最新医学55巻3号(絶版売切)

特集要旨


糖尿病の疫学

松島雅人*   田嶼尚子**
* 東京慈恵会医科大学内科学講座第3 **同教授

要旨

 厚生省調査によって「糖尿病が強く疑われる」のは約690万人,「糖尿病の可能性を否定できない」人は約680万人とされ,糖尿病は我が国での現在そして将来の公衆衛生ひいては国民の健康に大きな影を落としているといえる.一方,我が国では欧米に比べて頻度が低い1型糖尿病は,2型より合併症発生率が高いと言われている.またその予後は欧米に比べて悪いと言われており,今後合併症発生率を低下させる努力が必要である.

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2型糖尿病の病因と病態-インスリン分泌から-

津浦佳之**  岩倉敏夫*
* 京都大学医学部付属病院病態栄養部 **同講師

要旨
 2型糖尿病におけるインスリン分泌能は,遺伝的に規定されていて,発症前からすでに障害されている可能性がある.その細胞内機構として膵ベータ細胞内グルコース代謝障害が想定され,幾つかの候補が報告されているが,未だ明確にはなっていない.また原因の1つとして,膵ベータ細胞量の減少やインスリン合成段階の障害の可能性が示唆されている.さらに,持続的に高血糖や高脂血症に暴露されることでインスリン分泌能が一段と悪化する現象(糖毒性と脂肪毒性)やインクレチンとインスリン分泌障害の関係についても,その細胞内機構の研究が進んでいる.

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インスリン抵抗性の分子機構

小川 渉
神戸大学医学部第二内科

要旨
 2型糖尿病のインスリン抵抗性には,その発症にかかわる原発性のインスリン抵抗性と,代謝異常により生じる2次的インスリン抵抗性の2つが存在する.原発性のインスリン抵抗性として,骨格筋の糖取り込み能の障害が重要視されており,遺伝因子の検索も行われている.2次的インスリン抵抗性を惹起する因子として,糖毒性,高遊離脂肪酸血症,TNFアルファ等の関与が示唆されており,その発症メカニズムの解析が進められている.

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2型糖尿病の遺伝素因

原 一雄*1*2 門脇 弘子*1  安田 和基*1 
戸辺 一之*2 門脇 孝**2 赤沼 安夫**1
*1 朝日生命糖尿病研究所 **1 同所長
*2 東京大学医学部糖尿病代謝科 **2 同講師

要旨
 糖尿病の大部分を占める2型糖尿病は,インスリン分泌不全やインスリン抵抗性の遺伝因子と環境因子が重なって発症する多因子病である.我が国における糖尿病人口の急速な原因として,主に生活習慣の欧米化,特に高脂肪食によるインスリン抵抗性要因の増大が指摘されており,遺伝因子と環境因子の相互作用が重要であると考えられる.2型糖尿病発症遺伝子を解明するため,発生工学的手法や罹患同胞対解析などの方法を用いて研究が進められている.


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糖尿病の病型分類と診断基準

別所 寛人*1  南條 輝志男*2
*1 関西鍼灸短期大学内科教授
*2 和歌山県立医科大学第一内科教授

要旨
 糖尿病研究の進歩により既存の病型分類や診断基準に問題点がみられるようになったため,世界保健機構,日本糖尿病学会などでは,それらの改定を行った.その結果,病型分類では臨床的分類から成因的分類への変更とインスリンの必要性に基づく病期の採用,診断基準では糖尿病(型)とする空腹時血糖値(FPG)基準の変更,impaired fasting glucose(IFG)などの新設が提唱された.

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経口糖尿病薬

岩本 安彦
東京女子医科大学糖尿病センター教授

要旨
 経口糖尿病薬ではアルファグルコシダーゼ阻害薬に続き,チアゾリジン系のインスリン抵抗性改善薬や速効型インスリン分泌促進薬が登場した.前者は,肥満し,インスリン抵抗性が目立つ2型糖尿病が良い適応となる.後者のナテグリニドはスルホニル尿素受容体を介してインスリン分泌を促進するが,速効・短時間作用型という特徴を持つ.食後過血糖を示す比較的軽症の2型糖尿病が良い適応となる.病態に応じ適切な経口薬の選択が必要である.


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2型糖尿病のインスリン療法の実際


河盛 隆造
順天堂大学医学部内科学教授

要旨
 スルホニル尿素(SU)薬をはじめとする各種経口血糖降下薬(アルファグルコシダーゼ阻害薬,ビグアナイド薬,インスリン抵抗性改善薬など)を服用しているが,長期間高血糖が持続している,“glycemic exposure”されている2型糖尿病患者数は決して少なくない.SU 薬の極量を用いていても内因性インスリン分泌が高度に枯渇している例では,インスリン療法のみが残された唯一の治療法である.外来診療下でいかなるインスリン注射療法を施すべきか,真摯に考察し,実践すべきであろう.


