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最新医学54巻9号

特集要旨


アプローチ:抗菌薬耐性とその克服

大 野 章*   山 口 惠 三**

* 東邦大学医学部 微生物学教室 ** 同 教授

要旨
 最近の抗菌薬耐性菌の進化は加速度的であり,治療上も深刻な影響を与えている.したがって,抗菌薬耐性菌の問題をどのように解決するかは 21 世紀にかけての大きな課題であり,そのための努力が個々の病院レベルだけでなく,国あるいは国際的な協力のもとに行われなければならない.
 抗菌薬耐性菌の問題を克服するには,耐性菌の出現,まん延のメカニズム,抗菌薬の耐性機構について十分に理解することが大切であり,本文ではそのことを踏まえたうえで,抗菌薬耐性の克服について考察した.

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アプローチ:抗腫瘍薬に対する耐性機構とその克服

下 山 達*   西 條 長 宏**

* 国立がんセンター中央病院 内科 ** 同 部長

要旨

 がんの化学療法において臨床上の最大の問題点は,初めから抗がん薬に無効の自然耐性や,化学療法施行後に出現する獲得耐性の出現である.近年その機構が解明されつつあり,P 糖タンパク質 (Pgp),多剤耐性関連タンパク質 (MRP) は中心的な役割を果たしている.その機序の研究は,がん治療において,治療法の選択や予後の予測に結びつき,また薬剤耐性そのものを阻害することができれば,化学療法の飛躍的進歩につながるであろう.

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グラム陰性桿菌の薬剤耐性機構

太田 美智男
名古屋大学医学部 細菌学教室 教授

要旨
 グラム陰性桿菌は染色体にβ-ラクタマーゼ遺伝子を持ち,また メタロ-β-ラクタマーゼなどプラスミド性の新しい β-ラクタマーゼによって β-ラクタム系抗生物質に耐性化する.細胞質膜における各種薬剤排出タンパク質も菌の自然耐性に寄与している.この中で大腸菌 AcrAB,緑膿菌 MexAB が詳細に解析されている.さらに外膜の OmpF などのポーリンが薬剤の透過に関与している.これらの因子が相乗的に働いて耐性化する.

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グラム陽性菌の薬剤耐性

池 康 嘉*1*2
*1 群馬大学医学部微生物学教室 *2 同 薬剤耐性菌実験施設 教授

要旨
 細菌の薬剤耐性機構には1.抗生物質の不活化,2.抗生物質の作用物質の修飾または変化,3.抗生物質の能動的な排出がある.抗生物質の不活化は最も代表的な耐性機構で,中でもβ-ラクタム系抗生物質の加水分解酵素 (β-ラクタマーゼ) はグラム陰性菌において種々の酵素が知られている.この中で主としてグラム陽性菌に存在する耐性機構で,しかもグラム陽性菌において臨床上問題となる重要な薬剤耐性は,抗生物質の作用物質の修飾または変化による耐性である.これにはペニシリン耐性肺炎レンサ球菌 (PRSP),メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA),バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE または GRE) が存在する.

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抗酸菌の薬剤耐性機構

飯 沼 由 嗣*1  一 山   智*2

*1 名古屋大学医学部附属病院 検査部感染症
*2 京都大学大学院医学研究科 臨床生体統御医学臨床病態検査学 教授

要旨
 抗酸菌の耐性化の機序は,新たな外来性耐性遺伝子の獲得によるものではなく,染色体遺伝子の突然変異によることが判明している.おのおのの抗酸菌治療薬の耐性化に関与する遺伝子が近年次々と発見され,遺伝子検査による迅速診断も可能となってきた.これらの知見は最近の直接監視下の短期化学療法 (DOTS) 運動の理論的根拠ともなっており,今後さらに遺伝子変異による薬剤耐性を凌駕する抗酸菌治療薬の開発が期待される.

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病原真菌の抗真菌薬耐性機構

槇 村 浩 一
帝京大学医真菌研究センター 講師

要旨
 従来,抗真菌薬に対する耐性真菌の出現は,抗細菌薬に対する細菌の場合に比べてまれであり,フルシトシンを除いて問題にならないと考えられてきた.しかし重篤で経過の長い基礎疾患に併発する,日和見感染症としての真菌症に対する抗真菌化学療法は長期間に及ぶことが多い.このような状況下では抗真菌薬耐性の誘導も必至であり,実際に,深在性真菌症に対して処方できる抗真菌薬5剤すべてに対して今日耐性が報告されている.これら深在性真菌症治療に用いられている抗真菌薬耐性機構の概要を解説した.

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細菌におけるキノロン系抗菌薬耐性機構
−標的酵素の変異−

吉 田 博 明

大日本製薬株式会社創薬研究所 薬理第2研究部

要旨
 キノロンでは,プラスミドによる耐性伝達あるいは不活化酵素は知られておらず,透過性低下や排出亢進,ならびにII型トポイソメラーゼの変異によって,細菌は耐性を獲得する.II型トポイソメラーゼには DNA ジャイレースとトポイソメラーゼIVがあり,これらのアミノ酸変化によってキノロン親和性が低下し耐性化する.感受性のより高い酵素が1次標的になり,変異を起こした後,他方の酵素の変異などが加わって耐性度が上昇する.


