目される原虫症−


井 関 基 弘** . 木 俣   勲*
* 大阪市立大学医学部 医動物学研究室 ** 同 助教授


要旨
 サイクロスポーラ症は下痢を主徴とする新興原虫感染症である.途上国に広く分布し,先進国でも輸入感染症例や輸入生鮮食品による集団感染が発生している.我が国でも症例は増加しつつある.後天性免疫不全症候群患者では重症になる.


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エキノコックス症


佐 藤 直 樹*1  清 水   匡*2 藤 堂   省*3
*1 北海道大学医学部附属病院手術部 助教授
*2 同 放射線科 *3 同 第一外科 教授


要旨
 本邦でのエキノコックス症としては,悪性の病態を呈する多包性エキノコックス症 alveolar echinococcosis が,北海道,東北地方を中心に,京都以北で発生している.本症は,主として肝臓に充実性の病巣を形成し,発育は緩慢ながら浸潤や転移を来す悪性の病態を呈する (lethal parasitosis と呼ばれる).早期診断による切除が,第1選択の治療法である.肝細胞がんや胆管細胞がんの確定診断が困難な肝の腫瘍性病変には,エキノコックスの血清検査を行う必要がある.


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トキソプラズマ症


矢 野 明 彦
千葉大学医学部 寄生虫学 教授


要旨
 トキソプラズマ症は人獣共通感染症であり,先進国型原虫症の1つである.妊婦の初感染によって起こる先天性トキソプラズマ症と後天性トキソプラズマ症がある.先天性トキソプラズマ症は,早期発見・早期治療によって発症を予防できる.日和見感染症である後天性トキソプラズマ症患者では,結核,後天性免疫不全症候群,他の細菌による2次感染や混合感染に配慮する.診断法は,原虫同定法,血清診断法,病理・画像診断法,臨床診断法がある.


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アニサキス症−今日的課題−


赤 尾 信 明
東京医科歯科大学医学部 医動物学教室 講師


要旨
 アニサキス症は,Anisakis simplex あるいは Psudoterranova decipiens の第3期幼虫によって起きる寄生虫感染症で,我が国では 1950 年代の後半頃から患者が確認され始め,現在では年間1千例を越える患者がいると推定されている.内視鏡検査の普及と技術の進歩によって,胃のみならず大腸粘膜に寄生するアニサキス幼虫を発見・摘除できるようになってきた.しかし,治療・予防に関しては未だ多くの問題が残されている.


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トリパノソーマ症の生物学,疫学,臨床および治療


野 崎 智 義
国立感染症研究所 寄生動物部


要旨
 トリパノソーマ症 (trypanosomiasis) は,アフリカおよび中南米の開発途上国における主要な感染症の1つである.トリパノソーマ症は昆虫によって媒介され,鞭毛を持つ単細胞真核生物であるトリパノソーマ原虫の感染によって起こる.原因原虫の種の違いにより,アフリカトリパノソーマ (アフリカ睡眠病を起こす) とアメリカトリパノソーマ (Chagas 病を起こす) とに大別される.本稿では,トリパノソーマ症の生物学・疫学・症状・診断・治療について総括するが,特に診断・治療については詳しい情報を提供することを目的とする.


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リーシュマニア症


河 津 信 一 郎
国立国際医療センター研究所 地域保険医療研究部 地域医療研究室


要旨
 リーシュマニア症 (leishmaniasis) は,リーシュマニア (Leishmania) 属原虫を病因とする人獣共通感染症で,媒介昆虫 (サシチョウバエ) の刺咬によって伝播する.本症は原因原虫種とその増殖部位によって,内臓リーシュマニア症,皮膚リーシュマニア症および粘膜・皮膚リーシュマニア症に大別される.発生地域は,熱帯・亜熱帯を中心に世界 88 ヵ国に及ぶ.内臓リーシュマニア症 (カラアザール) では肝腫,脾腫,貧血,発熱がみられ,重症例では死亡する場合もある.治療には,5価アンチモン剤が第1選択薬として用いられる.


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住 血 吸 虫 症


太 田 伸 生
名古屋市立大学医学部 医動物学教室 教授


要旨
 住血吸虫症は,その疾病対策の方法論や治療法などがすでに確立している疾患であるが,それを阻む社会的要因によって流行が今なお世界各地に残る寄生虫病である.プラジカンテルの開発によって安全で確実に駆虫できるようになったが,薬剤耐性住血吸虫の出現が懸念されている.予防法としてワクチンに期待がかかっており,さまざまなタンパク質が試用されているものの,満足すべき効果は確認されていない.今後も国際協力のもとに本症の監視体制を強化する必要がある.


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リンパ系フィラリア症


木 村 栄 作
愛知医科大学 寄生虫学 教授


要旨
 リンパ系フィラリア症は,熱発作,象皮病,陰嚢水腫,乳糜尿を特徴とする.末梢血中のミクロフィラリアにより診断されるが,最近では循環抗原の検出,超音波診断法による生きた成虫の検出が行われるようになった.一方,フィラリア症の患者数は1億人を超え,それによる経済的損失も膨大である.世界保健機関は,世界からフィラリア症をなくするため,年1回集団治療を基本戦略とする地球規模の対策を開始した.


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