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急性合併症

鶴 政俊*   谷澤 幸生**
* 山口大学医学部第三内科 **同講師

要旨
 糖尿病における代表的な急性合併症として,糖尿病性ケトアシドーシス,高浸透圧性非ケトン性昏睡などの糖尿病性昏睡と急性感染症が挙げられる.また,糖尿病治療薬による低血糖性昏睡もしばしばみられる.糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧性非ケトン性昏睡の治療の基本は,ともに輸液とインスリン投与である.糖尿病患者は重症感染症を起こしやすく,また感染症により糖尿病が増悪し,昏睡の原因となり得る.糖尿病急性合併症は,血糖コントロール不良による著しい代謝異常を背景として発症するものがほとんどである.普段からの糖尿病治療が発症予防のために重要であることは言うまでもない.


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糖尿病網膜症


宮本和明*1  小椋祐一郎*2
*1 京都大学大学院医学研究科視覚病態学
*2 名古屋市立大学医学部眼科教授


要旨
 糖尿病網膜症は,微小血管閉塞による虚血性変化から血管新生を主体とする増殖病変を形成する点に特徴があり,高血糖に伴うサイトカインの発現異常・代謝異常・血流動態異常が複雑に絡み合ってその病態を形成していく.眼科的治療で最も重要なのは網膜光凝固術であり,それでも進展が阻止できなければ硝子体手術を行う.最近ではより良い視機能維持のために,積極的に硝子体手術が行われるようになってきた.

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糖尿病性腎症


羽田 勝計
滋賀医科大学第三内科講師


要旨
 透析導入に至る糖尿病性腎症例が急増しており,糖尿病性腎症の成因解明・治療法確立が求められている.糖尿病性腎症は,遺伝因子の基に糖尿病特有の環境因子が加わり発症すると考えられる.近年,糸球体プロテインキナーゼC(PKC)活性化が注目され,PKC 阻害薬の有効性が糖尿病動物で提唱されている.現時点での糖尿病性腎症の治療法としては,目標血糖値・血圧値・血中脂質値を設定し,種々の治療法を併用する集約的治療法が優れていると考えられる.

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糖尿病性神経障害

中村 二郎
名古屋大学医学部第三内科助教授


要旨
 糖尿病性神経障害の発症・進展メカニズムとして主に,ポリオール代謝活性の亢進,プロテインキナーゼC活性異常,非酵素的グリケーションの亢進および酸化ストレスの亢進が想定されている.神経障害の治療薬としておのおのの異常を阻害あるいは低下させる薬剤が開発され,動物実験においてはその有用性がほぼ確立されているものの,臨床的有用性に関してはポリオール代謝活性を抑制するアルドースレダクターゼ阻害薬が最も抜きんでた存在である.


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「糖尿病と妊娠」の分野における最新の問題点


大森 安恵
済生会栗橋病院副院長、東京女子医科大学名誉教授


要旨
 妊娠糖尿病は,糖尿病合併妊娠とはその病態も治療法も異なる.妊娠糖尿病は妊娠によって惹起された軽い糖代謝異常で,いわば,糖尿病の prestage(前状態)と考えられる.食事療法によって血糖正常化し得て,インスリン治療を必要とするものはごくまれである.これに反し糖尿病合併妊娠は,インスリンによる厳格なきびしい治療を必要とし,放置するとケトアシドーシスになり容易に糖尿病昏睡に至るので,十分なインスリンを必要とする.奇形を予防するために,血糖コントロールを良くしてから受胎する計画妊娠が大切である.

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糖尿病と地域医療−富山県での試み−


小林 正
富山医科薬科大学第一内科教授


要旨
 糖尿病の患者の合併症進展防止には患者の検診後の経過観察および医療のレベルアップが必要であり,また,1次予防には市民や耐糖能障害の患者を対象とする教育が必要である.糖尿病人口の増加による対象者の多さを考えると行政の参加が必要であり,そのための組織化が重要である.地域による取り組みはその環境や特徴を生かし,独自の方法を模索し,また,その成果を検証しなければならない.

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糖尿病の患者教育と療養指導士


石井 均
天理よろづ相談所病院内分泌・糖尿病センター 部長


要旨
 糖尿病の患者教育は,効果的な自己管理のために必要な知識や技術を伝えることであるが,その最終的な目標は,心身面の健康と QOL を維持するために必要な行動変化を促すことである.そのためには患者の考え方や態度を知り,ライフスタイルや文化を配慮したプログラムや目標設定が重要となる.患者の自律性を尊重すれば,血糖コントロールなど健康に関する結果が改善する.この仕事を遂行するために療養指導士制度が発足する.

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