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半合成アミノグリコシド系抗生物質と耐性機構の攻防


堀 田 国 元
国立感染症研究所 生物活性物質部

要旨
 アミノグリコシド系 (AGs) 抗生物質は広範かつ強い抗菌活性を持ち,グラム陽性および陰性細菌によるいろいろな感染症の治療に欠かすことのできない役割を果たしているが,不活化修飾酵素を持つ耐性菌が大きな問題である.ここでは耐性菌および修飾酵素に関する最近の傾向と,半合成 AGs 創製の戦略,修飾酵素に対する抵抗性に関する新しい知見 (特にアルベカシンの2段活性) について概説する.

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抗HIV-1薬に対する耐性発現の分子機構

満 屋 裕 明*1*2
*1 熊本大学医学部 免疫病態学・内科学第二講座 教授
*2 米国国立癌研究所 内科療法部門レトロウイルス感染症部

要旨
 HAART によって HIV-1 感染症の臨床像は一変し,AIDS による死亡者数も激減した.しかし HIV-1 は逆転写酵素阻害薬とプロテアーゼ阻害薬の両薬に対して耐性を獲得し,治療効果の消失と耐性ウイルスによる初感染という問題を起こしている.21 世紀へと持ち込まれるこの耐性 HIV-1 変異株との戦いは,その発現の機構を分子・原子レベルで理解し,新規の抗ウイルス薬のデザイン・再デザインを続けることでしか継続できない.


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P糖タンパク質を介する抗腫瘍薬耐性機構


植 田 和 光
京都大学大学院農学研究科 応用生命科学専攻

要旨
 抗がん薬に対する低感受性は,がんの化学療法の有効性を制限する大きな要因である.抗がん薬排出ポンプ P 糖タンパク質 (Pgp) とその遺伝子 MDR 1 の発見は,がん細胞の抗がん薬低感受性を分子生物学的に解明できる可能性を示した.Pgp は,構造や作用点に類似性のない多くの抗がん薬を排出することによって,がん細胞を抗がん薬に対して低感受性にする.Pgp など抗がん薬排出ポンプの効果的なモジュレーターを開発するためには,薬剤結合部位の同定などメカニズムの解明が必要である.我々は最近,Pgp の第1膜貫通αヘリックスが基質認識に関与していることを明らかにした.Pgp の基質輸送機構は解明されつつある.

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P糖タンパク質/MDR1とcMOATの薬剤耐性への関与


内 海 健*   日 下 英 司*   芳 賀 整*
和 田 守 正**  桑 野 信 彦***

* 九州大学大学院医学系研究科生化学講座医化学分野
** 同 助教授 *** 同 教授


要旨
 がんの抗がん薬に対する多剤耐性の研究から,ヒトの薬剤排出 ABC トランスポーターが同定された.代表的なトランスポーターである MDR 1 や MRP 1 が多くの抗がん薬の排出の担体となることにより,薬剤耐性の獲得に深く関与していることが知られている.本稿では,MDR 1 と MRP 1 に加えて cMOAT/MRP 2 の構造と対比させながら,生体内組織や器官におけるさまざまな異物や毒物の排出という重要な生体防御の役割について言及する.

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細胞骨格と抗がん薬感受性

洪 泰 浩*   西 尾 和 人**
* 国立がんセンター研究所 薬効試験部 ** 同 耐性研究室長


要旨
 細胞骨格に作用する抗がん薬は,固形がん化学療法にとって高い効果が期待される抗がん薬である.またタキサン化合物等の新規微小管作用薬の有用性は,欧米ですでに確立されつつある.その感受性にかかわる因子として,微小管を構成する主なタンパク質であるチューブリンの変化,微小管関連タンパク質,および微小管ダイナミックスを制御する MAPK カスケードなどが挙げられる.細胞骨格に作用する抗がん薬の作用機作と感受性を規定する因子を明らかにすることは,より有効な投与方法を考えるうえで非常に重要である.


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ストレス応答と薬剤耐性


冨 田 章 弘*   鶴 尾   隆**
* 東京大学分子細胞生物学研究所分子生物活性研究分野 ** 同 教授


要旨
 固形がんには低グルコース,低酸素,低 pH など正常組織にはみられない領域が存在する.こうした腫瘍特異的な環境は,がん細胞にグルコース調節ストレス応答を引き起こす.ストレス応答したがん細胞は,エトポシド,ドキソルビシン,カンプトテシン,ビンクリスチンなど多くの抗がん薬に耐性を示すようになる.このタイプの耐性は可逆的であり,ストレス環境から細胞を取り出すと消失する.本稿では,がん細胞のストレス応答に伴って誘導される抗がん薬耐性について概説する.

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セラミドによる生体膜リモデリングを介した
アポトーシス誘導と薬剤耐性機構


岡 崎 俊 朗   伊 藤 満
京都大学大学院医学研究科 血液病態学 (第一内科)

要旨
 寛解導入後の白血病の再発を克服することが,血液疾患の臨床現場での最重要課題の1つである.その解決には多剤耐性機構の機序解明が不可欠と考えられる.本稿では,スフィンゴ脂質セラミドがアポトーシス誘導分子として機能することを紹介し,抗がん薬に不応性となった白血病細胞ではセラミドを介したアポトーシス実行系の阻害が耐性発生機序の1つとなっていることを,細胞株もしくは白血病患者由来の細胞を用いた我々の実験結果より明らかにする.さらに,セラミドを中心としたスフィンゴ脂質の合成・代謝系を調節し,膜脂質のリモデリングを行うことにより,生体膜におけるホメオスタシスの不調和を起源とするアポトーシスシグナルを誘導し,白血病の多剤耐性機構を克服する新たな治療法の可能性を紹介したい.

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