最新医学55巻2号(絶版売切)

特集要旨


アプローチ:病態生理の理解を目指して

齋藤英彦

名古屋大学医学部第一内科教授

要旨

 急性心筋梗塞,脳血栓梗塞,深部静脈血栓症,播種性血管内凝固症候群など,血栓形成が成因や病態に密接に関与する疾患は多い.血栓症は血管壁,血小板,血液凝固,血流の相互作用の結果として起こるが,静脈,動脈,微小血管など部位により成因が異なる.近年,血液流動性維持機構の詳細の解明とともに血栓形成機序も明らかになりつつある.また血小板粘着・凝集の分子メカニズムの理解により,新しい抗血栓薬も臨床応用されるようになった.

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血管壁細胞の抗血栓性機能とTFPI

加藤 久雄
国立循環器病センター研究所病因部部長

要旨
 TFPIは,活性化血液凝固第X因子(第Xa 因子)および組織因子-第VIIa 因子複合体と結合することにより外因系血液凝固の開始反応を阻害するプロテアーゼ阻害薬として注目され,その構造と機能,阻害機構,疾患との関係,血栓症の治療への応用など,1988年の発見以来,今までに膨大な量の報告がなされてきた.また,最近はTFPIが細胞の増殖機能を制御する作用を持っていることも明らかとなり,血管壁細胞の機能の制御という観点からも注目されている.本稿では,特に内皮細胞などの血管壁細胞とTFPIの関係に焦点を絞り,TFPIの血管壁細胞による産生と血漿レベルおよびTFPIによる血管壁細胞の増殖阻害の作用について最近の文献を紹介した.

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血管内皮細胞における抗血栓性−アンチトロンビン −

内場 光浩*  岡嶋 研二**
* 熊本大学医学部臨床検査医学講座 **同助教授

要旨
 アンチトロンビンは,血管内皮細胞上のヘパリン様物質と相互作用することで効率よくトロンビンを阻害し凝固系を制御するが,同時に血管内皮細胞からのプロスタグランジンI2(PGI2)産生を促進する.産生されたPGI2は白血球の活性化を抑制し,炎症反応を制御する.さらにアンチトロンビンは,直接血管内皮細胞に作用しその活性化を抑制する.このようにアンチトロンビンは,血管内皮細胞表面で抗凝固作用と抗炎症作用を発揮し,血栓形成を抑制する.これらのアンチトロンビンの作用は,播種性血管内凝固症候群や多臓器不全の治療に有用である.

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血管内皮細胞における抗血栓性
−プロテインC−プロテインC受容体−トロンボモジュリン

福留 健司

佐賀医科大学 免疫血清学講座

要旨
 プロテインCは血管内皮上で活性型プロテアーゼに変換されて,抗凝固因子として機能するようになる.この活性化に関与する血管内皮上の分子が,プロテインC受容体(EPCR)とトロンボモジュリン(TM)である.EPCRはプロテインC経路が有効に機能していないとされてきた大血管で特に強く発現している.EPCRにはトロンビン・TM複合体によるプロテインC活性化反応を高親和性の反応に変換して促進する活性がある.したがってプロテインC経路は,大血管を含む広範囲の血管で凝固制御を行っている.

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血小板粘着の分子機構

松下  正
名古屋大学医学部 第一内科

要旨
 血小板の粘着において重要な役割を果たす von Willebrand 因子(vWF)は,血小板膜糖タンパク質GPIbに結合する.GPIbの vWF結合部位はアルファ鎖のN末端にあると予想されているが,最近の alanine scanning mutagenesis を用いた検討により, vWF側ではA1ドメインの Lys599がGPIb結合部位と同定された.またGPIbの遺伝子多型が冠動脈疾患の危険因子になることが指摘されており,血小板粘着の分子機構とその制御を考えるうえで,vWF-GPIb結合の意義が今後さらに注目されると考えられる.

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血小板凝集の分子機構

尾崎 由基男
山梨医科大学臨床検査医学 教授

要旨
 血小板凝集は,血小板活性化刺激により膜タンパク質GPIIb/IIIaが活性化され,そこにフィブリノーゲンが結合することにより起きるが,そのためにはGPIb,コラーゲン受容体などの膜タンパク質の関与が必要である.血管傷害部位では,まず GPIb とコラーゲンに付着したvon Willebrand因子が結合することが,コラーゲンとコラーゲン受容体の結合に必要とされている.コラーゲンとコラーゲン受容体の結合により血小板内活性化信号が発生し,GPIIb/IIIa が活性化される.

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ホモシステインと血栓症


宮田 敏行
国立循環器病センター研究所脈管生理部

要旨
 高ホモシステイン血症は,血栓症・動脈硬化症の危険因子である.原因として,ホモシステイン代謝酵素の先天性欠損症・異常症および葉酸摂取不足が挙げられる.代謝酵素の中でも,メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼの熱不安定性多型(C677T)ホモ接合体による軽度高ホモシステイン血症が注目されている.米国では穀物製品への葉酸添加が行われており,心血管系疾患との関連が注目される.


