最新医学54巻8号(絶版売切)

特集要旨


アプローチ:肝炎ウイルスの分子生物学研究の流れ

村 上 清 史

金沢大学がん研究所 腫瘍分子科学 教授

要旨
 種々のクローニング法により,B 型肝炎ウイルス (HBV) や C 型肝炎ウイルス (HCV) など肝炎ウイルスのゲノム情報が解明された.ウイルス遺伝子の情報は,ウイルスの遺伝子の発現制御,感染,複製,増殖過程の理解とともに,肝炎と肝細胞がん発生の分子機構の解明に有力な手段を与えた.分子生物学の手法は,ウイルスタンパク質が種々の宿主タンパク質との相互作用を介して,多様な宿主機能を修飾することを明らかにした.特に,組換え型ウイルスタンパク質を用いた実験は,微量の制御タンパク質の構造,細胞内局在,酵素活性を明らかにするうえで必須な役割を果たしている.ウイルスタンパク質の機能と病態への関与を明らかにするうえで,今後分子生物学の研究方法は細胞・生物学研究方法と組み合わされ,さらに大きな役割を果たすであろう.

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B 型肝炎ウイルスの Molecular Virology Update

小 池 克 郎

(財)癌研究会癌研究所 遺伝子研究施設部 部長

要旨

 B型肝炎ウイルスによる発がん研究では,細胞のがん関連遺伝子の発現調節や細胞死の研究と結びつき,この流れの中で X 遺伝子,がん抑制遺伝子 p53,細胞小器官などが注目された.その結果,転写因子との相互作用,p53 核移行の阻害,シグナル伝達系の活性化,細胞小器官の構造と機能への障害作用の分子生物学的研究が展開した.そこで,X タンパク質のミトコンドリアへの会合と凝集を伴う細胞傷害性が明らかとなり,細胞死と発がんの問題が論じられるようになってきた.

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新しい抗 B 型肝炎ウイルス薬ラミブジンの臨床応用

谷 川 久 一
国際肝臓研究所 理事長

要旨
 今まで B 型慢性肝炎に対して良い治療薬がなかったが,現在米国などで使用が承認され期待されている抗 B 型肝炎ウイルス (HBV) 薬がラミブジンで,HBV と HIV に特異的に抗ウイルス作用を有し,DNA ポリメラーゼの抑制を特徴とする.経口投与薬で長期投与でも副作用は少なく,1ヵ月投与で血清中 HBV DNA の著減,6ヵ月で血清アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 値の正常化,1年で肝組織の改善が著しい.問題点は,DNA ポリメラーゼをコードする遺伝子にときに変異が起こることである.

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B型肝炎ウイルス変異株

田川 まさみ*   横須賀  收**
* 千葉大学医学部 第一内科 ** 同 講師

要旨
 B 型肝炎ウイルスは増殖課程に RNA 鎖が合成されるので,遺伝子変異を起こしやすい.慢性肝炎の経過中コアプロモーター領域,プレコア領域に変異を生じ,e 抗原の産生が低下する変異株ウイルスが出現する.同様のウイルスは劇症肝炎患者からも検出される.また抗ウイルス薬に対する抵抗性は,ポリメラーゼ領域の遺伝子変異によることが明らかになっている.

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C 型肝炎ウイルスの Molecular Virology Update
−がん化関連機構を中心に−

堀 田 博

神戸大学医学部 微生物学教室 教授

要旨
 C 型肝炎ウイルス (HCV) のがん化関連機構およびインターフェロン (IFN) 作用回避機構に関与する HCV タンパク質を取り上げ,最近の研究の動向について概説した.特に,コアタンパク質と細胞周期調節タンパク質 p21,および非構造タンパク質 NS 3 とがん抑制タンパク質 p53 とのタンパク質-タンパク質相互作用の自験成績を紹介し,関連する諸家の成績と合わせて,その意義について考察した.さらに,NS 5A による IFN 抗ウイルス活性の抑制とその分子メカニズムならびにがん化との関連について論じた.

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C 型肝炎ウイルス肝炎モデル
−Cre/loxP トランスジェニックマウス−

小 原 道 法
東京都臨床医学総合研究所 感染生体防御研究部門 室長

要旨
 C 型肝炎ウイルス (HCV) 遺伝子をスイッチング発現させることにより,発生段階での HCV 遺伝子の発現はなくなり,胎仔に影響を与えることがなくなる.また,マウスが成長して免疫系が確立されてから HCV 遺伝子を発現させることにより,HCV 感染に似た免疫反応状態をつくることができると考えられた.スイッチング発現には,従来用いられていた重金属やホルモンによる誘導プロモーターではなく,より確実に発現を開始することができる Cre/loxP システムを使用して,HCV トランスジェニックマウス (CN 2 マウス) の作製に成功した.CN 2 マウスに,Cre を発現する組換えアデノウイルス (AxCANCre) の経静脈投与により HCV 遺伝子発現を検討したところ,マウスの肝臓で Cre による遺伝子組換えと HCV 遺伝子発現がウイルス投与量依存的に起き,急性肝炎を発症することが明らかになった.

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C 型肝炎ウイルス肝発がんモデル
−トランスジェニックマウス−

小 池 和 彦

東京大学医学部 感染症内科 助教授

要旨
 慢性 C 型肝炎における肝がん発生において,C 型肝炎ウイルス (HCV) そのものに肝発がん活性があるか否かは長年の論争点であった.最近,HCV のコアタンパク質が肝発がん作用を持つことがトランスジェニックマウスを用いて示され,HCV 自身が直接的に肝発がんに関与していることが明らかになった.


