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最新医学54巻7号

特集要旨


アプローチ:神経細胞の生存・分化・死と神経疾患

赤 池 昭 紀

京都大学大学院薬学研究科 薬理学 教授

要旨
 脳・脊髄の特定の部位におけるニューロンネットワークの破綻により中枢変性疾患が進行する.グルタミン酸や活性酸素種などの脳内の危険因子が神経細胞死の原因となり,ニコチン性アセチルコリンなどの神経伝達物質や神経成長因子などの成長因子が神経細胞死を制御する.神経細胞死にはアポトーシスとネクローシスの両者が関与し,前者には Bcl-2 ファミリーやカスパーゼファミリーの関与が指摘されている.さらに,ニューロンネットワークの維持には神経細胞とグリア細胞の相関が重要であり,その修復過程においては神経再生やグリア細胞の分化が重要な役割を果たす.

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Alzheimer 病の神経細胞死
−β アミロイドタンパク質とプレセニリン−

富 田 泰 輔*   岩 坪 威**

* 東京大学大学院薬学系研究科 臨床薬学教室 ** 同 教授

要旨

 Alzheimer 病患者脳に蓄積する老人斑には,C 末端が第 42 番残基まである ベータアミロイドタンパク質 (Aβ 42) が優先的に蓄積する.また家族性 Alzheimer 病の原因遺伝子の変異は Aβ 42 の産生を上昇させるなど,Aβ 42 の蓄積は Alzheimer 病発症に深くかかわっていることが分かった.しかし Aβ 蓄積が観察される遺伝子導入動物では顕著な細胞死が見られないなど,Alzheimer 病における神経細胞死のメカニズムには不明な点が多く残されている.

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Parkinson 病の神経細胞死
−内在性神経毒 N-メチル-(R)-サルソリノールによるドーパミン細胞の死−

直 井 信*1  丸山 和佳子*2
*1 応用生化学研究所 脳科学研究部門 部長 
*2 長寿医療研究センター 老化機構研究部 生化学代謝室 室長

要旨
 最近の研究で,Parkinson 病における黒質ドーパミン細胞の選択的な細胞死には神経毒が関与していることが示唆されている.N-メチル-(R)-サルソリノール [NM(R)Sal] はヒト脳に内在する神経毒で,ドーパミンより生成されてドーパミン神経細胞に蓄積される.NM(R)Sal はドーパミン細胞にアポトーシスによる細胞死を誘導し,その投与によってラットにパーキンソニズムが惹起された.NM(R)Sal は Parkinson 病患者の脳脊髄液で増加し,その生成酵素,N-メチルトランスフェラーゼの活性は患者のリンパ球で有意に高値であった.

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筋萎縮性側索硬化症の神経細胞死
−選択的運動ニューロン死の機構−

漆 谷 真   下 濱 俊
京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座 臨床神経学

要旨
 近年,筋萎縮性側索硬化症 (ALS) におけるグルタミン酸トランスポーターの異常や,一酸化窒素の毒性/保護物質という2面性と選択的運動ニューロン死の関連,さらに家族性 ALS の動物モデルにおける変異スーパーオキシドジスムターゼによる運動ニューロン死の機序や,ニューロフィラメントとの関連等新知見が増え,運動ニューロン死の機序が徐々に明らかになっている.ALS における選択的運動ニューロン死の機序について,こうした知見を交えて考察する.

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ミトコンドリアトキシンによる線条体特異的細胞死

飛 田 秀 樹*   西 野 仁 雄**

* 名古屋市立大学医学部 第二生理学 ** 同 教授

要旨
 ミトコンドリアトキシンの 3-ニトロプロピオン酸 (3-NPA) をラットに全身投与すると,線条体組織が選択的に障害されて Huntington 舞踏病様の異常運動が出現する.この線条体特異的脆弱性は,大脳皮質および黒質からの投射入力によるグルタミン酸毒性およびドーパミン毒性に加え,外側線条体動脈の脆弱性,血管内皮特性,さらには酸トランスポーター活性等が関与する複雑なメカニズムによることが明らかとなってきた.またこのモデル系においては,アストロサイトの細胞障害がニューロン死より早い時期に出現することが確認された.

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霊長類における虚血性神経細胞死とプロテアーゼ

光 田 幸 彦*   多 田 吾 行*   山 嶋 哲 盛**
* 金沢大学医学部 脳神経外科 ** 同 助教授

要旨
 海馬のアンモン角 (CA 1) 領域の錐体細胞は,一過性脳虚血に対して脆弱性を示すことは広く知られているが,その分子機構に関しては未解決な部分が多い.本稿では,カルシウム依存性のカルパイン,およびリソソーム酵素のカテプシンという2つのシステインプロテアーゼに注目し,霊長類における虚血性神経細胞死とのかかわり,および治療戦略への応用について概説する.