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血栓傾向と遺伝子多型性

村田 満
慶應義塾大学医学部内科 講師

要旨
 近年血栓症の易罹病性や病型と関係する遺伝子多型が多数報告され,注目を集めている.これらは脂質代謝関連因子,血液凝固因子,血小板などに広く認められる.しかし多型と疾患感受性の関連のメカニズムついては未だ不明な点が多い.また多型の対立遺伝子頻度は人種により異なるため,遺伝的リスクの議論には日本人独自のデータが必要である.血栓症の効果的な予防には,先天的・後天的リスクを総合的に診断するシステムが必要である.


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先天性血栓傾向の診断−検査の進め方−


高松 純樹
名古屋大学医学部附属病院輸血部助教授

要旨
 先天性血栓傾向の診断には,特徴的な臨床像を十分理解すること,測定時期を適切に選択すること,家系内検索も必ず行うこと,疾患によっては我が国では報告のない人種差があることなども考慮することが重要である.実際の診断に当たっては,非特異的な過凝固状態の把握とともに,生物学的活性値を検討できるスクリーニング法による特異的な検査が行われなければならない.

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抗リン脂質抗体症候群


家子 正裕*1  小池 隆夫*2
*1 北海道医療大学歯学部内科教授 *2 北海道大学医学部第二内科教授


要旨
 抗リン脂質抗体を有し,かつ臨床症状として動静脈血栓症,習慣流死産または血小板減少を呈する抗リン脂質抗体症候群(APS)は,後天性血栓性素因の代表的疾患群である.その臨床症状は多彩であり,繰り返し再発する.APS の治療は対症療法または血栓予防が中心となる.血栓予防としては,静脈血栓既往例や妊娠中のAPS患者ではヘパリン,動脈血栓症既往例においては抗血小板療法が適応となる.APSを常に念頭におき,早期発見と適切な治療が要求される.

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血栓性血小板減少性紫斑病と溶血性尿毒症症候群

末廣 謙
兵庫医科大学第二内科講師


要旨
 血栓性血小板減少性紫斑病あるいは溶血性尿毒症症候群の病因については不明な点が多かったが,近年unusually von Willebrand factor(vWF)large multimers(異常vWF高分子重合体)の関与が明らかとなり,自己抗体による vWF-cleaving protease(vWF分解酵素)活性低下の存在が証明されつつある.これは治療において血漿療法が有効であることの論理的根拠となるが,一方グルココルチコイドや免疫抑制薬の効果も再評価する必要がある.


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播種性血管内凝固症候群


森  美貴*1  和田英夫*2
*1 三重県赤十字血液センター *2 三重大学医学部 第二内科


要旨
 本邦では厚生省特定疾患調査研究班により播種性血管内凝固症候群(DIC)診断基準が提唱され,国際的にも高い評価を得ている.しかし最終改訂から10年が経過し,臨床医学の進歩とともにさらなる改訂が求められている.1999 年度国際血栓止血学会(ワシントン)でも,SSC ミーティング(DIC セクション)の目標の1つとして,overt DICとnon overt DICの定義に関する草案を書き上げることを挙げた.標準的な止血系検査(global marker)は有用であるが感度の問題があり,我々の止血系分子マーカー(molecular marker)が,pre-DIC の診断とともにおのおのの病態を診断するうえでも有用である.

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深部静脈血栓症と肺塞栓症


矢尾善英*  石丸 新**
* 東京医科大学 第二外科 **同 教授


要旨
 深部静脈血栓症は,我が国においては比較的まれであり,また致死的合併症である肺塞栓症や遠隔期における慢性静脈うっ滞による血栓後遺症を除けば予後良好な疾患である.しかしこれらの合併症を併発すると,その治療に難渋することがあり,肺塞栓症も含めた予防がこれら疾患に対する診療時の最も重要な点である..

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急性冠症候群とGPIIb/IIIa拮抗薬


池田 康夫
慶應義塾大学医学部 血液内科 教授


要旨
 急性冠症候群は冠動脈内プラークの破綻とそれに続く血栓形成が病態の主役をなすという考えが,Fusterらにより提唱されて以来,血栓形成機序の解明とその対策が注目されることになった.冠動脈狭窄部位でみられる速い血流状態下で血小板を主体とした血栓がどのような機序で形成されるか分子レベルで明らかにされ,抗血小板療法の理論的背景が確立された.血小板凝集の鍵を握るGPIIb/IIIa 複合体拮抗薬が最も強力な抗血小板薬として登場し,急性冠症候群の治療,冠動脈インターベンション後の再閉塞予防に効果を挙げている..

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