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肝炎からの肝がん発生分子機構


樋 野 興 夫**  阿 部 雅 則*
* 癌研究会癌研究所 実験病理部 ** 同 部長

要旨
 我が国の肝がんの約 90 % は,B 型肝炎ウイルス (HBV) および C 型肝炎ウイルス (HCV) によるものである.ヒト肝がん発生の律速段階は慢性肝炎である.inflammation-mediated hepatocarcinogenesis の機序解明は,「がんの発生を遅らせる研究」の観点からも重要な国民的課題である.

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ヒトにおける C 型肝がん発生


横須賀  收
千葉大学医学部 第一内科 講師

要旨
 C 型肝がんの発生には,C 型肝炎ウイルスに感染してから数十年という長期間を要する.C 型肝がんは,炎症の持続により線維化が進展するとともにその発生率が上昇し,その非がん部はほとんどが肝硬変である.また炎症の持続鎮静化例では,線維化の進展は緩徐である.これらのことから,肝がんの発生にはウイルス感染後の炎症による肝細胞の変性・壊死に伴う発がんに関連した遺伝子異常の蓄積も重要な因子と考えられる.


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C 型肝炎ウイルス駆除による肝がん発生抑止


吉 田 晴 彦*   白 鳥 康 史**  小 俣 政 男***
* 東京大学医学部 消化器内科 ** 同 講師 *** 同 教授

要旨
 C 型慢性肝炎に対するインターフェロン (IFN) 療法の肝がん発生抑止効果について,多施設共同コホート研究の成績を紹介した.2,890 名 (IFN 投与 2,400 名) における平均 4.3 年の観察で,148 例の肝がんが発生した.肝がん発生リスクとして,IFN 投与は肝線維化進行度などと並んで有意であり,非投与例と比べたリスクは IFN 投与例全体で約 1/2,C 型肝炎ウイルス (HCV) 消失例では約 1/5 に低下した.

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C 型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス療法−新たな展開−

各 務 伸 一
愛知医科大学 第一内科 教授


要旨
 C 型慢性肝炎にインターフェロン (IFN) 治療が広く施行されているが,本邦での標準的治療による C 型肝炎ウイルス (HCV) RNA の持続陰性化を示す著効率は約 1/3 であり,欧米でもその著効率は 15〜20 % である.C 型肝炎では免疫賦活薬は単独では無効であり,現行の IFN の種類,用法・用量の工夫にも限界があった.最近開発されたコンセンサス IFN および IFN と経口抗ウイルス薬リバビリンの併用療法の試験成績など,最新の知見を紹介する.

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C 型肝炎ウイルスとインターフェロン耐性機構


永 山 和 宜*1  榎 本 信 幸*1  佐 藤 千 史*2
*1 東京医科歯科大学医学部 第二内科 *2 同 保健衛生学科 教授


要旨
 C 型慢性肝炎に対する治療のうち唯一ウイルス消失を期待できるのがインターフェロン (IFN) 療法であるが,その成績は十分ではない.さまざまな観点からその原因が追究されているが,本稿ではC 型肝炎ウイルス (HCV) 側からの検討を概観した.遺伝子型,quasispecies 多様性のほかに,非構造タンパク質 NS 5A の一部である IFN 感受性決定領域 (ISDR) の変異の有無が重要であることが判明し,ここから NS 5A が HCV の IFN 抵抗性に深いかかわりを有することが明らかにされつつある.


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G 型肝炎ウイルスの Molecular Evolution


溝 上 雅 史**  加 藤 秀 章*
* 名古屋市立大学医学部 第二内科 ** 同 助教授


要旨
 GB ウイルス C/G 型肝炎ウイルス (GBV-C/HGV) は,1995 年 2つの研究グループから相次いで報告された.GBV-C/HGV は,C 型肝炎ウイルス (HCV) と同様フラビウイルス科に属し,5′ 非翻訳配列内の遺伝子配列により GB 型,HG 型,アジア型と3つの遺伝子型に分類でき,その分布には地域特異性がみられる.分子進化学的解析により,GBV は HCV と共通の植物ウイルスから進化したものと推測された.さらに,非構造タンパク質 NS 5 領域に遺伝子欠損または挿入を有する株を認め,それらはアフリカから分離された株に多くみられた.系統解析により,これらは先祖ウイルスより早期に分岐したと推測され,GBV-C/HGV の起源をアフリカに求めることができる.

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TTウイルスの Molecular Virology


岡 本 宏 明
自治医科大学予防生態学 分子ウイルス学研究部 助教授

要旨
 TT ウイルス (TTV) は,原因不明の輸血後肝炎の患者血清から分離された新しい環状1本鎖 DNA ウイルスである.数多くの遺伝子型の存在のみならず,60 % 以上のアミノ酸配列の相違を示す多くの TTV もどき (TTV-like viruses) の混合感染は,病原性の解明を難しくしている.しかし,ある特定の遺伝子型に属する TTV の感染が肝疾患等の病態と関連が深いことが明らかになってきており,最初に原因不明の輸血後肝炎症例から見いだされた TTV の遺伝子型である1型が現在注目されている.

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ウイルス性肝炎における肝細胞傷害機序
−リバース イムノジェネティクスによる解析−


曽場尾 勇司*1*2 滝 口 雅 文**1
*1 熊本大学エイズ学研究センター ウイルス制御分野 **1 同 教授
*2 横浜市立大学医学部 第三内科

要旨
 B 型肝炎ウイルス,C 型肝炎ウイルスともに,ウイルス自身には肝細胞傷害性は少ないとされている.これらのウイルス肝炎に見られる肝機能障害は,ウイルス抗原を認識する細胞傷害性 T 細胞 (CTL) によって感染肝細胞が破壊されることによって起こる.CTL はウイルスの排除と抑制に重要な役割を果たすが,一方で慢性肝炎では持続する肝細胞傷害を起こし,その病態の形成に関与している.

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