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虚血性網膜障害とアポトーシス

柏 井 聡

京都大学大学院医学研究科 視覚病態学 講師

要旨
 網膜では一過性虚血後,網膜神経節細胞層および内顆粒層のニューロンに再灌流6時間後から Bax のアップレギュレーションが起こって 24 時間でピークとなり,それに対応して網膜内層に DNA が断片化したニューロンが増加して再灌流 24 時間後最大となり,4日目から急速に DNA の断片化は減少し,7日目には認められなくなる.一過性虚血後の網膜はアガロース電気泳動上,アポトーシスに加えてびまん性の DNA の変性も認められ,ネクローシスとの共存が示唆される.


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神経細胞死とサイトカイン


佐 藤 公 道**  西 依 淳*
* 京都大学大学院薬学研究科 生体機能解析学分野 ** 同 教授

要旨
 筆者らがラット脳虚血モデルを用い,脳内で IL-1β の遺伝子発現が誘導されることを報告して以来,脳虚血時のみならず Alzheimer 病や後天性免疫不全症候群 (AIDS) 脳症など難治性神経変性疾患において,種々のサイトカインやその受容体が脳内発現することが示され,現在,IL-1β や MCP などのサイトカイン,ケモカインが病態形成に関与していると考えられている.

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過酸化水素,セラミドによる神経細胞死


野 村 靖 幸
北海道大学大学院薬学研究科 医療薬学講座薬理学分野 教授

要旨
 過酸化水素などのストレスによって神経細胞に生成されたセラミドが,ミトコンドリアからシトクロム c を細胞質に遊離させ,それによってカスパーゼを分解/活性化し,アポトーシスを引き起こすというヒト神経芽細胞腫 SK-N-MC 細胞を使用して得た筆者らの結果を述べ,スフィンゴ脂質の神経細胞死への関与について考察を加えた.


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グリア細胞の活性化とグリア細胞死


馬 場 明 道**  小 山 豊*
* 大阪大学大学院薬学研究科 神経薬理学分野 ** 同 教授

要旨
 脳障害においては,神経細胞の変性シグナルを受けてアストロサイト,ミクログリアが活性化,形質変換し,神経細胞との間に複雑な分子相関を形成することで病態を構築する.グリア細胞の活性化から最終的なそのアポトーシスまでの分子機構を解明することは,その全体を理解するうえで重要であり,かつ,薬物によるその制御への道を開く.本総説においては,特にグリア細胞のアポトーシスについての最近の知見をまとめた.


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神経幹細胞の同定とその中枢神経再生への応用の展望

川 口 綾 乃*   岡 野 栄 之**
* 大阪大学大学院医学系研究科 神経機能解剖学 ** 同 教授


要旨
 哺乳類の中枢神経系は,ニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトといった多様な細胞集団から構成されている.発生過程において多分化能と自己再生能力を有する神経幹細胞から,非対称性分裂や分泌性因子を含む巧妙な細胞間相互作用の結果として,これらの多様な細胞系列に属する細胞群が生じてくる.また,神経幹細胞は胎生期ばかりでなく,ヒトを含む成体哺乳動物の脳にも存在することが明らかになっている.これらの事実は神経発生の機構解明に寄与すると同時に,神経幹細胞の中枢神経機能再生に向けての臨床応用が期待される.

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神経栄養因子による神経細胞の保護


古 川 昭 栄**1  新 田 淳 美*1  古 川 美 子*2
*1 岐阜薬科大学 分子生物学 **1 同 教授 *2 愛知文教女子短期大学 教授

要旨
 神経栄養因子は成熟ニューロンの細胞機能の維持や種々の障害要因に対抗する保護物質としての役割を持ち,その産生は脳神経系の障害や修復と関連して調節されている.さらに障害の種類や程度により,脳構成細胞ばかりでなく免疫担当細胞も神経栄養因子を産生し,脳修復にかかわっていることが明らかになってきた.ここには,生体が効率良く神経系を修復するための巧妙な仕組みがあると考えられる.


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肝由来神経活性化因子による神経再生の促進


堀 江 秀 典
横浜市立大学医学部 第一生理 講師


要旨
 迷走神経を切除すると肝再生能や肝臓の代謝機能が大きく低下する事実は,肝機能と神経機能との緊密な関係を示唆している.酵素灌流法によって得られた分離肝細胞の培養上清を,神経線維束を伴った末梢神経節に作用させたところ,神経線維束切断端からの神経再生を見事に促進する事実を発見した.肝細胞から分泌される肝由来神経活性化因子は,末梢のみならず中枢神経組織の神経再生も促進する新たな神経栄養因子と考えられている.

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セマフォリンによる神経軸索ガイダンスの制御


五 嶋 良 郎
横浜市立大学医学部 薬理学 助教授

要旨
 神経回路形成は,接着分子,細胞外マトリックスタンパク質とその受容体などを介する細胞間相互作用により制御される.この細胞間認識には細胞表面における接着が重要である.さらに近年,成長円錐に細胞外シグナルを高感度に受容・変換する情報伝達系が存在し,軸索走行決定に重要な要因となる可能性が示されつつある.

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